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武藤記念講座(講演会事業)

記念講座の記録

2011年6月18日(土)

京都大学大学院教授 吉田和男氏 「震災復興を契機とした日本経済再興の条件」(於大阪武藤記念ホール)

一、大震災の事実認識をしっかりと

1.「地震も、津波も想定外ではあった」
街のすべてを一瞬の内にごっそり呑み尽くした津波の恐ろしさを、まざまざと見せつけられた東日本大震災であった。緊急地震速報の地震予知は縦波と横波の速度の違いで一瞬に探知されるが、長期の予測は過去からの確率論となる。プレートが他のプレートの境界へもぐりこみ蓄積されたエネルギーが解放されて起きた今回の地震は、マグニチュード九の想定外のものであり、それによる津波の高さと範囲(南北五〇〇キロの連鎖により福島に及んだ)も想定外だった。そもそもハザードマップは、想定値がなければ作れないが、基準を遙かに超えた津波により、基準に則った避難所に居た人達が命を失う悲劇となった。

2.「日本の原子力発電の安全神話」
「ウラン235の分裂のために中性子のスピードを落とすため減速剤として黒鉛を用い、水を冷却に使い沸騰させるチェルノブイリ方式は、原子炉自身が暴走して炉心が爆発してむき出しになって放射能をまき散らした。然し福島型は「水を減速剤に用い、それを冷却して沸騰させるものであり」安全性があると主張されていた。即ち「炉心」に原子エネルギーを出す核物質を「合金の筒」に閉じ込め、その炉心を金属製の頑丈な「圧力容器」の枠組みで支え、さらに全体を「格納容器」で覆い、最後にその外を「コンクリートの建屋」で覆う五重の壁があるうえに、リスクの暴走を止めるネガティブフィードバックシステムも備えているので、建屋の中にすぐ炉心があったチェルノブイリとは違うはずであった。

3.「安全神話の崩壊は想定外で済まされるか?」
地震により原子炉は設計通り停止した。然しそのあとに予期せぬ想定外の出来事が起こった。燃料棒をおさめている「ジルコニューム合金の筒が解けて水と反応して水素を出し、それが酸素と化合して爆発する」事態となってしまった。元来冷却装置が働いて冷やされるので、水素を出すことはないと想定されていたのであるが、肝心の冷却装置の外部電源が絶たれ、そのバックアップのディーゼル発電機も津波に壊され、さらに最後の手段である電源車も瓦礫のため近づくことが出来ない全電源喪失の事態となったのである。

二、震災が日本経済に与える影響

1.「サプライサイドからの不況」
経済への影響も又想定外だった。東北地方で製造される部品のサプライチェーンは今や日本国内だけでなく世界中に及んでいるが、モノは作れば売れるのに生産出来なくなっている。さらに電力供給制限による国内の生産全般の落ち込みも供給サイドから景気の落ち込みの原因となっている。一方需要サイドからは、国内向けのみならず輸出が落ちこむ風評被害、さらに観光地などへの自粛被害が発生して、景気の足を引っ張っている。

2.「将来の所得への不安」
もともと震災前の1/3月からGDP成長率が年率でマイナス3.7%位に落ち込んでいたのに、4/6月はサプライショックが下押しされて今年度全体でマイナス成長は避けられまい。日本経済のバブル崩壊後のこの二〇年間の実質成長率は小泉時代のプラス効果もあり平均で若干の黒字であるが、名目成長率は殆どゼロであった。そこからの脱却の処方箋を私は小泉内閣時代に金融システムの再建であると断じ、中長期の成長率を1%半とした。然し残念ながらその後の成長は達成されなかった。即ち日本経済の問題は金融システムだけの問題ではなくもっと本質的に難しい問題を含んでいた。その原因は人口の減少だけでなく、可処分所得が増えないことにある。個人消費を増やすために減税はひとつの施策と経済学の教科書に書いてあるが、減税してもその効果はなかった。何故か、答えは、人々は現在の手許所得だけでなく、将来の所得あるいは現在の手持ちの貯金により消費を決めており、将来の所得の不安があれば消費しないのである。逆に言えば将来の所得が増えるという確信がなければ、消費は増えないのである。

3.「しのびよる国家破綻の危機」
政府は右のものを左に動かすだけである。即ち歳出増による景気刺激そして減税も結局は最後に必ず増税が必要となるからだ。国債を発行して増税のタイミングを後に延ばせばよいと考えるのは甘い。それは今の所得を減らす要因を、将来の所得を減らす要因へ移し変えているだけであり、将来につけを廻しているに過ぎないからだ。よって国債を発行して減税しても消費は増えない。復興債についても資金調達して復興に使用すること自体は正しいが、いずれ償還の際には増税となり、今の課税を将来の課税に振替えしているだけである。民主党は社会保障と税の一体改革の中でデフレ下では増税は出来ないので、景気がよくなったら増税しようと考えているが、そもそも今のままでは景気がよくなることはありえないだろう。つまり増税は永遠にできないことになる。そしていずれ財政破綻となることを覚悟しておくべきだろう。GDPの二倍もある国の政府債務が返済できなくなる財政破綻は成長率や消費以前の大問題である。即ち国債の信用がなくなると国債が売れなくなり、国債の価格が暴落し、国債の金利つまり長期金利は上昇し、為替レート安と高インフレとなる。その結果政府は「増税と歳出カット」の双方をやらざるをえなくなる。その歳出カットも公務員給与のカット程度では足らず、社会保障費のカット、さらには国の基本になる防衛費までのカットとなる。ギリシャ等での暴動に見られる通りインフレ下での給与カットと社会保障費カットは大変厳しいものとなろう。

三、「復旧、復興にとどまらず、日本型「経済モデル」の地域からの発信を」

1.「グローバル化というファクト(事実)」
それでは財政破綻せずに成長性を上げる方法はないのか、その答えは基本的に「グローバル化」しかない。例えば日本の繊維製品や雑貨が輸入品に置き換わっているが、それは国内でそれらを作っていた賃金の低い人達が、安い賃金の国の人達との競争に負けたことを意味する。従って国内産業を保護して最低賃金を引き上げろということになるが、その結果企業は外国に出ていくことになる。グローバル化では、企業のみならず、労働者も世界と競争しなくてはならず、日本はまだそれを成長に結びつけていない。それにもかかわらず日本人の生活が比較的安定しているのは、外国から安い品物が入ってきてグローバル化の消費面からの恩恵に浴しているからである。故に経済の発展は自由競争なしにはありえない。グローバル化とは自由競争であり、それを阻むならば関税を引き上げ、企業の海外進出を封ずる鎖国をするしかないが、それでは日本経済の発展はありえない。グローバル化を排除する選択をすることは、実際には不可能である。グローバル化は選択ではなくて、すぐれて事実(ファクト)である。規制を排除してきたから日本経済は発展してきたのである。

2.「グローバル化のメリットの享受」
グローバル化でマイナスになる人もいるが、プラスになる人を増やし、全体のパイを増やすべきである。法人税率を引き下げて、国内に企業が止まるようにするのも選択ではなくて「事実」である。事実に目をつぶって国内の障壁を設けようとするのは、経済の運営の基礎を壊すようなものだ。逆に推進することで、国内の生産性の高いところを伸ばし、低いところには縮小してもらい、全体として生産を拡大するべきである。これから先は、選択の話であるが、TPPとFTAの選択は、貿易だけでなく労働サービス等の経済的取引の自由化も一緒に行われる。然しアメリカの農産物が入ってくるから困るとの議論だけでなく、こちらからも出て行くことを忘れてはならない。以上から成長するには 生産性を上げねばならず、生産性の高いところに資源を集中しなければならない。グローバル化の波に逆らえば日本経済をさらに収縮させることになるだろう。

3.「震災を新しい次の世代のモデルを創る契機に」
震災の復旧復興のためにもグローバル化の価値を追求しなければならない。トリックのあるカロリー自給率に囚われず、農家もマーケットのなかで付加価値のある高い農作物を作るべきである。そして政府に保護してもらわず、民間の力で輸出することに力を注ぐべきである。一次産業の被害が多かった震災の復興において、農協・漁協中心から、株式会社に漁業権を与えるなど民間の力で進めるべきである。農業も漁業も世界と競争できる新しいモデルをつくるべきであるからだ。復興庁も設けられるそうだが、国が決めてくれないからの態度ではなく、地方から提案がなされるべきである。道州制により将来いずれ東北州になるであろうが、先ず関西広域連合にならい東北広域連合をつくり、社会資本整備は広域ベースで行われるべきである。全国ベースの国土総合計画は勿論必要であり、政府により地方の間の財政力の差は補正されねばならないが、地方で自らビジョンを作り、震災復興をリードしていくことが大切である。その他に三〇%になろうとする高齢化を前提とした例えばコンパクトシティーのような社会を作らねばならない。防災対策も地域に適合したものであるべきであり、地震の起こる確率が極めて高いのに東京へあれだけの機能と人を集めていることに対しての地方分散化も喫緊の課題である。

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