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武藤記念講座(講演会事業)

記念講座の記録

2011年8月27日(土)

政治評論家 屋山太郎氏 「日本政治再興の基本条件」(於大阪武藤記念ホール)

T 政治における「風」なるもの
今回の民主党の党首選挙において、現役の議員は次の選挙で当選出来るか否かが最大の関心事である。従って党員は党の顔になれる人は誰なのかを真剣に考える。何故なら小選挙区制度においては、衆目の一致する「風」が吹き、その風に乗ることが選挙に勝つ要諦であり、逆に言えばその風に吹き飛ばされないことが肝心であるからだ。公認権と資金差配権を壟断した人に当選させてもらった議員も、吹く風に乗り面従腹背するであろう。然し今回も数を頼って党の金を自由にするために、党首候補を推薦した人がいる。その背景にあるのはカネの力であり、政策ではない。それは、中選挙区時代に行われたカネをぶつければ転び、この法律を作ったら利権でいくら儲かるかを考える田舎政治以外のなにものでもない。然し当今の若い議員はもっと賢明になっている。すなわちお金ではなく、どういう政治をすれば民意の風が吹くかを皆で考えるようになっている。

 

U 日本政治再興の必要条件は「公務員改革」

1.公務員改革の根源にあるのは「官僚内閣制打破」
民主党が政権を取れたのは官僚制度を根本的に変えるとの「風」を吹かせたからであった。官の優位は後発資本主義の日本としては仕方ない面があった。明治憲法下(太政官の)六省よりかなりあとにできた国会に政府より大きい力をもたせる筈がなく、政府役人と国会議員は同格であった。然し今の憲法41条は国会が国権の最高機関と規定しており、国会で指名された総理大臣が大臣を任命して行政府を指揮し、行政府は国会で決めたとおりに法律を執行しなければならない。然し実際は法律を行政府が作っており、そのことが日本において国民のためでなく、お役所の都合で政治が行われる一番の原因となっている。みんなの党は官僚内閣制打破のシングルイッシューの政党であるが、その理念は不変であり、いずれ重要な役割を果たすだろう。

質疑1
大阪府橋下知事の許で@民で出来る事業の民営化A府の出資している団体へは再就職させないB公務員の人事評価を能力に応じて厳しくするべし等の府会議員活動をしているが、どのように評価するか?(応答)大変道理があるうえに説得性もあり、国に先行する活動である。国家公務員制度への影響は大なるものがある。さらに地域主権に徴税権をもたせるまでに高めるべきだ。東北復興院も臨時的設置に終わらせず、地域主権にまで高めてピンチをチャンスに変えるべきだ。能力のない人の給料を下げることは民間では当たり前のことである。

質疑2
公務員改革において無能力を理由に解雇される人にはセーフティーネットが必要である。彼らにも生きる権利がある筈だ。(応答)公務員だから絶対首にしてはいけないと言うのでは通用しない。そのことが公務員を駄目にした。日の丸・君が代が法制化されたが、公務員がその規律を守らないならば、処罰されるのは当り前だ。国旗・国歌を尊重しない国は恥ずかしく、世界では通用しない。

質疑3
地方分権は最終的には広域連合から道州制を目的とするべきであるが、全国バラバラでなく、国で比較対照する部署が必要ではないか。(応答)霞ヶ関でする必要のないことが山ほどある。そもそも全国一律、統一化、平準化はおかしい。特に給料の全国一律はおかしい。すべては地元との対話で決めるべきだ。橋下知事は日教組との交渉を体育館で行い市民を味方につけた。政策は地域毎に差異があるべきであり、その差異をインセンティブに住民をひきつけることが大切である。

質疑4
欧米のポリティカルアポインティー(政治任用)の採用はどう考えるか? (応答)議会が先に出来たヨーロッパ、政府が先に出来た日本との違いがある。日本の場合それを採用すると、自分のコネ、あるいは利権のために役だつ人を採用しようとすることになろう。それよりも「内閣人事局」で幹部官僚六百人の人事評価をして、省壁を越える人事異動をしていく方法(どこへ行くかわからないぞの発想)がよいと考える。もうひとつ「国家戦略局」を作ってポリティカルアポインティーを採用する方法もよい。然し官僚中の官僚を自認する主計局の上にそれを置くことに財務省が強硬に反対した結果、国家戦略室となり活力のある人材を任用することが出来なかった。さらに「行政刷新会議」で約四千の特殊法人を半分にしようとしたが、これも法律の裏づけがないので出来なかった。又現行制度では降格人事をしても報酬は下げられない大きな欠点がある。お金に響かない公務員制度改革では意味がないからだ。公務員制度改革は未だ道遠しである。

2. 天下りと民業圧迫の追放
民主党が前回総選挙で勝ったのは天下り根絶の「風」も吹かせたからである。然し福島原発の事故は、まさに天下りによる「官界と業界」の癒着から起こった。即ち津波の高さを想定外とする誤りに加え予備電源体制等の明白な設計ミスであったのに、エネルギー庁とそれを監督する安全保安院を同一の組織下に置く経産省は、東電に副社長を40年間も天下りさせて「原子力ムラ」を作り、科学的なデータに基づく識者の指摘を無視し続けて来た。業界団体は自動車業界、同部品団体等、日本に約二千もあるが、それらの専務理事は監督官庁から天下り、高給を食んでいる。さらに年金基金を作るとなると厚労省から天下って来る始末である。何か規制があれば業界団体が作られ、そこへ天下りが繰り返され、官が民を食い物にする構図ができている。即ち規制は必要最小限の規制だけでよい筈であるのに、不要な規制を山ほど作って天下り、まさに天下りと規制が一体となっている。
さらに規制があるお蔭でその業界は不活発になることも忘れてはならない。例えばUR(都市再生機構)は財政資金を使用して民業を圧迫して、国の経済を不活発にしている。公務員制度が国民の生産性をにぶらせてはならない。およそ日本のようにあらゆる業界で天下りを許している国は世界には例がない。利権を切ることの難しさは想像に余りあるが、長い時間をかけても大きな改革を諦めてはならない。それをやらない限り、日本経済の再興はありえない。

質疑5
2009年の総選挙で小泉構造改革が否定されたのは、障害者自立支援制度と医療制度等において、規制が必要であるのに規制緩和したことに批判が出たからではないか?(応答)既得権益の打破と構造改革の本丸の郵政改革は、小泉氏の熱意もさることながら、巨大国有金融事業がグローバル化の流れの中で国際的に通用しなくなっていたことも背景にあった。確かにセーフティーネットは最低限必要であるが、暖かいネットは不要で、甘えは許されるべきではない。他人に頼らない健全な競争心が社会発展の原動力である。

3.日本人の潜在能力を発揮させる
日本人のものづくりの能力は頭のよさと手先の器用さだけでなく、「人の役に立ち嬉しい、親方、仲間が喜ぶために一生懸命仕事をする」ところにある。ハーバード大学のマイケル・サンデル教授はこの度の震災に際し、あそこまでモラルを持てるのは人類の誇りであると言ってくれている。官僚が日本人の潜在能力にブレーキをかけてはならない。

質疑6
「人の役に立つ嬉しさを知る国民性」に対して政治の果たす役割は? (応答)教育に力を入れることである。安倍内閣の時に改正された教育基本法と学習指導要領により「文化と伝統の継承」を教え込まなければならない。さらに社会人の教育も大切だ。日本民族の精神を、歴史を通じて教えることが大切である。フランスの外交官で劇作家ポールクローデルは関東大震災時に「この世界で滅ぼしてはならない国民がある。それは日本人だ。彼らは貧しい。しかし高貴である」と述べている。米国のセオドア・ルーズベルト大統領は新渡戸稲造の「武士道」を5冊買って、5人の息子にそれぞれ与えたという。

V日本政治再興の為の三つの「十分条件」

1.グローバル化と比較優位の原則
いまや国際的には国有事業は許されなくなって来ている。国鉄は約2千社の関連会社があり毎年2兆円の赤字であったのに、JRとなり7千億円の税金を払っており、運賃も30年間据え置き、従業員も38万人を18万人とした。小泉首相も郵政民営化を、勇気を以って断行した。然し日本人はとかくグローバル化をきらう。藤原正彦さんの「国家の品格」に異論はないが、その品格を守るために日本のあらゆる制度を守らねばならないとの一点張りであってはならない。例えばちょんまげ時代から洋服に変わっても日本人の精神は変わっていないと思う。形を変えることは内容を変えることではない。130年の歴史を有するが、郵便局はスピリチャルなものではない。
日本人が世界中のものを安く買えるのは市場開放して来たからである。池田首相が米国からの安くて美味しいレモンの輸入を解禁したが、そのため犠牲になる国産のレモン農家には転業資金を出した例は、部分の損失を上回る全体の利益を優先したからである。一国の経済において、他国より比較優位を持つ財やサービスへの生産に特化し、比較劣位にある財・サービスは輸入することによって互いに多くの財を消費できるという国際分業の利益を追求する比較優位の原則を断固やれない人は政治家でない。世界中で比較優位をやれば、世界中どこにいてもあらゆるものが安く買えることになる。貿易立国の日本は比較優位の原則を追求して来たが、ここへ来て動かなくなっている。官僚が自分達の省益から反対しているからである。

質疑7
行き過ぎた規制は百害あって一利なしである。電波は規制のかたまりであるが、その一部を開放して携帯電話市場が生まれた。一方インターネットの検索エンジンは著作権法の規制から米国大手に独占を許したが、モバイルの検索エンジンは、最近規制がはずされて日本も参入が可能となった。日本は必要最小限の規制だけでよいのに安全だけでなく安心までも過剰に規制しているが、何故規制が規制を生むのか?(応答)日本の規制は役所の親心から始まっている。即ち何か新しいこと始める場合、暴走したらいけないと、最初からあらゆる場合を想定してブレーキをつけろとなる。そもそも悪いものに対してだけブレーキをつけておき、あとは自由にすればよいのに、規制ありきで始めるのが日本である。従って企業は規制の隙間でしか活躍できない。ガラパゴスの例えの如く日本だけにしかない技術が生まれることもあるが。
日本は自己責任の発想がなく、役所に保障してもらっている社会である。然し最高の保障であるにしても、余分のことをやっている可能性がある。

2.原発を含む適切なエネルギー政策
脱原発の「風」を吹かせてはならない。脱原発ではこれからの日本のエネルギー需要を賄うことが出来ない。それを太陽エネルギー、水力、風力、地熱等の再生エネルギーで代替すべしとは幻想も甚だしい。世界の原発の基数はこれからまだ5割も増えていくので日本の優秀なものづくりの技術で世界一の安全レベルの原発をつくり、世界中に輸出していくべきだ。又数を増やさずに効率よく運転して発電量を増やす技術の開発も大切である。そのためには技術者の養成も必要である。いずれにしても核燃料廃棄物とはこれから10万年もつきあっていかねばならない。

3.ゆるぎない安全保障戦略
我国の安全保障の基本戦略は「海洋国家」として大陸国家には深く関らず、又複数間の国でなく二国間の同盟を機軸にするべきである。日本が平和な時代は日英同盟と現在の日米同盟の時代であった。同じく島国の英国もポルトガルやスペイン等との海戦で勝利するも大陸に入り込まず、海洋国家として独立を守りとおした。福澤諭吉の「脱亜論」の思想は今も生きている。

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