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武藤記念講座(講演会事業)

記念講座の記録

2011年10月22日(土)

政策研究大学院大学教授 小松正之氏 「日本の魚はどうなる」(於東京国際文化会館)

[東日本大震災での日本人の人間行動]
日本列島全体を震撼させた東日本大震災の発生の直後、「危険を顧みず、身を挺して自らの命を落とした」警察官、消防団員、病院職員等の犠牲的精神、及び略奪と自我行為もなく秩序正しく救援を待っていた一般市民の冷静な行動は、日本人の誇りであった。然しながら米軍がSOSを探知して緊急着陸し、重傷の怪我人を病院へ搬送したことに対して、首相補佐官の「事前協議」がなかったとの抗議は、緊急時における日本の政治のリーダーシップのあり方を問うものである。本日のテーマも、結局は政治家のリーダーシップの問題に帰するものであり、第3章で述べるところである。

T.日本水産業の現状

1.「震災前から衰退していた日本の水産業」
日本の漁業生産量は、ほぼ30年前には世界一の約1千万トン強を誇っていたが、現在では養殖の150万トンを入れて、半分の550万トン位にまで落ち込んだ。なお全国漁業生産量の15%を占める東北4県は、そのポテンシャルはまだ高いにせよ、その間に約五分の一への落込みとなった。
その理由は、高齢化、後継者不足、及び新規参入者が少ないことによる就業者の減少もあるが、日本の「水産業システム」が、旧態依然の自由競争を助長する制度のまま、水産物を乱獲した「資源の悪化」によるところが大きい。然し漁業者だけでなく、その法律や制度を放置して来た政治家や行政にこそ大きな責任がある。
東京湾も、藻場や干潟が高度成長期からは約9割減少して埋立地となり、赤潮や貧酸素水塊、ダイオキシンと環境ホルモン等の有害化学物質の蓄積により水揚げは四分の一となった。春のバカガイ、夏のスズキ、秋のマハゼ、冬のノリは未だ旬に味わえるが、江戸前の五大食文化である浅草海苔、佃煮、にぎりずし、うなぎ、天ぷらは殆どが東京湾以外からの素材に頼っている。

2.「水産業の高付加価値化のため必要な加工施設が不十分」
被災地は漁船の凡そ8割を失い、漁港施設は塩釜と八戸を除きほぼ壊滅、養殖施設の損傷も甚大であった。然し被害は陸地にある水揚処理施設と冷蔵庫や加工場もほとんど失われて機能しなくなった。勿論漁業と加工業は表裏一体であるが、地域経済や雇用に与える影響(GDP)は、加工業の施設の方がはるかに大きい(約2.5倍)ので、漁業・漁港対策だけでなく、加工業の復興と高度化の産業政策がないと生活は成り立たないことを忘れてはならない。

3.「震災による放射性物質の水産業に対する影響」
海水中の放射性物質の拡散・希釈を防ぐだけでは問題の解決にならない。放射性物質は生物体内で濃縮され、食物連鎖の上位にいくに従い、さらに濃縮が進むので、外部被曝より怖い内部被曝の懸念がある。然し暫定規制値が必ずしも明確な基準で策定されていないので、東京電力だけでなく、水産と環境サイドからもデータ収集とモニターを行うべきである。

U未曾有の災禍を水産業新生の契機にするために

1.「資源保護しながら漁業を行うIQとITQ」
温暖化と沿岸の工業開発等により全地球の海洋環境は悪化しており、併せて世界的な魚食ブームもあり各国の水産資源をめぐる激しい争奪戦により、資源維持の限界数量の上限まで漁獲されている。その「資源を戻す」対策としては「総量規制」が最も明確で管理しやすく、かつ効果があることが科学的・歴史的に判明している。
日本の方式は自由競争の漁獲を認め、全体の漁獲量が「総量」に達したところで、漁を停止させる「オリンピック方式」であるが、世界の主流は科学的根拠に基づき、全体のあるべき漁獲量をそれぞれの過去の実績に基づき漁業者に割当てる制度(IQ)である。そのメリットはオリンピック方式の様な過当競争と乱獲が減り、小型魚資源が保護され、市場供給量を調整できることである。それはさらに個別譲渡性割当制度(ITQ)にまで進んでいる。その結果国全体の資源の有効活用が図られるのみならず、それを担保に投資資金が調達出来て、事業拡大と経営改善が図られる。
いまや欧米諸国の常識はIQとITQであり、海洋水産資源の回復に成功した国々は、水産業が基幹産業のアイスランド、日本が平均250万円の年収であるのに対して650万円の高所得が得られ漁業が若者に人気の職業になったノルウェー、その他デンマーク、豪州、ニュージーランド等があり、又欧米を見習った韓国は今や日本を凌駕するかもしれない勢いで漁獲量が伸びている。日本では日本海のホッコクアカエビ漁で初めて採用されたが、先進国で全面的導入していないのは、日本だけである。

2.「正しい補助金政策と水産業復興特区を」
国民の税金である補助金で助けられる漁業ではなんら展望が見えてこない。それは将来のために補助金が使われるのではなく、現実の問題をただ先送りするために大切な予算が使われているからである。上記のIQ導入による初期の資源保護による収入減による損失を、将来の資源増による収入増で担保して融資する方法は、シナリオ通りならば返済しなければならず、そうでないならば所得補償するものであり、まさに補助金の正しい使い方である。
水産業特区構想の考え方は、水産業に資本を投入し技術の革新と労働力の集約化を図ろうとするものである。その為企業が新規参入の別法人を立ち上げ、その法人が組合員資格を取得して、免許を行使する。さらに漁業協同組合の統合を進め、組合員の資格要件や適格性を大幅に緩和して、実績と経営能力のある経営体を沿岸漁業に参入させ、雇用の確保、漁村や地域経済の活性化につなげようとするものである。

3.「水産加工の高付加価値化を急ぐべきだ」
衛生基準を高めるHACCPと密封式せりの導入、単純冷凍製品から加工度をあげ、さらに医薬品・オメガ3、コンドロイチン健康食品等の開発による「高付加価値化」、 人口減少・高齢化対応のための省力化、漁船から加工場への直接搬入、洋上ITせり等による「合理化」、産地市場や加工団地の「整備」は、それら全体のマスタープランを包括的に作成して行うべきである。又東北地方の漁港と港湾としての水揚トータルを決定することにより、漁港・港湾間の過大重複施設建設を回避するべきである。
TPPについては、(水産業は入っていないが)、24項目の内の農業等の構造的問題を解決せずに補助金で解決しようとしているが、それならば参加しない方がよい。バイ(2国間)かマルチ(多国間)かはよく検討すべきである。日米はバイでやるべきではないか。いずれにしても自分の意見を持たず人の土俵に乗ることだけは止めてもらいたい。

V.復興に求められるリーダーシップとは

1.「抜本的改革には明確なビジョンが必要である」
リーダーシップとは「ビジョン」を示し、人々との対話と協議により動機づけを行い、計画を策定して実行に移し、将来の社会を実際に変革するものでなければならない。然し、人々は本来保守的で変化を望まず、現在のシステムが大多数により支持されていると見てよいので、彼らの価値観、信条、習慣に挑戦しなくてはならず、場合により抵抗心を刺激して危険を伴うものであることを覚悟しなければならない。

2.「ビジョンを共有してくれるフォロアー」
フォロアーは「リーダーの人間性とビジョン」に惹かれるものであり、報酬と権力に基づく命令はフォロアーを引き付ける基礎とならない。又「技術的対応と変化への対応」は違い、前者は現在の権限の下で、現在のノウハウで対応するものであるのに対し、変化への対応は「ビジョン」に基づき、新しい方法を学びながら問題に直面した人が対応するものである。然し両者の対応は両立するものである。
「マネージメントとリーダーシップ」も違うものである。前者は通常の業務をこなすことであり、予算や人事を配分し、計画から外れた問題を解決するものである。後者は将来の「ビジョン」の作成とそれを達成するための変化を起こす戦略の展開であり、人々を困難克服に向け活気づけ、社会や次代に変化を起こすものである。

3.「リーダー成功の鍵は愛情と熱意が生み出す一貫性である」
リーダーは、「バルコニーの上からの正しい見解と広い展望」を身につけるとともに、「芝生へ降りて状況を見極めて、適切な診断により適切な決定」を行わねばならない。その為(1)熱意と冷静さを保って下からの声を聞き、反対派と接触を保ち、(2)変革の為には辛抱強く問題解決のためのタイミングを探り、(3)自身の力を発揮するために客観的になり、何よりも「自分の利益を忘れる」ことが大切である。

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