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武藤記念講座(講演会事業)

記念講座の記録

2012年4月21日(土)

甲南大学特別教授 加護野忠男氏 「デフレ克服の戦略」 (於大阪武藤記念ホール)

はじめに

1.「マクロ経済におけるデフレの意味」
デフレとは、一国の生産供給能力が、需要量を 超過していることから起こるマクロ的なミスマッ チ現象である。一国の景気がよいか否かは、個々 の企業が創り出す付加価値の合計であるGDPが、 全体として伸びているか否かによるものである。 然し日銀短観の業況判断DIに惑わされてはならない。同指数は景気が良いと答える企業の%割合から、悪いと答える企業の%割合を、差し引いて算定するが、例えば指数が全体としてマイナス50%の場合、悪いと答えた企業が75%であっても、プラス25%の景気がよいと答えた企業があることを忘れてはならない。又その判断は客観的な定量数値に基づく実勢の数字などではなく、あくまでも各企業の主観的要素による数字であり、アンケート回答者の実感が数字に表れるので、大阪商人の「儲かりまっか、あきまへん」のような経営者の心理が数字を左右することもよく認識しておくべきだ。 閑話休題 京都の企業は余り価値のないものでも高く売っているが、大阪はいいものを安く売るのでデフレ対応が出来ていない(大阪の業況判断DIはいつも全国で一番悪く回復度も一番遅い)、一方神戸はその中間でよいものをそれなりの値段で高く売っているように思う。勿論各々に例外は多々あるが。

2.「ミクロのデフレ要因を他人のせいにするな」
一方ミクロ経済においてデフレとは、企業の販売量が減るのみならず売値が下がり、収益が低下することである。然し日本の大方の企業は収益があがらない理由を、マクロの景気が悪いからであるとしている。松下幸之助ならば「景気のせい、即ち他人のせいにするな、自分のせいにせよ」と言うだろう。そもそも収益があがらないのは、顧客に「高く買ってもらう技術」の知恵が不足しているからである。デフレ時代には顧客価値を高めて高い価格で売らねばならない。

3.「ミクロのデフレ克服の三つの基本戦略」
即ち顧客に高く買っていただくためには、「顧客価値」を高めなければならない。ずばり「二倍の販売価格」で売るためにはどうすればよいのかを考えるべきだ。大事なことはそれ程に高い目標を掲げないと、この戦略は成功しない。その為に次の三つの戦略を提言したい。 一、自己の経営資源を集中的に得意分野に配分して顧客を絞り込む「フォーカス戦略」を確定する。 一、次にその絞り込んだ市場において関連するふたつ以上の製品やサービス、消耗部品を組み合わせ、ひとつのセットとして提供する「バンドリング戦略」を展開する。 一、そして、その市場内において超過収益力を生む「ブランド戦略」を確立する。

以下、三つの戦略を成功させている具体的事例で説明していきたい。

Tフォーカス戦略

1.「顧客の価値観にあわせる」
「神戸のパナソニック事業部」は低価格化が進むパソコン市場において、高くても顧客が納得する製品群の展開を進めた。即ち、作業現場で働くブルーカラーには誤って落としても振動に強い丈夫なパソコン、巨大な航空機などの組立作業場では配線が要らない無線ラン装備のパソコン、ビジネスマンには新幹線での往復8時間の電池容量があるパソコン等、個々の顧客の価値観に合わせて製造、販売した。
「DEL」はパソコンの生産基地をマレーシアから中国に移して、全世界へのデリバリの即応体制を強化し、併せて低価格を売りにしている。

2.「リードユーザーのニーズを的確に把握する」
ハイボリュームゾーンのユーザーでなくて、大多数のユーザーに先行してイノベーションを行う「リードユーザー」と提携することが大切である。 「キーエンス」はその成功の代表例である。同社は資材購入で値下げ要求が厳しいことで定評のあるトヨタ等のリードユーザーへ、製造工程の合理化のためのセンサーを納入しているが、「何をすれば顧客に品質とコストダウンの価値を提供できるか」を対話の中から見つけて提案販売することに成功している。その結果同社の過去20年間の営業利益率は40%台であり、時には50%を超えて利益がコストを上回る場合もある。従業員はよく働きその成果をあげているので、給与水準は日本最高である。又同社はリードユーザーが使用する機材・部材の内「コスト構成要素」の低いものをターゲットにしていることも賢明な方針である。
「シャンプーメーカー」においても商品開発に貢献してくれるのは、ボリュームユーザーではなく、リードユーザーの中でもミンクの毛を洗う業者である。

3.「消費者心理を把握する」
「ミスタードーナツ」は、名刺を持っていないお客、特に女性客に顧客を絞り込んでいる。それは彼女らが男性の目を気にせずにゆっくりくつろげるようにするためである。その為男性を店の中に入れない数々の工夫をこらして、売上を伸ばして来た。  
「タビオ」はメイドインジャパンを売りに、従来の靴下にはない五本指靴下等の特異な製品を世界各地で展開している。

U「バンドリング戦略」

1.「部品とのバンドリング」
「ロールスロイス」はジェットエンジンだけで儲けているのではなく、部品のホットパーツ(高温部品)のいたみ具合を、センサーで感知して即納する体制を取っている。  
「キャノン」の収益源はプリンター機器本体でなく、インクジェット用のカートリッジである。デジタルカメラが普及するまで、ライバルの富士フィルムがカメラとフィルムのペアで儲けていたが、キャノンはフィルムを有せず、カメラだけでは儲からなかったことからの教訓と聞いている。


2.「保守点検とソフトと消耗品とのバンドリング」
「三菱と日立」のエレベーターは保守点検で収益を確保している。 「小松製作所」は納入建設機械のオペレーターなしで動く諸ソフトの提供と、自社納入製品の事前取替え通報システムによる迅速な部品供給体制で儲けている。
「シスメックス社」は血液検査分析装置だけでなく、分析する際に使用する消耗品の試薬でも稼いでいる。さらに日本中にある自社納入の装置をモニターして、管理数値からずれるとすぐ急行して調整する体制を取っている。

3.「アフターケアーでのバンドリング」
「三浦工業」はお湯が止まると大変なことになる病院や洗濯業者等のユーザー対して事前のメンテナンス体制を売りにしている。
「パソコン各社」のアフターケアー体制も広い意味でのバンドリングである。 「発電所」の発電機のメーカーも単品としてではなく、アフターケアーと部品を束にして売っている。 

V「ブランド戦略」

1.「ブランドとはこだわりを売るものである」
ブランドとは製品に対する自社のこだわりを売るものである。例えば「ベンツ」は何故高いのか。それは事故の際に車体の頑丈さにより、車に乗っている人の安全を他のどの車より守る価値が、ベンツ神話とも言われる程に高く評価されているからである。そして遂には、ベンツのブランドは価値があるから高いのではなく、高いから価値があると言われるまでになった。

2.「欠点を利点にかえるのもブランドである」
さらに、ブランドは欠点を利点に変える力を持っている。BMWは日本車の「レクサス」に比べてエンジンの音の大きさで劣っているとの評価に対して、他の車の音はノイズであるが、BMWのエンジンの音はサウンドであると言い切っている。このように不利を利点にかえる効用を持っているのがブランドである。又BMWは事故にあった時の救出の安全性と云う価値にもこだわっている。以上のようにブランドとは自社の価値に、とことんこだわることである。そして自分の価値にこだわることが顧客の価値となるのである。

3.「機能、技術だけでなく顧客価値を売るのがブランドである」
「ルイヴィトン」「カルチェ」「中山大仏堂」のいずれも高い販売価格を維持しているが、それでも購入者がいるのは、こだわりという「顧客価値」を売っているからである。機能や技術の2倍も3倍もの価格で売っているのは、冷静に考えればまさしく詐欺であるのだが。又すぐ手に入らないことまでも価値としている。ベンツはお客に工場まで取りに来させ、ルイヴィトンは入荷まで時間がかかることに購入者は価値を感じている。

最後に
思い切って2倍の価格で売ることをもう一度言わせて欲しい。原価を下げることばかり考えていては(原価も3%でなく3割ダウンを目標とするべきだが)デフレからは脱却できない。大企業は兎も角、中小企業では今の延長線上でなく発想の転換をすれば、それは意外に簡単であろう。

質疑応答

「質問1」ミクロの売上を2倍にする戦略は分かるが、2倍になった商品をどれだけの人 が買ってくれるのか、又それは永続できるのか?

「回答」売れ始めるまでは価値をずらしたり、視点を変えて、かなり辛抱しなくてはならないだろう。そして大切なことは社長が意思決定することである。その為には決める度胸が先ず必要であり、やり始めたら智恵をしぼり、論理的思考でなく「気合」が必要である。

「質問2」ミクロ的になすべきことは分かった、然しそれらを重ねてどれだけのマクロの 成長ができるのか、又マクロ的には構造的に沢山問題があるなかで、何にどう対処すれば よいのか

「回答」マクロ経済は平均値の世界であり、ミクロ経済は平均値からずれた世界である。即ちミクロは個別の目の前の話であり、マクロの数値がどうなっても関係がない世界である。政治家の言うことを信頼して、国に頼ってはならない。例えば原発はあと50年後にはなくなるだろう。然し閉め方が大事であり、閉め方の技術が必要である。先に閉めると決めないことだ。新築の家の6割は太陽光発電を設置しており、様子を見ながら原発を活用していくべきだ。政治家が止めることを先に決定したら石油の値段が上げられるだろう。商売の鉄則は相手の足元を見ることだから。

「質問3」中国人は何故日本人のものまねが出来るのに日本で炊飯器を買っていくのか。

「回答」「もの作りでは意味のないことの価値が必要である」 中国人は、合理的過ぎるのでもの作りには向かない。中国と日本の合弁会社で、日本の技術者が中国人にタービン製造工程で誰も見ないその羽を何故ピカピカにするのかと反発された。やっているうちにわかってくると言ってもなかなか理解されなかった。実はその効用は品質を確保するのに必要なのであるが、意味のないことに意味があるのである。又昔は銀行で1円足らなくてもその原因を残業してでも究明した。然しある時点からやめた。その時点から日本の銀行がおかしくなり1兆円の損失に繋がって行った。意味のないことが如何に大切かの例である。
「キリスト教と儒教と鎌倉仏教の世界の差」 マックスウェーバーは、資本主義は神がいないと成り立たないと言っている。品質のチェックには限界があるからだ。神と言ってもカトリックの神は懺悔して許してくるので、許してくれないプロテスタントの神が資本主義には必要であると。現世しか信じない儒教の国は天国と地獄がないので資本主義は発達しない。鎌倉仏教の世界は他力本願であるが、五木寛之氏によれば「それは他力に頼ることでなく、自力を否定することである。その結果努力して報いられなくても、努力することが大切となってくる」
「愚直な掃除により品質を作りあげるべきだ」 中国と韓国は愚直を認めない。然し愚直は彼らの言う馬鹿正直でない。愚直であるかどうかで製品の持っている品格が作り出されるのでる。目に見えないところが汚いのでは、品格ある製品は作り出せない。過日「掃除で会社をよくする」との大阪商工会議所のセミナーに同会議所の7階の700人の会場に800人が集まった。掃除にこそ中国・韓国と日本との一番の違いが出て来る。掃除を合理的でないからしないのでは、本当の品質を創りこめず、よいものは作れず、どこかに限界がある。高いけれど日本製が評価されるのは、愚直さを捨てていないことである。ただ最近日本の工場が汚くなってきているのは、心配だ。馬鹿になって掃除をやり続けるべきだ。「愚直」の精神がある限り日本は大丈夫である。                      



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