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武藤記念講座(講演会事業)

記念講座の記録(要旨)

2013年7月6日(土)

京都大学大学院教授 内閣官房参与 藤井 聡氏
「今なぜ「国土強靭化計画」か、その国家戦略的意味は?」  
 大阪 「武藤記念ホール」


  「はじめに」
  今、政府は、国土強靱化の取り組みを進めている。これは、巨大地震を始めとした各種の巨大な危機を見据え、その上で国家のあらゆる側面にわたって、如何なる脆弱性が潜んでいるのかを洗い出し、それを強靭化していこうとする取り組みであるとともに、アベノミクスの要のひとつとして位置づけようとするものである。

第T章 国難の「巨大地震」と「デフレ大不況」

第1節 間違いなくやって来る「巨大地震」
  地震は地球科学の「プレートテクトニクス」学説によれば、対流するマントルに乗って移動するプレート同士のぶつかり合いで数百年単位の間隔で起こるものである。日本列島は、今その数百年に一度の地震活動期に入っており、巨大地震が30年以内に起こる確率は、首都直下地震は70%、南海トラフ地震は60%と極めて高い確率で推定されている。そしてどちらかひとつが起こる確率は90%もあり、さらにふたつが連動する可能性もあり、二つで数十万人の死者が出ると言われている。

第2節 想定される桁違いの「甚大な被害」
  数十万人の死者だけでなく、生き残った人々も大変な苦労を味わうであろう。即ちサプライチェーンが失われて物資の流れが止まり、電力供給もストップするのみならず、日本の工業生産機能の中枢をなす集積地帯が破壊され、さらには、東京に集中している本社機能も麻痺してしまうからである。従ってその被害額は東日本大震災に比べれば数十倍の「桁違い」の大きさになるだろう。

第3節「デフレ大不況」と同様に「国家レベルの危機の共有」が不可欠である。
  地震の揺れの強さは地盤の強度に比例するが、科学的データに基づく「増分解析法」による「揺れやすさ全国マッブ」(この名前で検索サイトで検索できます)によれば、東京・名古屋・大阪の東海道ベルト地帯は同マップの赤から青までの5段階の、最も揺れやすい赤一色である。
  関東平野はプレートが三枚重なっており、どこの階層がずれるか分からず、しかもそれらが連鎖的に発生する可能性がある上に、沖積平野であるので地盤がゆるく、特に皇居、首相官邸、霞ヶ関の官庁街は日比谷の埋立地にあり、時限爆弾が埋め込まれているようなものである。大阪も大阪湾沿いの埋立地と淀川沿いは地盤が弱いので揺れがひどいうえに、6メートル大津波は淀川を溯上して枚方まで押し寄せ、生駒山が防波堤になり大阪は水没すると言われている。濃尾平野の名古屋も、大阪と同じ地震と津波の危険地帯である。
  然し、人間はホモサピエンスと言われているのに、地震が確実に来ることは分かっていても、その1秒前まで起こるとは思わず、自分だけは大丈夫だろうと備えないものである。私は、2010年に東北は99%まで地震が起こると自著で予知したし、東日本大震災の二週間前にも巨大地震に対しては耐震装置で備えるべきだと、某政党機関紙に論文を書いたばかりだった。又笹子トンネルの天井板崩落事故に見られる公共インフラの老朽化についても、我々科学者は警告していたが、「コンクリートから人へ」と聞く耳を持たなかった。「巨大地震」と並ぶ、もうひとつの国難は「デフレ大不況」であることは言うまでもない。

第U章 国土総合計画の要、救国の「国土強靭化計画」

第1節「公共投資罪悪論」への決別
  公共投資は悪であるので、そもそも国土計画を考えることすら、反対する人が多数を占めていた。即ち公共事業は、収票と政治献金欲しさに利権誘導を行う一部議員と土建会社だけが潤い、一般の人々は恩恵を受けないとの「公共事業罪悪論」がこの20年間支配的であった。
  この不合理な世論のこわばりは「全体主義」的考え方としか言いようがないが、その長い間のこわばりが、笹子トンネルの犠牲者を生み、又東日本大震災の犠牲者を半分、三分の一で済ますことが出来なかった原因である。又100人もの犠牲者が出た一昨年の紀伊半島豪雨により、土砂くずれを受けた道路がいまだ復旧していないのは、治山治水の予算がないからである。
  然し、例え利権誘導の公共事業がこれまであったとしても、昨今公共事業不要論は勢いを失っている。即ち最近の世論調査ではようやくそのこわばりが無くなり、「やるべき公共事業はやらねばならない」との方向への意識が確実に動き出している。政治は複雑な過程を辿るものであり、なかなか真実な方向へ動かないが、安倍内閣になってやっと真実の方向へ向って来たと言えるのである。

第2節 しっかりした「国土計画」が先ず大切である。
  これまでは、公共事業の計画を立てることすら罪悪視されて来たが、社会資本の整備には「計画」が何よりも大切であることも、理解されるようになって来ている。
  即ち計画には合理的発想に基づく「創造力」により最も頭を使うべきであり、識者のアドバイスも大切にしなければならない。さらにバラマキ等の公共事業の無駄を計画の段階で徹底的に排除し、真に必要な公共事業を実行する計画を立てねばならない。又予算が足りないのならば、財源の計画もたてねばならない。

第3節 「防災」だけでなく「都市化エネルギー」の分散で強靭化国家を 
  国土計画は、防災計画とインフラ老朽化対策だけではない。人口の集中し過ぎた東京の「都市化エネルギー」を例えばリニアモーターカーで大阪と名古屋に分散するのみならず、全国の70%を占める太平洋ベルト地帯の都市化エネルギーをさらに新幹線網、高速道路網で地方に分散化する、より高次元の「国土強靭化」にまで「国土総合計画」を高めねばならない。即ち一個所集まっている都市化エネルギーを、日本各地で分担してもらうと同時に、各地域の産業の自立を促して、共存共栄していくことが重要である。日本はそもそも江戸時代に江戸、京都、大阪だけが巨大ではなく、加賀百万石、それに次ぐ薩摩藩、北前船で結ばれた松前藩等々、国家機能が全国に分散してバランスがとれた国土を、二千年かけて造り上げていたことを思い起こすべきである。

第V章 アベノミクスの要、救国の「強靭化投資」

第1節 アベノミクスとは
  バブル崩壊後20年間の大不況最大の原因をデフレととらえ、2%の物価上昇が達成されるまで無制限に金融緩和をする金融政策がアベノミクスの第一の矢であり、強靭化投資は第二の矢の機動的財政政策のひとつになる。そして二つの矢を導火線とする第三の成長戦略が放たれて着火することが大切である。その結果有効求人倍率が増え、それが1を越えてくると給料も上り、給料が上がれば需要が喚起されて、景気は成長軌道に乗ってくることになる。

第2節 公共事業投資の「GDP押上効果」
  公共投資と経済成長は二律背反するとの見方があるが、そうではない。公共投資は次の理由で経済成長へとつながっていく。第一に適切な公共投資により、数十兆円から数百兆円の国富の損失が回避された場合、災害によるGDPの減少額を大幅に少なく出来ると言う意味において、GDPのブラス効果がある。第二に公共投資によりデフレの需給ギャップが解消されることはGDPの増加となり、第三にさらに乗数効果によりその投資額の3〜4倍のGDPの増加となる。以上から強靭化投資としての公共投資は成長戦略の要となるのである。

第3節 さらに「基礎体力の向上」によるGDP押上効果
  強靭化投資は官の公共投資だけでなく、民の耐震化投資等も含んで総需要を喚起させねばならない。その為には日本全体の経済、産業、地域、インフラ、教育、の各システム間の相互連携がなされる「大国家プロジェクト」を、「チームジャパン」として実施されるべきである。
  のみならず上述の通り、地方都市のインフラが構造的に強靭化されると、海外への工場流失が止まって地方都市に工場が造られ、その結果雇用と税収の増加が図られGDPが増加する一方、逆に海外からも筋肉質になった日本へ工場が進出して、さらにGDPが増加することになる。
  日本が30年間休んでいる間に、世界中がインフラ投資を行って日本を追い抜いている。そもそも新幹線は鉄道斜陽論の中で日本が世界に先駆けて走らせたものである。然し今や新幹線は国際スタンダードであり、日本を真似たフランスとドイツは20万都市に新幹線ネットワークを張り巡らせており、中国は国際競争力強化のため、新幹線を日本の総延長距離の二分の一を一年間で延長させており、高速道路ネットワークも一年間に日本の総延長7600キロに対して8000キロもの勢いで造っている。又巨大化が進む船舶に対して対応出来ない神戸等の港湾設備に見られる如く、日本は貿易分野でも中国と韓国に完全に遅れをとっている。世界はインフラで生産性を向上させる競争の時代に入っていることは間違いない。日本はもう一度そのチャンスに挑戦すべきである。


  「終わりに」
  政府決定と私の意見は当然乖離があるだろうが、国民と内閣の皆さまに、私の考えを、日本の明るい未来を手に入れられるように、提案して行き度い。日本は超絶な危機に直面しているが、その危機に怯えて目を閉ざして何もしないならば、滅びてしまうが、その危機を見据えて適切な対策を打てば、必ず危機を乗り越え、21世紀半ばには超強大国家に返り咲いていることを確信している。日本にはそれだけのポテンシャルがあるのである。

「質疑応答」
「質問1」 

  海岸線にある原発についても国土強靭化計画の範疇に入るのか、又これからの原発立地について強靭化計画の中でどう考えるのか、さらに活断層を40万年まで遡って調査する妥当性は如何?

「回答」

  残念ながら、原発問題についてはしかるべき場所で検討を進めており、国土強靭化計画の中で取り上げないことになっていることをご容赦願い度い。活断層の40万年問題については、前政権下において12万年から引き上げられたが、その理由について国民に納得する専門的説明がなされるべきである。


「質問2」

  田中角栄の列島改造計画とどこが違うのか?

「回答」

  国土強靭化論は列島改造計画の現代バージョンである。田中角栄氏の評価すべき点、そして彼から学ぶべき点は、政治家として国土と列島と言うスケールの大きな視点で政策を語ろうとしたことである。技術的にはこうした方が良かった、こういう方法もあった、こういう順番が良かったと言う点があるだろうが、その気概と精神をこそ引き継がねばならない。勿論反省すべき点は今後の計画に生かしていかね


「質問3」

  内需と雇用は拡大していくが、貿易赤字と国の累積債務問題についてどう考えるか?

「回答」

  内需を拡大すれば、雇用が増えて、GDPが拡大し、税収も増えるので累積債務を減少させることが出来る。逆に内需が増えない場合を考えると、社会保障費の増加により、確実に累積債務は現在のGDP比2倍から3倍に向けて拡大していくだろう。即ち累積債務問題の最大の原因はデフレを放置していることである。よってデフレ脱却こそが最優先の政策課題である。
  然し、累積債務が減少すれば、又は少なくとも増加することが止まれば、1000兆円のままでも、GDPが700兆円(年率3%で10年間)、あるいは20年間で900兆円になれば、現在のGDP比2倍の累積債務比が1.4倍になりさらに1.1倍になることである。又デフレ脱却のために短期的に国債を発行して債務が増大しても、中長期的にデフレから脱却出来れば累積債務は減少するのである。そして短期的に累積債務が増えて金融市場が混乱することを最小化するために金融政策を行うのである。以上の考え方に基づいて構築された経済政策がアベノミクスである。
  鉄鋼等の輸入は増えるが、経済は強くなり、内需拡大だけでなく、円安により輸出も拡大する。鉄鋼を買う分輸出を増やさねばならない。いずれにしても負け犬根性ではなく、強い日本の構想が大切である。私はそれを20年でなく10年でやれると思っている。以上は内閣官房参与の防災減災ニューディール担当として内閣の皆さんに訴え、国民の皆さんにも理解を求めている内容そのものである。


「質問4」

  過去20年間にデフレ脱却のチャンスはなかったのか?

「回答」

  その間、政府は緊縮財政で小さければよい、政府の仕事は民間に任せて公共事業は削ればよい、貿易自由化をすればよいとの「新自由主義」の考えが支配的であった。そもそも彼らにデフレと言う概念はなく、少子高齢化になると成長出来ない、デフレはモノが安くなるから良いことだと、およそデフレを脱却しようという発想は出て来なかったのである。

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