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武藤記念講座(講演会事業)

夏季青年特別講座の記録(要旨)

2013年8月11日(日)

   京都産業大学名誉教授
 モラロジー研究所研究主幹  所 功氏

「日本国憲法の天皇をマトモに議論しよう」 
 大阪 「武藤記念ホール」


第一部 講演会:憲法第一章「天皇」の問題点と改正試案(要旨)

「日本の国柄」を明示する憲法第一章の再検討
  最近の憲法改正論議を見ると、ほとんど第二章(第九条)の是非、自衛(国防)のあり方に集中している。勿論、それは緊急の課題であるが、それと共に、日本の国柄を示す第一章「天皇」(第一条〜第八条)の在り方も慎重に再検討する必要があろう。日本の国柄(国体)について考える際、私が拠り所としているのは、高校時代から学んできた吉田松陰の教えである。松陰の「士規七則」に「皇朝は万葉一統にして・・・君臣一体、忠孝一致、ただ吾国のみを然りとなす」とある通り、皇室を戴く日本では、古来皇統が一貫しており、君主(天皇)と臣下(国民)が親子家族のように一体だから、君への忠義と親への孝情とが一致する稀有な国家だ、というのである。この点は、昭和二十一年元日の「新日本の建設に関する詔書」でも「朕と爾ら国民との紐帯は終始相互の信頼と敬愛とにより結ばれ」と再確認されている。

「日本弱体化」のために作られた「日本国憲法」
  そのような天皇と国民の深い関係を知るGHQは、占領統治を進めるため、天皇を全面的に否定するより、弱体化して利用することを得策と考えたようである。そこで、明治以来の帝国憲法を日本政府に改廃せしめる際も、表面的に旧憲法と同じく第一章を「天皇」としながら、実質的に旧憲法を一変する草案を提示した。それを翻訳し微修正したものが、昭和21年の明治節(11月3日)に公布されている。この形をとったのも、旧憲法との連続性を印象づけるためであったと思われる。

動き出した改憲論議への「改正試案」提示
  従って、このような新憲法は、昭和二十七年の講和独立直後に破棄すべきであった。しかし、それを為し得ず、同三十年に保守合同した自由民主党も憲法改正を綱領に掲げながら、社共勢力等に阻まれて半世紀以上を空費した。その自民党が昨年ようやく新しい憲法改正案を公表し、また産経新聞社も今春「国民の憲法要綱」を発表するに至ったのである。この自民党案も産経要綱も、さすが専門家の作成されたもので、大筋賛意を表したい。ただ、第一章の「天皇」に限って詳しく見ると、さらに検討の余地があると思われる。私は憲法の門外漢だが、一日本人として一歴史家として、自分なりに改正試案を考え纏めた。今日は、その趣旨を皆さんに解説させて頂き、建設的なご意見を承って、よりよい案に仕上げる契機となることを念じている。

日本国憲法第一章「天皇」の改正試案とその解説

第一条 天皇は、日本国を代表する元首であり、日本国民の統合を象徴する君主である。
  [解説]現行憲法の第一条に、天皇は「象徴」と定められる。ところが、その「象徴」は君主でも元首でも無い、日本国は「君主制」でなく「共和制」だという宮沢俊義氏等の解釈が学界・論壇の多数説となって久しい。しかし昭和三十年代に憲法調査会の会長を務めた高柳賢三氏は、GHQの関係者等に確認して「日本が立憲君主国であり、天皇は象徴的元首であるとする原案起草者の解釈が正しい」と論じている(同氏『天皇・憲法第九条』有紀書房、昭和38年刊)。また、憲法七条に記される「国事行為」として、天皇は「外国の大使・公使を接受する」が、新任大使が持参する信任状は例外なく天皇陛下あてとなっている。さらに天皇が、公的行為として海外諸国を公式訪問されると、例外なく君主・元首として特別待遇を受けられる。従って、このような実情に即した天皇の地位を明示するには、抽象的な「象徴」より、具体的に日本国を代表する「元首」であり、全国民の統合を象徴する「君主」と表現する必要がある。それによって、天皇は対外的に元首であり、国内で君民一体の統合君主にほかならないことが、一目瞭然となろう。

第二条 皇位は、皇統に属する皇族が継承する。天皇と皇族に関する規定は、皇室典範に委ねる。
  [解説]現行憲法は第二条で、皇位は「世襲のもの」と定めるが、産経綱領では「皇位は・・・皇統に属する男系の子孫がこれを継承する」と改めている。これは、今上陛下までの皇位が男系で受け継がれてきた事実をふまえ、今後その「男系の子孫」というのは、男子(親王・王)だけでなく、女子(内親王・女王)も含まれ、女子の子孫も皇位を継ぎうると解してよいのだろうか。しかし、産経要綱の起草委員は、男系を絶対とし、女系を否定する傾向が強いから、その子孫に「女帝」を認めるとしても、女系までは認めないとみられる。そして現に今の皇室は、内廷(本家)に皇太子さま、宮家(分家)に秋篠宮さまと悠仁さまがおられる。とはいえ、本質的に考えれば、皇位の継承者は、「皇統」という皇祖・皇宗以来の家系・血統を受け継いでおられることが根本の要件であり、また「皇族」として皇室の中で生まれ育ち、その特別身分に留まっておられる方であることが必須の要件である。しかも、現実的に考えれば、国家・国民の上に立つ天皇の役割は、ご在位中に絶えず続けられることが前提になる。それゆえ、結婚をなされば、懐妊・出産が予想される皇族女子よりも、皇族男子を優先する方がよいと思われる。このような大局的見地から、私は別紙のような「皇室典範改正試案」も作った。然し、まだ熟慮しなければならない点が多々ある。何より重要なことは、現に皇位を担っておられる今上陛下と、次を継ぐことが決まっておられる皇太子殿下の御意向を可能な限り忖度し尊重することであろう。それを根本に据えて、今後とも推敲を重ね、本質と現実に叶う具体案を仕上げられるよう努めたい。

第三条 天皇は、内閣の助言をえて国事行為および公的行為を務め、また皇室の伝統に基づき祭祀行為を営む。
  [解説]現行憲法は、第三条で天皇の国事行為に「内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負ふ」と定め、また第四条で、天皇は「国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」と断っている。これは、GHQが旧憲法下の天皇を巨大な権力者と錯覚して、その行為を限定したもので、不当な規制といわざるをえない。しかし、新憲法下の昭和天皇も今上天皇も、第六条と第七条の定める国事行為だけでなく、多種多様な「公的行為」に尽力され、伝統的な「皇室祭祀」にも精励してこられた。そこで、産経要綱が「天皇は・・・国事行為及び公的行為を行う。・・・すべて・・内閣がこれを補佐し、その責任を負う」と改めたことは、大旨妥当と評価したい。ただ、皇室祭祀は、皇室自体の行為であり、内閣の助言も補佐も不要(介入不可)である。従って、私の試案では、内閣の助言による(イ)「国事行為」および(ロ)「公的行為」と分けて(ハ)「祭祀行為」をあげた。そのうえで、主要な行為を例示するならば、現行憲法第六・第七条のような(イ)だけでよいのか、また(ロ)も(ハ)もあげるのか、それとも別の法令に委ねるのか、検討を要する。

第四条 天皇が第三条の行為をすることが出来ない時は、法律の定めるところにより臨時代行に委ね、または摂政を置く。
  [解説]現行憲法は、天皇の終身在位を前提として、第四条二項に国事行為の委任、また第五条に摂政の設置を定める。このうち、一時的な前者には、昭和39年「国事行為の臨時代行に関する法律」が作られ、また長期的な後者には、「皇室典範」の第三章に摂政規定がある。それを受けて改正案を考えると、前者には試案の第三条と同様、国事行為と共に公的行為も祭祀行為も含めて委任する。また後者には「皇室典範」で摂政を置く要件を見直す(たとえば超高齢による自発的な辞譲も加える)必要があろう。

第五条 皇室は、世襲財産および内廷財産を保有し、他の諸経費は予算を計上して国会で議決した皇室費を充当する。
  [解説]現行憲法は第八条で、皇室に財産を譲渡するにも、皇室が財産を受贈・賜与するにも「国会の議決に基づかなければならない」とする。のみならず、第八十八条で、「すべて皇室財産は国に属する。すべての皇室の費用は予算に計上して、国会の議決を経なければならない」とする。そのため、明治以来形成されて来た膨大な皇室財産は、すべてGHQの指令で凍結され国庫に納入せしめられ、皇室には独自の財産が激減した。それに代わって、毎年の諸経費は、「皇室経済法」により国庫から皇室費(内廷費・皇族費・宮廷費)を支給されて来た。しかし昭和天皇が外国の元首などから受贈された名品も、内廷費を節約貯蓄された金品も、崩御直後、前者は国有財産とされ、後者には相続税が課されている。しかし、皇室には独自の財産が必要である。既に明治十五年(1882)、福澤諭吉は「帝室論」を著わし、「帝室(皇室)は政治社外のもの」で、政府や政党に左右されない「尊厳と神聖」を保持され、政治家の及び難い「栄誉の源泉」として、学問芸術を奨励されたり、孝子節婦などを表彰されたりするため、「帝室の費額を増やし」、自在に賜与することも可能な財産を保持できるようにすべきだ、と主張している。そこで私も、皇室は財産として、皇位に伴って受け継がれる世襲財産(三種の神器、御所の御物など)だけでなく、国内海外から寄贈された名品や、内廷費の遺留貯蓄などにより形成される内廷財産も全額相続できるようにする。それと共に、恒例・臨時の諸費用は、従来どおり皇室費から支出されることにする案とした。ただ、私は皇室経済制度に疎い。そこで、京都産業大学の大学院において明治以降の皇室経済を法制史的に研究した川田敬一氏(金沢工業大学准教授)から、後ほど現行「皇室経済法」の概要とその成立事情および現実的な問題点を説明してもらう。公表されている財産は、英国やタイなどの王室と比べれば、まったく格段の差異があることを痛感する。これから現行憲法の第一章および「皇室典範」を真面(まとも)に見直してゆくには、単に明治以降だけでなく古代以来の多様な皇室史の実態を理解すると共に、海外王室の実情(特に近年の変化)も参考にする必要がある。そして「皇室の安定と永続」という大目標に役立つ改正案を練りあげ、それに国民大多数の理解と賛成をえられるよう努力しなければならない。今日の会合がその一助となるならば、幸いである。

第二部 討論会:青年の質問と講師の応答
質問1 

  世襲の天皇を戴く君主制のもとで、首相(内閣の首班)を全国民で投票して公選する制度の導入についてどう考えたらよいか?

「応答」

  いわゆる首相公選制は、政党の利害で左右されがちな首相の地位を安定させるのに役立つかもしれない。それ故この國民會館を創設された武藤山治氏が、既に大正時代から公選論を唱えられていると、当館の松田理事から教えて頂いた(『武藤山治全集』第四巻所収「政治一新論」参照)。その場合、国民多数の支持で選ばれても、最終的に天皇が任命されるのならば、君主制と矛盾しない。ただ、公選首相は大統領と同じく一定の任期が保証されるため、世俗的な人気で当選して行財政能力の乏しい人でも罷免し難い。逆に人格高潔で能力抜群の人ならば、再選されて疑似君主化することもありうるので、導入には慎重な検討を要する。


質問2

  天皇の行為について、内閣が助言(補佐)する場合、その責任は内閣が負うことも明記しなくてよいのか?

「応答」

  天皇は格別な権威の象徴だから、その行為について内閣や宮内庁が、全力で補佐し、責任を負うのは当然である。そう考えて私は責任の所在を明示しなくてもよいと考えたが、不都合な事態を想定すれば、明記しておくべきかもしれない。


質問3 

  旧憲法を制定した主体は天皇であり、新憲法を制定した主体は国民とされるが、今後改正の主体はどうなるのか?

「応答」

  旧憲法は、明治天皇の欽定憲法だが、具体的には政府主導で民権論者の声も参考にしながら作られた。一方、新憲法はGHQの草案に基づき「主権の存する国民」による民定憲法だというが、形式的には昭和天皇が、旧憲法の改正を裁可し公布された。従って、君民一体の日本で憲法を改正するには、民意を代表する政府と国会で慎重に審議し決定して、天皇が国事行為で公布する形になると思われる。


質問4

  歴代天皇は男系により継承されてきたが、今後は女帝も認められるか、原則として男系に限るべきか?

「応答」

  皇位継承者は、前述の通り、「皇統に属する皇族」であることが不可欠の要件だから、前近代には男系とか女系とかは問題にされていない。それが、近代に入ると、西洋王室のような法制化の必要に迫られ、歴代天皇が男系継承だった事実を重んじて「男系の男子」に限定した。しかし、それは旧典範のごとく側室を容認し皇庶男子まで公認することを否定して、新典範の如く正室の嫡子に限るのであれば、無理な過度の規制を続けることは、適切でない。万一に備えて女帝も女系も認め女性宮家も創り、当面は可能な限り男系の男子を優先する方がよいと考えている。

                                                                                                                    (講師による要約)
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