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武藤記念講座(講演会事業)

第985回武藤記念講座要旨

2014年1月19日(日)

   作家・元外務省主任分析官 佐藤優氏
 「日本国家を強化する教養とはなにか−『神皇正統記』で現代を読み解く」 
       大阪「武藤記念ホール」


第一章「なぜ「神皇正統記」か? 」

第1節「日本人の偉大さを論証」
  我々は偉大な国民、偉大な民族である。 蓋し14世紀の南朝(吉野朝)の忠臣 北畠親房卿が著した「大日本者神國也 (おおやまとはかみのくになり)」で始まる 「神皇正統記」に、このことがはっきり述べられている。 即ち、我国の神道はその理(ことわり)について諄々と理屈を言わないので、親房卿は天竺(インド)、震旦(中国)との比較で我々が偉大な民族であることを論証した。当時天竺は文字の通り天上にあると思われていたので、地上にある中国との比較がなされた。その結果「中国は乱脈極まりなく、常に権力者が入れ替わり、非道なことを平気でする国であるので、中国でないことが日本の本質」であり、日本は偉大なる神の国の民族であるとしたのである。それは、日本が日本であるのは日本であるからであるとの論理学の「同義の反復(トートロジー)」であるが、当時の人々は、異常な思想であると大変驚いたのである。
  なぜならば、それまで日本の政治世界の人達を動かしていた、約一世紀前に書かれた慈円著の「愚管抄」は、グローバリゼーションの考え方を中心としていた。それによれば「王朝は百代で滅び新しい王が生まれる」との百王説がどの国でも絶対に変らない法則であるとされ、我国の天皇も例外でないとされていた。従って日本もあと十数代で百代になれば、王朝が代わりグローバルな王朝となり、中国に呑み込まれるので、日本のインテリ達は中国語と中国の古典を一生懸命勉強し、又太平記の中でも過去にあった例の引用は、ほとんどが中国の話からであった。

第2節「日本人の寛容の精神を実証」
  然し神皇正統記では、天皇や大臣は、あらゆる宗教の宗派を勉強し、あらゆる宗派を受け入れるべきであり、そうすれば百代を越えて日本国は存続すると考えた。そして一番いけないのは自分の宗派を知りもしないのに、他の宗派を誹ることであり、又卑しき学芸もそのすべての学課を尊重すべきとした。人事登用については先ず品性が大切であり、品性が同じであるならば経験、そして家柄よりも資質本位で任用すべきとした。
  親房卿は権力を簒奪した足利尊氏を、「法もなく徳もなき盗人」と堂々と本の中に書いている。然し最高権力者足利尊氏の力をもってすれば神皇正統記を焚書にすることも出来たのに、尊氏はそれをしなかったことにも大きな意味がある。以上のような寛容の精神のある過去の偉大な日本を、今の時代に維持して、未来につなげていくことが我々の仕事でなければならない。

  閑話休題「インテリジェンス機能を有していた陰陽師」
  慈円も天台座主を勤めた比叡山延暦寺は、京都御所から北北東の丑寅の方角の鬼門にあり、鬼(鬼はもともとは「隠」が転じたもので、見えないが確実に悪さをもたらすものであるとされた)が出て来て、天皇家に悪さをするので建立された。天皇は古くから律令制により陰陽寮と言うインテリジェンス機能を有していた。それには三つの部局があり、第一部局は天文博士であり、誕生日と生まれた分単位の時刻の星の配置で運命を占う占星術を司り、第二部局は、季節毎の昼夜の長さの六分の一の約二時間に相当する一刻(ひとつ)の値を水時計で計算する漏刻博士、第三部局は以上の天文と時の流れでは説明できないこと、即ち上記の鬼のように目に見えないこと、又人間関係のうらみ、つらみ、嫉妬の情報をすべて集めて、悪いことが起きないようにチェックする機能を受け持つ陰陽師が対外情報機関の役割を果たしていた。

第二章「新・帝国主義の時代に」

第1節「新・帝国主義とは」
  世界は「新・帝国主義」の時代に入っている。そもそも自国の利益のことだけを最大限に考え、相手国の利益のことは考えないのが帝国主義である。然し相手が反発し、国際社会も同調すると帝国主義国は妥協する行動をとる。例えばシリア問題ではシリアが必死になって抵抗し、ロシア、EUも米国のやり過ぎを非難したので、米国は反発が強くなり過ぎると、結果として損をすると考えたから妥協に転じたのである。
  国際関係は帝国主義国の勢力均衡によって成り立つが、プレイヤーとなれる資格の国は、米国、中国、ロシア、EUのフランスとドイツ、イギリス、及び日本である。日本は自身の力を過小評価しているが、等身大で見なければならない。そして国際関係のルールを作るのは帝国主義国であり、それ以外の国はそのルールに従わざるを得ないのである。尚帝国主義国であるかどうかは、パスポートで判る。ビザなしで入国できるパスポートの国は帝国主義国である。反対に北朝鮮のパスポートはビザが要るので犯罪組織では価値がない。
  日本は帝国主義国の中国とはどんなに仲良くしょうと思っても、短くて50年間、長ければ70年間仲良く出来ないだろう。イギリスの社会人類学者アーネスト・ゲルナーの著「民族とナショナリズム」によれば「民族形成プロセス」即ち、近代化、産業資本主義、教育レベルの向上、移動の自由、民主主義の全部がパッケージで実現された時に民族が出来上る。然し中国は、毛沢東選集の第5巻の論文で指摘されている人口の数パーセントの少数民族が住む国土の半分に天然資源が眠っているので、少数民族問題を間違えると大変なことになるとの遺訓の重要性に気づいていない。現にウイグル人とチベット人に同化していない。さらに民族性が出来上がるのには敵のイメージが大きな役割を果たすので、日中戦争の屈辱と戦時性暴力が癒えるまでの時間が必要である。特に戦時性暴力はナショナリズムの核となる。中国はその時までは、日本に対し「挨拶が足りない、謝罪が足りない」と際限なく言い続けるだろう。

第2節「外交は性悪説に拠るべき」
  欧米のユダヤ・キリスト教文明は人間に対して性悪説に立っているが、外交も性悪説に立たねばならない。そうでないと与件の変化により大変なことになってしまうのである。日本は外国に対して恵比須顔をするが、国内に対して閻魔顔をする。外交はその反対でなければならない。

第3節「力の論理へのしたたかな対抗を」」
  ひとりひとりの清い心で世の中はうまく行く訳ではない。韓国は日本に対してプチ帝国主義の態度をとっているが、それ以外の国々とは国力から言っても従順にならざるを得ない。ロシアは終戦時に北海道を占領しようとしたがならず、北方四島を占領して現在まで不法占拠している。今回の安倍首相の靖国参拝に対するロシアの反応はまるっきり喧嘩を売っている。即ちソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して日本が侵略された側であるのに、日本の外務省の対応は弱すぎる。日本外交は相手がハードルを上げて来たら弱くなり、弱く出てきたら居丈高になる。相手が強く出れば、こちらも強く出て、相手が弱く出てきたら、大人の対応をとるのが交渉の基本である。

第三章「今こそインテリジェンス外交を」


  註)外交におけるインテリジェンス(英語: intelligence)とは、単なる情報収集でなく、知能・知性で重要な事項に属する深層をつかむこと

第1節「安倍首相の靖国神社参拝について」
  昨年12月の安倍首相の靖国神社参拝は、国の為に命を捧げた英霊に対する心の問題であり、かつ日本国の国内事項であるので諸外国からとやかく言われる筋合いは全くない。然し第三者的に見た場合、日本は孤立しかけており非常に危い状況にあるので、虚勢を張ってはならない。なぜならば正しいことであるのに、国際社会では孤立することが往々にしてあるのである。それはアナロジーになるが、国際社会と言うマンションの隣・上・下階・向かいの各住人が犬、ビアノ、子供、麻薬による騒音等について喧しいので管理組合に文句をつけたら、逆に各住民から逆恨みされてあの家は変わっている、皆と仲良くやっていないと言われているようなものである。どのようにしたら住みよい環境をつくっていけるのか、我々の筋を通しながら、麻薬を使用して最も危ない状況の隣人から、ひとつひとつ問題を解決していかなくてはならないと思われる。
  米国の同盟国としての「失望」発言については、民主党オバマ政権独特の問題でなく、中国の台頭による「米国外交の構造変化」によるもので、金持喧嘩せずとの態度に変って来たと見ている。
  それよりも北朝鮮がこの問題については通り一遍の批判報道で、金正恩の新年の演説でも一言も触れられなかったことから、日本に相当興味を持っているのではとの見方が出来る。韓国情報院は北朝鮮のナンバー2の張成沢の失脚は利権抗争によるものと見ているが、私は、金正日のミイラが国家を動かす遺訓政治はやらないとのサインではないかと見ている。血筋は遺伝するが、思想は遺伝しないとの言葉も伝わって来る。拉致問題等について日本外交のチャンスが来ていると見るべきだ。

第2節「河野談話について」
  今年の正月元旦の産経新聞は、「慰安婦募集の強制性を認め、元慰安婦に心からのおわびと反省の気持を表明した平成5年の河野談話は、日本政府が原案の段階から韓国側に提示し、指摘に沿って10箇所修正するなど、事実上、日韓の合作だったことが判った。当時の政府は韓国側へは発表直前に趣旨を通知したと説明していたが、実際は強制性の認定をはじめ細部に至るまで韓国の意向を反映させたものであり、談話の欺瞞性を露呈した」と報じた。
  さらに河野談話は日本の政府見解であるのに、自国民より先に韓国側に通報され、その手が加わって成立した。いまなお韓国が執拗に慰安婦問題で日本を批判しているむなしい現実を思うと、有害無益だったと断じざるをえないとのコメントである。
  外交の世界では、日韓二国間の共同声明ならば両国がすりあわせて外交合意がなされたことになるが、日本側からの一方的談話ならば、その前に合意がなされても韓国は拘束されない形式的紳士協定である。日本は両国の信頼関係から、曖昧な内容でもこの問題に終止符が打てると本気で考えていたと思われるが、どこを間違えたのか。それは国際関係が生き物であるとの認識がなかったからである。即ち、談話発表後20年のうちに中国の経済的・軍事的・政治的影響力が飛躍的に強まったことにより、日本と米国の地位が中国に対して相対的に弱くなったので、韓国は紳士協定を超えて慰安婦の国家補償、戦時中の徴用工の損害補償の要求にまでにエスカレートして来たのである。尚尖閣についても中国が1992年に領海法により自国の領土に組み入れた時に日本の態度は韓国の慰安婦問題と同じく紳士協定として扱い曖昧であった。

終章「寛大な右翼思想で日本を強くしよう」
  今年は第一次世界大戦勃発100周年であるが、100年経ってはじめて不戦の誓いがされるとのことである。19世紀の科学技術の進歩と啓蒙主義(ENLIGHTENMENT)により、真っ暗な中で理性の蝋燭の灯り(LIGHT)が一本ずつ増えて、世界は明るい社会となり、理性で世の中全部が見えるようになったのである。
  言葉の本来の意味での左翼の人達は、人間の理性は平等であり、完全情報の許で虚心坦懐になれば、理想的設計図は思い通り作れると考えた。従って基本的に官僚は発想が左翼的である。一方右翼の人達は、理性は認めるが、人間には偏見があり文化や環境や育ちが違うので、人に危害を与えない限り左翼の人達の考えは認めようとするのである。従って左翼の人達がいなければ右翼は成り立たないとも言える。即ち右翼の人達は多元的価値観を有し寛容であり、これは前述の神皇正統記の論理と同じになる。
   然し右翼の人達は、理屈では考えられないが、今まで続いて来たのであるから、王様、皇統、文化等を認めようとするが、最近それが理想的になり過ぎ、知らず知らずのうちに、左翼的構築主義と設計主義に陥っているように思われる。左翼が弱くなれば、右翼も弱くなり、知らず知らずのうちに、保守派が左翼的になり非寛容になっているので、本物の右翼を取り戻さねばならないのではないか。そうすることにより日本を強くしなければならない。

「質疑応答」
「質問1」

  中国の内乱の可能性は如何? 

「回 答」  

  内乱の可能性は低い、内乱になる要因はふたつあり、ひとつは、米国との争いが起こって共産党政権がダメージを受けた時と、もうひとつはシリア問題がウイグル族に飛び火して、ウイグル族が彼等の民族意識とイスラム原理主義との複合アイデンティティーにより決起する場合が考えられるが、20年以内に3%以下の確率だろう。

「質問2」

  尖閣の実効支配を武力で確保することについて

「回 答」  

  日中間で紛争の武力解決はしないとの条約は、国連憲章に基づいているが、中国流の解釈により武力行使となる可能性もありうる。中国側は挑発行為を繰り返し、日本は平穏に管理していると客観的に言えないなかで、今のままならば5年以内に衝突が起こるかもしれないが、彼我の装備の差から我らが圧勝する可能性が高い。又もし尖閣に彼等が上陸すれば、レーダー基地を作られたら困る米軍が駆逐するだろう。然し我らが勝ったとしても国際世論争奪戦となり、今回の靖国問題で国際的包囲網を作られたのと同じように国際世論の中での、外交力の戦いとなる。然し武力行使をすることは勇ましいが、中国の帝国主義進出を回避する努力をしつつ、南西諸島の防衛力を増強し、国際世論を味方につけることの方が大切である。沖縄分離の問題もあり、本当の右翼とは何なのかが問われる。

「質問3」  

   河野談話の河野氏に、責任をとってもらうにはどうしたらよいか?

「回 答」  

  恨みたい気持はわかるが、小泉八雲の小説で、お奉行との取引で最後の一念を刑場の飛石に噛み付いて果てた死刑囚の話を思い出す。河野氏はその飛石であるが、なぜ彼のような人物が出てきたか構造分析をしておかないと、第二の河野氏が生まれてくるだろう。いずれにしても英霊は慰めるべきだが、民族の存亡、皇統の断絶の危機を招いた負け戦を美化するべきではない。二度と負け戦をしてはならない。そのため私は一生、国のために日本外交如何にあるべきかを勉強していきたいと思っている。


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