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武藤記念講座(講演会事業)

第989回武藤記念講座要旨

2014年5月17日(土)

  京都大学大学院教授 中西寛氏
 「2014年の国際情勢と日本外交の課題」 
       大阪「武藤記念ホール」


セミナー


中西教授は1962年大阪池田市生まれ
国際政治学者として「国際政治の展開と外交政策」を同大学院で講じている。


第一章「第一の回転軸「世界の十字路のウクライナ」

第1節「大国の狭間にあるウクライナの地政学的位置づけ」

  ウクライナは、三千年前の古代ギリシャ時代のスキタイから、モンゴル、コサック、ロシア系とポーランド系のスラブの各民族等、多くの民族の興亡の歴史を有する。それは東西南北に通じる海と草原と森からなる十字路であるからである。地政学の祖といわれるイギリスのマッキンダーはユーラシア大陸の内部がハートランド(中軸地帯)であり、その地域を抑える国が世界を支配するとの説を唱えたが、そのハートランドを押さえるためにはウクライナは重要な「歴史の回転軸」となる地域であるとした。然しウクライナに民族意識が生まれたのはようやく19世紀の後半になってからであり、支配されていたロシアやオーストリアハンガリーが倒れたあと、しばらく独立国家となったが、やがてソ連に制圧されて、その一部となった。即ちウクライナは大国が競争するハートランドと政治が不安定なリムランド(周辺地帯)が重なりあった地域にある。然し、冷戦は終わったものの、大国間の競争が一段と激しくなっており、欧米・ロシア間の不信感も相俟って今回の事態となった。但しウクライナの価値は100〜150年前と比べれば地理的にも資源的にも下落している。黒海艦隊の基地もロシアにとって死活の問題になる程重要でなくなった。大国がどうしても手に入れたい国であれば助けるべきであったのに助けなかったのは、取り込んで自分がお金を出して統治する程重要ではないが、競争相手に取られたくない理由からである。即ち相互不信が先に立ち、何を求めて競争しているのかが不明であるので、お互い問題の解決が出来ないことになったと言える。

第2節「不安定から混沌への経緯」
  重要なことは、今年2月にウクライナの旧政権が倒れたのは、背後の欧米とロシアの対立の結果ではないことである。両者の間では、旧政権は腐敗しているが、とりあえず一定期間そのままにしておき、やがて別の政権に変えていこうとのある程度の合意がなされていた。然し政府は反対デモを押さえきれず、デモ隊の実力行使で首都キエフが制圧されて、警察と軍隊もそれを止めなかったことにより、議会は大統領を解任し、野党を中心とする暫定政権が誕生した。ところがその機に乗じて3月にはクリミアで住民投票、独立宣言がなされ、それを受けてロシアはクリミア編入宣言を行ったのである。これに対して西側は「ウクライナの主権を侵す」ものであると強く反発した。クリミアは19世紀にロシアが領有したが、ウクライナをソ連邦の自治共和国とした際にウクライナと一体化された歴史があるので、ロシア人が過半数を占めている。従ってロシアの行為に全く根拠がない訳でもないので、本気と思えない制裁となった。それどころか暫定政府はクリミアから軍隊を引揚げてしまった。

第3節「前途多難の混沌からの脱却」
  その結果、ロシア人の多い東部をどうするかに問題が移り、4月にはジュネーブで四カ国(米・欧・ロシア・暫定政権)により、ロシアを後ろ盾とする武装グループ排除と大統領選挙を5月末に行うことが約束された。ところが東部2州で住民投票が行われ、投票率が80%を超えて独立派が大多数を占めた。ロシアはロシア人が過半数を占めていない2州を編入することは考えていないと思われるが、大統領選挙が東部で実施出来るのか、行われない場合全体の選挙自体が無効になることも考えられる。然し新しい大統領が選ばれたとしても、国民から強い支持をうる政治改革を実行することは難しいだろう。なぜならばウクライナは7膨大な対外債務があり、財政は破産状態であり、経済運営の仕方を根本的に変えないと出口はないと思われるからである。ロシアとNATOはウクライナをめぐってにらみあっているが、直接衝突することはないだろう。然しプーチンはウクライナの各地にいるロシア人の権利と人権を守ることはロシアの使命と言明しているので、もしロシアがそれを実行するならば事態は深刻になるであろう。

第二章「もうひとつの回転軸「混沌と不安定な影が忍び寄る東アジア」」

第1節「アジアの不安定な地域」
  ウクライナ程でないが、朝鮮半島から南シナ海に及ぶ地域の不安定さも、世界政治にとってかなり重要な問題になってきた。如何に紛争を起こさせないか、起こしても大きなものにしないかが課題である。韓国、ロシア、インドなどの中間の諸国は、中国、米国と距離感を保ちつつ、様子を見ていると言える。
「北朝鮮は不安定度を増している」
金正恩体制は表面的にはかなり安定して来ており、金正恩は支配力を確立したと言えるが、軍の上層部の解任を繰り返し、ナンバー2の叔父張成沢を断罪し処刑にまで及んだのは彼の自信のなさの現れと言える。勿論それだけ権力体制が強固であると言えるかもしれないが、トップ人事が不安定になっているのは彼の権威に挑戦しうるナンバー2の存在を早いうちに潰しておこうとする意図からである。さらに金正恩は中国を恐れている。なぜならば中国は北朝鮮の内情をよく知っており、密接なつながりもあるので、中国の何らかの工作により排除されることが彼の一番の脅威と考えられるからである。一方その金正恩体制は中国の支えなしには安定しないので、中国に乗っ取られることを防ぎつつ、同国に頼っていかざるをえない。よって北朝鮮を仕切っていくのは中国であるが、米国の存在も無視出来ず両国で仕切っていくだろう。いずれにしても流れは除々に不安定度を増しており、彼の子供が四代目を継ぐまで金正恩体制が維持されていることはないだろう。それが明日か10年後かはわからないが。
「台湾は中国に呑みこまれる不安の中、学生による議会占拠の事態へ」
支持率が低く不人気の国民党の馬英九は中国と友好的な経済協定を結んだが、中国に呑み込まれてしまうとの懸念が台湾人には強く、その経済協定に付随するサービス貿易協定の締結に反対する学生が議会を占拠する事態が発生し、締結は先送りとなった。一方台湾独立志向の民進党も、逆に米国から余り中国を刺激しないように釘をさされており、両政党とも大国の影響を受けて有効な国策を打ち出せずにいる。
「東南アジア諸国は成長の果実を巡って格差と腐敗」
タイも反政府デモで非常に混乱している。タイの田中角栄と言われた実力政治家タクシンの腐敗をめぐって、改革派・都会派が反タクシン運動により彼を追い出したが、あとを継いだ妹のインラックも人事の法律違反で失職し、ウクライナと同じ暫定政権となっている。総選挙を行うことが出来るのかも不透明であり、人望があり政治勢力をまとめてきた国王も高齢となり調整力を失っている。民主化がなされ経済発展が始まり日本企業も進出を始めたミャンマーも来年大統領選挙である。然し亡くなった英国人の夫との間の子供が英国籍であるので憲法上出馬できないアウンサンスーチーをめぐり、国内でごたごたが起こる可能性がある。他の東南アジアの国々も経済発展の果実を巡って格差と腐敗の問題が、国によって違うが大なり小なりある。

第2節「米国の静かなリバランス政策」
  この地域の軸は、中国と米国であることは言うまでもない。米国はテロとの戦いを一段落させ、中東に比重をかけていた軍事力を東アジアへシフトした(リバランス)。それは中国を牽制するためであるが、同時に米中両国はお互いに経済的に深い繋がりがあるので、封じこめや対立はできない。4月のオバマ大統領の四カ国歴訪は、日本とは尖閣問題についての中国牽制、韓国とは有事指揮権の返還の棚上げ、フィリピンとは新しい軍事協定を締結し台湾への島伝いの軍事行動も視野に置いた。オバマはワンタイムの成果でなく、積み重ねにより同盟国を安心させ、中国とは事を構えない成果をあげたと言える。

第3節「習近平の「中国の夢」のあやうさ」
  中国は「新しい大国間関係」と称しているが、うるさく動いて目立ち屋がりである。外交は玄人的に言えばうるさい国は弱いところがある国であり、静かに動く国はよく考えて動く強い国である。就任以来2年目にして重要な権限を一人で握る習近平体制は非常に強固になっていると専門家は見ている。彼は就任時に、中国民族の偉大な復興を目標に掲げる「中国の夢」を語ったが、中国人はそれほど感動していないのではないか。確かに経済成長により生活水準は上がり、都会の林立するビルを見れば経済発展の一端は見てとれる。然し経済成長よりも不安定要素の方が大きく、環境と格差と腐敗の問題に加えて、政治的メッセージの強い国内テロが頻発して、とげとげしいものになっている。昨年の「三中全会」では党主導で腐敗を根絶して経済成長を量から質に変えていかないと、共産主義は生き残れないとの、改革への強いメッセージが出されている。然し突然の防空識別圏設定、南シナ海のほとんどすべての領有の主張、ベトナム沖の巨大な石油掘削装置、フィリピンのスブラトリーでの飛行場建設などはおよそ理解出来ない行為である。なぜ世界から敢えて反発を招く決して賢明とは思えない目立つ行為をするのか。その理由は国内の苦しい状況に目をそらさせること、大国風を吹かせたいこと、東南アジア諸国を分断して、全体として利益を得る目的等があるだろう。叉ウクライナ情勢、オバマの四カ国歴訪、プーチンの中国への来訪等に対して外交上の効果を狙う心理的狙いもあるだろう。

第三章「日本外交の課題、外交にも三つの矢」

第1節「第一の矢は「地球儀外交」」
  安倍首相は外交を重視し、世界中の国と首脳外交を行い、短期間の政権交代で失われた日本の存在感を世界に示している。さらに米中以外とも関係を強化して、一方的に言われている中国・韓国との歴史問題、領土問題についての日本の考え方の理解を求めている。とりわけ同じ問題のない東南アジアを重視して味方につけようとしている。

「閑話休題」
安倍氏は運が強いといえる。安倍首相は中国に較べて日本とは距離を置いていたドイツのメルケル首相と連休中に会談し、法の支配に基づく国際秩序で合意、来年の日本訪問の約束を得た。さらにこの月末に行われるシンガポールでの安全保障の国際会議での演説の注目度は高いだろう。ウクライナ問題や中国のベトナムやフィリピンとの問題は、安倍首相の応援団になっていると言える。

第2節「第二の矢は「安保体制の強化」」
  米国との関係を軸に、東シナ海・与那国島、石垣島への自衛隊駐留を含め、南西方面への戦力のシフトが必要であり、日米ガイドラインもその方向で強化しようとしている。叉集団的自衛権は行使できないとの解釈そのものが間違っていたので、改めることは正しい。然しこれは裁判所だけが本当の意味で解釈できる問題であるので、政府がこれまでの解釈を改めるには、正当性の点で難しいことは事実である。従ってある程度時間をかけて大いに議論されてしかるべきであり、十分意見を聞けば悪い結果にはならないだろう。手続きが不安定なときは、できるだけ沢山の人の支持をえるべきであるからだ。海外からの自国民の救援、ミサイル防衛などはそれ程喫緊の課題でない。それよりもクレーゾーンといわれている尖閣に中国の秘密部隊が上陸してきた時の対応の問題の方が重要である。これは個別的自衛権を米国が支援する問題であるからだ。

第3節「第三の矢は日本周辺の「地域外交」」
  1)日韓関係は政府間・民間世論とも悪いが、大きな見方からすれば、日本が朝鮮半島からある程度距離を置くと言う意味では悪くないことである。なぜならば日本外交の機軸は日米同盟であるが、東南アジア、オーストラリア、インド、台湾とも「結束」していくことが大切であるからだ。即ちそれら諸国が、中国により懐柔されたり圧力をかけられて分断されたりしないようにしなければならない。
  2)朝鮮半島の安定が、日本にとって重要であることは言うまでもないが、その安定のためには、韓国の他には中国と米国が関わるしか解決策はなく、米国だけでも中国だけでもうまく行かないのではないか。日本は過去の歴史、叉国力から言っても、米国を支えるのはよいが、直接関わるべきではない。
  3)最近日中間の交流に少しばかり変化の兆しが見られるようになったが、ある時は日本、ある時は東南アジアに強く出て各個撃破する中国には用心するべきである。日本にだけよくなって東南アジアに強く出るときにも、はっきり物を言い、常に全体のバランス感覚と注意深さが大切である。中国で行われる秋のAPECに安倍首相が呼ばれないことはないと思うので、首脳会談の可能性が出て来たのではないか。
  4)中国がこの地域に進出して来るのは確実であるので、米国は長期的・戦略的にそれに相対して自国の利益を守っていくだろうが、中国が出て来るのに時間的余裕はあるので事前にその布石を打つだろう。然し中国との対立は出来るだけ回避したい米国の立場をよく理解しておかなくてはならない。即ち日本の立場をどれだけ配慮してくれるかを計算しておかないと、米国内に日中の争いに巻き込まれるのは望ましくないとの議論が出てくるだろうからである。勿論中国が理不尽な行動に出た場合、日本寄りになる局面もありえるだろう。
  5)政権交代の起きたインドは、人口・経済・能力そして地理的に、中長期的に重要な国である。今の段階では中国に対抗できる国ではないが、長期的な観点からはインドとの関係を強化していくべきである。叉中国への警戒心は強いが、米国や我国と手を組む国ではない「自前主義」の国である。
  6)ロシアには過剰な期待をするべきではない。安倍首相とプーチンは個人的には良い関係にあるが、安倍外交には懐疑的である。何故ならばエネルギーと技術援助で誘っても、北方領土を返還することは、ロシアに全くメリットはなく、2島案でも返還されることは考えられないだろう。そのことを割り切って付き合うべきである。叉ロシアと中国は本質的にお互い警戒心があるが、ロシアの大国としての立場を西側が尊重しない場合は、中国に接近していく可能性がある。

「最後に」
  安倍首相の外交は、運のよい面もあるが、概ね健闘しているのではないか。問題があるとすればふたつある。第一に外交のためにも看板であるアベノミクスが失速しないようにすることが大切である。日本が世界の中で尊重されるには、日本は高齢化が進み人口が縮小していき、経済成長が出来ず、財政も破綻しかねない国であるとのイメージを、払拭しなければならないからだ。第二に国際的にはもっとソフトパワーを発揮するべきである。日本人は国際的に自分の立場を説得するのは苦手であるが、安倍首相もそういうきらいがある。演説は準備をして見事であるが、聞き手への説得力においては、自分の理屈を言いすぎるのではないか。「真意が理解されてない」と言うのは自分の説得力が足りないからであると言う覚悟で世界に対して自分の気持を発信しなければならないのではないか。その辺が世界に発信する日本外交が、安倍さんをしても、まだ弱いところではないか。


「質疑応答」
「質問1」

  中国は米国が動かないようにしながら、着々と足場を拡げ固めて、今のところ成功しているが、米国は始めにもっと強い姿勢で臨むことが、外交として有利で、結局あとで後悔することにならないか?

「回 答」  

  そういうやり方もある。然し時と場合である。言葉で強く出ても それを付ける行動がないと足許を見られる。海の争いでは継続的に支配する力が必要 であり米国には中国を本気で封じ込める足場もなく軍事費も少ない。今のところの対 応は、実的にして賢明である。


「質問2」

  国連は無力、G7も何も機能していないが如何?

「回 答」  

  世界秩序を守り管理するための国連であるが、そのためには大国の間である種の価値観の共有が必要である。冷戦時ほどではないにしても、西側とロシア・中国間でその共有がなされていないのは確かである。然し西側の強さは経済と情報のつながりである。ロシアも中国も政府に対する批判・不満は世論のなかで強くなっている。国対国はナショナリズムにより妥協の余地がなくなるが、価値観の共有は長い目で世界秩序となっていくからだ。


「質問3」  

  日本は国連分担金を多額に出しているのに、敗戦国のまま扱われ常任理事国にもなれないのは何故か?

「回 答」  

  分担金は経済力に併せて算出されているので、他国の伸びに対し て日本減少傾向にある。日本以外にも常任理事国入りを目指している国があるが各々 のライバル国が反対している(日本は中国と韓国)。敵国条項は廃棄の動きはある が、手続き面的に複雑なことと、それ程重要でないことから進んでいない。戦争犯罪 の非難に対して反論はしなくてはならないが彼等に乗せられて同じレベルで議論をす るべきはない。日本は戦後世界に対して害をなしたことがなく、むしろいいことばか りしてるので、自信を持つべきだ。


「質問4」  

  尖閣諸島の領海侵入に対してもっと厳しい態度を取るべきではないか。

「回 答」

  無害通航である限り、領海は通行できる。然し無害通航でないので追い返しているが、短気にならず、長い目で対応するべきである。


文責

公益社団法人國民會館


  

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