ホーム > 武藤記念講座(講演会事業) >元統合幕僚会議議長 杉山 蕃氏「今後の防衛力のあり方」  

武藤記念講座(講演会事業)

第1008回武藤記念講座要旨

    2015年10月24日(土)
    於大阪「武藤記念ホール」
    元統合幕僚会議議長 杉山 蕃氏
 「今後の防衛力のあり方」 

セミナー





第一章「世界の安全保障の不安定要因」
     多様な見方がありうるが、「熱い戦争」という視点から見ると、世界が大戦へ向かっているという段階ではな
   いだろう。然し次に述べるように、いずれの紛争地域も、その中身は大国も関与して大変複雑である。
「中東」  現在、世界で一番不安定な地域は中東である。イスラム国、既存の秩序に反対する反政府武装勢力、さ
  らにそれらを自国の味方にした方が有利と考える大国の干渉が入り混じって、その中身は大変複雑なものとなっ
  ている。そしてその戦い方は、真っ向正面にぶつかりあうものではなく、「ハイブリッド」なものとなっている
  。ハイブリッドとはテロ、情報操作、反対組織への武器のてこ入れ、及び非公然の武力介入等の各種手段がミッ
  クスされて、武力攻撃とは言えない形で、かつ方向が見えないように行われている。シリアを例にすれば、「シ
  リア政府・ロシア」対「反政府武装勢力・米国・サウジアラビア」の戦いだけでなく、独自領土を有しない世
  界最大の人口を有する民族であり、その不平不満から武装勢力化しているシリア独特の「クルド人」が、相互
  に取り込みあいながら、実利を求めているのである。
「ウクライナ」  旧ソ連のハートランド(中心地)のひとつであったウクライナを、「EU」がNATOに加入させ
  ようとしたことに対しての大変な怒りから、ロシアはウクライナ東部の親ロシア・反政府勢力に加担しているが
  、いずれなんらかの形で配下に収めるのではないかと思われる。何故ならば、ウクライナの西部は穀倉地帯で
  あるが、東部は旧ソ連時代から大軍需産業の中心地であるからである。特にクリミヤ半島には、その先端に黒海
  最大のセヴァストポリの軍港があり、軍需産業の核心を担って来た歴史があり、ロシアの軍事技術者が多数住ん
  でいる。言わばロシア軍需産業にとって、不可分の地域である。さらに、軍事技術流出の問題もあり、クリミヤ
  共和国をロシア連邦に編入する挙に出たと考えて良い。又その間にロシアは民間機を地対空ミサイルで撃ち落と
  したと言われているが、情報操作により、その罪を有耶無耶にしてしまった。然しこのような撃墜は、余程整
  斉とした組織でないと出来ないものであり、これもまさにハイブリッドな戦いの一つである。
「南シナ海」(1)さらにもう一つが「中国」による南シナ海の人工島造成問題である。この問題について日本の
  マスコミは、「不法占領とか、浅瀬を埋め立てて領土にするとは何事か」等々の非難をするだけで突っ込みが
  浅いのではないか。このような問題は客観的に見なければならない。そもそも埋立地には領海はないとの正論
  を正面に米国がやっと重い腰を上げた感じがするが、今後どのように進展していくかは、予断を許さないところ
  である。
  (2)現在において中国に対抗し、南シナ海の島嶼の領有権を堂々と主張しているのは、フィリピン、ベトナムと
  台湾である。まずベトナムが領有権を主張する根拠は、ベトナムがインドシナと呼ばれていた時代に宗主国フ
  ランスが、南シナ海の一斉探査を行い、それらの島嶼を無住の地のベトナム領として、国際公告した歴史上の
  事実があるからである。一方台湾の主張理由は、日本が昭和18年にそれら島嶼を軍事占領し、「新南群島」と
  名付け、国際公告して日本の領土として、台湾高雄市に編入したからであるとする。一方、サンフランシスコ条
  約で日本は付属島嶼も含めた台湾に関するすべての請求権を放棄したが、新南群島は、依然として高雄市の一部
  であり、台湾に領有権があるとする。さらに19世紀末の日清戦争後の馬関条約(のち下関条約)の第2条には、
  清国は台湾、澎湖諸島及びそれらの付属の島嶼の主権を「永遠に日本に割與する」と規定されている。その結
  果、台湾は永遠に中国に戻らないことになるので(これを台湾無帰属論という)、付属の島嶼は、自ずと台湾に帰
  属するものであると主張しているのである。
  (3)フィリピンの領有権主張も位置的関係から強い根拠がある。米西戦争と米比戦争の結果スペイン領であった
  フィリピンが、米国による管理に移ったが、その時領土管理の範囲が明確にされた筈だが、米国は「二国間の領
  土争いは二国間で解決するべき」とする態度を貫いて、その内容を明らかにしないので、フィリピンの領有権の
  主張の根拠は、明確でない。さらに位置的関係からブルネイ、マレーシアも領有権を主張しており、不安定の状
  況は持続すると考えられる。
「北朝鮮」も世界の中の不安定な地域であるが、我国にとっては特に危険地域である。間違いなく言えることは
  、北朝鮮は確実に核弾頭を持っていること、及びテポドンをはじめとする大陸間弾道ミサイルを撃つ力を持ち
  始めていることである。然し何発持っており、どれだけの信頼度があるかは分からないのである。また北朝鮮
  はミサイルの潜水艦発射に成功したと公表したが、極めて初歩的な段階と考えられる。然し水中発射は如何に
  水と関係なく火をつけるかが難しく、そのためには1万トンを超える潜水艦が必要であるが、北朝鮮はそれを所
  有していないので、成功したかは疑わしいところである。然し北朝鮮のミサイル発射技術は着実に進んでいる
  ことは間違いない。

第二章「中国の壮大な世界戦略 」
  第1節「異常なスピードで軍拡を続ける中国軍」
  (1)「海軍力の増強」 中国は異常なスピードで海軍を増強している。その中国軍の艦艇の総トン数は147万
  トンとなったが、これは我が国海上自衛隊46万トンの3倍強である。艦艇がこれだけのスピードで建造された
  例は世界では昭和初期の日本海軍の例しかないと言われており、来年もさらにその伸びが続くものと思われる。
  さらに保有総トン数の内、航空母艦を含めた最新鋭の艦艇だけで50万トンにもなるのである。その主な陣容
  は、第一はロシアから導入され、中国艦艇改革の第一歩となった8千トン級の「ソヴレメンヌイ」ミサイル駆
  逐艦であり、現在4隻が最先端で活動している。次に中国最新の7千トン級「旅洋」ミサイル駆逐艦は12隻
  を擁し、新しく4隻が建造されると言われている。さらに、4千トン級の小型のミサイル駆逐艦はすでに20隻
  を有する。然し隻数だけでなく、技術的・性能的にも発展を続けている。駆逐艦は小さな魚雷艇や小艦隊を追い
  散らす砲も有するが、ほとんどがミサイル装備である、レーダーアンテナも旧式の回転型ではなく、フェイズド
  アレイアンテナである。又、VLS(Vertical Launching System、垂直発射システム)による、ミサイル発
  射システムを有し、垂直に打ちあがったあと司令塔の指示に従って目標方向に飛んでいく最先端のものである。
  原子力潜水艦ついては、中国は固形燃料による「DF31」という弾道ミサイルを1万5千トンの原子力潜水艦
  から水中発射に成功したことを世界中が認めている。これにより中国は核搭載原子力潜水艦(Ballistic Missile
  Submarine Nuclear-Powered)を完成させたのである。その潜水艦と、建造中の2隻3隻目の空母の根拠地を
  海南島三亜地域に建設中であり、海南島は間違いなく中国の核戦略の中心になるだろう。このように中国の装備
  は決して侮れるものではない。かつそのために、非常に慎重に新しい軍事組織も作り上げているのである
  (2)「中国の幸運」 中国の軍拡は非常に幸運に恵ま れたと言える。例を挙げる。その性能が抜きん出ており、
   米国を追い越して当時世界一の戦闘機と言われた「SU―27」は、ソ連崩壊の前に完成したが、崩壊により
   スーパーマーケットから食べ物が消える経済的混乱の中、軍部は各持ち場で国家財産を売り食いしたので、戦
   闘機・ミサイル駆逐艦・潜水艦等の技術流失が進み、中国は大きな対価を支払いつつも、大きな恩恵に与った
   のであった。これに対して米国はF22ステルス機で対抗したが、さらにF35ステルス戦闘機を開発(日本の
   次期主力戦闘機で再来年3月に導入される)したのであった。然し、中国はSU―27の派性型をはじめステル
   ス戦闘機J20を開発し、今や第4、第5世代の戦闘機を日本の倍も保有している。 トルコの地中海と黒海を
   結ぶボスポラス海峡はモントルー国際条約により、商船は自由に航行できるが、航空母艦は航行できないこと
   となっている。そこでロシアは航空母艦を、全長型でないスキージャンプ型の航空巡洋艦として仕立て、黒海
   ・クリミアへの航行を可能としている。中国はロシアの航空巡洋艦「ヴァリャーグ」を廃材として購入し、長
   く大連に係留した後に、航空母艦「遼寧」として復元した。然し積載する戦闘機の整備が遅れ、試験艦・練習
   艦として使われているが、二番艦、三番艦の建造が進んでおり、将来間違いなく外洋に空母を複数派遣して、
   西太平洋に威を誇ろうとしていると思われる。 以上のように、中国は世界一流の装備で、確実に勢力を伸ば
   しつつある。今後どうなるのか、予測は色々あるが、決して安くない対価を払って中国が軍拡する目的がどこ
   にあるのかを明らかにして、我々はそれに対応できる戦略を持たねばならない。
   (3)「中国の弱み」 @中国人は非常に頭のよい民族であり、秀才が続出するが、軍事技術開発の点では、中
   国開発の世界に冠たる兵器は聞いたことがない。あえて言うならば、元寇の役のときに使用された火薬くらい
   ではないか。現在の新しい装備と兵器もその技術は全部ロシアに握られ、牛耳られているのである。即ちSU
   ―27の導入後、搭載しているジェットエンジン「AL31」等、その派生型のエンジンを国産でつくろうと
   したが、精密技術や硬い鋼の技術に劣り、いつまで経ってもそのエンジンの出力が8割程度しか出なかった。
   さらにレーダーに感知され難いステルス機は、ミサイル等の武器を内装する事から、機体が大きくなり、一層
   エンジンの出力を増やさねばならないのである。然し中国はラッキーだった。ウクライナの紛争時、中国は一
   貫してロシアを非難する立場をとらなかったのである。その代わり、AL31の15%アップの[AL31FIS]
   と言う新型エンジンをロシアから入手したとのことである。   
  「注釈」ステルス技術は、コックピット、鋲と継ぎ目、及びインテーク(空気取り入れ口)について必要となる。前2者については、
   各々コーティング技術とフィルム化技術により解決されるが、インテークについては、電波吸収材を装着するため細長くしなければな
   らないので、機体が大きくなり、大きなエンジンが必要となるのである。又機外ではなく胴体にミサイル等を収めねばならないので、
   さらに機体は大きくなるのである。

   A中国の泣きどころのもう一つに、派閥による勢力争いがある。軍事予算の配分についてもそれが影響して来
   るのであり、確かに日本と同じく海・空重視であるが、いざとなったら国内の抗争に強い陸軍が実権を握って
   いる。人民解放軍は陸軍が牛耳っており、又「一帯一路」で西へ向かう主力は陸軍と言われている。
   Bさらに最後の泣きどころは宗教である。一番怖いのはイスラム教である。中国はイスラム教徒の新疆ウイグ
   ル自治区に沢山の漢民族を移住させて、多数を占める漢民族の投票によりウイグル人を圧迫しているので、イ
   スラム教徒の恨みはそれに倍加して積もっているのである。このような状況で中国がイスラムに相対して次に
   のべる「一帯一路」戦略を実現できるのか、予断を許さない。世界的にはやがてキリスト教を席巻するといわ
   れるイスラム教を甘く見ることは出来ないと思われる。

  第2節「軍事力を背景にしたふたつの経済圏構想」
  「一帯一路」構想は、2014年に、習近平が提唱した経済圏構想である。陸と海のルートがあり、陸のルート
   「一帯」は、ユーラシア大陸を西に進んでトルコまで行き、ロシアに入りオランダ、イタリアまで到達する壮
   大な経済圏を、新しいシルクロードとして、開発するものである。最近の中英の蜜月ぶりから、それがロンド
   ンまで伸びたとの報道が取り沙汰されている。一方海のルート「一路」は、マラッカ海峡を経て、インド、パ
   キスタン、ケニア、紅海を通り 、ギリシャとイタリーに至る、新しい経済航路を建設しようとするものであ
   り、具体的都市の名前も挙げられている。この構想には色々な見方があるが、現在の力を以てしては、「大洋
   」に向かって、なかなか出られないのが実情である。そう言う目から見ると、中国にとって、開いている地域
   は西方であり、資源豊かな中央アジア諸国、それを延長してトルコ経由でヨーロッパに到達しようとするもの
   であり、すでに一部の国との資源外交、武器輸出外交が進んでいる。 南は明の時代に鄭和が開発したように、
   インド洋を横切ってアフリカにまで達し、そこからヨーロッパに達しようとするものである。但しその実現の
   為にはインドと言う対立国があり、優勢な「海洋軍事力」がなければ難しいであろうと言われている。 一方、
   広い太平洋を二分割して東側は米国、西側は中国が分割管理する「太平洋二分割構想」が、中国から提案され
   たが、「米国一極の世界の経済地図」を、必ず引っくり返そうとする決意の程が見え隠れする壮大な構想であ
   る。現状は海軍力において、隔絶したものがあり、米国の反発も強い事から、しばらく時間を要すると考えら
   れる。
  第3節「軍拡の一方で微笑外交を展開」
  最近、中国はPKO(国連平和維持活動)に対する態度を急変しているとともに、高圧強硬姿勢を抑え協調を前面
  に押し出した「微笑外交」に転じている。特に低開発国に対して「資金を提供するので、事業を起こして雇用
  を創生し、生産活動を行い、その収益で長年かかって返済していけばよい」という開発援助に努めている。その
  よい例がインドネシアの高速鉄道建設の受注競争で日本に競り勝ったことである。さらに、従来その役割を果た
  して来た日本のアジア開発銀行に対抗して、アジアのインフラ整備のために、アジアインフラ投資銀行(AII
  B)の創設を発案、50%を出資して主導し、本年末の設立を目指している。これらにより発展途上国の人達を
  熱烈な親中国派として取り込み、国際社会における数の力を得ようとしている。これらの中国の壮大ともいえ
  る国際戦略に対して、日本の安保法制を巡る騒ぎをみればわかるように国内の政党争い問題に終始し、我が国が
  世界の中でどう生きていくのか、大局を見て対抗できるのか、はなはだ心もとない限りである。 なお、阿片戦
  争は西洋文明が東アジアに侵入して来た際の最も卑劣な例であり、ここまで歴史を遡れば、英国は中国に何も言
  えないので、イギリスは中国に借りがある気持ちが強く、AIIB構想への参画するとともに、今回異例の厚遇で
  習近平を迎えたのであろう。

第三章「我が国が置かれた環境」
  第1節「国防費の伸び率ゼロの現実」
  中国の国防費は内容が公開されていないし、その中には研究開発費が含まれていないと言われているが、ここ
  25年の間に、毎年軒並み10%の増加を示し実に45倍にも増えて来た。そもそも、これだけ予算があれば何
  でも出来る状態にある。ここ10年来の近隣諸国の伸び率を見れば、中国のみならずロシアの膨張も著しく、
  豪州、韓国、米国も伸び率は低いが伸びている。然し隣の国が何倍ものスピードで進んでいるのに日本だけゼロ
  である。これは如何なる国内事情があろうとも、怠慢のそしりを免れない。全体では米国がオバマ時代になって
  国防費を削減していることが背景にあり、韓国、台湾も新しい軍事プロジェクトがないので、大きく伸びていな
  い状況にあり、中国だけが、ずば抜けて進んでいるのである。日本はそれをオロオロ見ているだけでよいのだろ
  うか。「ついていけ」とは言わないが、どう対応していくのかの考えだけは、はっきり持たねばならない。
  第2節「日米共同作戦計画と我が国防衛力の諸制約」
  (1)日本の防衛を支える一つの大きな柱である「日米防衛協力の指針」、いわゆるガイドラインについては、秘
  密度が高いので、具体的内容は表には出て来ないが、二つの見方をしておかねばならない。一つは米国という
  「助っ人」は十分強力で信頼するに足ると言うことである。平時から双方が危機管理のためのメカニズムをつく
  り、情報を共有する。そのうえで、共同で「日米共同作戦計画」を作るのであるが、私が作戦部門担当責任者と
  して参画した最初の作業に於いては、空軍だけでも30人のスタッフが来日、長期にわたって真剣な作業を実施
  した。そしてお互い案を出しあうが、それらは何回も否決され、その都度再検討が重ねられたうえではじめて成
  案を得る。最終的には両国政府の承認を得ることになるのであるが、成案をうるまでの米国の共同作戦に対する
  考え方は厳しく、また計画として約束した事に対する態度は律儀なまでであり、締結された計画は確実にそれを
  守る意気込みを感じたものである。私も、この作戦計画作業に深く関与したが、率直に言って、私が自衛隊でし
  た仕事の中で、これ程までに仕事のやりがいと充実感を覚えたことはなかったし、何とか国家のために役立った
  のではないかとの感慨に耽ったのであった。それ程その中身は濃く心強いものであった。現在では、代が変って
  も「朝鮮半島有事」、「離島防衛」などの作戦計画が作られ続け、発展しているのだろうと非常に心強く感じて
  いる。
  (2)半面問題点もある。そもそも国防と言う国の大事を、米国にそんなに「おんぶにだっこ」でよいのかと言う
  点である。もし日本が侵略される危機が迫り作戦計画が発動されたとき、とんでもない数の飛行機を米国は日本
  に飛来させるだろう。何故ならば米国は基本的に絶対有利でないと戦わないからである。それはそれでよいのだ
  が、彼らの根底にあるのは、日本を再び軍事国家にはさせないと言う「在日米軍ビンの蓋」論である。これは戦
  後70年続いた国内の「平和国家理念」と結びついて強力な流れとなっている。これに伴い、日本の防衛政策に
  は多くの制限が存在する。周辺国及びその軍事態勢に比し、量的に低い防衛力のほか、世界で唯一の被爆国であ
  ることから来る「非核」、それに加えて「空母」、「原子力潜水艦」及び「長距離ミサイル」「策源地攻撃能力
  」である。このようにあれも駄目、これも駄目ではまさに厳重すぎる「ビンの蓋」である。そしてこの蓋を締め
  ているのは単に米国だけでなく、世界中に同調者がおり、国外だけでなく日本の国内に一番強い敵がいるのであ
  る。それは左翼系であり、マスコミである。いい悪いは別として、軍の運用では、あれも駄目これも駄目ではな
  く、出来る限り自由闊達に手段を選べる方が、効率的であることは間違いないのである。
  (3)少なくとも核兵器は持たなくてよいと思うが、持たない場合我が国の核戦略はどうあるべきかを考えておく
  べきであるのに、誰もそれを研究しないのは極めて問題である。米国の核に依存するのならば、そのために米
  国に何をするべきか等の方策を、是非考えていくべきだ。日本は空母をつくる基本技術を有するので、空母は簡
  単に作れると思われる。現在、海自は太平洋戦争時に使用した主力空母と同じトン数のヘリ空母を有するが、現
  在の戦闘機には全く使えないので、誤解しているむきがあるが、正確な知識が必要である。そもそも空母は国を
  遠く離れた戦地で作戦を展開するとき、又は国土が広大な時に機動的運用が必要になるのであるので、日本にそ
  の必要があるのか、シーレーン防空等を含めてよく考えねばならないだろう。
  第3節「原子力潜水艦の考察」
  問題は原子力潜水艦である。まず通常の潜水艦と原子力潜水艦は、全く違う兵器であることを認識しなくてはな
  らない。即ち通常型の潜水艦は電池を原動力とし、電池がなくなったら動かない。速度を出せば出す程電池の消
  耗は激しく、近距離しか動けないのである(10ノット出したら数時間しか動かない)。即ち電池が無くなればシ
  ュノーケルを出して充電しなければならないのである。但し最近は各種の非大気依存推進機関( Air-Indepen
  dent Propulsion, AIP)が開発されシュノーケルが不要になり、日本の海上自衛隊もそれを導入しつつあるが
  依然として水中速度は数ノットにとどまる。これに対して原子力潜水艦は怪物である。燃料に心配なく、1年で
  も2年でも潜り続けることが出来る。さらに造波抵抗がない水中速度は30〜40ノットである。その昔原子
  力潜水艦の潜航がどこかで探知されると、対潜哨戒機が急行して、水中のスクリュー音を集めて発信するブイを
  撒き、その近くを潜水艦が通れば、次々と空中の飛行機に知らされて追尾していた。又冷戦時代には米ソの原子
  力潜水艦がお互い相手の港外(ウラジオストクとサンディエゴ)に、潜って待機しており、相手が出港すれば、跡
  をつけ、水上で調査船がその航跡を引継いで、帰港するまで跡をつけていたのであった。当時両国が大人の世界
  でやりあっていた典型的な冷戦下の作戦行動と言えるが、今や原子力潜水艦のスピードが上がって、20ノット
  の水上の調査船では追尾が不可能となっている。即ち30〜40ノットの原子力潜水艦を追尾するには、原子力
  潜水艦しか方法がないと思われる。このような事から原子力潜水艦はこれからも有力な兵器となっていくだろう
  。25年位前、科学技術庁の研究開発のための実験原子力船「陸奥」が、母港である、陸奥湾への入港を拒否さ
  れ、洋上で漂泊、帰港地の決定を待つ事態があったが、日本人の原子力に対する独特の偏見が露呈された典型的
  な例であった。然し今や横須賀には原子力空母、佐世保と横須賀には原力潜水艦が寄港する状況にあり、そろそ
  ろ日本も原子力アレルギーの頭を切り替えて行かねばならないのではないかと思われる。


終章

日本は何といっても工業産業立国である。ゼロ戦など世界最高の兵器を造った実績もある。従って先ずは科学技術を中心に日本の防衛力の質を高めていくべきである。二つめは基軸である日米同盟の堅確性を維持し、ガイドライン、共同作戦計画を整備し、さらにその問題点を着実にうめて充実することが大切である。そして第三にいつまでも小さなビンの中に止まるのではなく、びんの中の圧力を高める必要がある。その一つに前述の原子力潜水艦がある。さらに日本が最も得意とする「誘導武器」に注目するべきである。日本の周辺の任意の場所へ適時に対艦ミサイルを発射することは、日本が持っている能力からして簡単に出来るのである。周辺国が我が国を侵略しようとしても、高質・精密なミサイルを十分に持てば、その抑止効果は大きい。 然し何よりも我々国家の最終目標は何かを考えねばならない。それは敵を作ってこれに勝つことではない。一国の目標は、人間社会の進歩の中で、誇りある名誉と地位を持つことである。そのためには各種の努力が必要であるが、防衛という重要な分野に於いて、他国との協調は極めて重要であるが、戦後70年を経てビンの蓋の制約に安閑としているのは、おかしいのではないか、もうそろそろ考え方を変えなくてはならないと考えている。そのため、一連の軍事情勢の変化を見ながら、国民の中で温度を高めていく努力がなにより必要である。

「最後に」武藤会長も私も、昭和10年代の前半の生まれであるが、我々が生まれる40年前の日露戦争は大変昔のように思えたが、戦後は70年も経ってしまった。ところで大正末期、昭和初期生まれの人達は国の宝である。彼らは戦争を主導したのではなく、一兵卒として参戦したが、多くの命が失われたのであった。そして復員して労働力の中心となって、亡くなった戦友を頭に思い描きながら、実直な性格と着実な労働力で日本を再建したのであった。これは誇ってよいことであり、感謝しなければならない。その後に続く我々は何をするべきか、その絨毯の上に乗っかっていくだけでよいのか、この辺で、過去の歴史を見ながらもう一度、日本の国はどう進むべきかを考えるべきである。軍事については、過去のいろいろな経緯があって、その都度頭脳をしぼった結果としての今日があるのであるが、それに流されることなく、本当に深く考え直していかなければならないのではないか。

「質疑応答」
「質問1」

  本日の話の内容は、安倍総理以下の内閣はご存知か

「回 答」  

  皆ご存知である。内閣の情報調査はサイレントであるが進んでいる。

「質問2」   

  防衛予算の額はこの十何年間は殆ど変わっていない。今の防衛大臣も又民主党政権の大臣も自衛隊出身者であ
  り、それ以外でもいわゆる国防族と言われる人達が歴代大臣になったが殆ど変わっていない、この現状をどう
  考えるか、増額できなかった理由は何か、又予算内容も詳しく見れば無駄があるのではないか、例えば殆ど使
  われない世界一高い戦車を毎年かなりの数を購入したりしているが、本来ならばサイバー対策などにもっと効
  率的に使われるべきではないか、従来の慣習のまま引き継がれたことをするのみで、変化への対応が出来てい
  るのか。自衛隊の隊員の自殺が平時でも毎年100人も数えられている。大騒ぎしているのに、改善されてい
  る傾向がないのは何故か。

「回 答」  

  防衛予算は高度成長期には年5〜6%伸びていた。然し急激に悪化し始めた理由は、高齢化社会を迎え国家財
  政がひっ迫して来たからである。私は「政治の役割とは国民につらい思いをしてもらうことであり、全体の福
  祉のために、個人には小さなつらいこともしてもらうこと」と考える。増税は票に結びつかず、今まで増税を
  して長生きした政治家はいない。然し税金を払うのは確かに個人にとってつらいことであるが、全体の福祉の
  ためには増税は絶対に必要である。しかも世界中で一番安い税制であるのに反対している政治家がいる。高齢
  化が進んできたのならば税金をあげるのはやむを得ないのである。これまで、増税しなければ結果的に苦しく
  なるのはわかっているのに、改革に踏み切れなかったのである。最後の2%の増税により、先ずプライマリー
  バランスの黒字だけでも実現される計画になったのはよいことである。然しここへ来てそれに水を差す軽減税
  率を持ち出している政党があるが、まさに彼らは本末転倒している。自衛隊員の自殺の問題は即答に困る。自
  衛隊の環境の問題なのか、青年心理特有の問題なのか心配である。自衛隊に入ってからは、青年心理について
  は徹底的に教育された。下剋上の問題、団塊世代の問題もあった。自衛隊員の自殺が一般社会より多いのが事
  実ならば、自衛隊の教育、指導の問題となる。かなり前から専門の精神コンサルタントも置いている筈だが、
  効果が表れていないのならば、反省して抜本的にやり直すべきである。

「質問3」  

  政治家は防衛問題に対しては怖がって発言しない。然し自衛隊員からも、もう少し民間との交流とか、発信を
  してもらいたい。私は学生が社会に出る前に文化などの幅広い知識をつけてもらおうとする、NPO法人に参
  加しているのだが、学生とともに防衛大学を見学し、護衛艦に乗せてもらい、靖国神社へも参拝したが、余り
  にも学生は無知過ぎるのである。特に防衛問題については全く無知であるので、先般の安保法制の騒ぎで、何
  をしているのか、何を言っているのか、自分たちも分かっていない状態になるのである。自衛隊の若い皆さん
  は是非もっと前へ出て民間の若者と正面から議論していただきたい。

「回 答」  

  全く同感である。靖国神社へは最近は若い人の参拝が増えており、又遺骨収集はあと100年経っても全部帰
  って来ないが、現場で収集してくれているのは学生である。皆手弁当で赤字であるが、繰り返し参加してくれ
  ているのである。自衛隊も広報部隊を持っているので、防衛問題について、もっと革新的で多様な見方を披露
  していくべきであろう。防衛費については、今年の日本の状態から見て防衛費はここまでだが、長い目ではト
  ータルとしてしっかり予算総額とその内容を充実していくとの、PRが必要であろう。




「 以上は、元統合幕僚会議議長 杉山蕃氏の講演を國民會館が 要約・編集しましたが、その原文を、同氏が全面的に加筆訂正修正されたものである。」



お問い合わせ

イベント情報や館内のご利用についてなど、お気軽にお問い合わせください。

※メールソフトが開きます

お問い合わせ