ホーム > 武藤記念講座(講演会事業)マサチューセッツ工科大学国際センター シニアフェロー ・外交評論家 岡本行夫氏 >「日本は国際化できるのか」  

武藤記念講座(講演会事業)

第1012回武藤記念講座要旨

    2016年1月23日(土)
    於大阪「武藤記念ホール」
    マサチューセッツ工科大学国際センター  シニアフェロー・外交評論家
    岡本行夫氏

 「日本は国際化できるのか」 

セミナー





第一章「「現下の国際情勢」を読む」
第1節「大国の盛衰」
  「歴史的分岐点」
  国際情勢は激動している。今年の世界が少しは明るくなるだろうと言えればよいのだが、残念ながら悪い年になりそうである。深刻なのは、来年はもっと悪くなりそうであり、再来年の展望も開けないことだ。即ち世界は歴史的な分岐点に立っており、今年は悪い年が何年か続くその最初の年になりそうである。どうして世界中で紛争が絶えないのか。そもそも帝国主義の時代は、1945年の世界大戦の終了とともに終わり、パクス・アメリカーナのもとで、米国はヨーロッパの植民地保有国に圧力をかけ、イギリスからはインドやオーストラリアなどの英連邦の国々、フランスからはアルジェリア、イタリアからはリビヤ、そしてオランダからはインドネシアといったように旧植民地を各々独立させ、民族自決と内政不干渉の原則のもとに、平和に並び立たせたのであった。その後の冷戦下では、下手に戦争をすれば、米ソの争いにまで発展するので、戦争は抑制されたが、1989年のベルリンの壁、1991年のソ連の崩壊とともに、冷戦構造のたがが外れると、それぞれの地域の民族と宗教の権益をめぐる対立が激化していくところとなった。
  「世界を動かしている四カ国」
  (1)現在世界を動かしているのは、米国・中国・ロシア・EUの四カ国だが、ロシアと中国は、軍事力を背景に他国の権益を奪い、領土の拡張を推し進める帝国主義の国へ逆戻りしている。プーチンのロシアは、クリミアを併合し、さらにウクライナの東部にも手を出している。習近平の中国は、ウイグル、チベットを弾圧し、南シナ海で領土を拡大している。これら二国の手法は典型的な帝国主義の手法である。
  (2)EUは、経済面では勝者と敗者に区分けされており、ドイツ、オランダ、ルクセンブルク、フィンランドなどの勝ち組が、ギリシャを始めとする南欧諸国の経済的困窮をどこまで支援するかの議論がまとまらず、加えて多数の難民の受け入れを巡っても域内はバラバラである。さらに、いくつかの国々では、EUからの独立を志向する国内勢力が伸長しており、英国ですら来年離脱するかの住民投票が提案されており、もし離脱派が多数を得るならば、EUは分解してしまうのではないかと思われる。このようにヨーロッパは、国際政治に対してまとまった影響力を行使することが出来なくなっている。
  (3)頼みの米国も、国内は分裂状態である。35%の支持率のトランプが共和党の候補として独走状態であるが、仮にトランプが共和党の大統領候補になれば、1964年のゴールドウォーター候補に比せられる。デマゴーグのトランプに比べれば、理知的で現実的だったゴールドウォーターは、ケネディーの後を継いだ民主党候補のジョンソン候補と対決するが、本選挙では米国有権者の多数を占める中道派に阻まれ、得票率は38%で惨敗した。共和党が政党として復活するのはレーガンまで待たねばならなかった。今回共和党は、トランプ候補では民主党が優勢であるので、彼を引きずり降ろしたいが、そうすれば彼は独立候補として立ち、共和党の票が減るので、共和党は進むも地獄、退くも地獄の状態である。
  「格差の拡大」
  さらにドッグイヤーのスピードで進展するIT社会に対応するには教育が必要であり、よい教育を受けた人は、高速道路でスポーツカーに乗ってそのスピードについていけるが、そうでない人々は下の道を自転車で走らざるをえず、落ちこぼれによる大きな格差が開く一方となっている。以上を裏付ける次のような数字が最近発表された。即ち全世界のトップ1%の人達が有する金融資産と不動産を合わせた資産は一人当たり75万ドル(日本円で9千万円)となり、世界中の資産の48%を保有している。一方次のランクの9%の人達が世界中の資産の40%を保有しているので、 両者を合わせるとトップ10%の人達が世界中の資産の88%を保有していることになる。さらに世界のトップ62人の金持ちが有する資産は世界の下位50%に相当する34億人が有する資産を上回ったと最近報じられた。
第2節「イスラム国とイスラム教」
  「怖いものは何もない若者達」
  私は、昨年イラク国内でイスラム国の前線から40キロの近くまで行った。史上、IS程強力なテロ集団はなかったが、イスラム国には今も各国から多数の若者が戦士として流入しているという。これに対して、日本がたとえ後方支援にせよ、テロにも慣れていない自衛隊を派遣するのは適切ではない。それよりも、若者達がイスラム国に行かないように、それぞれの国に止め置くことが肝要である。
  「イスラム国の本質」
  日本もテロのターゲット圏外にある訳ではない。「イスラム国はキリスト教徒を攻撃しているので、日本はテロとの戦いに関与すべきではない。関与しないから日本はテロのターゲットにならずに済んできた」との識者の意見があり、さらに「日本は圏外に立って、犠牲者はキリスト教徒だけにしておけばよい」との学者の国会での証言を聞いたが、暴論である。日本はすでにターゲットになっているのである。即ちアルカイダは2003年に日本を標的国として宣言した。2004年には、イラクにいる日本人の首を持ってくれば、金500グラムを与えるとのおふれが出された。なぜ日本人がターゲットにされたのか。7世紀にムハンマドが啓示を受けた「理想郷」以降の文明の進歩は、すべて夾雑物で邪魔なものであり、それらはすべて破壊されるべきであり、世界文明の一角を占める日本も当然その中に入るというのが過激派の考えだからである。後藤氏と湯川氏がむごたらしく殺害されたのは、安倍首相がカイロで「イスラム国の周辺の国を援助する」旨の演説をしたからであると論じる評論家たちがいるが、殺害されたのは身代金交渉がうまく行かなかったからであり、行き掛けの駄賃で安倍首相のスピーチを引用したにすぎない。又安倍首相が平和目的と言わなかったからであるとも言っているが、イスラム国の動画では「日本の平和援助」とのテロップが流れていたのである。彼らはそれを知っていたのである。
  「イスラム教とは何か」
  原理主義者の過激派は、異教徒を殺すことが「神のための自己犠牲」であり、天国に行ける道であると、若者達を洗脳している。然しイスラム哲学の大本山、エジプトのアズハル大学の学者は厳しくそれを批判している。2001年の9.11のとき、モハメッド・アタを首謀者とする犯人たちが、ニューヨークの貿易センタービルに突入する時に見たのは、コンクリートの壁ではなく、燃えるような天国であっただろう。このように「死ぬ時の苦しみはほんの一瞬であり、あとは未来永遠に天国で暮らすことができる」とするのが過激派の思想である。
  尚スンニ派とシーア派は、双方ともコーランを唯一の聖典としているが、教義は何も変わらない。違いは教義ではなく、正当な後継者の決め方だけの問題である。1979年ホメイニ師のイラン革命でシーア派のイスラム共和国が生まれ、現在ではスンニ派のリーダーのサウジアラビアと覇権争いをしているが、それは宗派間の争いではなく、アラブと非アラブであるペルシャの覇権争いである。シーア派とスンニ派の抗争はイスラムの1400年の歴史からすれば最近の話であり、両者は平和的に併存できるものであると考える。
第3節「極東情勢について」
  (1)中国との尖閣諸島の領有権争い解決の目途はないのではないか。なぜならば、尖閣は太平洋に進出しようとする中国のゲートウェイのど真ん中にあるので、中国としては譲らないだろう。もちろん日本が譲ることはありえない。およそ世界の百余りの領土紛争の中で、この争い程一方の当事国に分がある争いはない。習近平は日本にはまだ軍国主義の血が流れていると、世界中に日本の悪口を宣伝して歩いている。中国は価値の面でまっとうなのはファシズムという共通する敵と戦った自国と米国とロシアとヨーロッパであると主張している。ファシズムとはドイツの場合は現在のドイツ国民ではなくナチスであるが、日本については東条軍部だけではなく、靖国神社に大挙して閣僚が参拝する歴代の日本政府であるとして、アフリカ諸国にまで行って南京事件の写真を見せて「中国は貴方達と同じ側に立つ」と宣伝している。然し日中関係は昨年の暮れをボトムに、確実によくなって来ている。第五世代の習近平の次の第六世代は自由な改革を志向している。2017年の中国の共産党中央委員会では第六世代に交代していき、日本に対する考え方も変わっていくだろう。
  (2)日韓関係については、韓国は日本に対しては怨念の外交を続けるだろう。市民運動と市民団体の突き上げもあり、朴槿恵大統領も加害者と被害者の関係は千年経っても消えないだろうと言っている。然し昨年末の慰安婦問題の日韓合意がうまく推移するように、尖鋭的な挺対協に対して日本の方から余計なことを言わないようにするべきである。やはり慰安婦制度は野蛮な制度である。それを他国もやっていると居直るならば、世界中の女性を敵に回すだろう。そして徴用工の問題にまで発展するだろう。 
  (3) 北朝鮮と台湾情勢については、先ず北朝鮮は絶望的である。側近を次々粛清している。その暴走を本当に止めるには、米国がその気になって金融制裁をすることである。米国は、まだ北朝鮮の核ミサイルはサンフランシスコまでは、届かないだろうと真剣に核の脅威を感じていないのかもしれないが、日本は真剣にアピールをすることと、北朝鮮は日本の言うことは聞かないだろうから、一番影響力のある中国に、米国を通じて圧力をかけてもらうことである。台湾はいい方向に向かっている。これからのことは、台湾と大陸の話し合いで決めるべきである。但し日本は中国が武力を行使することには反対である。然し中国も欧米で学んだ第六世代の時代となってくるので、その心配も徐々に少なくなるのではないか。

第二章「「国際化」へ「一国平和主義」からの脱皮を 」
第1節「海外にも及ぶ国民の生命・財産を守る義務」
  安保法制に反対だった人達の同法制への理解が、段々とすすんでいるが、政府は同法制が如何に必要であるかを判断する情報を、若い人やお茶の間に説明し直すべきである。その説明は、日本国憲法9条が中心になるにしても、同13条の「政府は国民の生命と財産を守る義務」があるが、それは海外にも及び、今や一国が自分だけで自国を守ることは出来ず、お互い守りあっていかねばならないことを、国民によく説明するべきである。皆で守り合うよい例として、ソマリアの海賊対策(過去に襲われた累計は約1千件、人質に取られた船員は約4千人)がある。各国は自国の商船隊を守るため、軍艦を派遣している。海上自衛隊の船は今まで660隻の日本船を守ってきたが、同時に他国船を2700隻も守ったのである。これはまさに集団的自衛行為であるが、海賊は犯罪なので、対応は「警察行動」になるから問題にはならない。
第2節「国際的には当然の権利である集団的自衛権」
  一方、もし海賊行為が国家乃至国家に準じる組織によってなされる場合、それに対抗する行為は「軍事行動」となる。安保法制の成立前は、日本は個別的自衛権により自国の船は守れるが、他国の船を守ることは、集団的自衛権となるので守れなかった。又日本が攻撃を受け、他国に守ってもらっても、他国の危険を救えなかったのである。然しこの度の安保法制成立で、一歩やりやすい雰囲気にはなった。但しそれには非常に厳しい条件がついている。自衛隊は、よく訓練され、能力も高く、士気も高い。憲法学者は、世界の変化を見ず、一度決められた憲法の解釈は動かしてはいけないと主張し、安保法案がないことが、めでたしめでたしと言っていればよいのかもしれない。然し最早「自分達だけでは身を守れなくなった時代」に「自衛権は日本の国土が直接攻撃されたときのみ発動出来、それ以外の武力行使は全て他国を守ることであり、憲法に反する」との1972年の法制局見解に従うことは、全く現実にそぐわない。自衛隊の行かない危険地域の中東の在外公館で、現在、丸腰で勤務する外務省職員を自衛隊に入隊させ、如何に海外は危険であるかを体験させるべきであるとの、ある憲法学者の言には驚いた。自衛隊員、消防士をはじめ公務員には常にリスクがつきものであり、我々は彼らに対して理解と感謝をしなければならないのである。
第3節「戦争の抑止力について」
  世界で兵員が多い順位の6カ国のうち4カ国までが、北東アジアに集中している。それは中国、ロシア、北朝鮮と韓国である。つまり我が国は世界一危険な地域に位置しているのに、侵略されずに安全で来られたのは、平和憲法のお陰ではなく、日米安保のお陰である。即ち同条約第5条の、「日本を攻撃した国は米国への攻撃とみなす」とされる規定が、安全保障条約の根幹である。

第三章「「国際化」へ、「この国のあり方」へも多様性を」
第1節「国際化は多様性にあり」
  現代社会では、人々の色々な才能、考え方、バックグランド、場合により宗教までもが、統合されて新しいものが創造されていく。多様性が発揮されている好例に「シルク・ドゥ・ソレイユ」がある。その独特のスタイルに基づいたショーは、人間技とは思えない芸術性の高さで、世界中で幅広い人気を博している。ショーを演じるのは20数カ国から参加の80人余りであり、各人が得意技を発揮し、しかも全体として統合されたストーリーを展開している。綱渡りは南米、シンクロは日本、高飛び込みは中国、空中ブランコはロシア、歌と踊りはアメリカ、舞台芸術はフランス、マネージメントは米国と、世界中からすぐれたものを持ち寄っている。
第2節 「多様性で評価される世界のベストスリーの大学」
  世界の大学のランキングでベストスリーは、一位は私が在籍するマサチューセッツ工科、第二位ハーバード、第三位ロンドンの各大学であるが、それは学者の論文の数と引用数、学生の優秀性だけでなく、世界に開かれたオープン性と多様性が評価されているからである。国際社会と交わっていくのならば「多様性と多角化」は、この国の在り方として不可欠である。


「 以上は、岡本行夫氏の講演を國民會館が要約・編集したものであり、文章の全責任は当會館が負うものである。」



お問い合わせ

イベント情報や館内のご利用についてなど、お気軽にお問い合わせください。

※メールソフトが開きます

お問い合わせ