ホーム > 武藤記念講座(講演会事業)産経新聞社会部編集委員 元ソウル支局長 加藤 達也氏>『韓国新政権の行方〜反日情緒は制御できるか〜』

武藤記念講座(講演会事業)

第1032回武藤記念講座要旨

    2017年6月17日(土)
    於大阪「武藤記念ホール」
    産経新聞社会部編集委員 元ソウル支局長   
    加藤 達也氏

 「『韓国新政権の行方 〜反日情緒は制御できるか〜』  

セミナー





第一章 朴槿恵政権崩壊の背景
第1節 「見せしめ」と「報復」の韓国政治
  今年の5月9日、韓国の大統領選挙で文在寅(ムン・ジェイン)氏が大統領に当選した。ある時期にはあれほど強い国民の支持、権力を持っているかに見えた朴槿惠大統領が急速に力を失い、手錠をかけられた姿で全世界の人達の前に立たされることになるとは誰も想像できなかったと思います。文在寅氏にとって朴槿恵さんは、大統領として権勢を振るうための踏み石だったのです。昨年10月から「朴槿惠=親日派=不正腐敗の象徴」ということを、国民の間に広く定着させる動きをしてきました。その結果、大統領選挙に当選して高い人気を持っているわけです。
第2節 朴政権崩壊の前奏曲はセウォル号の沈没事故
  朴政権の崩壊と文在寅政権の誕生は、2014年、セウォル号で304人という大変な犠牲者が出た事故に遡ります。当時ソウル特派員として「韓国最悪規模の船舶事故」という記事を書きました。海洋警察は救難に向かいますが、船の状況を連絡する体制が全くできておらず、初動ではアクアラングや船の側面の柵を焼き切る装備をつけておりません。お粗末過ぎる救難隊は目の前で人が船ごと沈んでいく姿を見送ったわけです。これを見て韓国の人々は「腹立たしさ」や「やるせなさ」を覚えたわけです。朴大統領へ非難が集中し、その批判に押し流される形で謝罪に追い込まれました。更にその責任を海洋警察に転嫁、逃げのスタンスをとったため、社会全体に批判が広がってしまいました。国会では側近である金淇春(キム・ギチュン)秘書室長が「事故当日、大統領が何処にいたか、私はわかりません」と発言したため波紋を呼び、朝鮮日報はインターネットコラムで「空白の7時間問題」「朴大統領は何処で何をしていたのか。政権のナンバー2の金淇春さんですら知らない。こんな無責任なことがあるか。国民全体に不信感が広がっている。元秘書の男性とその時間一緒にいたのではないかという噂まで出ている」と記事にしました。
第3節 大統領府からの恫喝
  私たち特派員は、現地の事件や事故、政治的な問題を取材して、日本に伝えるのが仕事です。当然韓国の新聞、テレビの報道姿勢そのものもニュースとしてとらえ、伝えます。政権に極めて近い立場の朝鮮日報が朴大統領を批判する記事を書いた。
これは外国の記者から見るとニュースで、私は当然のごとく「追跡〜ソウル発」というコラムで日本に伝えました。「朴大統領が、旅客船の沈没事故の4月16日の日中、行方不明になった。誰と会っていたのか」と自分の取材、朝鮮日報の記事、国会での答弁を踏まえて書いたわけです。すると大統領府から「あなたのやったことは名誉毀損だ」と電話がかかってきました。そして「刑事、民事で徹底的にあなたを追及する」と言いますので「普通に取材をして普通に記事を書いたものです」と説明をしたところ、数日のうちに事態がどんどん動いて、告発されていることがわりました。

第二章 朴槿恵政権との500日戦争
第1節 会社を挙げて韓国政府の「不当行為」と闘う
  日本で名誉毀損とは「名誉を毀損された人が告訴して、検察が捜査し、起訴するかどうかを決める」親告罪です。しかし韓国は、いつでも、誰でも、何を根拠にしても、誰をも訴えることができるため、メディアを弾圧するのに名誉毀損がフルに活用されます。刑事事件ですから、弁護士を探しましたが「大統領に睨まれた人間は弁護できない」という理由で4、5つの弁護士事務所に断られました。会社は直ちに「加藤救出隊」を組織してくれました。同時に「最高権力者の記事を書いたメディアを刑事訴追しようとする政権の問題を、全世界に問うてみよう」と全社を挙げて取材、報道活動を始めました。その後日本の外務省、首相官邸にも少しずつ状況が伝わっていったと聞いております。この間、読者の皆さんあるいは日本で私の状況を心配してくださっている方が、産経新聞社へ激励のメッセージをたくさんお寄せくださったそうです。本当にありがたいことだと思いました。
第2節 検察の狙いは「謝罪と記事取り下げ」
  取り調べはソウル中央地方検察庁の刑事部です。2014年8月18日、20日の2回の調べが中心で、紳士的な対応でしたが、同じことを何回も聞いてくるので辟易したのを覚えております。検事は「あなたは謝罪それから記事を取り消す考えはないですか」と最初から謝罪とか記事の取り消しを取りつけるために私を呼んだということがわかりました。
  私が書いたコラムの中で、鄭允会(チョン・ユンフェ)という朴大統領と親しい男性の元秘書が登場します。検察は「コラムの中で、鄭允会さんとの人間関係にどうして触れたのか。嫌がらせをするためではないのか」と追及してきました。また「韓国に共犯がいるでしょう」「情報を提供した人物は誰か」と聞かれました。つまり検察庁は、大統領の地位や名誉を傷つけようとする策略、謀略を働こうとする人たちがいて、その人たちと私が結託をしてこのコラムを書いたという構図を描いており、ある意味で公安事件的な臭いを感じ取っていたのではないか、という気がしました。私の認識は、韓国の政治・社会で起きていることを、取材を通して日本の読者に書いたものですから「悪意はありません」と言いましたが受け入れられませんでした。
  検察が特に気にしていたのは、コラムが朴大統領と崔順実(チェ・スンシル)さんとの関係にも繋がっていくことです。昨年の10月下旬、朴大統領が政治的に窮地に追い込まれ大統領を辞めることになったのは、崔順実さんが朴氏の政治権力の一部に介入したことが原因です。非常に後ろめたい人間関係です。実は崔順実さんのお父さんの崔太敏(チェ・テミン)さんは、1974年8月15日、朴槿恵さんのお父さんである朴正??元大統領が光復節の演説中に銃撃され、その巻き添えでお母さんの陸英修(ユク・ヨンス)さんが亡くなった翌年、「私の夢枕にあなたのお母さんが出てきて、娘の槿惠をよろしく頼むと言われた。私は、あなたが寂しいとき、心細くなったとき、お母さんの声を聞かせることができます」と手紙を送り、それ以来崔太敏、崔順実さん親子と朴槿恵さんは親しい間柄であり、そういうことを想起させる人間関係に触れた私のコラムは許せないというわけです。
第3節 国際社会の懸念を無視して「起訴」される
  国際社会は「韓国政府がメディアを弾圧している」と非常にプレッシャーをかけていましたが、韓国政府はそれを無視して起訴しました。日本政府もホームページの「韓国は、基本的価値を共有する(国だ)」という部分を削除しました。メディアや外国特派員の言論に対し、政治権力、しかも検察を使って迫害しようとするのは許されない、ということがその削除の背景にあったそうです。
  2014年(平成26年)11月27日の初公判では、傍聴席から「加藤、謝罪しろ」「即刻拘束だ」という紙を広げられ、大声で「直ちに大韓民国から出ていけ」言われました。公判が終わり車に乗ったところ、生卵をフロントガラスに投げられ、挙げ句に車の上に寝転がって、ベルトの金具やジャンパーで擦られ車が傷つきました。
  第2回の公判では、弁護士が告発人に「加藤被告人のコラムの、どの部分が告発の対象になるのですか」と聞いたところ「自分は気分が悪かったから告発したのだ」と言ったわけです。非常に白けたムードになり、裁判は終わるのではないかと思いましたが、その後1年近く裁判が続くことになりました。
第4節 理不尽な要求に妥協せず「無罪判決」を得る
  昨年の12月2日に秘書官の執務記録メモが公開され、裁判の始まる数か月前に、韓国の大統領府で大統領秘書室長の金淇春さんが、私の書いたコラムに激怒して、秘密会議を開き「産経新聞はとんでもないから、この加藤というやつを徹底的に懲らしめてやるのだ。情報収集のために警察と情報機関の国家情報院のチームを構成し、徹底的にやっつけてやるのだ」と言っていたことが明らかになりました。しかし金秘書室長の意に反して、アメリカのニューヨークタイムズなど主要国の新聞は、韓国のメディア弾圧を非常に厳しく批判する論調に変わり、日本政府は「韓国が国際社会の常識とかけ離れた行為だ」と表明し続けてくれました。最後、米国国務省が「韓国の名誉棄損罪に以前から懸念を持っていた」と言い出しました。もうこれで韓国の朴槿惠政権は困り、政権の体面を守りながら早く事態を収拾する動きに変わりました。韓国大使館の広報官が、東京本社の私の上司のもとを訪ねて「謝罪も記事の取り消しも難しいだろうから、せめて遺憾という便利な日本語があるから、この言葉を使って表明してくれ」と言ってきました。韓国大統領府筋も、安倍政権の高官を使って社長に譲歩を求める動きや複数の有力政治家が「最悪の場合、身柄を拘束されることもある。全部私に問題を預けて、遺憾を表明してくれ」と言ってきたと聞いております。しかし社の方では、「メディアとして理不尽なことで妥協するのは好ましくない」と決意し、私も「全く謝罪や遺憾の表明には及びません」との認識を示して、その後も裁判が続きました。そして2015年12月17日「無罪判決」が出ました。「理不尽な要求には妥協しない、屈しないという当たり前のことが貫かれてよかった」と思っております。裁判長は「コラムは、政治状況を伝える目的であった。誹謗の意図は認められず、公益の範囲内である」と当たり前のことを認定しました。実は韓国社会も揺れ動いていたのです。
第5節 産経コラム問題に対する韓国世論の動き
  韓国の人たちのインターネット書き込みは、最初は「加藤というやつはとんでもない。産経新聞は嘘ばっかり書いている」という書き込みが90%〜95%でした。ところがその後、韓国が国際的に孤立するかもしれないという不安感がだんだん出てきて、国内でいろいろ自省するような動きが始まりました。そうしますと、6割の人が私の非難、4割の人が「韓国側に今回の状態の責任があるかもしれない、問題があるかもしれない」と気づき始めました。「朝鮮日報のコラムを問題視しないことがおかしい」「朴槿惠政権と韓国のメディアに、過剰な反日姿勢があった。それがこじれた状況になっている」という見方、「今回は産経の記者が正しいと思う」という書き込みもありました。世論全般の様子もそうですが、韓国の皆さんも、冷静に、客観的にこの事態を見守っていた人がいました。なじみのクリーニング店では「大統領のしていることは本当に腹が立って、情けなくてしょうがない」と言う。朴槿惠政権の経済政策やいろいろなことに対して不満があり、それで不満を述べていたということですが、行くたびに激励をしてくれるようになりました。また、裁判所の廷吏さんは、無罪判決が出た瞬間に私のところにぱっと駆け寄ってきて、握手を求めるのです。「支局長、本当におめでとうございます。私はあなたの無罪を最初から信じていた」と言うのです。そして自分の相棒に「賭けは俺の勝ちだな」と言うわけです。つまり韓国政府のやっていることに勝ち目がないと思ったから、私の無罪に賭けたわけです。冷静に分析をする人もいると気づきました。町なかで静かに暮らしている多くの人たちは、政府やメディアが勝手に盛り上げる妄信的な反日姿勢というものに余り共感していない。日々の暮らしのほうが大事です。卵を投げつけたりする例外的、狂信的な人たちが、たまにいると理解するようになったわけです。

第三章 危機の中の日本 〜恐怖で迫る北朝鮮、混乱をまき散らす韓国〜
第1節 恐怖で迫る北朝鮮、混乱をまき散らす韓国
  今日本は危機の中にあります。北朝鮮がミサイルを発射し、核実験をやる恐怖が迫っている。そして韓国は文在寅政権の誕生で、混乱を日本や周辺諸国にまき散らしております。今年の5月14日、北朝鮮は火星12という非常に性能の良いミサイルを打ち上げました。マッハ15という速さで日本列島に落ちてきたら、イージス艦の迎撃ミサイルでは対応できないそうです。アメリカを刺激しないようICBM(大陸間弾道ミサイル、飛距離5,500キロメートル以上)に500キロ分短いミサイルを発射しました。今年の2月、北極星2という持ち運び自由の固体燃料ミサイル打ち上げが脅威の始まりでした。アメリカや日本の軍事衛星、情報収集衛星でも発射拠点が見つけにくく、コールドローンチ(冷たい発射方式)で何回も同じ発射管を使うことがでる。また4発同時に発射して、日本の排他的経済水域の中に3発入れました。命中精度75%で、日本にはイージス艦が4隻ありますが、大体1.5隻シフトで日本海を警戒監視しています。1隻のイージス艦が迎撃できるのは2発です。日本政府は無言のメッセージと読み取っています。5月21日には、北極星2を量産化したと宣言しました。北朝鮮のミサイルが脅威になってきています。安倍総理は「北朝鮮の脅威が新たな段階に入った」と、いろんなところで言うようになりました。日本は、単独で自分の国を守り切れない状態になっています。韓国との軍事情報、安全保障面の協力が益々大事になってきました。昨年11月、日本と韓国は軍事情報包括保護協定を約束しましたが、その理由は、アメリカが北朝鮮のミサイルを恐れたからです。北朝鮮の潜水艦が密かに沿岸を離れて太平洋に出て、ミサイルを打ち上げますと射程距離が短くても、アメリカを直撃できるということです。日本の対潜水艦哨戒能力は高く、こうした奇襲を防ぐことができますが、韓国海軍は練度が高くない。米国は日本の海上自衛隊に韓国の海軍を指導するように言うわけですが、いろいろな軍事情報を共有しなければならなくなるわけです。韓国が情報漏洩しないよう約束してもらわなければならない。一方日本は、北朝鮮が打ち上げたミサイルが、発射後5分〜6分で日本に届くので、打ち上がった直後に、早い段階で捕捉することが大事です。韓国の対ミサイルレーダーの情報を日本にもらう。しかし双方の情報のやり取りは、まだそこまで充実していないそうです。
  文政権は、保護協定を外交上の人質にとって日本側に迫ってくるのではないかと最近指摘されています。朝鮮半島には、居住者と旅行者をあわせて大体5万人以上の日本人がいます。例えば朝鮮半島で有事が起きたとき、起ころうとしているとき、この人たちをいち早く避難させなければならない。日本の民間の航空機や船舶は、有事の地域には運行しませんので、自衛隊の船や飛行機で行かなければなりません。しかし現実問題として「韓国側が国民情緒で自衛隊の艦船や航空機の入港や着陸を容認できず、拒否するおそれが高い」と日本政府は見ております。安倍首相は、日本人の緊急時の退避については、アメリカと調整し、頼んでありますと繰り返し説明していますが、日本の主体性が発揮しにくい環境にあるということです。
第2節 国民情緒の揺れに同調する韓国
  韓国の国民情緒は非常に強く強烈なものです。朴政権を崩壊させてしまったのも韓国の国民情緒です。反資本主義、従北朝鮮の労働組合、民主労総が朴大統領と崔順実さんの癒着がけしからんと言って「朴槿惠退陣」と世論を煽り、迫る一方、「財閥も共犯」と言って、財閥に自分たちのやりやすい労働環境を得ていくという一石二鳥を狙っていた運動だったわけです。国民情緒という「錦の御旗」を背景に、どんどん幅を広げていったわけです。「朴大統領が退陣するほどの違法性はなかった」と韓国法曹関係者も言っておりますが、流れができてしまうと変えることができない。それは韓国の中に「北朝鮮の言っていることが正しい」という人たちが少なからずいるからです。半島の南北の対立が、韓国国内では左右の対立に置きかわっているわけです。左派は、自分たちを弾圧してきた右派をやっつけて留飲を下げたい思いが出てくる。文在寅さんは、朴正煕的なものを全部「親日派」という言葉で表して「徹底根絶する」という強いスローガンを示して推進力として大統領に成り上がってきたわけです。
  韓国の政治家・企業人・メディアは、国民情緒を掴んでいくことに四苦八苦しています。韓国には「本音と建前」があります。人前では強い反日派であることを強調しなければ、国民情緒から外れてしまう。韓国では、国民情緒が憲法の上に置かれているほど、きつい縛りがあります。韓国に従北政権が誕生し、混乱とか脅威が日本に降りかかってくると見ております。
第3節 文在寅政権になった背景と今後の行方
  韓国の若い人たちのはやり言葉で「ヘル朝鮮」という言葉があります。自分たちの経済的に恵まれない境遇をはかなんで「韓国という国は地獄だ」と悔しがる言葉です。韓国は極端なエリート主義で、仕事を選ばなければ仕事はありますが、その現実を受け入れられず、自分たちの不満を口にします。文在寅さんは、朴槿惠さんを「姫から悪魔へ」イメージをひっくり返しました。大きな勝利です。文在寅さんの最近の支持率は8割を超えています。これはイメージ戦略によって、自分に正義があるということを当選後に十分に植えつけてきた支持率です。文在寅さんは、慰安婦の合意の再協議を言っていました。今は与党のナンバーワンが言ったり、あるいは担当大臣になろうという人が口にしています。トップが言いますと、蒸し返しだとアメリカから怒られますので、本人の口からは言えないわけです。6月末、トランプさんと最初の米韓首脳会談をやるわけですが、「今朝鮮半島で何が起きているかという安全保障問題」が大きなテーマになります。次に「韓国が儲けてアメリカが損をしている経済の状況」がテーマになると見られています。安全保障の問題では、トランプさんに正面切って叱られることのないように、「日本との関係はいいですよ。私になってからはよくしようと思っています」と言うでしょう。ところが、政権を支えている人たちは「再協議すると言ったじゃないか。これを撤回するのか」と言います。したがって、これから総花的な政策が始まるわけです。しかし、いずれ厳しく日本側に迫ってくることになると思います。
  文政権は、今北朝鮮の火の燃え盛っている懐に飛んで入ろうとしています。その人事的な裏打ちが、任鐘哲(イム・ジョンソク)さんを大統領秘書室長に登用したことです。任鐘哲さんは、日本の全学連にあたる全大協のナンバーワンであった人で、非常に懸念せざるを得ません。北朝鮮は88年のソウルオリンピックを成功させないため、87年11月、大韓航空機を爆破するという事件を起こしました。金賢姫(キム・ヒョンヒ)が実行犯として韓国に捕まり、北朝鮮は国際的なイメージや対面を落とすことになりました。そこで89年に北朝鮮は世界青年学生祭典を開催しました。そこへ任鐘哲さんは、自分の信頼していた同じ運動家の女子大生を送り込んだのです。東南アジア、南アメリカ、アフリカ、中東の国々は、「韓国の同胞が金日成を信任している。自分たちも北朝鮮と仲よくしてもよいのだ」と国際的社会で認知されるようになった。これは北朝鮮の大きな工作だったと言われています。民主化の名のもとに北に接近していく政権が今によみがえってしまったというのが文在寅政権です。
第4節 「日本はどうすべきか」いくつかの事実と提言
  アメリカの大学生が、数日前に北朝鮮から解放されました。残念なことに意識不明(講演後の6月19日に死亡)です。北朝鮮のスローガンの書かれた宣伝ビラを剥がして持って帰ろうとしたということを理由として労働教化刑15年という判決が下った。非常に非人道的だということでアメリカは怒っておりました。しかしどうして大学生を極秘交渉の末に連れ戻すようなことが出来たのでしょうか。アメリカは、この間まで空母を2隻も3隻も周りに配置し、明日にも戦争が始まるかのような緊張関係がありました。相当密接なやり取りがあったはずです。アメリカは強かで、極秘の水面下での連絡を常にやっているわけです。日本は残念ながら、北朝鮮に対してそこまでの関係構築はできていないと思います。外務省は人質を取り返すような交渉ができる関係を構築できていません。強かさが相当足りない。日本の外交は、日本の政府のあり方、有権者の意識の持ち方だと思います。当然、アメリカが北朝鮮に対して交信の回路を開かせたのは、軍事力、外交力、経済力それから指導者の決断力、そういうものをトランプ大統領は遺憾なく発揮して、この青年を取り戻したそうです。これをきっかけに、アメリカは北朝鮮と急接近する方向に行くかもしれません。日本や韓国、周辺国の利益を勘案してではなく、アメリカ・ファーストと最初から言っている大統領であるからです。
  日本は、アメリカを見ているだけではなく、独自に、厳しいことも言いながらも、自分たちの総合力を背景に、北朝鮮から譲歩を引き出す芸当を学ばなければなりません。北が上になっている世界地図の極東地域を見れば、日本の左側は「わがままな国」ばかりです。
  韓国とは、例えば通貨スワップ協定は協議の入り口にすら入っていません。慰安婦の問題が解決に向かっていないのに、協議に入るのはどうか、ということです。これまで韓国の通貨危機のたびに日本側が円とドルを持ち出して助けました。しかし韓国はそうは思いません。「自分たちが優秀だから、円やドル、経済上の資源を日本に引き出させた」と見るわけです。韓国の政府が公式な場面で感謝するという言葉を使ったことは一度もありません。「用日」と言って、日本をうまく用いるという考え方があるからです。日本は朝鮮半島の害悪で、災いのみもたらしてきた。こういう発想を捨てない限り、日本と韓国の間の問題は解決できません。また「韓国の憲法」にも一つ鍵があります。憲法の前文に「我々大韓国民は、3・1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統と、不義に抗拒した4・19民主理念を継承し」と書かれております。3・1運動とは、1919年3月1日に起きた抗日蜂起、独立運動のことです。「日本の統治から脱するぞ、日本を打ち破っていくのだ」ということを国家成立の起点として位置づけているということです。国民の意識の中に、憲法前文にうたわれた精神が前提として少なからず、あるわけです。こういう現実があるということを、日本の政府や国民は、頭の片隅に置いて臨まないといけないと思っております。そういう精神的な基盤があるものですから、韓国の司法の判断や法律の執行は、日本側から見るとなかなか理解のできない現象が起きるわけです。例えば、対馬から盗まれた仏像の返還問題では、韓国の地方裁判所が、日本に引き渡しを認めなくてよいという判断を下しました。盗んでいったものを返さなくていいという判断をしている。またソウルにある日本大使館の前の慰安婦の像の周辺で、日本の政府の責任を追及しようという団体が、毎週毎週デモをやっています。ドラや鐘や太鼓を鳴らしながらのこともありますが、日本に謝罪を求めるわけです。日本の大使館員はうるさくて仕事ができません。これは明確にウィーン条約に違反する行為ですが警察は取り締まらない。
  しかし日本の対韓外交は、安倍政権になってから「理不尽な要求には応じない。原則どおりやります」ということがようやく実現しかかっております。従来は「韓国側の国民情緒からして、日本側はこれを受け入れるべきだ」「もうこれは我が国ではもたないから、日本側でちょっと外交上の負担をしてくれないか」と言われ、慰安婦問題における河野談話のように、妥協の産物として外交上のある成果物ができてしまう。それを根拠にして後からどんどん突っ込まれるわけです。そういうことを繰り返してきた。しかし、安倍政権になってから、対等な、正常な二国関係を目指そうということで、明確なメッセージを発信する外交に変えました。例えば、慰安婦像を撤去する方向で努力してくださいねということを約束したのにもかかわらず、釜山に1個増えたわけです。従来は「ああそうですか。まことに遺憾です」で済んでいたわけです。今回は「大使と釜山の総領事を引き揚げる」という外交上の具体的な行動をもって対応した。韓国側も、日本側がどこまで深刻に、あるいは外交上不快に思っているのかということをなかなか理解ができていなかったわけです。それを理解してもらうという努力を日本側が怠っていたとも言えるわけです。
  外交だとか安全保障では、今後日本は自立していくべきです。それから、もう一つ、細やかに、したたかに、一見荒っぽいように見えるけれども、実際ちゃんとフォローする姿勢で臨んでいかなければいけないと、5年余りの韓国の滞在で思いました。

質疑応答
「質問1」

  韓国には、日本を利用する「用日」という考えがあると言われましたが、2018年の平昌の冬季オリンピックで「用日」の恐れはありませんか。;

「回答1」

  1〜2カ月前の韓国世論調査で、平昌オリンピック開催の成功を期待している人は、2割ぐらいしかいない。関心のある人も半分を切っています。国内の政治混乱と経済的な不調から、「それどころじゃない」ということかもしれませんが、無理に日本から支援を引出そうとする「用日」エネルギーは感じられません。


「質問2」

  慰安婦像は、女子中学生2人が在韓米軍の装甲車にひかれる事故で亡くなったのを追悼して作ったところ、日本との慰安婦問題が出てきたので、それを今、慰安婦像にしていると聞きましたが、真実でしょうか。

「回答2」

  当時の記録を調べましたところ、米軍装甲車の女子中学生轢過事件の後にできた像と、慰安婦の像は別物です。デザインが違います。もう少し調べたいと思っておりますが、今のところ関係ないと思っています。


「質問3」

  1発何億もするようなミサイルを、この5年間で50発ほど打ち上げたという情報もございますが、その資源、お金はどのようなことで得ているのですか。

「回答3」

  皆さんは中国に資源、お金の供給源が集中しているに違いないと注目が集まっていますが、実は北朝鮮は、世界161カ国と国交関係があります。国交がないのは、日本、アメリカを含めてごく少数です。外交関係を維持するための最大の目的は金正恩政権の維持です。そのために必要なものはお金です。そういったネットワークは、中国だけでなく、東南アジア、中東、アフリカを中心に、相当完成されたものがあります。国連制裁をみんなでやろうと言っているにもかかわらず、効果がないのは、北朝鮮との実利外交、例えば北朝鮮の科学技術、パソコン、ミサイルや兵器です。先進国が使っているものは、正確で優秀かもしれないけれども高い。北朝鮮だったら安く供給してくれる。自分たちの経済力や、あるいは軍事・外交・安全保障のスタイルに応じたものを北朝鮮が供給してくれるので、世界的なネットワークになっております。したがって、北朝鮮に対する資源的圧縮外交は、相当な知恵と工夫がなければうまく機能しません。161カ国と国交関係があり、物流のネットワークもレベルの高いものが完成しているというところに目を当てていかないといけないなと思っています。


「質問4」

  加藤先生が出国禁止になっていた時、いろんなところから譲歩の圧力があったという話がありましたが、差し支えなければ、教えていただきたい。

「回答4」

  結論から言いますと、私も知りません。昨年の春出版した本の受賞記念パーティーが11月にあった時、私ども産経新聞の社長の挨拶で「いろいろな圧力があったり接近があったり、いろんなことがありました」と突然言いまして、一同驚いたわけです。何人かの人が社長にそれを尋ねましたが「それは言えない」と言われ、明かされませんでした。


「質問5」

  今後米国が、中国や韓国と接近していく場合、日本は米国と協調して外交していくのか、それとも独自に日本は中国や韓国と強硬に外交をしていったほうがいいのか、その点についてどう思われますか。

「回答5」

  今のお話は、「現状こうである」ということと、「こうあるべき」論と2つに分けて見たほうがいいと思います。現状は、先ほど申し上げたような見方で、「日本の外交は独自性が足りない」と、ほぼ皆さんご賛同いただけると思います。ただ、急に日本の外交方針を転換しますと、日本に好意を持っている国々、安定感を持って見ている国々が警戒心を持つ可能性があります。日本の方針は「中期的にこうだ」「長期的にこうしていく」ということを、二国間外交の場で直接アピールをして、日本の背骨を見せていく外交をしないといけないと思います。それができた上で、独自外交をしたほうがよいです。大陸中国とアメリカが突然国交関係を樹立することになり、日本は慌てふためいて追随していった。台湾外交の整理もできないまま、アメリカに追従して大陸中国との外交に走ってしまったという歴史的な事実。この教訓から日本はまだ余り学んでいない。独自、自分の国の利益、国民に供するための国の利益は何にあるのか、ということをしっかり地図をつくってやらないといけない。皆さんも有権者の立場から政治家にどんどん求めていったほうがいいと思います。現状は、まだできていない。いずれは周辺国に十分に理解を求めた上で、独自の外交ドクトリンといいますか、外交の姿勢、思想を貫くような国になるべきだろうと私は思います。


「質問6」

  我が国は共存共栄で物事を見てきましたが、韓国の方は、竹島のことだとか慰安婦の問題で強制連行したとか、勝手にストーリーをつくり上げ、一方的に自己主張して繰り広げています。いっそのこと、しばらくの間、韓国と断交したらと思います。何も怖いことはありません。いかがでしょうか。

「回答6」

  現実的には断交は、恐らく技術的に相当難しいでしょうね。韓国と日本は、政府を抜きで、経済関係が相当に入り組んで成立しています。断交すると、これまでお互い取り結んできた貿易関係の約束もたくさんあって、条件や環境整備がたくさんあります。外交上の資源ができ上がっています。断交をいきなりすると、相当な返り血といいますか、どんな障害が出てくるかわからない。したがって、断交ではなく、ペナルティーを求めていくというやり方があると思います。断交も最大のペナルティーですが、例えば、これまで日本側は、韓国側から何か言われたときに、向こうから積極的に殴ってきたときは、「遺憾である」と言うわけです。殴られて遺憾であると言うのです。しかし殴ることはしない。だから、殴れるような技術、何で殴らないかというと「諸外国から警戒される」ということです。多くの国々を味方につけて、韓国に圧力をかけていく。状況の変化を促すというような。韓国の文在寅政権はそれが可能だと思います。今度アメリカに行って、アメリカから怒られたくないと思っているわけです。アメリカから怒られたくないという状況をうまく利用すると、韓国の文在寅政権にごく一部で少しずつ圧迫が可能だとは思います。いろんな圧迫のポイント、つぼというのがあるわけですから、そこのところを十分にひねり出して考えていく、そういう方法が具体的で現実的で合理的なんじゃないかと思います。



以上は、「産経新聞社会部編集委員 元ソウル支局長 加藤達也氏の講演」を國民會館が要約・編集したものであり、文章の全責任は当會館が負うものです。



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