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武藤記念講座(講演会事業)

第1033回武藤記念講座要旨

    2017年7月1日(土)
    於大阪「武藤記念ホール」
    ノンフィクション作家   
    河添恵子氏

 『北朝鮮問題で露呈する中国危機とトランプ政権』  

セミナー





第一章 「チャイナセブン」の熾烈な権力闘争
第1節 地位を上げていくためのシステム
  中国共産党政権は目下、「チャイナセブン」といわれるトップ7人が集団指導体制をとる独裁政権です。中国の人口は13〜14億人ほど、共産党員が約8,200万人といわれています。そのトップ7人が中央政治局常務委員、7人を含む25人が中央政治局委員、その下に中央委員と中央委員候補376人がいます。ここまで絞られていくのが中国のエリート社会です。中国で出世するためには幾つかの実績が必要です。その一つが、皮肉な話ですが、「ジェノサイド(国民・人種・民族・宗教上の集団を殺害し迫害する行為)」です。チベット自治区、ウイグル自治区、モンゴル自治区などで、領土と住民を支配し黙らせ、漢民族化させていくことが大きな実績となってきたわけです。
  さらに中国共産党員が出世していく中で、下の者が上に貢ぐ上納システムが慣例となっています。つまりは賄賂です。そのため何らかの方法でお金を儲け、ボスに物品を貢ぎ、より高いポジションへ引き上げてもらえるよう媚びへつらいます。もちろん、それ以上に強いのは「血」、家族や親族との関係です。同族、同郷などでつながる独特の人間関係もあります。中国はすなわち縁故主義であり、秘密結社とも言える幇(パン)などで繋がっています。
  錬金方法としては、最もスタンダードなのが国内外から投資を呼びかけることと、貿易など。武器の密売なども盛んです。そして資金洗浄(マネーロンダリング)も日常茶飯事です。
  そういった中で、2012年11月からの「チャイナセブン」は、序列1位の習近平、序列6位の王岐山が太子党にくくられ、序列3位の張徳江、序列5位の劉雲山、序列7位の張高麗が江沢民派です。そして序列2位の李克強が共青団派です。序列4位の兪正声は太子党でもあり江沢民派でもあります。
第2節 習近平主席の軍事改革は大失敗
  中国の国家構造は特殊です。なぜならピラミッドの一番上が中国共産党で、その下に人民解放軍があり、中央や地方が管理や保護する国有企業があり、ピラミッドの下の方に十数億の人民がうごめいているという構造だからです。
  昨年2月、習近平主席は悲願だった軍事改革を実施しましたが、結論的には失敗だったと言えます。もともと中国は7大軍区(瀋陽、北京、済南、南京、広州、成都、蘭州)でしたが、これを5大戦区(北部、中部、東部、南部、西部)に改編しました。彼の主目的は、北朝鮮の金王朝と密接な瀋陽軍区(黒竜江省、吉林省、遼寧省を管轄)を潰すことだったと言われています。瀋陽軍区と北京軍区を合併させ、中部戦区として中央で管理することを目論みましたが、そうなりませんでした。それどころか瀋陽軍区は、北京軍区の一部の内モンゴル自治区と、済南軍区の一部の山東省を飛び地として取り込み「北部戦区」として広がりました。
  瀋陽軍区が拡大した北部戦区は、まさに北朝鮮と密接な江沢民派の牙城といえます。なぜなら、飛び地の山東省も朝鮮半島との関係が密接で、そこを長年、管轄して基盤としていて、序列7位に昇格したのが石油閥の張高麗です。プロフィールには記されていませんが、彼は金日成総合大学で短期訓練を受けたことがあると言われています。内モンゴルを管轄していたのが序列5位の劉雲山で、訪朝して金正恩とハグし合った人物です。そして序列3位の張徳江は、長年、北朝鮮に隣接する吉林省の延辺朝鮮自治州にいた人間で、歴史的・民族的・地理的に、朝鮮半島利権と直結している吉林幇のトップです。金日成総合大学で2年間の留学経験もあり、別名は「朝鮮エキスパート」「金(正日)の代理人」です。瀋陽軍区と表裏一体の幹部です。要するに江沢民派の張徳江、劉雲山、張高麗の3名が北部戦区を掌握しているわけです。
  つまり、習近平主席は北部戦区をコントロールできない状況にあります。東北三省は旧満州、日本の関東軍がいた場所です。そして瀋陽軍区は、かつてから最強の軍区と言われてきました。戦前からの化学兵器をつくっていた工場も残っています。北朝鮮は長年、この瀋陽軍区と一緒にミサイルと核開発をしてきたとされます。
第3節 中国は既に内戦状態
  江沢民派は上海閥というイメージですが、中華人民共和国の建国から間もない頃、江沢民は長春の第一汽車に勤めていました。第一汽車はソ連と一緒に軍需品を開発していた中国で一番古い自動車会社です。要するに江沢民のキャリアのスタートは上海ではなく東北地方であり、「兄弟国」の北朝鮮と密接な瀋陽軍区や吉林幇の関係も、この時期から構築されていったわけです。
  江沢民が国家主席になったのは89年6月の天安門事件の後からですが、国家主席に就任した翌年、江沢民は金正日と会見し、「血の友誼」といわれる独特な関係はさらに深まっていきます。その背景として、世界が大激動していた時期であったこととも無関係ではありません。ベルリンの壁が崩壊し、91年には北朝鮮とも近い関係にあったソ連も崩壊します。表看板を「改革開放」にして、日本などからの投資が集中する中国は金王朝にとって頼れる兄貴だったはずです。
  一方の北朝鮮は「先軍政治」を隠していません。中朝関係とはすなわち瀋陽軍区と金王朝による軍備拡大――ミサイル開発と核開発の関係、という表現に置き換えられます。胡錦濤国家主席も就任から早々に、金正日を訪ねハグしています。ところが「血の友誼」に変化の兆しが見えたのが、2008年、習近平が国家副主席に就任した頃からです。習近平と金正日と金正恩・親子の間では、これまでの良好な関係が続く気配は失せていました。事実、習近平はトップになった後もこれまでの慣習を踏襲しておらず、いまだかつて北朝鮮へは行っていませんし、明らかに金正恩をヘイトしています。北朝鮮の金正恩のカウンターパートは江沢民派の劉雲山ですが、現在、中朝関係は最悪に冷え切っています。
  昨年、浙江省で「G20」が開催されました。初めてホスト役を務めた習近平主席は、会議を成功裏に終えるはずでした。ところが最終日、北朝鮮がミサイルを発射し、主役の座を金正恩に奪われました。今年5月の「一帯一路フォーラム」初日の朝に、またも北朝鮮はミサイルを発射し、習近平主席のメンツを潰しました。腹を抱えて喜んでいるのは、金正恩ら朝鮮労働党の人間だけではないはずです。金王朝と近く、習近平と明らかに敵モードとなった江沢民派は、せせら笑っていたのではないでしょうか。
  要するに、中国共産党内部は既に内戦状態であり、死闘を繰り広げているのです。テレビなどのメディアは知っているのか知らないのか、それを報じません。『正論』8月号の拙文に掲載した「人間相関図」を是非ご覧ください。太子党の習近平主席と王岐山は江沢民派の粛清に心血を注いでいます。序列2位の共青団の李克強もおそらく協力体制にあります。一方、江沢民派の張徳江、劉雲山、張高麗は、完璧に敵対関係となっています。
  前政権で軍のトップだった江沢民派の郭伯雄は、終身刑で刑務所にいます。もう一人のトップ、徐才厚は癌で治療を受けさせてもらえないまま獄中死しました。江沢民派で石油閥の周永康も、国家機密漏洩罪などで終身刑です。
  そして徐才厚、周永康、薄煕来と令計画は、習近平の国家主席への昇格を阻止するために暗躍した「新四人組」と言われました。終身刑の薄煕来は獄中で最近、肝臓がんを患っていると報じられています。終身刑の令計画の弟、令完成は大量の国家機密書類と映像を持ってアメリカへ逃げています。そしてボイス・オブ・アメリカなどの媒体で、中国高級官僚の政治的恥部を暴露している郭文貴を遠くから操っているのが、かつて序列5位まで上がった元国家副主席の曽慶紅だと言われています。
  別名「江派二号人物」の曽慶紅は、国内外で絶大な力を持っています。彼は2000年以降、世界中の情報工作員(スパイ)のネットワークを築きあげました。その拠点の一つがオーストラリアで、息子らファミリーがおります。今習近平主席はこの曽慶紅や一族を粛清して、刑務所に入れようと闘っています。
  終身刑、獄中死……共産党の大物幹部のこれら末路から、日本人が想像する権力闘争と、中国共産党内部のそれが異なるレベルであることがわかるはずです。死ぬか生きるか、死闘を繰り広げています。

第二章 中国とアメリカの関係
第1節 トランプ家の独特なチャイナコネクション
  新刊『トランプが中国の夢を終わらせる』に書いていますが、曽慶紅元国家主席による情報ネットワーク工作で最も成功した人物がウェンディ・デン(本名はケ文革)だと考えられます。彼女はメディア王でFOXテレビ会長のルパード・マードックと1999年に結婚しました。2013年に離婚しますが、その時、イギリスのブレア元首相の愛人だったとの噂が報じられました。当事者は強く否定していますが。またトランプ家の娘イヴァンカの親友とも言われています。本当の親友かわかりませんが、高度なレベルの情報のやり取りをしてきた関係だと考えられます。昨春ですが、アメリカ大統領選挙前に、クロアチアで一緒にバカンスしている写真がニュースで流れました。イヴァンカが先にSNSで出したのです。その際、私は「プーチンと密会したのかな?」と思いました。それはその少し前に、ウェンディ・デンがプーチンと密会したという噂が、米英メディアに拡散されていたからです。トランプ家とプーチンが繋がる一つのルートの中に、デンがいると見ていたわけです。夏のUSオープンテニスの優勝戦では、イヴァンカの夫クシュナーが、ウェンディ・デンやイギリスの王女、ロマン・アブラモビッチの妻などを招待して観戦していました。アブラモビッチは、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の一人で、プーチンと繋がっている人物と考えています。トランプ家がプーチンやロシアと繋がるルートを持っていることは、こういった写真や記事からもおよそわかります。
  ところで、トランプは2009年から大統領選への出馬を真剣に考え動き始めていたのではないかと個人的にみています。その理由の1つは、ツイッターを始めたのが2009年であること。もう1つは2009年に娘イヴァンカとユダヤ系保守のクシュナーが結婚したこと、さらにはメディア王マードックとその妻ウェンディ・デンとの親交を深めていったことです。共通の知人には、キッシンジャー元国務長官もいます。トランプ大統領はメディアを敵にしていると言われますが、CNNやニューヨーク・タイムズを敵にしているのであって、FOXテレビとは敵対する関係にはありません。メディア王で米英の政治家まで動かす存在だと言われてきた超大物マードック夫妻と、娘夫婦には戦略的に交際させてきたと考えられます。トランプが娘に意見したとして、2カップルでバカンスもしていたことが報じられています。ちなみにイギリスでは、ブレア元首相はマードックのポチなどと言われていますが、すべてが繋がる関係です。
第2節 4月の米中首脳会談
  今年4月6日、7日の米中首脳会談で私が注目したのは中国側の出席メンバー11名です。真ん中は習近平主席とトランプ大統領ですが、その横に中国側が汪洋副首相、アメリカ側のカウンターパートはティラーソン国務長官です。ティラーソンの前に座る汪洋は、以前からアメリカの信頼が厚いようで、今年11月に行われる第19回党大会では間違いなく昇格するだろうと見ています。そして習近平主席の腹心である栗戦書もいますね。王滬寧は、江沢民、胡錦濤に仕えた後、習近平に仕えた党派閥を超越した接着剤みたいな方ですが、彼も昇格するだろうと噂されています。江沢民派に近いのは王毅外務大臣と楊潔?国務委員の2人で、それ以外のメンバーはほぼ習近平派でした。
  ただ、米中会談の議題は「北朝鮮の金正恩の暴発をどう防ぐか。ミサイル・核開発をどうやってやめさせるか」ということでした。朝鮮エキスパートは張徳江であり、劉雲山や張高麗など江沢民派です。なのに、誰一人出席していません。つまり習近平主席は「江沢民派と金正恩側による暴発を防ぐことができない」からアメリカに命乞いに行ったのだと解析したわけです。中国は、ケ小平の時代から北朝鮮による核開発を認めていたと言われています。しかし北朝鮮との密接な関係を築き、利権を掌握してきたのは江沢民派であり、瀋陽軍区であり、福建省で主なキャリアを積んだ習主席にとっては、入る隙もない蚊帳の外だったわけです。
第3節 北朝鮮の軍事技術向上はクリントン夫妻が原因
  では、北朝鮮の技術がどうしてここまで向上したのか? その鍵となる1組がクリントン夫妻です。90年代にクリントンは大統領を2期やりましたが、中国では江沢民が国家主席だった時代で、アメリカの最先端技術すら人民解放軍系企業に流れていくようになったのです。日本から盗み取った技術なども含め、瀋陽軍区と北朝鮮は軍事開発を行っていき、90年代に北朝鮮の軍事技術は飛躍的に発展し、中国の瀋陽軍区も益々強くなっていったのです。
  トランプ大統領を「ロシアゲート」だとメディアは騒いでいますが、クリントン夫妻は「チャイナゲート」なのです。80年代にはインドネシアのリッポーという中国系財閥からお金が入っていたと報じられていますし、夫妻の周辺には相当数の中国系アメリカ人がいました。例えばジョン・ホアンは、クリントンの選挙資金を調達していた一人です。
  そして習近平は中央軍事委員会主席に就いていますが、東部戦区はそもそもの拠点だから掌握しているとして、その他、北京の中部戦区あたりも大丈夫かもしれませんが、北部戦区は今となっては敵陣、江沢民派の牙城なのです。今年、中国初の純国産空母が大連の造船所で完成しましたが、習近平主席は進水式にも行っていません。しかも空母の名前は「山東」になるとか。山東を牙城としてきたのは、前述の通り、現政権の序列7位の張高麗です。これが中国の分裂状況の象徴ではないでしょうか。

第三章 外に味方をつくるのが中国の歴史
第1節 北朝鮮の属国化失敗
  2012年11月、朝鮮エキスパートの張徳江が序列3位に就いたことで、習政権は朝鮮半島を属国化するための政権なのだと私は位置付けました。習主席は関係が希薄な北朝鮮ではなく、韓国からその工作を進めていき見事に失敗しました。中国に擦り寄った朴槿恵大統領でしたが、アメリカに寝返りTHAADミサイルの配備を決めたからです。
  胡錦濤政権時代の序列9位の周永康は、「長男の金正男をトップに、張成沢がそれを支える体制の傀儡政権をつくる動きがある」と金正日、正恩親子に漏らしてしまったとされます。それ以来、金親子は中国側を信用しなくなりました。これまでの関係からも、傀儡政権をつくろうと密かに考えていたのは、習近平、そして胡錦濤など共青団派の一部だったのではないかと推理しています。
  2013年12月、金正恩の叔父、張成沢は「中国の犬」ということで殺されました。張成沢と中国とで開発していた羅先特別区の羅津港もそのため一時、動かなくなりました。ただ、北朝鮮の核開発を阻止する目的で習政権が経済制裁に出ても、この羅津港を使って北朝鮮とロシアの間で、最近、万景峰号が就航しています。中朝関係の悪化で漁夫の利を得るのはロシアです。それと北朝鮮は「世界の嫌われ者」というイメージですが、160カ国以上と国交締結しています。北朝鮮が核開発やミサイル開発の実験をしているのは、兵器を売るためや兵器開発の指導をするためのデモンストレーションでもあるわけです。
  また、北朝鮮と江沢民派の一部が一体化する場としてマレーシアがあります。マレーシアはいわば中国と北朝鮮の飛び地となっており、ナジブ首相は中国の傀儡政権ともいえます。北朝鮮人がノービザで行ける唯一の国でもあります。したがって、習近平主席が中国から北朝鮮への資源輸出を完全にストップさせることができたとしても、マレーシアから北朝鮮に入るルートもあるわけです。そうした中で、今年2月、金正男がマレーシアで殺されました。中国共産党内部の権力闘争が熾烈化する中、三男の金正恩をそのまま生かしたい勢力と、長男の金正男の傀儡政権をつくりたい勢力とのせめぎ合いの中での犠牲者と言えます。
  さて、「中国は北朝鮮を緩衝国と考えている」とよく言われますが、私はもうそんな時代ではないと思います。北朝鮮がここまで核開発やミサイルの精度を上げることは、金王朝との関係が構築できない習近平主席にとっては恐怖そのものです。自身の頭上にミサイルや核が落ちてくるかもしれないのですから。習近平主席らが訪米した後の5月、北朝鮮は中国を初めて「敵」呼ばわりしています。
習近平主席の行動はいわば、1930年代の?介石と一緒です。内戦が激しくなり、日本にも勝ち目がないことから、妻の宋美齢を使ってアメリカに命乞いをして「フライング・タイガース」(アメリカの義勇軍)を連れてきたわけです。自分たちの政権、立場が危うくなれば、世界の権力者の助けを借りて、敵を粛清し、自分の政権基盤を盤石にしようとする、それが中国の支配層の十八番なのです。
第2節 ロシアのプーチン大統領詣
  江沢民派と習近平主席は、ロシアのプーチン大統領の取り合いをしているようです。4月に習近平派がアメリカに行きましたが、その直後、張高麗、そして張徳江がそれぞれロシアでプーチンと面談しています。その後、習近平主席も腹心の栗戦書をロシアに送り込み、プーチンと面談しています。2週間ほどの短期間に、現チャイナセブンとその代理を含めた3人が、プーチン大統領と面談しているのです。それぞれが密約を持って行ったのではないでしょうか。
  ロシアは長らく江沢民派によって冷や飯を食っていたと考えられます。北朝鮮との利権、そしてソ連崩壊後、モンゴル国や中央アジア諸国などの利権も確保してきたのが江沢民派です。したがって、プーチンも江沢民派と親しいわけではなくコンペティターのはずです。元KGBのプーチンは、中国最高指導部内の亀裂を熟知している数少ない世界のトップだと考えられます。その上で、世界においても絶大な影響力を持つプーチンを自身の味方にしたいと、中国の最高指導部がプーチン詣をしているのでしょう。
第3節 共青団の李克強と習近平の違い
  中国の目下の権力闘争は死闘といえますが、その中でも存在感が薄いのが共産主義青年団出身の李克強です。団派は、いわば科挙試験のような形で、頭脳明晰でリーダーの素質のある人が出世していきます。共産党幹部の子女=太子党とは異なり、親の七光りではなく1代目となります。ただ、共産党支配層の中で昇格していくためには、例えば、海外の華僑財閥とのつながりを持っているなど、前述の通り財力そして海外ネットワークが重要となります。団派のエリートは概して、ドメスティックな秀才たち。江沢民派は別名、上海閥であるように、戦前からアメリカをはじめ世界ネットワークを構築してきた人々であり、その末裔です。ケ小平に指名された胡錦濤国家主席も2期10年トップでしたが、江沢民派の傀儡政権だったことがバレていますし、軍も最後まで掌握できませんでした。江沢民派がやりたい放題の時代が、20年以上続いていたわけです。
  ならば、習近平がなぜここまで出世できたのか? といえば、一つは父親が共産党の大物幹部だったこと、党幹部の子女としての人間関係がそもそもあること。それから福建省時代に、東南アジアの華僑華人のネットワークを構築していったからだと考えられます。ケ小平は、1980年代に、日本をはじめとする外資以外に、華僑華人そして台湾人を使って投資を呼び込むことを最重要の政策として掲げました。習近平は福建省に1985年頃から2002年頃までいました。福建省には福建人や客家人が暮らしていますが、東南アジアにも大量に同省からの移住者がいます。マレーシアは全人口の約3分の1がチャイニーズで、福建出身と広東出身で大多数を占めます。シンガポールも約7割が華人系です。インドネシアもフィリピンも、経済活動のみならず、近年は政治の舞台でも華僑華人が重要な地位を占めています。銀行経営では客家系の華人が目立ちます。つまり、東南アジアのお金を管理しているのが主に客家系なのですが、政治家との癒着で地上げなどもやってきました。その華僑華人ネットワークが福建省時代の習近平を支え、ここまで出世したと考えられます。それからインドが象徴的ですが、東南アジア諸国がかつて大英帝国の植民地だったりした経緯からも、今に至るまでイギリスとの関係は深いのです。習近平のAIIB銀行や「一帯一路」の構想は、だからすべて繋がっていきます。

第四章 中国経済のしくみ
第1節 中国経済は全部がフェイク
  中国には、4つのお金があります。1つは造幣局の正式なお金、2つ目は造幣局で刷っている番号のないお金、3つ目は各銀行が勝手に刷っているお金、そしてシャドーバンキングのお金。さらに今は、架空通貨ビットコインもほとんど中国人が動かしています。したがって、中国の体制が経済によって崩壊することはありません。独裁政権であれば、数字合わせができます。中国企業の数字も嘘ばかりです。帳簿は少なくとも3つ以上あります。1つは銀行や株主、メディアなどに見せるための帳簿。もう1つは、共産党幹部からの指導で数字を目的にあわせて創作した帳簿、もう1つは自身や一族で管理するホントの帳簿と隠れ銀行口座です。企業の資金や資材や製品など、何でも公私混同するのが中国流です。賄賂もあるし、グレーゾーンだらけなのです。
  つまり、ホントの数字は表に出ないので、中国経済を発表された数字を基に語っても意味がないというのが私の持論です。中国企業と長年、深く関わり、通訳を通さず自力でビジネスをしてきた社長さんでしたら、私が語っている意味がご理解いただけるはずです。
  それから、「フォーチュンの世界優良企業500」で、近年、利益率を含めたナンバー1は中国工商銀行で2位が中国建設銀行、3位が中国農業銀行あたりで、中国銀行もベスト10に入っています。でも、これら中国4大商業銀行は04、05年頃の上場前の話ですが、天文学的な赤字があることが報じられています。しかも当時の支店長ら数十人が各々、何十億かを海外へ持ち出し一斉に逃亡したことも報じられました。支店長という名の経済犯罪人集団だったわけです。ところがアメリカのウォールストリートの専門家らが、これら4大商業銀行の数字をきれいにして、ニューヨーク市場で上場させました。どんな離れ業を使ったのかは「?」ですが、ゴールドマン・サックス出身の専門家らがコンサルをしたようです。それもあってか、アメリカ政府の中枢には毎回、ゴールドマン・サックス出身者が財務長官などお金にまつわるポストにいます。「ガバメント・サックス」などと呼ばれていますが、中国政府と今に至るまで、様々な数字合わせをしているのではないかと。アメリカも、中国の嘘に加担しているということです。
第2節 政治と商売が一体化している中国
  中国の超大物経営者は、いわば政治家の代理人といえます。政治と一体化して動いています。直近の報道でアジア一の富豪に返り咲いたアリババのジャック・マーは、江沢民派に近い「政商」です。数年間、アジア一富豪の地位にあった大連万達の王健林は、習近平ファミリー、胡錦濤ファミリー、温家宝ファミリーなどとの関係が密接とされます。香港マカオを押さえてきたのは「江派二号人物」の曽慶紅元国家副主席で、現在は張徳江がバトンを受け継いでいますが、カジノで潤うマカオはマネーロンダリングの場所でもあり、香港もそうですが、一国二制度によって独裁国家では認可されない、例えば最先端技術に関する貿易も可能です。このように中国共産党にとっての特別な拠点である香港を、事実上、支配しているのが目下のところ江沢民派であり、香港マカオの工作トップの地位にある張徳江なのです。
第3節 金融を操る江沢民派
  「中国A株」が1年ほどの間で異様に上昇を続け、一昨年夏に乱高下し、暴落しました。これはバブル崩壊ではなく、人為的な金融戦争だったと考えられます。私はこれを当時雑誌で“金融爆弾”と書いたのですが、江沢民の孫や序列5位の劉雲山の息子らが、膨大なお金を動かして仕掛けたと囁かれています。「ダークプール」という手法ではないかと推測していますが、証券取引所を通さずに投資家の注文を証券会社の社内でつけあわせて取引を成立させる取引のことです。非合法のインサイダー取引みたいなイメージですが、世界で近年、機関投資家など大口投資家の一部でダークプールが横行しており、欧州では来年以降、規制をかけることが決まったようです。習近平主席も、政権を不安定化させる目的での金融爆弾への警戒心を強めており、取り締まり強化に動いています。
  11月以降、習近平政権2期目が船出しても、江沢民派の大物の粛清の動きは止まないどころか、さらに激しさを増すはずです。現政権のチャイナセブンの張徳江、劉雲山、張高麗の3人も、その対象として浮上する可能性が高いと個人的には見ています。

質疑応答
「質問1」

  夏目雅子さんの死因は白血病で、『西遊記』のロケのとき中国で核実験をやっていて、それが影響していると言われていますが、先生のご見解をお聞きしたい。

「回答1」

  それは今、初めて気づきました。1980年代に敦煌やらシルクロードもあちこち行きましたが、私はまだ生きていますので……分かりません。


「質問2」

  北の人に出世している人が多いと言うことですが、それは満州人ではなく、漢人が出世しているのですか。満州人は今どうなっているのですか。朝日新聞の若宮啓文氏が北京で病死されましたが、これは知り過ぎた男だからでしょうか。

「回答2」

  その可能性はゼロではないとは思いますが、何とも判断しかねます。中国で往々にしてあるのは、自殺に見せた他殺と毒殺ですけれど。もう一つのご質問ですが、満州人ではなく漢民族という認識です。中国は人間ネットワークの世界ですが、江沢民の権力が肥大化していくのは80年代からで、上海市長に昇格してからです。ただ、お話した通り、中華人民共和国が建国された直後からのキャリアが長春から始まっていて、東北3省で人間関係を構築していったと考えられます。その部下たちを上海、その後、北京に呼んだりしたことは人事からも明確です。1990年に北朝鮮を訪問する際、通訳で連れて行ったのが、序列3位の張徳江です。張徳江は漢民族と記されていますが、もしかしたら母親は朝鮮族かもしれませんが、事実はわかりません。満州人は満民族といいますが、共産党幹部で満民族というプロフィールは見た記憶がありません。満州人は基本、中国共産党が大嫌いですが。


「質問3」

  「中国の危機」は一体何でしょうか

「回答3」

  内戦状態のように中国内部での殺戮が続く状態を、中国の危機と考えています。ただし、中国が経済で壊れることは考えられません。文化大革命のとき「これはただの毛沢東の権力闘争だ」と明確におっしゃったのは中嶋嶺雄先生だけです。あの時に、まともな経済など存在しませんでしたが、中国は今も存続しています。文化大革命を朝日新聞は「偉大なる革命」と報じ、まともな報道をした産経新聞は追放されました。中国の政権内部はずっと闘争しています。江沢民派が醜く肥大化しすぎた中で、習近平派との闘争が、現在の危機だと思います。我々日本にとって一番危険なのが「国防動員法」です。チャイナ7がこの瞬間でも、発令できる国内法ですが、中国の金融機関がストップしてお金の出し入れができなくなりますし、日系企業を含む外資企業も共産党の管理下に置かれます。さらに港や飛行場は軍の管理下に置かれますので、日本人は帰国できなくなる可能性もあります。中国の国防動員法の発令は中国にとっては錬金のチャンス、日本にとっては資産没収になる最大の危機だと考えています。


「質問4」

  AIIBに日本は入らないですね。一帯一路も絶対だめだと思いますが、先生はどう思われますか。

「回答4」

  AIIB銀行に入るべきではないと思っています。要するに、彼らは別の財布を持って、自分たちで運用したいだけです。日本は中国からいかに離れるかの方が重要です。中国はお金を借りたら返さない国です。借りたもの勝ちの国です。


「質問5」

  韓国も返ってきません。

「回答5」

  そのようですね。日本はそういう隣国の習性を、冷静に理解すべきです。よく言うのは、隣人と親しくなくても回覧板は回します。回覧板を回すだけで、それ以上のつき合いをしないのが最良かと思います。


「質問6」

  中国とは物々交換ですね。現金をもらってから商品を渡すのがいい。

「回答6」

  それが得策だと思います。ただ、中国はニセ金も多いので本物のお金かどうか調べないと駄目ですよね。しかもニセ金鑑定機にもニセモノがあると聞いています。もうどうしようもないですねぇ。


「質問7」

  習近平と李克強の関係をお話し下さい。李克強は今、非常に影が薄いような感じがします。共青団と習近平の関係も教えていただきたいと思います。

「回答7」

  習近平派と共青団は、江沢民派の駆逐に関してはおそらく共闘しているはずです。序列2位の李克強はおっしゃる通り、影が薄く、中国共産党内の闘争を日々リアルに報じている中国メディアからも、ほとんど名前が出てきません。現役では序列3位の張徳江が最高級の悪役って感じです。香港を押さえ、北朝鮮との関係も構築してきた渦中の人物です。李克強首相は年齢的にはまだ現役を続けられる立場にありますが、閑職に追いやられるといった噂は、数年前からあります。ただ本人の頭脳は明晰で、わりとはっきりモノを言うし、英語も上手なので、西欧社会からの評価は低くないようです。その上で、汪洋副首相の存在感が高まっている感じがします。それと、李克強は両目の下が黒ずんでいることが多いようで、もしかしたら体調面で問題があるのかな?と思ったりしています。


「質問8」

  李克強は、共青団の中の事実上のトップではないのでしょうか。

「回答8」

  現政権で太子党の習近平の次の序列2位ですので、李克強が事実上のトップになります。ただ、すべての役職からは離れたはずの元上司、胡錦濤前国家主席もここにきて再び存在感を出しています。おそらく、息子の出世のために頑張っているのでしょう。息子は地方幹部で、胡海峰(フー・ハイフォン)という方です。


「質問9」

  習近平の対沖縄に対する政策の中で、翁長知事が中国に絡んでいるとか言われ、習近平の省長時代から、翁長さんと仲がよかったと聞いていますが?

「回答9」

  沖縄県知事の翁長さんは、福建省福州市の名誉市民です。習近平は福州市での職務が長く、直接でなくとも翁長さんと関係ないはずがありません。習近平は若い頃、沖縄に何度か入ってきたとされ、彼の弟の習遠平も沖縄に来ていたと沖縄の知人から聞いています。福建省時代の習近平の工作は華僑華人対策だったわけですが、沖縄と台湾は一緒のポジションとして見ていたと考えられます。久米三十六姓がそうですが、沖縄の一部エリートは、自分はもともと中国人で400年ほど前に沖縄へ来た末裔だと信じています。仲井眞前知事も、もとは「蔡」という苗字で、400年ほど前に沖縄に来た末裔だと私に話してくれたことがあります。中国は1980年代半ばに、沖縄で「ルーツを訪ねる旅」という工作を仕掛けたようです。例えば「蔡」とか「陳」といった苗字のルーツとされる村は広東省や福建省には幾つもあるわけですが、そういった村を訪ねる旅を、沖縄の政界・財界の人たちに持ちかけたようです。仲井眞さんもお父様と一緒にツアーに参加したそうですが、お父様は感激して涙したそうです。昨今の沖縄を取材して感じるのは、まるで「文化大革命」みたいです。沖縄への「思いやり予算」をマネーロンダリングして、一部を活動費にして生活が苦しい老人たちを日当8000円で雇い、にわか活動家に仕立て、「辺野古反対!」と言わせています。もちろん、プロの活動家も大量に沖縄入りしていますが。私には正直、沖縄は中国にしか見えません。


「質問10」

  元上海の総領事 杉本信行さんの本『大地の咆哮』で、日本は国交回復後、今の貨幣価値で60兆円ぐらい、無償あるいは有償の低金利で金を出して、中国の空港や地下鉄、高速道路やビルができたわけです。しかし完成披露宴では日本大使館の大使も誰も参加させてもらえないと言っています。何故でしょうか。

「回答10」

  招待されなかった理由はわかりませんが、ODAは有償と無償合わせて7兆円ほどはあって、80年代、中国にいた時、ODA関連の仕事を手伝う機会があり、何度か関係者に「日本のODA法では、武器の売買をしている国へのODAは違反だったはずですが」と尋ねたのですが、話をはぐらかされました。また、ODAは企業に対してではなく、橋や道路などインフラ整備のためにするものなのですが、問題は日本が援助したインフラ、例えば北京国際空港はその後、上場し、上場益は共産党幹部が得たわけです。私たちの血税が中国共産党のサイフに入り、インフラが整い、さらには共産党幹部が上場益を得ているという構造です。しかもこれは明らかなODA違反です。外務省もさすがに上場した際には警告をしていますが、それも無視して、上場を続けています。小泉政権の頃にODAは変わり無償は終わったはずですが、環境ODAで続いています。資金以外に脱イオン装置など、技術もモノも日本が援助しているのに、工場がそれを稼動させなければ意味がありません。ランニングコストがかかるからです。挙げ句、中国からPM2.5が飛んでくるというのに、なぜ皆もっと真剣に怒らないのでしょう? 不思議でなりません。私は80年代に「これから中国と日本の関係が変わる」と考え、時代の先取りのつもりで中国に行きました。しかし90年代前半には「これほど腐った人間、国に明るい未来はない。御免こうむりたい」と思ったわけです。上が腐っている組織に未来はないと考えたからです。当時から賄賂は横行していました。その頃、多くの日本の企業は「これからは中国だ」と巻き込まれ、今に至っています。ケ小平さんが92年の有名な南巡講話で「改革開放」の継続を示したのですが、その3年前、天安門で散々、若者たちを殺した事実をなぜ日本の政官財は忘れてしまったのでしょうか? さらに言えば、その92年には「尖閣諸島が中国のものである」ことを明記した国内法、領海法もできました。私は「中国は日本を盗りに来ている」と政府に近い方に言ったことがあるのですが、「何それ? そんなのはどうでもいい」と言われました。それが結果的に国防法になり、2010年7月に施行された国防動員法へとバージョンを上げていったのです。尖閣の問題がワーワー言われるようになったのは、ようやく2010年からです。でも領海法は92年にできたのです。日本政府がその時やるべきことをやらず、先送りしていった結果、中国が醜く肥大化し、中国マネーによって我が領土まで侵食されているというのが現状です。


「質問11」

  中国共産党は内戦状態ということですが、彼らの権力闘争の最終の目的は、個人の蓄財じゃないかと思っています。先生のご意見をいただければと思います。

「回答11」

  中国は、「権力とポジション=お金」です。権力とお金が一体化しているわけです。もちろんその上で、一族の蓄財が最重要のミッションです。最終の目的がどうかというよりも、ある種のパラノイア(偏執病)ではないかと。1兆円持っていても、1兆円でもういいと思うのではなく、1兆円をさらにどうやって増やすか、さらに大きな権力を持つために遮二無二なる人達ではないかと。権力者の環境とは、「死ぬか生きるかしかない」から刹那的でもあります。


「質問12」

  権力はお金ということですか。

「回答12」

  彼らにとってはそうです。また、中国共産党幹部は、給料で食べているのではありません。ポジションで食べています。ポジション=賄賂です。例えば消防の部署の人間は、自分が管轄する店舗に行って「これは消防法に引っ掛かる」と脅し、店長から賄賂を受け取ったり、その店を乗っ取ったりするわけです。高いポジションに就けば、権限はより大きなものになるわけです。それから、もう一つ、印刷機の技術が精巧になったことも貨幣経済を歪めてしまったように思います。ニセ札がこれだけ氾濫したのは、印刷技術が高まったからだと。北朝鮮の特定失踪者の中にも印刷工が複数いたと聞いています。看護師さんやテーラーもいました。日本人は善人ですから、技術を真っ当なことに使いますが、悪人は悪用しますからね。



以上は、「ノンフィクション作家 河添恵子氏の講演」を國民會館が要約・編集したものであり、文章の全責任は当會館が負うものです。



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