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武藤記念講座(講演会事業)

第1034回武藤記念講座要旨

    2017年8月5日(土)
    於大阪「武藤記念ホール」
    同志社大学教授   
    村田晃嗣氏

 『トランプ政権と日米関係』  

セミナー





第一章 トランプ政権の背景にあるアメリカの社会的変化
第1節人口の変化は重要な要因
  「アメリカはこれからどうなって行くのか?」ということを考える時、人口の変化を抜きにして議論することはできません。例えば日本の将来を考える時、少子高齢化という要因を抜きに議論できないことと同じです。今日本の人口は1億2千7百万人ですが、2053年には1億人を切るといわれています。37年間で2千7百万人の人口を失うのです。こんな経験をした国は人類の歴史上ありません。そのことを抜きに日本の政治や経済を論ずることは出来ないのです。またヨーロッパでは去年、イギリスがEUから離脱するという「ブレグジット」で大変でした。今年フランスの大統領選挙ではEUと関係強化を唱えたマクロン氏が勝利しましたが、イギリスではEU離脱交渉を進めるメイ首相が総選挙で敗れ、10月のドイツ総選挙はどうなるのか、ヨーロッパはどこへ向かっていくのだろうか、と揺れ動いております。このヨーロッパの政治・経済を考える時にも、今世紀の半ばまでにアフリカの人口が2倍に膨れ上がり、その人達が移民や難民としてヨーロッパに流れて来ることを抜きにして考えることはできません。人口動態が極めて重要な要因であるということです。
  今アメリカの人口は3億1千万人強です。一番人口の多い州がカリフォルニアの2千6百万人で大変リベラルな州で、今度の大統領選挙の結果、アメリカから独立してカリフォルニア独立共和国にしようという住民運動が起こっています。GDP規模で世界第6位、フランスのGDPよりも大きな経済力を持っています。2番目に人口の多い州はテキサスです。石油と航空宇宙産業のビッグビジネスの州で必ず共和党が勝ちます。3番目はフロリダ州、4番目はニューヨーク州で民主党が勝ちます。オバマ大統領の出身地であるハワイは50番目の州になって以来共和党が勝ったことが1回もありません。一方石油産業の街アラスカは共和党です。アメリカでは選挙をする前からほとんどの州が「レッド・ステート」(共和党)と「ブルー・ステート」(民主党)とに分かれております。問題は12の州が「スイング・ステート」で選挙のたびにどちらが勝つかわからないのです。人口3番目のフロリダは全米一の「スイング・ステート」です。ここで勝つことが大統領選挙の天王山です。この州は有権者の2割がラテン系の人達で、スペイン系の原語や文化を擁するため「ヒスパニック」といっていましたが、最近はポルトガル系も含め「ラティーノ」といっております。このラティーノが共和党に入れるか、民主党に入れるかでフロリダの選挙が決まり、アメリカ大統領選挙の行方を大きく左右することになっています。去年11月の大統領選挙ではトランプが勝っています。今ラテン系の人達はアメリカ人口の17%で黒人が14%ですから、最大規模のマイノリティ集団です。これが2050年には29%にまで増えるといわれています。このことがアメリカの社会と政治にどういう影響を及ぼすかを考えなければなりません。現在白人は人口の62%ですが、今世紀の半ばに46%と過半数を切ります。今回の選挙では、将来マジョリティでなくなっていく白人層の焦り、怒り、不安というものがトランプの勝利の背景にあったことは間違いありません。先進国では平均寿命が若干でも上がっておりますが、唯一下がっているのがアメリカで、その中で「白人・男性・高卒」という3つの特徴を兼ね備えた人達の平均寿命が顕著に下がっています。この人達の社会的・経済的な環境が非常に苦しくなっていることの現れです。またラティーノが将来3割近くなるということは、カトリック人口が増え、プロテスタントとの人口バランスが変っていくということです。このことがアメリカの社会にどのような影響を及ぼすかということも考えて行かなければなりません。更にイスラム教です。日本ではイスラム教徒は11万人で人口の0.1%もいないわけです。日常生活で出会うことはほとんどありません。しかしアメリカはイスラム教徒が330万人で人口の1%強で、しかも今世紀の半ばに倍増するのです。今世紀半ばには世界最大の人口を擁する宗教になると言われています。
第2節 人口構成の変化による影響
  ここ数年、日本社会では「グローバル化」と盛んに言われますが、将来世界最大の人口を擁する宗教に関し、シーア派とスンニ派の区別を説明できる人がどれだけいるでしょうか。日本人は宗教に関し極めて無頓着ですが、世界には命懸けで宗教を信じている人達がおり、その人達が自由に国境を超えて来るのがグローバル化です。イスラム教の基本的なことを知らないことがグローバル・コンフリクト(衝突・対立)の原因となります。宗教に関する人口構成が大きく変わることが世界にどういう影響を及ぼすか、日本人は宗教について感受性を磨かないといけません。
  さて日本と韓国の間で「従軍慰安婦問題」があります。最近でも、釜山で日本の総領事館前に従軍慰安婦の少女像が作られ、そのことに抗議する形で、日本の大使と総領事が一時帰任しました。しかし従軍慰安婦の少女像は韓国国内だけではなく、世界中で作られています。アメリカでは次にサンフランシスコに作られる予定です。全米各地で従軍慰安婦の少女像ができていくかもしれません。この背景を人口構成の変化から簡単に説明出来ます。アメリカでは、日系アメリカ人は百万人しかいません。ところが韓国系アメリカ人は2百万人でこの差は開く一方です。しかも日系人は、戦前から移民した人達で4世、5世になっています。我々と同じような顔形をしていても日本語は話さないし、日本に行ったことも、興味もないのです。ところが韓国系は1980年代以降の移民が中心で、学校や職場で流暢な英語をしゃべっていても、家に帰ったら韓国語で話し、キムチを食べている。そういう韓国系が日系人の2倍いるのです。地元の市長、市会議員にとってどっちが大切ですか。従軍慰安婦の少女像が出来たら、地元の市長も商工会議所の会頭も市議会議長もこぞって行くのです。これが民主主義の現実です。これはアメリカ国内の人口構成の変化を追っていないと分からないことです。最近、北朝鮮が毎週のようにミサイルの発射実験をするため、呑気な日本人も東アジアが、実に厳しい国際環境の中にいると気づきつつあります。またアメリカの開かれた市民社会を舞台に、日系、韓国系、中国系、フィリピン系、ベトナム系といったエスニックグループの間で熾烈なパワーゲームが展開されており、日系は完全に劣勢です。従軍慰安婦問題では、韓国系の人達は「広く女性の人権を守り、向上させるために、この問題を提起しているのだ」と言いますから、中国系、ベトナム系、フィリピン系、更には一部日系さえ巻き込んだアジア連合ができ、日本の言い分は封じ込められてしまう。そういうエスニックグループ間のパワーポリテックスが、アメリカの市民社会の中で展開されているのです。宗教、人種の構成がアメリカ社会で変わりつつあるということです。
第3節 社会の多様化とその葛藤
  今のアメリカやグローバルな社会を考えるうえで「LGBT」という非常に重要な4文字の英語の略号があります。LGBTのLはレズビアン、Gはゲイ、Bはバイセクシュアル、最後のTはトランスジェンダーといわれる人達のことで、性的マイノリティの人達です。大変な影響力を持つようになっています。2010年の国勢調査では、自分のことを、Lか、Gか、Bか、Tかの何れかであると応えた成人アメリカ人が全体の3.7%、実数で9百万人です。但し実態は1千数百万人を超えていると思われます。イギリスやフランスなどの世論調査でも人口の5%前後が性的マイノリティという数字が出ています。日本では3年前に電通総研の調査で7.6%、13人に1人という結果でした。これは血液型AB型の人や、左利きの人よりも多いということです。さてアメリカではLGTBの人達が好むファッション、音楽、住宅など経済に及ぼす波及効果が83兆円相当と途方もない影響力を持っています。さらに政治的にも2011年と2016年、国際連合人権理事会で「LGBTの人権を守り、向上させる国連決議」が通っています。2015年には、全米の州で同性同士が結婚できるようになり、LGBTの活動に弾みをつけています。今や先進国のほとんどの国が同性同士で結婚できます。これが世界の趨勢です。ルクセンブルクの総理大臣はゲイですし、アイルランドの次の総理大臣はゲイです。アイスランドの前の大統領はレズビアンで、パリやベルリンの前の市長はゲイでした。性的マイノリティは発言権を増してきています。今イギリスは保守党政権ですが、パスポートの性別で、男と女にその他を加えようとしています。オバマ政権時代ノースカロライナ州の州都シャーロットでトランスジェンダー(身体の性と心の性が一致しない人達)が公共の施設(学校、病院、駅、空港など)でトイレを使う際に「男性用のトイレに行くか、女性用のトイレへ行くのか、自分で決めて良い」という市の条例を作った。ところが州議会は「公共の施設でトイレを利用する際には、戸籍上の性別に応じて使わなければならない」という『トイレ法』を作った。これに対しアメリカ合衆国連邦政府は「ノースカロライナ州の『トイレ法』は基本的人権を侵害して憲法違反である」と訴えた。連邦政府と州と市の判断がトイレを巡って違うのです。オバマやヒラリーなど民主党のインテリ達は、ノースカロライナ州の『トイレ法』は40年前に「お前の肌の色は黒いから黒人用のトイレに行け」と同様の差別で、身体上の特徴によって人間を差別することは絶対許せないと言っているのです。民主党のリベラルはここまで来てしまっているのです。本来、これまで民主党を応援してきた「白人・男性・高卒」で、ミシガンやオハイオ・ピッツバーグで自動車や鉄鋼の工場で働き、労働組合を通じて民主党を応援していたブルーカラー層の人達が「民主党のリーダー達はトランスジェンダーのトイレの心配をしてくれるかも知れないが、自分たちの賃上げの相談に乗ってくれない。我々の生活は彼らでは改善されない。今の民主党に頼っていても自分たちの生活はよくならない。それならトランプに賭けてみよう」というのが今回の逆転劇に繋がっているわけです。民主党が左傾化していく中で、本来の支持層と利害が乖離する現象がおこっているわけです。ちなみにノースカロライナ州のトイレ騒動は、民主党支持のカリフォルニア、ニューヨークの大企業が、ノースカロライナの企業とは契約しないと事実上の経済制裁を行い、ハリウッドのセレブや有名な歌手が連日ノースカロライナへ押しかけ、「トランスジェンダーを差別するな」とキャンペーンを張ったため、州が『トイレ法』を廃止することになりました。これが今の分裂するアメリカの現実です。
  つまり人種にしても、宗教にしても、性にしても、アメリカ社会は益々多様化している。多様化することは、マイノリティの人権が認められ、いろんな声が反映され、悪いことではないのですが、多様化すると纏めることが難しくなっていく。そしてマイノリティの人達は、自分達の人権利害には敏感ですが、全体の利益にはあまり関心がない。更に今はマジョリティだけど、やがて自分達もマイノリティになっていくという人達の不安がある。何か言えば「それは人種差別だ。同性愛者に対する差別だ。イスラム教に対する侮辱だ」といわれる。こんなことは真っ平だと思っている人達も沢山いる。そういった人達の焦りや怒りや不満というものをうまく利用したのがトランプです。仮にトランプが当選していなくても、社会の多様化というのは次第に進んでいくのであり、我々はそうした変化していくアメリカを知っておかなければならない。

第二章 アメリカの内政と経済
第1節 三権分立が健全に機能
  トランプが大統領になり最初にしたことの一つは、イスラム教の7か国から入国をする人達のビザ発給を一時差し止めるという大統領令を出したことです。しかし直ちに連邦裁判所が憲法違反の疑いがあるということで執行差し止めを命じました。そして1か月ほど前、裁判所は最終的に大統領令を認めましたが、その際「アメリカで仕事のある人は除外。アメリカの学校に行っている人は除外。アメリカに親戚のある人は除外」と多くの例外を作り、事実上大統領令を抜け穴だらけにして認めました。それからトランプが大統領選挙中に「アメリカとメキシコの間の国境に壁をつくる」と言っていましたが、この半年たって壁は出来ていません。壁を本気で造ろうとしたら概算で220億ドル(2兆円)を超える予算が必要ですが、予算をつけるのは議会です。議会は壁を造るつもりは全くないため壁は出来ていません。
  つまりトランプ政権発足からこの半年、明らかになったことはアメリカにおける司法、立法、行政の三権分立の仕組みが如何に強固なものであるかということです。実はアメリカ合衆国大統領がもっている制度的な権限はそんなに大きなものではないのです。合衆国憲法は全部で33条ですが、その第1条は大統領ではなく議会です。第2条が大統領です。つまり建国の父たちと言われるワシントン、ジェファーソン、ハミルトンといった人達は議会こそがアメリカの中心であり、議会がアメリカの政治を決め、大統領は議会が決めたことを執行するだけだと考えていたわけです。おそらく日本の総理大臣の方が大きな権限をもっています。アメリカ大統領は、議会を解散できないし、予算案も出せない。予算教書はお願いのリストに過ぎないわけです。議会は完全にそんなものは無視出来るというので、如何にアメリカにおける三権分立が健全に働いているかということが、この半年間に明らかになった。
第2節 中間選挙がトランプ政権の試金石
  ロシアゲート事件で、トランプ大統領が、すぐにでも弾劾されるのではないかということが話題となっていますが、大統領を弾劾するためには、まず下院が過半数で訴追して、上院の3分の2以上が賛成しなければ大統領を解任することが出来ません。今の連邦議会は、上・下院ともトランプと同じ共和党が多数を占めています。今の議会の分布で、共和党がトランプ大統領を弾劾するということは、ありえないシナリオです。確かに特別検察官の捜査が進んでいますが、ニクソン大統領のウォーターゲート事件の時、独立検察官の最終報告書がまとまる迄2年2ヶ月かかっています。レーガン大統領の時、イランコントラ事件というスキャンダルの時、最終報告書がまとまるのに6年6ヶ月かかっています。したがって、ムラー特別検察官が捜査を始めても、恐らく最終報告書をまとめるのに1〜2年はかかります。仮に2年掛かったらトランプ政権の任期はほとんど終わりです。したがって特別検察官に追い詰められるという状況にはないと思います。ただ来年11月4日が中間選挙です。大統領選挙は4年に1回ですが、その間に2年に1回の中間選挙がある。この中間選挙で下院議員435人の全員、上院議員の3分の1が改選されます。今上・下両院とも共和党が多数ですが、この中間選挙結果如何によってはトランプの運命が変わってくるということです。中間選挙がどうなるか、4つのパターンが考えられます。
  パターン1は、上院も下院も共和党が多数を維持する。すると事態はなんら変わらない。共和党多数の議会の下でトランプ大統領が弾劾されることはない。
  パターン2は、上院で共和党が多数を失う。上院で多数を失うと、まず外国と条約を結ぶ事が難しくなる。更に国務長官、国防長官、財務長官、あるいは大使という重要人事が思うに任せなくなります。一番大事なのは最高裁判所の判事です。日本の最高裁判事は15人で70歳定年ですが、アメリカの最高裁判事は9人で定年がない。一旦任命されたら終身で本人が死ぬまでやれます。この間トランプが保守派を1人任命しました。最高裁判事の最高齢はギンズバーグの86歳。もう1人78、79歳の人がいる。この2人はリベラルです。病気で引退するか亡くなるかした時、トランプが大統領であれば後任に保守派を入れようとする。保守派の判事が増えれば、最高裁の判決が変わってくる。長期にわたりアメリカの司法判決のパターンが変わってくる。トランプがいくら指名しても、上院で共和党が多数を持っていないと人事は出来ない。もし上院を野党に取られたら政権運営が非常に難しくなります。
  パターン3は、上院は大丈夫だけれど、下院を民主党に取られる。そうすると、予算が決まらなくなる。政権運営にとって大ダメージです。上院、下院にどちらか1院でも野党に取られればトランプ政権の運営が極めて困難になってレームダック(死に体)になっていく。中間選挙の結果、政権運営が苦しくなって衰退死するという可能性があります。
  パターン4は、上・下両院とも民主党が勝つ。野党に多数を取られる。そうすると上・下両院で多数を取った民主党がトランプ大統領の弾劾に動くかも知れない。しかし上・下両院とも民主党が多数を取るということはほとんど考えられない。トランプ大統領の支持率は今35%で史上最低だといわれるくらい下がってきていますが、民主党の支持率も全然上がらない。トランプが大統領になってから半年間、国政レベルで5回補欠選挙がありましたが、民主党は連戦連敗1回も勝っていません。だから上・下院とも民主党が逆転することはまずありえないと思います。
第3節 近視眼的なトランプの経済政策
  「トランポノミクス」と云われるトランプ大統領の経済政策は、法人税を35%から15%に下げる。個人の所得税も大幅減税する。他方10年間で1兆ドルの公共事業投資をすると言っているわけです。法人税、所得税を下げることは政府の実入りが減ることで、公共事業投資をやることは政府の支出が増えることです。こんなことを同時にやれば、財政赤字が拡大し、貿易赤字が加われば双子の赤字となりレーガノミクスの二の舞になります。
  トランプの基本戦略は、共和党多数の議会で大幅減税法案をまとめ、景気を浮揚させて来年11月の中間選挙を勝つことです。一方10年間で1兆ドルの公共事業投資をやるというのは簡単な話ではない。1兆ドルの財政支出を増やすためには、既存の予算から無駄を削らないとお金が捻出できるわけがないのです。しかし既存の予算費目は、それぞれに利害をもった圧力団体、業界団体、国会議員たちが大勢いるわけで、彼らと血みどろの戦いを展開しなければ予算のカットはできません。公共事業投資のための予算カットは後回しにする極めて近視眼的なことだと思います。このことはTPPからの完全離脱、パリ協定からの離脱と軒並み国際合意、国際協調の枠組みから抜けていっており、いかに後ろ向きになっているかということです。しかもアメリカに工場を作れ、メキシコの工場から輸入するなら輸入税をかけるという脅しを言っている。アメリカにとって製造業はGDPのわずか8%、それに従事している労働者は12%に過ぎないのです。トランプの経済政策は、全体の1割程度の利害を非常に大きく膨らませて、全体利益を損ねているということになると思います。

第三章 日本を取り巻く東アジアの戦略環境
第1節 トランプ外交はリアクションと単発のみ
  トランプ政権の内政は、この半年間ほとんど成果が上がっていません。一方外交では、シリアに空爆したり、北朝鮮に空母を派遣したり、オバマ前政権が何もしなかったのに対し、毅然と迅速に決断していると見えます。これはトランプマジックというもので、トランプ大統領に対する期待値が極めて低いため、実際大したことはやっていないわけですが、すごくまともなことをしたように見えてしまうということです。基本的にトランプ大統領がやっていることは、全てリアクションです。何かが起こったから反応する。しかもいずれも単発の行動で終わり、二の矢、三の矢がないのです。全体的にどうするかという絵がないのです。トランプはビジネスで財を成した億万長者です。しかしビジネスで成功した人が政治で成功する保証はないのです。トランプは今から30年前、1987年に「トランプ自伝」という伝記を書いていますが、ビジネスの交渉で成功する秘訣は「オプション(選択肢)が相手より多く、相手に対して使えるレバレッジ(影響力)が多ければ多いほど交渉には有利だ」と言っています。しかしその交渉の秘訣を外交にあてはめても全然うまくいきません。外交交渉で一番強い交渉相手は選択肢のない人です。北朝鮮の交渉代表のように全く権限のない人では交渉の余地がない。相手に対して使える影響力が多ければ多いほど良いというのはそのとおりですが、アメリカのレバレッジとは信頼できる同盟国を持っていることです。日本、韓国、オーストラリア、NATOといった言った価値を共有する信頼できる同盟国があるということです。しかし今トランプは、同盟なんかどうでも良い。アメリカ・ファーストだって言っているわけです。自分からレバレッジを放棄しているわけです。
  トランプの外交が、全てリアクションと単発にとどまっている理由として、二つのことがあります。一つ目は、トランプ政権に理想がないということです。この政権には追求する利益はあるかもしれませんが、追求する理想がありません。利益の追求からは戦術しか生まれません。理想のない組織や理想のないリーダーの下では、大きな戦略は生まれようがありません。自由も、民主主義も、秩序も語らない大統領の下で、アメリカが大きな戦略を描けるわけがありません。だから単発の行動の繰り返しなのです。
  二つ目は、トランプ政権と言っていますが、今は大統領と、副大統領と、閣僚しかいない「伽藍堂」だからです。通常大統領は4,000人の政治任命ポストを埋めていきます。
しかも3分の1は上院で承認してもらわなければなりません。これは手間のかかるプロセスであり、普通にやっても半年から1年かかります。ところがトランプ大統領の場合、ワシントンの政界、官界に人脈を持っていません。さらに選挙期間中に、自分を批判した者はどんなに優秀な人物でも絶対にトランプ政権に入れないという頑なな態度を取り続けてきました。全然ポストが埋まってないのです。最も重要なポストが520ありますが、半年経った今の段階で、決まっていないポストが390あります。今はオバマ政権の人たちが居残ってやっているだけです。シリアにミサイルを撃つ、北朝鮮に空母を派遣するというのは軍事行動です。政権が変わっても、軍という組織は生きています。しかし単発の行動を超えて「シリア問題をどう解決するか。北朝鮮の核問題をどう解決するか」という大きな戦略を描くためには、国務省に専門家がいない、局長レベルの人たちがいないため大きな戦略は描けるわけがないのです。政権が「伽藍堂」ということが大きな弱点になっております。
第2節 極めて厳しい北朝鮮、東南アジア状況
  4月末、北朝鮮が核実験かミサイル実験をやるのではないかということで、トランプが空母を派遣しました。北朝鮮が実験をやればアメリカは軍事攻撃して戦争になるということで、東京で地下鉄が止まったということがありました。しかしその時期は、韓国の大統領は決まっておらず、ソウルと東京にはアメリカの大使も決まっておらず、アメリカが軍事行動を起こせるわけがありません。しかも、韓国には6万人の日本人がいるわけです。アメリカ人に至っては在韓米軍とその家族を含めると20万人のアメリカ人が住んでいます。それ以外にフランス人、イギリス人、ドイツ人、イタリア人、何万人ものヨーロッパ人が住んでいます。アメリカが朝鮮半島で軍事行動を起こすということは、アメリカ人、日本人およびヨーロッパ人の退避計画なしに、アメリカは軍事行動を起こせないのです。しかもソウルの人口だけで1000万人、韓国の人口の25%が住んでいます。そのソウルは38度線からわずか50qの距離にあるわけです。東京で言えば東京駅から八王子、関西では神戸三宮から滋賀の大津までの距離です。ソウルはそういう状況にあります。もし朝鮮半島有事になれば、アメリカが最初にやることは、徹底的に北朝鮮を空爆し、北朝鮮の攻撃能力を除去しようとします。しかし100%北の攻撃能力を除去することはできず、その残存兵力で北朝鮮はソウルを攻撃してきます。専門家によると、大体ソウルの人口の5〜7%が失われると言われています。5%といえば50万人です。その50万人のうちの何万人かはアメリカ人、日本人、ヨーロッパ人です。つまりアメリカが朝鮮半島で軍事行動を起こすということは、50万人が死んでも構わないという決断ができなければ起こせないことです。そんな決断ができる大統領はいません。それならCIAやシールズの特殊工作部隊が、ビン・ラーディンの時のように、人工衛星で見つけ爆撃で金正恩だけピンポイントで殺せばよいと言う人がいる。北朝鮮には1万を超える地下施設があり、一旦逃げこまれたらまずわかりません。ピンポイントで殺せればいいけど、殺せなければ北朝鮮は命がけで反撃してくるわけです。すると50万人のソウル市民の命が奪われます。日本にも弾が飛んでくるかもしれない。そんなリスクを冒せる大統領は一人としていません。アメリカ側が突如北朝鮮を攻撃するなんてことは夢の話です。そんなことで朝鮮半島の緊張が高まって日本の安全が脅かされるということは全然心配していません。むしろ心配しているのは、トランプも結局何もしないということです。中国にもっと圧力をかけろと責任転嫁をしておいて、結局トランプ政権も北朝鮮に対して何もしない。そしてロシアゲート事件が益々深刻になっていくと、大統領はスキャンダル対策にエネルギーを取られて朝鮮半島の問題どころでなくなる。最悪の場合はスキャンダルから国民の目を逸らせるため目的もなく金正恩と会ってしまう。史上初めての米朝首脳会談だけが自己目的になり、トランプ政権の4年間が終わってしまう。その間に北朝鮮は軍事力を増強していく。これが日本にとって、はるかに蓋然性が高く、危険なシナリオです。今北朝鮮は20〜30の核弾頭を持っていると言われています。あと4年間で核弾頭は40〜50発になる。これは北朝鮮がイスラエルになるということです。そして8年間放置されると核弾頭は90〜100発になる。これは北朝鮮がパキスタンになるということです。そうした中で、アメリカでトランプという極めて予測困難な大統領が登場し、韓国で文在寅政権が発足した。日韓の安全保障協力、更には日米韓の安全保障協力は極めて難しい状況になった。また昨年の秋、タイでプミポン国王陛下が御崩御され、東南アジアでもこれからどこに向かうかわからない。フィリピン、タイといった日米に与するべき国が、経済的、外交的に中国になびき、最悪の場合は安全保障上も中国になびいてしまうかもしれない。アメリカのTPP離脱の最大の罪は、アメリカがアジア太平洋地域でコミットしないのではないかと東南アジア諸国に思わせてしまうことです。全体的にみると我々は極めて厳しい情況の中にいます。
第3節 我が国は国家戦略の目標を立てるべし
  今日本には2020年までしか国家目標がない。東京オリンピックを超えた国家目標がないのです。安倍総理が2020年に憲法改正ということを仰って、それに反応するようにマスコミはいろんな形で安倍バッシングをしているわけです。2020年の憲法改正については勿論いろんな立場の人がおられて当然だと思うけど、しかし2020年の東京オリンピックを超えて「この国がどのような国であるべきかを考えなければならない」という問題提起として、安倍総理の仰っていることは真剣に取り上げるべきだと思います。それに対し中国は明確な戦略目標を持っています。2021年は中国共産党の結党100周年です。2049年は中華人民共和国の建国100周年です。2021年から2049年にかけて、つまり我が国が2700万人の人口を失う過程で、中国はアジア太平洋地域からアメリカの影響力を排除し排他的な影響力を確立しようとしています。そうした中で2年前の夏、安倍政権の下で平和安保法制を通しました。限定的ですが集団的自衛権が行使できるという法整備をしたわけです。国内では強い反対がありました。当時アメリカでトランプが大統領に当選すると思った人はいませんでしたが、トランプが大統領になって慌てて平和安保法制を通すような日本であれば、どれほどみじめな国に映ったことか。日本は良いタイミングで法整備をしたと思います。憲法を守らなければならないことは言うまでもありませんが、昭和21年に憲法ができた時、サイバー空間はなかった。しかし安全保障を考える上で、サイバー空間でのセキュリティは民間でも国のレベルでも死活的に重要ですが、個別的自衛権と集団的自衛権は区別できません。我々は今、憲法の想定していない安全保障環境に直面しています。憲法の解釈を閣議決定で変えるのはけしからん。法的安定性を損ねると言う憲法学者がたくさんいました。しかし、「日本が集団的自衛権は持っているけれども行使できない」という政府の見解が固まったのは1972年(昭和47年)のことです。それまでは集団的自衛権が行使できないという政府の見解はありませんでした。沖縄返還を受けて「集団的自衛権が行使できることでは沖縄の米軍基地とリンクして日本がアメリカの軍事戦略に巻き込まれてしまう」という世論や野党の批判を逸らすため集団的自衛権は行使できないという狭い政府解釈に変えたのです。その時に法的安定性を損ねると言った憲法学者は一人もいません。戦略環境が変わったから憲法解釈を変えたのです。同じように戦略環境が変わったから今回憲法解釈を変えたのです。1972年に法的安定性を損ねると言わなかった憲法学者が、2015年には法的安定性を損ねると言っているのです。いずれにしても集団的自衛権が限定的に認められましたが、日本が置かれている厳しい国際環境からするとまだまだ十分ではありません。

第四章 最後に
  最後に3つのことを申し上げたいと思います。一つ目は、日本の防衛予算は5兆1千億円。GDPの1%弱です。これで本当にやっていけるのでしょうか。NATOの同盟諸国はGDPの2%支出というのが公約です。いきなり日本がGDPの2%まで防衛費に使えるかと言えば財政的にも政治的にも外交的にも難しいと思います。今の5兆円規模を10兆円にすることは難しいと思いますが、北朝鮮、中国の動向を見た時、最近東京のあるシンクタンクは、当面防衛費をGDPの1.2%、今の5兆円前後から6兆円規模に増やすべきだという提言をしています。この1.2%はよく考えられた数字で、ドイツが1.3%です。あと1兆円我々国民が負担するということです。そんな覚悟があるのか、政治が決断できるかということが第一点です。
  二つ目は、北朝鮮のミサイルが増強されている。今の日本は、北がミサイルを撃ってきたらイージス艦で撃ち落とす。撃ち漏らしたものはパトリオットミサイルで迎撃する。所謂ミサイル防衛で対応しようとしているわけです。しかし北のミサイル数が増えれば増えるほど確実に撃ち落とすことが難しくなっていくわけです。ミサイル防衛は専守防衛という観点からはとても良いのですが、コストパフォーマンスでは非常にお金がかかり、しかも確実性が少ない。日本は今後もあくまでミサイル防衛に徹していくのか。それとも限られた予算の一部で、北朝鮮が日本の都市を破壊すれば、それ相応の北朝鮮の都市や施設を日本が破壊できるという敵基地攻撃の能力を持つということを検討するのかということです。先日、小野寺防衛大臣は検討すべきだと記者会見で仰いましたが、実際に進めて行くのかどうかを考えていかなければならないことです。三つ目は、尖閣の問題です。2月にマチス国防長官が来日された時、日本側は、尖閣有事の時には「アメリカは尖閣を守ってくれるのですか」と繰り返して尋ねました。国防長官は「尖閣有事の際は日米安全保障条約第5条の適用範囲である」と答えた。安倍総理はトランプ大統領に同じことを言った。トランプ大統領も「尖閣は安保条約第5条の適用範囲にあたる」と言った。しかしアメリカは、尖閣を日本の領土とは認めていません。「日本の施政権のもとにある尖閣諸島」と言っているにすぎません。日本は尖閣諸島を日本固有の領土だと言っていますが、日本固有の領土を守るため日本は何をするつもりなのか。尖閣を巡って海上自衛隊と航空自衛隊が、中国の海空軍と真っ向から向き合うというシナリオは絶対に避けなければなりません。それは戦争をする覚悟があるということであり、避けなければなりません。したがって海自、航空自衛隊が中国と向き合う前に、海上保安庁レベルで警察権の行使としてあの島を守り抜くことがポイントです。しかし海上保安庁の去年の年間予算は1800億円で、全然足りないと思います。この予算は東京大学の年間予算よりも少ない。日本には6800の島があり、それを全部守れというのは無理です。2020年までには中国海上保安庁の実力はダブルスコアで強くなってしまい、警察力の範囲では守り抜けなくなります。防衛力だけではなく、海上保安庁の急速な増強も緊急の課題と言わなければなりません。
  今後、具体的にやらなければならないことがたくさんあります。「日本一国で何が出来て、何が出来ないのか。日米が協力したら何が出来て何が出来ないのか。日米の枠組みに韓国やオーストラリア、東南アジアの協力を得てマルチでやったら何が出来て何が出来ないのか」ということを具体的な数字を挙げて検討していくギリギリのところに来ています。そういう厳しい状況をトランプ政権発足から半年で教えてくれたのではないでしょうか。いくら愛国心を語っても予算を付けない国は滅んでいきます。観念論を言っている時代は終わったのです。具体的な大人の安全保障論をすべきギリギリのところへ来ているのです。

質疑応答
「質問1」

  此の頃、日本のマスコミを信じられないのですが。

「回答1」

  ネットの普及に伴ってメディア状況も混乱していて、例えば今の新聞の発行部数は4300万部です。ピーク時の5500万部から1000万部下がっており新聞業界は非常に苦しい状況です。1年間に100万部発行部数が減っています。100万部というと北海道新聞の発行部数と同じで、新聞社が1社潰れているのと同じです。古いメディアが追い詰められ、新しいメディアが出てきている。そういう混乱の中でメディア自身が方向性を失っています。また安倍首相が2020年の憲法改正と仰って、それを阻止するため、あらゆる手段でこの内閣を攻撃するということが起こっているような気がします。加計学園問題では、文科省の前川前事務次官が行政の客観性が歪められたと仰るけれど、文科省が大学に対してやっていることは、圧力以外の何物でもないのです。自分達が強い立場にいる時には、許認可権をもって弱い者に圧力を掛けておいて、自分達が弱い立場に立つと圧力を掛けられたと大騒ぎをする。行政の客観性が歪められたというけれど文科省は早稲田大学を始めとする多くの大学に天下り人事をやって行政の客観性を歪めたのは文科省なのです。国会で何故組織的にあれだけ天下りが起こったのか彼自身が説明しなければいけない。そういう人をあたかも権力に立ち向かうヒーローかの如く一部のメディアが描いているのは論外です。少なくとも複数のメディアに触れ、出来るだけ自分と違う考え方に触れることは、とっても大事なことです。自分達とは違うロジックや違う観点から社会現象を論じている人達の考えを聞くことが、客観的でいられる最低限の条件である思います。


「質問2」

  日本の人口構成は、純日本人が多いというイメージです。今後グローバル化が進むとこの比率も変わっていくと思いますが、どう考えたら良いのでしょうか。

「回答2」

  移民を受け入れるべきかどうかについてはいろんな観点があります。例えば少子高齢化に伴う人口減少を食い止めるために、労働力として受け入れるという議論であれば、年間に100万人規模の移民を受け入れる覚悟が必要です。5〜6万人に門戸を開いたところで、日本の人口減少にとても対応出来ません。しかし、移民の人達が日本に来たいと思える国にすることは大事だと思います。移民と言えば工場で働く人を連想しますが、例えば、世界の最先端で活躍するアーティストやエンジニア、科学者、教育者そういった人達が、日本の大学やトップ企業で是非働いてみたい、日本の劇団やグループで活動してみたい、家族を連れてこの国に住み、自分の子供達の世代もこの国で教育したい、と思えるような魅力的な社会にならなければ、この国は滅んでいくと思います。そういう意味で、我々は異質なものに対してオープンで、共存出来る、魅力的な社会にするということが一番大事なことです。


「質問3」

  トランプ暗殺の可能性はありますか。

「回答3」

  人種差別的なことでは、オバマの方が暗殺リスクは高かったと思いますが、8年間暗殺未遂事件は起こっていない。トランプは、オバマほどリスクは高くないと思います。


「質問4」

  防衛予算、海上保安庁の予算確保のため、防衛国債があれば国民は買うのではないかと思いますがいかがですか。

「回答4」

  アイデアとして、長期的には特定の防衛国債や海保国債の可能性はあるのかも知れませんが、今大事なのは、速やかに政治が決断して予算を増やすことであると思います。


「質問5」

  新聞に「海上保安庁は尖閣の専従体制を作った」と出ていましたが、中国はそれ以上のペースで規模が拡大しているということですか。

「回答5」

  今のペースでいけば、2020年位には、かなりの差を開けられているというのが専門家の言うところです。相当厳しい状況です。


「質問6」

  中国が尖閣を取る方法として「漁民が偶然避難して、それで公船なり軍艦が出ていく」というシナリオが考えられるのですか。

「回答6」

  勿論ありうると思います。我が国は、警察力で対処すべきか、軍隊が出ていかなければならないのか、よくわからないグレーゾーンの安全保障が非常に弱い。グレーゾーンの安全保障は、自衛隊が対処範囲を拡大して下の事までやっていく方法と、逆に警察が能力を上げてグレーゾーンの上のところまで埋めていく方法と2つのやり方があります。私は基本的に後者の方が安全だと思います。軍が役割を拡大しますと、早い段階から軍と軍の衝突が起こります。出来るだけ警察力でカバーする努力が必要です。尖閣についても海上保安庁が対応出来る能力を高めていくことが大事だろうと思います。


「質問7」

  警察力は軍より弱いため、かえって危険になるということはないでしょうか。

「回答7」

  警察力でカバーする範囲を高めるといっても、最終的には、後ろには海自、航空自衛隊の担保がなければ絶対にいけません。海自、航空自衛隊と海上保安庁との連携がしっかり出来ている上で、海上保安庁の活動の幅を大きくしておいた方が、安全な体制であると申し上げたい。


「質問8」

  安倍第3次内閣が決まりましたが、その中で外務大臣が気になるのですが。

「回答8」

  河野外務大臣は、お父さんと同じ考えでは必ずしもありません。安倍首相は、河野洋平さんの息子を外務大臣に起用することが、中国や韓国に対し「日本が関係悪化を望んでいるわけではない」というメッセージになると考えたのではないでしょうか。これからの仕事ぶりだと思います。ただ、今回の組閣で気になったことは、河野さん、世耕さん、林さん、皆さん優秀な方々ですが、世襲政治家が増加したということです。これが自民党政治の弱点で、自民党の人材供給の偏りを示していると思います。しかしNPOの活動をやってから政治家になった人。役人や地方議員からなった人。自分一代でここまでやってきたという人もいます。やはり政治家のバックグラウンドも多様でなければ、日本の民主主義は心配です。そういう意味で、苦しくなると世襲頼みとなる自民党の体質が浮き彫りになったという感想をもっています。


「質問9」

  朝鮮半島有事の時、アメリカの場合、軍人の家族は非常訓練、脱出訓練を練習していると聞いた。在留邦人6万人がいる日本は能天気ではないですか。

「回答9」

  訓練が出来ているのは、在韓米軍及びその家族だけでしょう。20万人いるアメリカ人のほとんどはビジネスマンや留学生などの民間人で、そういう準備は出来ていないでしょう。もちろん、有事の時、組織的に在留邦人を救出出来ないのは間違いありません。


「質問10」

  韓国との間の竹島問題の今後の見通しは如何でしょうか。

「回答10」

  尖閣と竹島の根本的な違いは、竹島は韓国が持っているという事です。日本は竹島を力ずくで取り返すと言っていないわけで、基本的に韓国が騒ぐ必要はないが、彼らは独島として象徴的な意味で常に取り上げている。日本が気を付けていなければならないことは、国内にいると竹島は日本のものだ。尖閣は日本のものだ。1800何年の何々条約がある、と国内の情報だけ聞いていると竹島も尖閣も間違いなく日本のものだと思うわけです。しかし中国にも言い分があり、韓国にも理屈があるのです。議論に勝つ為には、相手の論理を知らないとだめです。少なくとも相手が、どういうロジックで領土問題を語っているかというのを知らなければ、自分達の手の内の理屈ばかりを言っていても勝負には勝てません。また日本は「竹島の問題を国際司法裁判所で判断してもらいましょう」韓国は「独島は韓国の物だから国際司法裁判所に行かない」と言っていますが、もし韓国が国際司法裁判所で議論することに同意した時、日本の勝ち目は60%だと思います。日本人が思っている程確実に勝てる話ではありません。韓国ではハーバードやプリンストンの国際法で博士号を取ってきた30代、40代の優勝な学者を集めて、国際司法裁判所でもし争った時にどういう議論で日本を論破するかというワーキンググループを作っています。日本の外務省はそんなことはやっていません。そういう意味でも、相手の理屈をしっかり知っておくということが極めて大事なことです。


「質問11」

  北朝鮮がこの状態で進むと、将来イスラエル化、パキスタン化するかも知れないということですが、イメージとしてはどんな状態ですか。

「回答11」

  北朝鮮の核問題は、北が核兵器を持っていることを皆知っている。しかし公式には核保有国と認めていない。今後北朝鮮が核保有国であることを、アメリカ及び日本、韓国が認める気があるかどうかです。認めた上で北朝鮮と核凍結の交渉をするかどうかです。第一段階として凍結させる。これ以上増やさないというところに持っていく。核凍結が確認出来たら、今持っている現有の核弾頭の数を減らすように誘導していく。というような二段階方式で日米韓足並みをそろえてやることが出来るかどうかということです。今のトランプ政権の混乱や、韓国政府そして日本でも内政上、政権の立場が弱くなっていますから、日米韓が足並みを揃えて北朝鮮を一旦核保有国として認めることに対し世論の反発もある。またそれを抑えても、北朝鮮を核保有国として認めた上で先ず凍結をさせて、次の段階でこれを削減させていくという長期的でコーディネイトのとれた政策がとれるかということは難しいと思います。



以上は、「同志社大学教授 村田晃嗣氏の講演」を國民會館が要約・編集したものであり、文章の全責任は当會館が負うものです。



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