ホーム > 武藤記念講座(講演会事業)ジャーナリスト 井上和彦氏>『日本を取り巻く安全保障の真実』

武藤記念講座(講演会事業)

第1035回武藤記念講座要旨

    2017年9月16日(土)
    於大阪「武藤記念ホール」
    ジャーナリスト   
    井上和彦氏

 『日本を取り巻く安全保障の真実』  

セミナー





はじめに
  戦後、日本を取り巻く安全保障や軍事の話をしますとよく“右翼”などというレッテルを貼られてきました。しかしながら本来、軍事は政治・外交の延長線上にあり、安全保障とは経済・外交・教育・福祉・エネルギー問題などあらゆる分野にかかわってまいります。軍事の話をしますと「戦争したいのか」と言う人がいますが「如何に戦争をせず、戦争を回避するか」ということが安全保障であり「平和を望むからこそ、安全保障を学ぶ」のです。単に平和を唱えるだけでは平和は訪れません。「病気が治りますように」と祈るだけでは病気は治りません。医者が体温や血圧を測り、血液や尿を検査し、必要ならばCTを撮り、外科手術をして病気を治すのです。安全保障も同様です。
  また日本を取り巻く安全保障環境を考えるときいつも「逆さ地図」を使います。日本列島は朝鮮半島や大陸から太平洋へ出る玄関口を完全に塞ぐ形になっていることが分かります。北方領土はロシアが太平洋へ出る玄関口であり、尖閣諸島や沖縄は中国が太平洋へ出る玄関口に位置しています。地図を逆さに見ることでいろいろなことが分かります。

第一章 日本は果たして軍事大国なのか
第1節日韓が連携すると都合の悪い中国
  現在の東南アジアと日・中・韓の兵力及び国防予算を比較しますと、中国は空軍機2,715機、陸上兵力160万人、海軍艦船150万トンです。東南アジア諸国が全部束になってかかってもかなわない状況です。日本が軍事大国であると言う人達がおりますが、自衛隊機410機、陸上自衛隊14万人、自衛艦47万トンで中国と比較すると全然違います。韓国は空軍機619機、陸軍兵力50万人、海軍艦船21万トンです。これまで日本と韓国は双方の同盟国アメリカを中心に、連携してゆく必要があるのですが、そうなると都合の悪いのが中国です。そこで中国は日本に歴史戦をしかけ、これに韓国がすっかり乗せられ日本との間で不毛な歴史論争をエスカレートさせているのが現状です。このところの韓国は、慰安婦問題や徴用工問題などを持ち出して執拗に日本を攻め立ててくる異常な状況が両国の関係、とりわけ安全保障上の連係に深刻な問題を引き起こしています。その父親が親日で知られた朴正煕大統領であったことから、同じく保守派の朴槿恵前政権なら、これまでの不毛な歴史認識問題も少しは改善されるだとうと期待していたのですが、まったくの期待外れでした。朴槿恵大統領は、“反日”で連携を呼びかける中国にすっかり取り込まれてしまったのです。中国が韓国の商品を買う。韓国企業をどんどん中国へ進出させる。気がつけば韓国は中国依存の経済体質になってしまった。日本でも中国の爆買いで喜んでいる人達がいますが、尖閣諸島で中国の漁船が巡視船に体当たりをした後、中国は日本への観光客を止めました。フィリピンでも同じことを行っております。中国の戦略です。もちろん中国と仲良くすることは大事なことですが、油断していると足元をすくわれるということに気を付けなければなりません。
第2節 国土と国民を守ることが軍人の使命
  日本の陸、海、空の自衛官の合計は約24万人です。アメリカ、イギリス、フランスなどG7参加国などでは、1人の軍人が平均するとおよそ300人の国民を守るという割合が標準です。ところが日本は1人の自衛官が、国民570人を守らねばならない計算になり、つまり人口に対する軍人の比率は半分ということになります。日本と同じ敗戦国のドイツ、イタリアは、それぞれ444人、333人に1人という状況です。敵対国に囲まれたイスラエルは国民45人に1人が軍人です。韓国は徴兵制を採っており国民76人に1人が軍人です。
  日本では、軍隊と聞けばすぐに戦争と結びけて疎んじる人もいますが、外国では軍隊は自国を守る尊敬されるべき存在であり このあたりの感覚がまったく違います。国民と国土を守るために軍隊はあるわけです。
第3節 日本の防衛費は高くない
  日本の防衛関係費は5.1兆円で国内総生産(GDP) の1%です。防衛費が高いと言う人がおりますが、他国はGDPの2.5〜3%です。日本は他国と比べ3分の1です。例えば健康保険は年収との比率で保険料を負担しますし、生命保険や傷害保険は、万が一の場合に備え、年収に応じた補償内容を検討し加入します。しかし日本の防衛に関しては、極めて小さい保険しかかけておりません。普通の国の3分の1です。したがって日本は全然備えが出来ておりません。「これだけの保険で大丈夫ですか」と言われる状況です。しかし日本には日米同盟があります。日本に駐留する米軍の力を日本の戦力として換算しているから「大丈夫です」と言えるのです。「アメリカ軍は日本から出て行け」と言うならば防衛費を15兆円にする必要が出てくるのです。さらに自衛官の数も48万人に倍増しなければなりません。防衛費を15兆円に増額して、ようやく世界の国々と同等のレベルになるわけです。日本がこれまでアメリカ軍に依存し、安全保障を放置してきたのが実態です。

第二章 東アジアの安全保障環境の状況
第1節 急激に高まる北朝鮮の脅威
  先日北朝鮮が6回目の核実験を行いました。2006年の第1回核実験以降も、日本が危機意識を欠如していたことも原因の一つです。北朝鮮はロシアや中国との国境のすぐ近くの豊渓里(プンゲリ)で核実験を行いました。第1回目の爆発規模は0.5〜1キロトンでした。広島型ウラン型原爆が16キロトン、長崎型プルトニウム原爆が21キロトンでしたから、これよりははるかに規模の小さいものでした。この間に北朝鮮は開発を続け、今年9月には250キロトンの核実験を行いました。長崎型原爆の11倍です。大阪心斎橋に投下されますと、琵琶湖まで火の海となり放射能で汚染されることも想定されます。しかしこういう状況でも、国会では相も変わらずスキャンダル論議です。「国土・国民を守ること、経済大国日本が繁栄すること」について国会ではもっと真剣に議論して欲しいと思います。
  北朝鮮の弾道ミサイルが着実に進化し、アメリカのロサンゼルスやサンフランシスコに到達するミサイルが開発されるのももはや時間の問題です。日本を射程圏内におさめるノドンやテポドンなどの中距離弾道ミサイルはすでに配備されております。更に深刻なことは8月29日の弾道ミサイルが首都平壌近郊から発射されたことです。従来は、もし失敗しても自国に被害が及ばない海岸沿いからの発射でした。つまり技術力が格段に向上した証拠です。また2週連続でミサイルを発射しました。昨日発射したのが火星12号で、射程距離は約4800キロ、アンカレッジまで届くと思われます。5月26日に発射したミサイルは北極星2号で、ソ連が北朝鮮に供与した潜水艦発射型ミサイルを地上型に独自改良した中距離弾道ミサイルです。日本列島のあらゆる地域に届きます。日本にとって北朝鮮の脅威は急激に高まっております。
第2節 東アジア地域全体の安定化が必要
  国連では、北朝鮮に対する追加制裁決議が採択されました。そもそも中国が北朝鮮への全面的な石油禁輸に反対しておりますが、実は、遼寧省からパイプラインで年間50万トンの石油を北朝鮮に送っております。オバマ前大統領は北朝鮮に圧力をかけましたが、北朝鮮はミサイル開発と核実験を続けてまいりました。そこでトランプ大統領は、北朝鮮の後ろ盾である中国に対し圧力をかけ、その結果追加制裁が合意できました。
  中国にとっては、北朝鮮が崩壊し難民問題が発生することを恐れています。また北朝鮮のミサイルが北京へ向けられる可能性も否定できません。
  1950年に勃発した朝鮮戦争で毛沢東が北朝鮮を支援したのは、中国の安全保障上の理由からでした。もしや北朝鮮が崩壊すれば、中国国内の内モンゴル自治区、ウイグル、チベット、少数民族の独立運動にも影響がでるでしょう。したがって北朝鮮の存在は中国の死活問題であり、さらに地域が混乱する可能性があります。
第3節 弾道ミサイル防衛の実情と課題
  日本の弾道ミサイル防衛は専守防衛で聞こえは良い。しかし、野球に例えると守備専門の野球チームです。攻撃は全員アメリカ人の指名打者です。もしやアメリカ人の指名打者が本国に帰ると言った瞬間にどうなるでしょうか。考えただけでもぞっとします。
  さて今日本のミサイル防衛システムは、イージス艦搭載の「SM3艦隊空ミサイル」と、地上に設置された地対空ミサイルの「ペトリオットミサイルPAC3」の二段構えですが、これに加えてイージス艦搭載のSM3と同じミサイルを地上から発射できる「イージス・アショア」という新たな迎撃ミサイルの採用が検討されています。つまり三段構えで弾道ミサイルを迎撃しようというわけです。さらに、とてつもない高高度に打ち上げるロフテッド軌道で弾道ミサイルが飛んできた場合、迎撃が難しいのです。先日撃ってきた弾道ミサイルは高度2800km です。8月29日に撃ってきたミサイルは高度550km、今度が高度800kmです。それに対処するため、現在 SM3ブロック2A というミサイルを日米が共同で開発しております。
  更に、巡航ミサイルトで、発射前のミサイル基地を攻撃するということも検討されています。いわゆる敵基地攻撃です。もちろんこれは「専守防衛」の範囲内であり、他国を侵略するような行為ではありません。座して死を待つわけにはいかないのです。

第三章 日本の積極的平和主義とは
第1節 韓国と北朝鮮の戦力バランス
  朝鮮半島の韓国と北朝鮮の戦力バランスは、北朝鮮の総兵力が120万人に対し、韓国は50万人と在韓米軍が2.5万人です。アメリカの第7艦隊や海兵隊は日本の米軍基地に駐留しており、韓国の防衛には在日米軍が不可欠なのです。そのことからも日米韓、日韓がしっかりと連携することが必要であり、韓国がいわゆる“歴史問題”とやらを持ち出して日韓関係をぎくしゃくさせていることは、大きな問題です。
  さて北朝鮮の長射程砲が約8千門から1万門、38度線の国境付近に配備されているとみられています。これが一斉に射撃を始めますと、国境から40Kmの首都ソウルは「火の海になる」というのは嘘ではありません。韓国の人口5千万、そのうちの約4分の1が集まり、政経の中心である首都を人質に取られた形になっております。また北朝鮮の工作員が半潜望艇で上陸したり、精強な特殊部隊が韓国に侵入してきたら大変なことになります。
  北朝鮮は第二次世界大戦中、ソビエト連邦が開発した布張り複葉機アントノフ2型を約200機持っており、低空を飛び、布張りでレーダーに映りにくいいわば“ステルス機”です。この航空機で特殊部隊を韓国領内に送り込んでくることもあり得ます。軍事とは必ずしもハイテク兵器だったら良いというものではなく、旧式兵器でも使い方次第であるということです。逆に北朝鮮が“最も恐れる兵器”は、ある意味で、韓国の大型スピーカーでしょう。韓国の宣伝や北朝鮮の体制批判などの謀略放送を北朝鮮は一番恐れています。
第2節 日本で安全保障論議はタブー視
  戦後の日本では、「自衛隊があるから戦争になる。自衛隊が海外に出ると戦争になる」というとんでもない妄想がまかりとおってきました。ならば例えば、消防署があれば火事になりますか?交番があれば泥棒が走り回りますか?折り畳み傘持てば雨が降りますか?「言霊信仰」です。受験シーズンに「落ちる。滑る。」は絶対言えない。縁起の悪いことは言うなということです。自民党の故中川昭一さんは「日本は非核三原則ではなく、非核五原則だ」と言われました。「持たず、作らず、持ち込ませず」に加えて、あと二つ「考えず、語らず」です。「ダチョウ現象」です。ダチョウは脅威を感じると、砂の中に頭を突っ込み、「頭かくして尻隠さず」です。これを日本はずっと続けてきたのです。この「脅威」の中で脅威について考えないことが続いてきたということです。
第3節 海外で評価される日本のPKO活動
  今から25年前、日本はカンボジアに PKOを派遣しました。このとき日本国内では「自衛隊が海外に出たら戦争になる。アジアの人達が脅威に感じる」という声が上がりました。平成4年に自衛隊が16名、警察官が75名派遣され、その後陸上自衛隊が延べ1200名、国家公務員5名、地方公務員13名、民間人23名が派遣されました。しかしその間に警察官と国連ボランティアの学生の2人がゲリラに襲撃され尊い命が失われました。警察官は、オランダ軍に護衛してもらって移動中している最中にゲリラに襲撃されて亡くなったのですが、自衛隊がカンボジアにいたのに守ることができなかったことは残念なことです。 先日カンボジア・タケオ市に行ってまいりましたが、自衛隊の駐留していた場所は、現在サッカーパークになっており、地元の子供たちがサッカーを楽しんでいました。この辺りはかつてポルポト派のゲリラが出没していました。当時カンボジアの情報局職員だったサオさんは、「日本の自衛隊が来てくれて安心した。おかげで夜に電気をつけて生活することができました」と言われました。女性ガイドのソフィアさんは「1992年の自衛隊の派遣以降、日本は多大な支援をしてくれました。心より感謝しています」と言っていました。ソフィアさんには子供が2人いますが、中学生のお姉ちゃんの名前は「カオリ」、息子さんの名前は「キンタロウ」と名付けたそうです。将来日本とカンボジアのかけ橋になってくれればいいなと考えているそうです。

第四章 安全保障における今後の対応
第1節 集団的安全保障が重要
  日本のODAは無償支給です。中国のODAは全部有償支給です。メコン川に橋があり、日本製の橋は安心ですが、中国の橋は怖いと言っていました。中国製はすぐに壊れたりするからだそうです。プノンペンには日本の援助でできた「つばさ橋」と「きずな橋」があるのですが、なんとカンボジアの500リエル紙幣の裏に、これらの橋が描かれ、さらに日の丸までもが描かれているのです。カンボジアでは、25年前の自衛隊のPKOからODAなどが高く評価されています。 かつて国会前で安保法制の反対デモが行われたりしましたが、東南アジアをはじめ世界各国は日本の集団的自衛権の行使や積極的平和主義を歓迎してくれていることも知っておいていただきたいのです。かつて安保法制が議論された時、ホルムズ海峡に機雷が敷設されてもそんな遠くに自衛隊を派遣して機雷掃海をすべきでないという意見もありました。しかし原油の83%、天然ガスの30%がここを通って日本に運ばれているのです。もしやホルムズ海峡に機雷がばらまかれてタンカーが通れなくなれば、我々の日常生活はもとより日本経済に深刻な影響を及ぼすわけです。しかし日本の政治家の一部は、こんなことすら理解できないのですから頭の痛い話です。
第2節 中国の接近阻止戦略
  太平洋上には小さな日本の領土「沖ノ鳥島」があり、「島」と認められております。この島があることにより、日本の国土面積は38万平方キロメートルですが、この島のおかげで国土面積よりも大きい41万平方キロメートルの排他的経済水域が確保できています。ところがこれは中国の海洋戦略にとっては都合が悪い。そこで中国は、沖ノ鳥島は「島」ではなく「岩」だとケチをつけてくる。 とにかく中国は、第一列島線と第二列島線の間でアメリカ海軍を止める「接近阻止戦略」という海洋戦略をもっており、そのため第一列島線の内側にある東シナ海と南シナ海を自分の内海にしようと躍起になっているのです。
第3節 安全保障で重要な日露関係
  日ロ関係は安全保障上で重要です。日露間で合意された8項目の日本の協力とは、健康寿命の伸長、快適・清潔で、住みやすく、活動しやすい都市づくり、中小企業交流、エネルギー等です。日本に助けてくれというロシアの切実な願いではいでしょうか。日露関係で大切なことは安全保障分野での関係強化でしょう。もちろん北方領土返還交渉を怠ってはなりません。北方領土を今の防衛力で力づくで取り返すことはできませんから、ここは日露首脳会談で粘り強く交渉してもらう必要があります。ただ「日露関係」は北方領土問題だけではありません。
  さてロシアが親日の国だというのはあまり知られていません。
  平成28年に日本の外務省が行ったロシア人の対日調査では、ロシアと日本は友好関係だと思う人が78%、日本との友好関係が重要だと考える人が97%です。ロシア人の対日感情が良好なのは、中国や韓国と違って「反日教育」をしていないことです。
  こうしたことを背景にロシアを味方につけて、日本の安全保障上の脅威である北朝鮮、中国と向き合っていくことが重要でしょう。
  樺太の南のコルサコフには天然ガスの積出港があります。北海道から樺太までの距離は42kmです。ロシアからの天然ガスの輸入も、1万2千キロの中東からのシーレーンを抱える日本にとっての安全保障の一つでしょう。もしやロシアと安全保障で連携できるなら、それは間違いなくプラスになるということを安倍首相は言っておられます。安倍首相が日露防衛協力を急ぐ理由は、日本に対し核兵器ミサイルの照準を合わせている中国の封じ込めです。ロシアにとって陸続きの中国は脅威です。共通の脅威に力を合わせて向き合ってゆくことは日本の安全保障にとって重要です。日露交渉で上手に日本の安全保障と領土問題を解決していくということが必要です。
安全保障は俯瞰の目で見ていただくことが重要であると思います。

以上は、ジャーナリスト 井上和彦氏の講演を、國民會館が要約、編集したものであり、文章の全責任は当會館が負うものです。



お問い合わせ

イベント情報や館内のご利用についてなど、お気軽にお問い合わせください。

※メールソフトが開きます

お問い合わせ