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武藤記念講座(講演会事業)

第1040回武藤記念講座要旨

    2018年1月13日(土)
    於大阪「武藤記念ホール」
    京都大学名誉教授   
    中西輝政氏

 『世界史の潮流を見極める −2035年の世界を展望して』  

セミナー





はじめに
  今年は、日本が大きな分かれ道となる重要な年です。年明けから日本周辺では新たな動きが出てまいりました。北朝鮮の金正恩委員長が突然「韓国の平昌オリンピックに参加する」と言い出しました。北朝鮮が相当追い込まれているところでの不審な動きです。オリンピックは平和の祭典ですから参加を拒む理由はないのですが、例の美女軍団はミサイルより恐ろしい。日本最西端の与那国島では自衛隊が駐屯することになりましたが、沖縄の港には華僑系の大型クルーザーが数千名のお客を乗せて入ってきます。尖閣諸島に入ってくる潜水艦も怖いですが、札束を持ってくるクルーズ船も脅威です。この10年ぐらい安全保障環境は一気に悪化し、日本人はやっと戦後の長い眠りから目覚めました。憲法9条は安倍総理の言う改正でもかなりの進歩です。防衛費も増加しました。憲法改正、安全保障の問題は既に方向が見えたと思います。しかし国力の衰え、経済の落込みは一層深刻な問題です。今から22年前、日本のGDPは世界の約18%を占めていました。今は約6%でかっての3分の1です。世界は相対的な力関係で決まります。国力あっての安全保障です。これほど危険なことはありません。2035年という新しい時代に向かって、今年はこの問題を日本の国家的課題として提起したいと思います。

第一章 年明けからの日本周辺の動き
第1節 北朝鮮の情勢
  北朝鮮のオリンピック参加表明を受け、トランプ大統領は「金正恩と俺は良い関係だと思う」と言いだしました。アメリカの雲行きが変です。韓国の文大統領は平壌に行きたくてムズムズしています。オリンピックの効果でしょうか。昨年末までの動きが一変しました。平昌オリンピックが終われば昨年の流れに戻り米韓軍事合同演習が果たして再開されるのでしょうか。北が核実験やミサイルを飛ばせば話は別ですが、オリンピックで“南北和解”が盛り上がれば、簡単には切り替えられないというのが常識的な判断だと思います。昨年末、金正恩委員長は「国家核武力の完成を見た」と言いました。しかしアメリカの情報ではICBMの射程はニューヨーク、ワシントンまで届いても、まだ核弾頭が大気圏に再突入する技術はないと伝わってきます。一方イギリスからは違う情報が伝わってきます。どちらを信用してよいのかは分かりません。金正恩委員長が賢いならば、これ以上の核実験・ミサイル実験は慎むでしょう。北朝鮮情勢は潮目が変わり始めたという目を持つことが大事です。
第2節 慰安婦問題
  北朝鮮危機の本当の根源は韓国で、すべては韓国の内政が震源地です。前大統領の朴槿恵さんは親日の保守政治家だろうと期待していました。しかしながら変な祈祷師に操られ、慰安婦問題での反日は神がかりと思われるほど異常でした。今度の文在寅大統領は「私が最初に外交ですることは南北首脳会談です」と言って当選しました。今までの日・米・韓連携から離れ、明らかに北京や平壌の方へ向いています。昨年来、安倍総理が進めて来た対北朝鮮戦略が崩れてしまいました。韓国は新年早々、慰安婦の当事者が納得していないからこの合意は意味がない。日本に再交渉を求めることはしないが、真摯に謝罪をして欲しい。日本から貰った10億円は棚上げして使わないことにすると言って、日韓慰安婦合意をほとんど反故にしております。日本人は我慢強い。この人間性は素晴らしいことですが、世界では下手に我慢していると国家の運命は悲劇に向かう可能性があります。韓国側の言い分は間違っていると大々的な国際広報活動をしなければなりません。韓国に騙されて世界中の都市に次々と慰安婦像が立っています。韓国は東アジア歴史財団なるものを作り年間300億円使っております。中国は1,000億円の単位で対外宣伝活動に出費しています。実は私は、今から5年程前、安倍総理に、歴史問題で中韓が必ず対日圧力をかけて来る。外務省とは別枠で30億円ぐらいの予算をかけて対外広報機関を作って下さいと申し上げました。しかし未だに形になっておりません。一方で安倍内閣は、アニメやラーメンを世界に宣伝するため外務省所管の広報組織には500億円も予算つけていますが、これは順番が逆です。これも私はすでに締結時に予言していたのですが、今回日韓慰安婦合意は事実上崩壊しました。国際政治的に言えば完全に反故になりもはや元には戻らないでしょう。
第3節 尖閣問題
  新年からいきなり中国海軍の潜水艦が日本の接続水域に入ってきました。すでに前から中国の巡視船は尖閣の領海まで頻繁に入ってきております。日本政府はこの5年間ずっと、尖閣諸島には国旗を立てているわけではない。公務員が常駐しているわけでもない。これだけ中国の公船が侵入をくり返せば、「尖閣は、日本の領土で実効支配している」と何で証明できますか。国際法では支配する意思が大事ですが、これでは国際司法裁判所の裁判官は「日本は尖閣領有の意思がない」と判断してしまいます。今回中国海軍は正面から国際法を破っているわけではありませんが、接続水域という領海の外側の海に入ってきたことは非常に危険な行為です。昨年から日中関係を修復するという流れがありました。二階俊博幹事長が中国を訪問し、安倍総理は、中国が推進している「一帯一路」という大プロジェクトに協力しても良い、AIIBアジアインフラ投資銀行にも厳格な融資審査をするなら参加しても良いと言い出しました。日中修復は、日本の経済界が中国の経済成長の波に乗ろうとしている大きな流れであり、経済で民間が進めるのは大いに結構です。たしかに尖閣問題はじめ懸案が山ほどあり、こちらは原則を貫くべきです。しかし経済のためなら日本の国力回復という大命題のため大いにやればよいです。
  トランプ大統領はチャイナ・マーケットをこじ開けようと、習近平氏は世界的な偉大な指導者だとお追従していました。その結果、中国はアメリカの金融資本に大々的に市場提供するという決定を下しました。日本の新聞は、中国がアメリカ製品を28兆円買い付ける約束をしたと騒いでいましたが、ロイター通信は、金融市場開放の規模はざっと見てもその百倍、2,800兆円規模と伝えております。米中関係はこれで決まりです。アメリカのヘゲモニーは「金」(マネー)が主要目的です。安全保障でアメリカは動きません。
  中国は日本に対してもお金で釣り上げる戦略です。石垣島にクルーズ船をドンドン持ってこられたら、どれほど巡視船を増やしても尖閣は守り切れるでしょうか。ここが一番の難問です。

第二章 今年は日本の将来の分岐点
第1節 大国の動向
  今年世界中で選挙があります。3月18日は平昌オリンピックが閉幕する日ですが、同じ日にロシアの大統領選挙があります。プーチン大統領が再選されることは間違いなく、2024年までプーチン時代が続くことになります。再選後は多分日本に接近してくるでしょう。しかし、口先だけで、決して領土を返そうとはしないでしょう。
  習近平国家主席は中国共産党の党大会で毛沢東以来の独裁権を確立しました。その後東南アジアの会議では安倍総理とにこやかな表情でしっかり握手しました。あるいはトランプ大統領を北京の故宮・紫禁城に迎え入れて満面の笑みでもてなしました。古来、中国については強権外交より「微笑外交」の方がはるかに恐ろしいのです。習近平は独裁権を確立して柔軟外交に転じてきています。これはアメリカに代わり「世界の信頼できる指導者」になるという大戦略があるからです。たとえば世界の温暖化ガスのパリ協定の守護者として調整をする。アメリカが保護主義に向かうから、中国は自由貿易を大切にする宣伝する。はては、民主主義を支えるチャンピォンとして習近平国家主席は紳士的に振る舞います。我々には芝居とわかるが、いずれ世界ではアメリカと中国の力関係が見事に変わります。
    トランプ大統領はアメリカの世界的地位を引き下げる役割をしてしまいました。アメリカは自分からその座を降りてしまいました。TPPは日本やASEANがアメリカを盛り上げて、アジア太平洋の安定と繁栄を中国一極にしない戦略でした。しかしトランプ大統領は蹴飛ばしてしまいました。今になってTPP復帰などと言い出していますが、これは大変難しい。アメリカのTPP離脱宣言は、昨年アジア太平洋で起こった一番大きな出来事だったと思います。トランプ政権の内幕を描いた暴露本「Fire and Fury(炎と怒り)」でトランプ政権を批判したバノン氏は、トランプのイバンカさんの娘婿クシュナー上級顧問は中国の手先だといっています。いずれにせよ、習近平国家主席が2,800兆円の金融市場開放に応じたのはウォール街を籠絡するためだと思いますが、その見返りは、南シナ海で中国が作っている人工島をアメリカが実質的に認めてしまうことだと推測できます。トランプ大統領は利権を優先し中国と手を握るかもしれない。そういう危険性があると思います。
第2節 今が日本の正念場
  日本は今年に入って様々なものが変調してきました。日本銀行はどうやら金融緩和を絞り始めました。そろそろ出口戦略ということかもしれない。バランスを失うと心配ですが国債1,000兆円の状況では財政再建は避けて通れません。アメリカもヨーロッパも金利が上がってきており、下手すると日本の財政と金融は崩れます。安倍総理は来年、必ず消費税を引き上げるべきだと思います。そして財政再建の意思を示さなければ経済の本格的な成長軌道は戻ってきません。安倍総理が長期政権になったのだから、国民が反対することでも責任をもって進めるべきです。
  今回の憲法改正では賛否が分かれますし、また改憲派の中でも、3項付記でいくか、2項削除かで意見が分かれます。いずれにしても日本は大きな分かれ道です。 次に少子化問題です。産経新聞の河合雅雄論説委員が何度も公表しておられますが、戦後の日本はたくさん子供が生まれましたが、昭和20年代後半になると急激に出生児が減ります。GHQが一部の日本人を引き込んで「優生保護法」で人工中絶制度を公認したからです。これによって始まった日本の少子化が世代を継いで今日の日本を直撃しています。
  更に地方都市の衰退です。地方都市のシャッター街化です。アメリカでは地方都市の中心部で大型店を勝手に出店できない州が多いそうです。日本の商店街の活力を奪ったのは、日米構造協議によるアメリカの圧力で、大型店の出店規制を撤廃したことが非常に大きい。日本人が自前の判断、自前の選択をしてこなかったことが、今の日本の衰退をもたらした原因で、今高度成長期には隠されていたこのことが問題として出てきたわけです。
  こう考えると2035年、日本の財政の方向性、日本の競争力の在り様、世界の経済発展と日本の将来性、様々なものが2030年から後の10数年のところに的が絞られてきています。それゆえ今この国の将来を考えると非常に大事な正念場だと思います。
第3節 日本にチャンス到来
  日本は世界史の大きな波に乗ることが大切です。その一つがアメリカと中国の力関係が長期的にどうなるかということです。世界の流れは西へ西へと向かっています。アジア太平洋の時代が終わり、インド、中央アジア、そして中東アフリカです。長期的にはアメリカは孤立してゆかざるを得ず、余程頑張らなければ世界の流れから取り残されます。
  中国共産党大会で習近平国家主席は、2049年には中華人民共和国が成立して100年の大きな画期を迎え、中国は世界におけるアメリカのような先進国になる。そして政治・軍事においても世界の一流国として責任を果たす。「中華民族は世界の諸民族の中にそびえ立つだろう」と言いました。また2035年には「中国の特色ある社会主義の現代化」が大きな完成を見て、先進国の先頭に立つ時だと言いました。この年までには経済でアメリカを追い抜き、太平洋をアメリカと二分する超大国の立場を確保したいということです。
  2049年に中国の計画通りに完成するとはとても思いませんが、問題はアメリカがどう振舞うかです。中国台頭の流れをアメリカがどう受け止めるかです。トランプ政権が成立した時、「一つの中国なんて認める必要がどこにあるのだ。俺は台湾を承認して台湾との国交を回復する」「中国が南シナ海で下手なことをすれば、アメリカがそんなことできないようにしてやる」と言っていましたが、昨年一年で対中姿勢は一変しました。アメリカは戦略を探しあぐねています。時に対中強硬になるかと思うと、対中宥和に転じる。
  今日、米中の覇権争いの時代に入っています。19世紀から20世紀初頭まではイギリスが世界の覇権国。これをアメリカが取って代わったのが20世紀最大の出来事です。これから21世紀はどうなるでしょう。

第三章 21世紀の世界の潮流
第1節 世界は多極化へ向かう
  2030年代まで見通して言えることは、世界史の潮流は明確に多極化していくと言うことです。アメリカ以外の様々な国が力をつけてくる。昨年12月、トランプ政権は「国家安全保障戦略」を発表しました。アメリカは経済の利益のあるところでは積極的に安全保障の責任も引き続き負っていくと言っています。トランプ大統領は昨年9月の国連演説では、「これからは一国主義の時代だ。世界のことなんかアメリカはもう考えない。各国が国益に合うことをやりたいようにやればよい」と言いました。これもやはり多極秩序の志向です。中国が、ロシアが、インドが、ブラジルが、次々と自分の国も一人前の大国だと主張し始めました。たしかにロシアは核兵器においてはアメリカと互角。中国は経済力でアメリカを追い上げている。インドはアメリカに秋波も送りながらも独自の道を行って発展しようとしている。その中で日本はどう振舞えばよいのか。ただし、日本の国力では「ジャパン・ファースト」で突出するわけにはいきません。つまり多極時代でも様々な多極があります。大国同士が協力関係を築いて比較的和気あいあいとした多極化、例えば19世紀のパックス・ブリタニカの時代には歴史上そういう多極世界が存在しました。しかし長期的に見れば、世界史の潮流は明らかに中国に有利です。ですから、中国に押さえつけられないように日本は比較的共存可能な多極世界にしていかなければなりません。当面は、アメリカとの同盟をしっかり維持しつつ、中国とも関係修復していかなければなりません。今回の尖閣への潜水艦侵入は共産国外交の定番で一喜一憂することはありません。その都度ピシャリと抑え込んで、また修復する、それが外交です。北朝鮮が一番分かりやすい。接近しようとする時には、あえて何か悪いことする。ロシアもそうです。いずれにせよ、中長期には日本は温和な多極世界を作るため、アメリカだけでなく中国とも、インドとも、ロシアとも上手くやらなければなりません。
第2節 「 新しい社会主義」の流れ
  世界史の潮流の二つ目は、「新しい社会主義」の潮流です。イギリスのサッチャー首相以来の市場経済万能の流れがようやく変わってきました。従来の市場原理、自由貿易が全てという考え方は少しずつ弱くなり、保護主義が台頭してきました。トランプ大統領は保護主義の波には乗っていますが、当面アメリカは極端な保護主義に走ることはあり得ません。イギリスは去年6月総選挙があり、メイ首相が予想外の大敗を期して、政権を失うぎりぎりまで追い詰められました。野党、労働党の党首はジェレミー・コービンという社会民主主義者です。格差是正、社会保障費の倍増、労働者の雇用を守ると言って6月の総選挙で大きく勝ちました。元々イギリスは階級社会ですが、かつては上の階級は下の階級に気を使っていました。しかしサッチャー以来、富裕層やエリートの人達と労働者階級の人達の対立が激しくなっております。フランスも昨年、極右のルペンが大統領になりそうだと言って大ニュースになりかけていました。今年の3月には、イタリアで選挙があります。イタリアは間違いなくユーロ離脱に舵を切ります。そして五つ星運動というポピュリスト政党は、国家財政が破たんするような失業保険や社会保障費の大盤振る舞いを公約し、ユーロからは離脱すると言っております。そうなるとイタリアは本当にアナーキーになります。ヨーロッパ経済はもう一度ギリシャ以来の経済危機に陥る危険があります。3月のロシア大統領選挙では、プーチン大統領が大勝して、習近平国家主席と同様、氷の「微笑外交」を始めるでしょう。安倍さんは、もうプーチンに近づくのはやめた方がよい。
  同じ頃、パレスチナやペルシャ湾ではサウジアラビアとイランが直接間接に衝突する可能性があります。いきなり正面衝突は無いかもしれませんが、カタール、クウェート、ドバイ、UAEの湾岸諸国で大規模なテロや内戦の可能性があります。原油がジリジリ上がっており、明らかにペルシャ湾波高しの前兆です。
  我々にとっては、北朝鮮危機がどうなるかが一番心配ですが、世界はもっと別 なところに目が行っていることを忘れてはいけません。先進国は再び社会民主主義化の方 向に舵を切るかもしれません。そしていずれ、この潮流は日本に来るかもしれません。
第3節 エネルギーの問題
  エネルギーの問題は深刻です。この1〜2年、世界では再生可能エネルギーが大手を振ってきています。もはや再生可能エネルギーでないと、ウォール街も投資してくれない時代になりました。中国は電気自動車のスタンダードを取ろうとしています。自動車電池がすべて中国製となったら日本の稼ぎ頭の自動車産業の未来はどうなりますか。ミサイル迎撃システムを買うのもいいですが、電気自動車の研究開発費にまわしてもらった方が、長期的な日本の安全と存立を考えると良いように思えます。自然エネルギーや電気自動車は、日本の存亡を決めるほどの重要な問題です。北朝鮮危機だけに煩わされていては、我々は未来を失います。
第4節 海の時代から陸の時代へ
  私の恩師で日本を代表する国際政治学者の高坂正堯先生は、今から54年前に「海洋国家日本の構想」という本を書かれました。1960年代の日本は、海洋貿易で輸出産業を伸ばし、エネルギーは石油をペルシャ湾からもってくる。アメリカ海軍がペルシャ湾、インド洋、南シナ海、太平洋全ての秩序を守っていたからです。20世紀は日米関係を主軸とした国家モデルで日本は安定した成長軌道をとれるのが海洋の時代でした。海を支配する国、海を利用する国が有利になった時代です。近代の世界秩序はたしかに海中心に動いていました。コロンブス以来、ヨーロッパ、欧米が世界の覇権を握った時代は海運国が非常に有利でした。しかし冷戦の終焉とともに世界史の潮流は変わり始めました。大陸国家同士の国境が開けることで、人が自由に出入りする。ユーラシア大陸の内部が文字通りボーダーレスになりました。この地域の人達が集まり、秩序の取れた商売のインフラが出来ればすごいことになります。日本から中国経由になりますが、ヨーロッパに物を運ぶ時間が、陸上輸送は海上輸送の4分の1になります、そして航空便の5分の1の料金で物資のやり取りできるのです。日本の親米保守派は日米基軸論ですから、当然海洋地政学的な「海の優位」を言います。ところが日本が実際に生きていく上で、より有利なことはいずれかが問われ始めました。確かに海洋国家は価値観を共有出来るかも知れませんが、新たな富を生み出すことは出来ません。今や陸上輸送による物流が世界史の潮流です。コロンブス以来船に積んで延々とアジアの物産をヨーロッパや世界に運びましたが、21世紀はそんな緩い時代ではなくなっており、世界の物流が大きく変わってきています。大きく見れば、今、「海洋の世紀」が翳って「大陸の世紀」が訪れているのです。そして海に面しつつ、アジア大陸にも隣接する日本は、「大陸の世紀」となれば大きな可能性が出てきます。そして、この30年間、レーガンやサッチャーの市場経済万能主義の時代には日本は低迷せざるを得ませんでしたが、新しい修正市場経済の時代は日本のような経済モデルや企業体のガバナンスが向いている時代になるでしょう。

おわりに
  今、世界は、市場経済万能主義のパラダイムから、日本の得意な日本人に向いた経済パラダイムの流れに変ろうとしています。そして、冷戦やアメリカ一極の時代よりも多極化秩序の方が、明らかに日本の自由度は増します。外交は賢く考えなければいけませんが、今までの様に全てアメリカ依存では見捨てられた時には終わりです。そんなことになってはいけませんが、北朝鮮の核兵器をアメリカが「その程度なら良いよ」と言い出した時、日米関係は大きな危機となります。世界史はつねに動いております。大きな視野を失わないことが重要です。

質疑応答
「質問1」

  一帯一路についてどのようにお考えでしょうか?

「回答1」

  一帯一路は現実として始まっています。特に注目すべきはドイツと中国の結びつきです、ドイツの先端技術が中国に流れています。特にロボット技術、AIの研究で中独の協力は進んでいます。中国はおそらくドイツと共同でAIの世界覇権を握ろうとしています。AIでは、日本は数周遅れですが、一帯一路に乗っていかざるを得ないし、積極的に乗っていくべきだと思います。安全保障、外交、歴史問題とは切り分けて考えるべきと思います。それが、2020年時代の世界の趨勢です。


「質問2」

  NPT(核拡散防止条約)から脱退するという考えに対しどのようにお考えですか。

「回答2」

  日本の大テーマは自前の安全保障を確立するということです。勿論日米同盟は大事な日本の支えですが、これは時限立法みたいなものです。ドイツのメルケル首相は「ある国に安全保障を依存することが出来た時代はもう終わった」と言いました。NPTの話でいえば、日本が核兵器を持たなければ自前の安全保障体系は成立しませんから、10年前まで私は、日本核武装論者でしたが、今はもう止めた方が良い。核開発に着手するのは余りにも危ない。北朝鮮や中国の核ミサイルの精度が物凄く上がっています。トランプが何と言おうと、アメリカは絶対に日本の核保有は認めないし、日本がアメリカとの関係を破綻させてNPTを脱退、核開発を進めれば多分中朝から先制攻撃されます。今はミサイル防衛に徹することでしょう。なお日本が独自でミサイル防衛の革新技術を開発すれば経済的波及も物凄く大きいと思います。レーガンのSDI、スター・ウォーズの日本版です。これに挑戦する気概を日本が持ったら、核抑止力と同じくらいの政治的効果はあると思います。日本版SDI、これが新しい時代の日本の選択として申し上げたいと思います。


「質問3」

  北の核兵器に対して日米関係は絶対必要ですが、韓国を加えないといけないのでしょうか。

「回答3」

  アメリカが朝鮮半島政策の都合で、アメリカは韓国と日本は手を結ぶよう慰安婦など歴史問題でも日本に大きな圧力をかけているのです。歴史観という国の根本に関わるところまで日本はアメリカに支配されています。日本はアメリカ対し、歴史問題は日米同盟に優先する、とはっきり言うべきです。そしたら、アメリカも口を出さなくなります。さらに、「拉致被害者の情報を日本に対して隠す韓国政府は信用できない。日本防衛の38度線は対馬海峡だ、そして日本と韓国は同盟国ではない。日本はアメリカとだけ同盟しているんだ」と意思表示しないとだめです。


「質問4」

  世界の潮流は日本が優位な流れに変わっており、日本企業のガバナンスはこれからの時代に向いているということについて詳しく教えて下さい。

「回答4」

  この30年間、世界を席巻した経済パラダイムは、企業ガバナンスも含めて、徹底した市場原理主義です。徹底した個人主義の思想です。経済では、人間の絆とか集団とか人間的な感情とかは少なければ少ない方が良い。非人情で、水くさい社会こそが有利になるべきということです。個人が徹底して自己主張するイギリスやアメリカが有利です。フランス人やドイツ人は当時から「アメリカの言う構造改革は拒否します」とはっきり言っていました。たしかにドル支配ですから金融システム等は合わせました。しかし社会契約に基づく終身雇用制をドイツはしっかり守りました。もっと言えば、フランスやアメリカの企業でもある種の終身雇用制はこの20年間ほとんど減っていません。大きく崩れたのは日本だけです。大店法も同じです。アメリカは自分でもやっていないことを日本に押し付けてくるのです。そして日本はこのアメリカの一方的な要求に唯々諾々と応じてしまいました。アメリカの言うことに従っていたら経済は落ち込み日本の衰退は加速するだけです。経済はその国、その社会、その民族にあったモデルを取り戻すことが一番効率よい方法です。ここに日本再生の一番の鍵があると申上げられると思います。


「質問5」

  2035年には中国がGDPでアメリカを抜いてトップに立つのではないでしょうか。中国に対抗するには日本はどうしたらよいのでしょうか。

「回答5」

  私は持論として「対中国4分の1戦略」をずっと申し上げてきています。中国はどんどん大きくなり、2035年位まではまだ伸びるでしょう。今後20年以内にはアメリカを追い越す時代が来るかも知れません。ただ日本人は中国と一対一で向き合っているように思っていますが、日本はつねに中国の国力の4分の1を目標に国力の再生を進めて行けばしっかり抑止できます。GDPは今のところ、中国は日本の2.6倍です。ですから、2035年の中国を予想して日本のGDP規模を考える。これが4分の1戦略です。現在、防衛費は、中国の軍事費が20兆円、日本が5兆円ですからかろうじて4分の1をクリヤーしております。中国は今後も増やしていくでしょうが、それに応じて日本も増やす分には問題がおきないでしょう。そうしたら日中は今より友好的になります。というのも中国の周囲は敵だらけです。国内にも大きな矛盾がある。そういう中で防衛力を考えても中国が4分の1も日本方面にはさくことは出来ません。北にはロシア。西はイスラム圏。南はインド。そして東の海には日本、アメリカがいる。アセアンもある。実は、中国は同情したくなるほど厳しい環境の中にあるのです。国内は不満だらけで、民主化をどうして達成するか大課題でしょう。日本よりはるかに脆弱なのです。そういう中国に、日本が4分の1の力で対処出来たら、中国は日本のことが恐くて、この際もっと「友達になりたい」となります。「友達になりたければ恐れさせよ」と言うのはマキャベリの言葉です。しかしあらゆる分野で4分の1ですから日本は相当頑張らないといけません。特に今、私が一番重視するのは科学技術の研究開発費です。中国はアメリカと並んで20兆円を超えています。日本は5兆円よりずっと低い。極端な言い方をしたら21世紀には「世界史のゲームは研究開発費で決まる」といってよい。技術が覇権を握る。是非、こういう戦略を若い世代に伝えていきたいと思っています。


「質問6」

  憲法を日本文化、天皇を基本に見直す。そして自虐主義から脱却し、日本人が日本の誇りを取り戻すような教育が根本だと思っていますが、先生はどうお考えですか。

「回答6」

  私も全くその通りだと考えます。


以上は、京都大学名誉教授 中西輝政氏の講演を、國民會館が要約、編集したものであり、文章の全責任は当會館が負うものです。



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