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武藤記念講座(講演会事業)

第1043回武藤記念講座要旨

    2018年4月7日(土)
    於大阪「武藤記念ホール」
    経済評論家   
    辛坊正記氏

 『日本経済の現状と課題』  

セミナー





はじめに
  日本経済は戦後2番目の長さの経済成長が続いており好調です。ところがその割に豊かさの感じ方や将来の見通しの見方は千差万別で、皆さん自信を持っているわけではありません。アベノミクスが始まって以来、様々な政策が実行され好調が続いてはおりますが、それぞれの政策が足元の経済をどういう形で支えているのか、そこに考えておくべき課題はないのか、この先豊かに暮らしていくため何に気をつけ、何をしていかなければならないか、ということをお話させていただきます。

第一章 日本経済の現状
第1節 国内総生産(GDP)の定義
  経済の規模は国内総生産で測ります。簡単に言えば、自動車やテレビの生産、床屋さんやパーマ屋さんのサービス、ビルや道路の建設等々、日本国内で国民が1年間働いて“新しく生み出したモノやサービスの価値の合計金額”がGDPです。国内で新しく生み出される価値ですから、国外で生み出された価値は除かれます。例えばデパートで1万円のジーンズを買った場合、国内で綿の種を撒き、デニム生地を織り、ジーンズに仕立て上げてデパートで販売すれば、1万円のジーンズの価値は全部日本で生まれたGDPとなります。ところがベトナムで綿の種を撒くところからジーンズに仕立て上げるまで行い、6千円で日本に輸入し1万円で販売した場合は、日本のGDPは4千円となります。つまり同じ1万円の買い物をしても、そのモノの価値が何処で生まれているかによって、日本のGDPや成長率が変ってくるのです。日本の成長を考える時、ここに重要な手がかりがあります。
第2節 アベノミクスで日本経済は好調
  2008年秋のアメリカ発リーマンショックで世界は不況に陥り、ギリシャが混乱して欧州では金融危機が起こり、世界の投機的なお金が日本に集中して1ドル70円台の行き過ぎた円高になったわけです。日本経済は円高デフレで暗いムードが漂っていました。その金融危機が一段落して投機的なお金が再び世界に回り始めて円安傾向が出た2012年12月に、安倍総理が誕生しアベノミクスの金融緩和が始まりました。当時80円台であったドル円相場は一気に100円を超える円安となりました。2014年10月、日銀は“黒田バズーカ第2弾”という大胆な追加金融緩和を打ち出し、ドル円相場は120円を突破する円安となりました。2回の大胆な金融緩和で円高が充分修正され、現在リーマンショック前のドル円相場にあるわけです。当然円安になれば企業は儲かります。法人企業統計を見ますと、日本企業の経常利益の合計額は2012年に比べ7割方増加しております。1ドル稼いで80円だったものが、110円になれば儲かるということです。こうなると株も上昇します。リ−マンショック以降、日経平均株価は大きく下がり、8千円〜1万円ぐらいで停滞していました。しかしアベノミクスが始まり半年で1万5千円を突破しました。黒田バズーカ第2弾が発表され、日銀がETFの形での株式購入を増やし、安倍総理が「年金運用資産150兆円で株を買う」と発言しますと、一気に株価は2万円を突破いたしました。日経平均株価と為替相場の動きを見ますと、去年まで見事に重なっております。そして去年の暮れ頃からは、ドル円相場に関係なく企業の株が上昇し始めました。世界経済が好調で円安にならなくても企業が儲かるという動きになりました。IMF(国際通貨基金)の調査では、世界の成長率が2016年3.2%、2017年3.7%、今年は3.9%まで成長するだろうと予想されております。また2016年の地域別成長率ではアメリカ・ヨーロッパが1%台の成長、中国が6%台の成長、アセアン諸国(東南アジア)も成長しており、中南米だけが少しマイナス成長でした。そして2017年になりますと中南米もプラス成長となりました。世界が同時成長する状態は最近の10年で初めてです。そのため2016年後半から日本の輸出は増え続け、企業の設備投資も回復してきております。
第3節 回復傾向の家計消費と雇用情勢
  アベノミクスが始まった直後から株価が大きく上がり、家計消費は盛り上がりました。更に消費税増税前の駆け込み消費も加わり、景気のムードが良くなっておりましたが、増税で消費は大きく落ち込みました。政府はすぐに5兆円の財政出動を決め、日銀も追加金融緩和で消費を支えたため、消費は停滞していましたが、極端に悪化することはありませんでした。そして去年ぐらいからは、企業の業績回復を受け消費がゆっくり回復傾向になってまいりました。これ以外にも外国からのお客さんの数が、アベノミクスが始まる直前に比べますと3倍以上に増え様々なモノが売れております。鉱工業生産の動きでは、消費税の駆け込み需要で生産が一時的に増えましたが、その後しばらく停滞しておりました。それが現在回復軌道を辿り、生産が盛り上がって来ています。そのため日本の有効求人倍率の動きは、アベノミクスが始まる直前の2012年頃には1.0倍を切っておりましたが、現在は1.6倍となっております。当然足元の失業率も2.5%まで下がっております。日本の場合3%台前半まで下がってきますと“完全雇用の状態”といわれておりました。現在は人手不足感が出ております。各主要国の失業率を見ますと、ヨーロッパが8%台です。ヨーロッパの中で一人勝ち状態といわれるドイツ、あるいは成長が続いて好調なアメリカでも4%前後です。確かに高い給料の仕事がない、希望する仕事が見つからないという不満はあっても、働きたい人は皆働ける状況です。

第二章 日本経済の課題
第1節 成長しない日本の経済規模
  日本の経済規模の足取りを見ますと、1955年に東洋の奇跡といわれる高度経済成長が始まり、1990年まで順調に規模を拡大してきました。ところが90年に急にブレーキがかかり、90年代の半ばから横ばいで停滞しております。そして2008年のリーマンショックで経済規模が大幅に沈み込みましたが、アベノミクスで回復し、現在はリーマンショック前の水準まで戻って来ております。しかしこの20数年間を通して見ますと停滞していることは間違いありません。1990年の経済規模を100として各国と比較しますと、中国の経済規模は39倍になっております。韓国が7倍、欧米の国々も2〜3倍となっており、日本だけが横ばいです。1989年の日本のGDPは世界シェアで15.2%ありましたが、今では6.6%です。日本の人口が減り始めていますから、ある程度シェアが減ることは仕方がありませんが、これはかなり極端です。世界が成長している中で、相対的に日本の所得が下がっているということですから、今後日本の経済規模を成長させていくことが大きな課題です。特に問題は一人当たりのGDPです。これは国民一人一人の経済的な豊かさそのものです。1989年の日本の一人当たりGDPは世界第4位で、アジアの中で圧倒的に豊かな国民でした。ところが今は22位です。シンガポールや香港に完全に抜き去られ、韓国、台湾が近づいております。政府が企業に給料引上げ圧力をかけても、一人当たりGDPが拡大しなければ、企業は安心して給料を引き上げることはできません。若い人達の失業率が下がっても、高い給料を払える仕事がなく、親の世代の豊かさを越えられないかもしれないのです。日本は石油も、鉄鉱石も、肥料も輸入に頼っております。日本の経済規模や豊かさは輸入した資源の上に築かれています。世界の国々が成長し豊かになり様々な資源を買い始めれば、日本が手に入れられるものが細り、豊かさも細るかもしれません。したがって経済が成長しないことは大きな課題なのです。
第2節 経済を成長させる三つの政策
  経済を成長させるために使える手段は三つです。政府が自分でお金を使って需要をつくる“財政政策”、中央銀行にお金を発行させて需要をつくる“金融政策”、企業活動のしやすいビジネス環境を築き外国企業を呼び込んでくる、または自分の国の企業を育て経済を成長させる“構造改革”です。アベノミクスの最初の「三本の矢」は“大胆な金融緩和”“機動的な財政支出の拡大”“民間の投資を促す成長戦略”という三つの政策を一斉に大胆にやろうというものでした。このうち金融緩和と財政支出の拡大は大々的に打ち出されましたが、第三の矢である成長戦略(構造改革)は、まだまだ小粒で進んでいないといわれております。現在、金融緩和と財政支出の拡大で足元の景気をかなり支えておりますが、需要対策ばかりです。モノを作る供給のことが出てきません。GDPは、生産するところで測っても、分配するところで測っても、支出(需要)のところで測っても同一です。金融緩和と財政支出の拡大で需要を増やすのは、それで企業が設備投資をして様々なモノを生み出し、分配されて新たな需要に回るという好循環で、日本経済が自立的に成長していくきっかけを作る効果を狙っているのです。ところがバブル崩壊から後、一生懸命需要をつくっても生産に結びついて好循環が起きません。景気対策を打っている間はいいのですが、止めると沈むことを繰り返しております。
第3節 金融緩和の限界
  アベノミクスといえば大胆な金融緩和です。日本銀行が2%というインフレ率の目標を定め、世の中にお金を流し続ける政策です。日銀は黒田バズーカ第一弾、第二弾で量的金融緩和を強力に推し進めました。2016年1月からマイナス金利政策も始め、日本銀行にお金を預けたら金利を取るということで、お金が世の中に出ることを推し進めたわけです。しかし日本銀行のお金にはモノやサービスの裏付けがありません。お金を世の中に流し続けた場合、モノやサービスの量に比べお金の量が増えお金の価値が下がります。円安となりインフレが起きます。モノやサービスが高くなる前に買うということで需要が増えるという効果はありますが、一方で日本の金融緩和は限界かもしれないという人が出て来ました。日本銀行の保有する国債や株、不動産というリスク資産の残高は、異次元の金融緩和が始まる前の150兆円から533兆円に増え、日本のGDPと同規模に相当する状況となっております。自分の信用でお金を発行している中央銀行が、リスク資産を過大に保有することは将来に向けて必ずしも健全なことではありません。緊急避難的に金融緩和でリスク資産を保有しても、金融緩和の出口では身軽になる必要があります。アメリカは去年の秋から保有する国債の量を少しずつ減らし始めました。ヨーロッパも金融緩和の出口を探っています。国債保有量はアメリカが20%、ヨーロッパでも40%弱です。日本銀行はGDPの100%規模を保有し、国が発行する国債の4割に達しております。このままいけば日本銀行は買える国債がなくなるのではないかという声すら出始めました。
第4節 財政政策の限界
  財政支出は、景気を手っ取り早く回復しようというときに真っ先に使う手段です。公共事業でGDPが増加し、成長率が高まります。公共事業は財政状態が苦しいため2000年代の初めから次第に減らしてきました。しかしアベノミクスで10兆円の補正予算を組んで公共事業を一気に積み増し、その後も景気対策を打ち続け、高い水準の財政支出を保っています。安倍総理は2020年に設定されていた“財政の健全化目標”を先送りして財政支出を継続する方向に動いています。そのためバブル崩壊以降、政府の借金は、先進国の中でも突出した勢いで増え続けGDPの約2.4倍に達しています。財政破綻の状態であるギリシャが1.8倍です。欧米の主要国は1.0倍を若干上回る程度です。日本の財政状態は比較可能な世界140ヵ国の中で最悪の状態です。しかし日本は本当に財政の健全化を進める必要があるのでしょうか。過去に破綻した国々は外国との取引が赤字で借金をしている対外債務国です。日本の場合、政府は借金していますが、民間は黒字で外国に350兆円ものお金を貸しています。国民が生み出したモノやサービス、つまりGDPのうち政府の取り分は税金で集める50数兆円ですが、それだけでは足りないため毎年国債を発行して取り分以上にモノやサービスを買っているのです。その借金が1千兆円です。一方民間は自分の取り分を節約して銀行に預けます。民間の節約が政府の使い過ぎより大きく、日本全体で余ったモノやサービスは外国に売るため外国との取引は黒字になります。その結果日本は対外債権国となり、巨額のお金が日本の金融機関に眠っているのです。政府は発行した国債を全部国内で処理できますが、この構図はいつまでも続けられません。日本の家計は、高度経済成長の終わり頃は、可処分所得の25%近くを貯金に回していました。しかしその貯蓄率が下がり続け足元では0%近くになっております。貯蓄率が下がってきた最大の要因は高齢化です。若い時は老後に備えてお金を貯め、年を取ってから貯金を引き出し生活するわけです。日本の高齢化はこの先40年続きます。政府は新しく発行した国債を国内で買ってもらうことが出来なくなり、外国に国債を買ってもらわなくてはならなくなります。日本も過去の破綻国と同じパターンに入る可能性が十分にあります。したがって毎年政府が必要とする経費だけは税収で賄うという“プライマリーバランス”(基礎的財政収支)の黒字化が重要となるわけです。今は表面に出てきませんが、景気が回復し、インフレ率が3%、4%と過熱する兆候が見え始めた時が問題です。日本銀行がインフレを止めるため国債を買うのを止めますと、政府は高い金利を払い外国に国債を買ってもらわなければなりません。現在国債の金利は殆どゼロですが、1千兆円の借金に対して金利が3%に上がったら政府の財政赤字は月の利払いだけで30兆円膨らみます。さすがに政府の財政はもちません。日本銀行は、政府の資金調達を行き詰らせるか、インフレを抑え込むのを諦めるか、出口を探すことが難しくなるのです。したがって金融緩和や財政支出の拡大で効果は出ておりますが、これだけに頼ってしまうことは日本の先行きにとって必ずしも安全なことではないのです。

第三章 日本経済の成長を促す構造改革
第1節 立地競争力の向上
  財政出動の拡大が好循環にならない要因に、日本企業が外国に出ていき、海外で作られるモノの比率が高まっているということがあります。そして外国企業が日本に入ってきません。主要国における外国企業の進出状況を見ますと、1995年ぐらいを境に、欧米の国々やアジアの国々に外国企業が進出して、生産を増やし成長していく足取りが見て取れます。1989年11月、ベルリンの壁が崩れ、社会主義経済圏と自由主義経済圏が一緒になり、世界は急速にグローバル化を始めました。人々が国境を超え、企業が国境を越え活動を始めました。世界の国々は、外国企業を自分の国に呼び込み、自分の国の企業は外国に逃がさないという競争を始めました。日本も立地競争力の向上を進めなければなりません。“自分の国に有利な貿易協定網を世界中に張り巡らしていく”“法人税の抜本的な引下げをおこなう”“労働市場を流動化して働く人たちを低成長の産業から高成長の産業へ移していく”等のビジネス環境を整えていく必要があります。借金して地域振興券を配る、公共事業をやる、エコカー減税やエコポイントなど“需要サイドの政策”ばかり行い、“供給サイドの構造改革”を取り残しています。その結果、世界で最も競争力があるといわれた日本のビジネス環境は、世界銀行の評価で世界34位になってしまいました。日本を抜いて豊かになったシンガポールや香港、あるいは日本に追いついてきた韓国、台湾はビジネス環境の競争力が日本より良いといわれています。これでは日本の企業が外国へ出ていく傍らで外国企業は日本に入ってきません。日本の生産を盛り上げ、付加価値の高いイノベーションを起こすことが“成長戦略・構造改革”といわれるものです。アベノミクスの「第三の矢」として打ち出された成長戦略が、様々な圧力で進まないところに日本の難しさがあります。
第2節 立ち遅れたグローバル対応
  今世界の成長エンジンが変わりつつあります。当然ビジネス環境も変わらなければいけません。グローバル化が始まった1990年から今までの間、ビジネス環境を良くするために必要な自由貿易協定網や法人税の引き下げ競争で日本は立ち遅れ、ビジネス環境の劣化が進みました。しかしこの頃、グローバル化で豊かになったのは、ごくわずかのエリートと自分達の仕事を取って行った新興国の中間層ではないかということで、先進国の中間層が反乱を起こしております。ヨーロッパでは“ブレグジット”、アメリカでは“トランプ大統領の登場”です。一方日本の場合はグローバル化がまだまだ重要です。資源を輸入に頼っている日本は、輸出と輸入の間で生み出された価値で成長せざるを得ないところがあります。急いでビジネス環境の改善を進めて行かなければなりません。
第3節 第四次産業革命へのビジネス環境の整備
  もう一つ新しい成長エンジンが加わってきました。第4次産業革命といわれるAI、人工知能です。人口知能を組み込んだロボット、あらゆるものがインターネットに繋がるIoT、ビッグデータとそれを活用して進むシェアリング・エコノミーが伸びていきます。これを組み合わせてどんな世の中が出来上がるのか、どんな新しい経済構造が出来るのか、本当に分かりません。オックスフォード大学のマイケル・オズボーン先生は、アメリカの約750の仕事を調べ「これから10〜20年の間に47%の仕事がなくなる」という論文を書きセンセーショナルになりました。野村総研は「2030年までに日本の仕事の49%がAIに置き換わる」と発表しております。12年後に日本の仕事の49%が消えるとしたら経済構造が大変革します。例えば「ウーバーの配車サービス」があります。世界630都市に自動車の配車サービスを広げ、時価総額7〜8兆円の会社です。日本のメガバンクの時価総額を超えています。これは素人が運転している自家用車をウーバーというアプリを使い、スマホで呼んだら5〜6分で来てくれるというサービスです。暇な素人が運転する車ですから、設備投資は要りません。効率の良いサービスが提供されます。ビッグデータとスマホの世界が、一般のお客さんと素人が運転する車とを結びつけました。SNSの世界で全く新しい商売が始まったのです。これから自分で車を持つ必要がない。駐車場のスペースも空いてくる。空いたところは公園になるかも知れない。世の中が大きく変わっていく可能性があります。しかし日本はそれを禁止しています。タクシーという配車サービスに気を遣って規制しているわけですが、日本に育っていなければ、規制を廃止した瞬間に外国企業が入ってきて日本を席巻するかも知れません。第四次産業革命が起きる中で、新しいビジネス環境の変化が必要です。

おわりに
  日本は供給サイドの政策をあまりとってこなかったからビジネス環境が悪くなってきたと言われています。これから第4次産業革命が進みます。日本の強い技術ばかりです。これを強くするために、構造改革を進めていかなければなりません。一昨年、政府が骨太の方針で「レギュラトリー・サンドボックス」(規制の砂場)で規制を取っ払い、先ずやらせてみようという動きを見せています。そこに関わっている人達を応援し支えていく。供給サイドが変わることが出来れば、日本の未来が明るくなると思います。

質疑応答
「質問1」

  政府の子会社である日銀が保有する533兆円の国債は、政府の借金と相殺されるのではないですか。

「回答1」

  この統合政府という見方をすれば表面の上は消えます。しかし政府が国債を銀行に売り、銀行は国民の預金で国債を買っているわけです。つまり日本銀行が持っている国債と政府の借金は相殺されてバランスシートから消えますが、日本銀行に預けられている預金者への負債は消えるわけではありません。国民への借金は残ります。


「質問2」

  政府の借金が増えたのは、この20年間、プライマリーバランスの黒字化という政策を続け、公共事業を削ったからではないのですか。

「回答2」

  建設国債を発行して作ったインフラが立派に価値を生み、投資した以上に日本のモノやサービスが増えればよいのですが、政府の国債の見返りで、最近大きな価値を生み出すものがあったでしょうか。国民から預かったお金が、リターンを生まず無駄に消えている可能性があります。高度経済成長で伸びていた時代と環境が変わったということを考えなければなりません。経済成長には労働力・資本設備・技術革新が基本ですが、戦後の高度経済成長時代はこの3つが奇跡的に揃って大きくなる時代背景がありました。その中で国民が24%貯金し、それが傾斜生産方式で成長産業に流れ込み、猛烈に高速成長が出来たわけです。建設国債を発行して充分高いリターンが期待出来ていました。


「質問3」

  若い人の非正規が増え、次第に高齢化しています。低所得者は固定化し、家庭を持てず少子化が進んでいます。移民は毎年20%以上増え居座り、AIが進み、サービス業や事務の雇用者は失業する。日本は一体どうなるのでしょうか。

「回答3」

  今表面上は移民はおりませんが、外国人は大勢入ってきています。私は必ずしも移民政策を積極的にすべきという立場ではありません。移民が入ると経済成長率は高まり、足元は間違いなく良くなります。国民として受け入れれば少子高齢化は先延しされます。しかし移民の出生率も次第に下がりますので高齢化が後ろへずれ込むだけです。私は移民政策に頼るよりは、“リカレント教育”が重要であると思います。高齢者にも新しい技術を与え、きちんと働ける枠組みをつくる方が良いと思っています。
  また非正規の問題では、日本の非正規雇用の比率は1990年頃から急速に上がっています。昔は日本的雇用慣行で、新卒で一括採用した人が定年まで一つの会社に留まって働くというこういう働き方で、高度経済成長の時には物凄く良い制度でした。この制度は若い人が多い時には人件費が抑えられる。年配者の高処遇を見て高いモチベーションが保たれ、しかも長く働いている人同士のコミュニケーションが良いからイノベーション(改善)が生まれる、凄い競争力の源泉でした。そして若い女性は結婚退社か30歳前で辞めていく、農村からの長男や父ちゃんは季節労働者で辞めていくことで雇用調整したのです。ところが人口が逆ピラミッドになり、新卒が減り、企業は大きくならない。年配者が増え人件費は高くなり、モチベーションも下がります。企業は正規労働者を維持できません。しかも若い女性の結婚退職は法度。農村からの出稼ぎもない。その中で認められたのが“派遣労働”です。但しこれが増えることは確かに問題です。したがって今後は本当の意味での同一労働・同一賃金が必要であると思います。正規、非正規区別なく、同じ仕事だったら同じ賃金を払うという改革が出来れば、移民問題も、非正規問題も、かなりの部分が解決すると思います。


「質問4」

  訪日の外国人の個人消費はこれからも伸びると思いますが、これの反動はいかがなものでしょうか。

「回答4」

  今訪日外国人の個人消費は4兆円です。東京が1兆6千億円、関西が1兆円です。確かにこれがなくなったら大変で、反動もあるでしょう。日本と中国が揉めて観光客が来なくなれば、かなり景気は沈むと思います。そういうリスクは確かにありますが、外国からのお客様は日本にとって大きな資源です。ここを伸ばしていくということは、進めていかざるを得ないなと思っています。


以上は、経済評論家 辛坊正記氏の講演を、國民會館が要約、編集したものであり、文章の全責任は当會館が負うものです。



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