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武藤記念講座(講演会事業)

第1051回武藤記念講座要旨

    2018年10月20日(土)
    東京「国際文化会館」(港区六本木)
    産経新聞社 論説顧問(前副社長)   
    齋藤 勉氏

 「『独裁者の時代』と日本」  

セミナー





はじめに
  私は産経新聞でモスクワ特派員経験が長く、最初はソ連の崩壊前後の5年半勤務しました。当時のレーガン大統領はソ連を「悪の帝国(evil empire)」と呼びましたが、そのソ連帝国が目の前で崩壊する姿を目撃しました。2回目は8年経ってプーチン大統領が出て来た時です。最初の3年間を「泣く子も黙る」といわれたKGB (国家保安委員会)出身のプーチンさんにお付き合いしましたが、何とか無事に帰って参りました。産経新聞は長年、「反ソ、反共、反動」などと謂れなきレッテルを張られて共産圏で非常に評判が芳しくないので、特派員には身の安全にはくれぐれも気をつけるように言って送り出しています。先日、トルコのイスタンブールのサウジアラビア総領事館内でサウジ政府批判を続けてきた著名なジャーナリストが殺されるという異様な事件が起こりました。日本の新聞社で同じような目に遭うのは間違いなく産経新聞の記者だと心配しております。

第一章 共産・独裁国家の嫌がらせ
第1節 モスクワ特派員時代の体験
  ソ連の5年半の大半はペレストロイカ(再建)で民主化が進んだゴルバチョフ時代でしたが、私も色んな嫌がらせを受けました。ある冬の朝、取材で支局車に乗ろうとすると、タイヤ4つが一度にパンクさせられていました。運転手は「旦那、これはテロル(テロ)ですよ」と怖がっていました。モスクワで車を使えないことは取材が出来なくなるということです。この数日前にゴルバチョフ批判の記事を日本に送ったのですが、東京のソ連大使館が翻訳をして本国に送ってきたのでしょう。KGBか外務省かは判りませんが「齋藤がバカなこと書いている。とっちめてやれ」ということなのでしょう。また、当時単身赴任でしたので、毎晩のように友人、知人とウオッカを飲んで帰って来るのですが、電気をつけると、テレビと花瓶の位置が入れ替わっていたり、本棚が倒されていたということもありました。当時は帝政ロシアも通じて最も言論の自由が盛んで、百家争鳴、それまでは考えられないような色々な記事が出るような時期でした。今のプーチン時代とも比べ物にならないほど自由でした。それだからこそ、KGBは「われわれが築き上げた帝国が崩れ落ちていくのではないか」と焦ったのでしょう。ソ連に批判的な記者に嫌がらせや警告をしたのだと思います。
第2節 産経新聞への不条理な仕打ち
  現在、産経新聞は中国から大変な嫌がらせを受けております。約4年前、中国総局長の発令をしましたが、結局3年間も取材ビザが出ず、その記者は赴任できませんでした。記者を代えたら何故かビザが出ましたが、新しい総局長も1年経つと、ビザを更新しないと脅されました。中国側に抗議はしていますが、記者会見や取材を拒否されることはしばしばです。 産経は文化大革命の時、当時の北京支局長(柴田穂記者)が「大革命の真相」を報じたため、朝日新聞を除く他紙の特派員とともに国外追放されました。この大革命は「文化」とは名ばかりで、毛沢東が仕掛けた壮大な権力闘争で、1966年から10年ほど続いたのですが、他紙はその後、中国に頭を下げて再び特派員を北京に派遣しました。しかし産経は逆に「記者は追放された」との長期大連載で中国共産党の実相をえぐり出し、結局31年間も北京に常駐特派員を置けませんでした。
  次に韓国ですが、4年前に当時の加藤達也ソウル支局長が観光船の沈没事故の時、朴槿恵大統領が所在不明状態となった「空白の7時間」問題をウェブの署名記事で書き、在宅起訴されました。結局、500日もの裁判闘争の末、当たり前ですが無罪を勝ち取りました。言論に司法が介入したありえない事態でした。このように、わが社は強権独裁国家や共産主義体制と体を張って闘ってまいりました。私の同期生に阿部雅美という優秀な記者がおります。「北朝鮮による拉致事件」を最初に書いた男です。彼は1980年のお正月に『アベック三組、謎の蒸発』と一面トップでスクープ記事を書きました。そして17年後に『めぐみちゃんも拉致されていた』と再びスクープを放ちました。ところが、この1980年から97年の17年間、政治は全く動かない、新聞テレビあらゆるマスメディアも全く報道しませんでした。この政治とマスコミの不作為が拉致事件で北朝鮮を付け上がらせ、北朝鮮はさらなる拉致を繰り返したわけです。もっとマスコミが騒ぎ、政治問題化し、国会が動けば、これほど酷い事態になることはなかったと思います。世の中のこの不作為と無策ぶりのあまりのひどさを最近、阿部記者は産経に大連載し、本にもなっています。当初、産経新聞のスクープ記事は信用されませんでした。「反ソ・反共の産経が嘘っぱち記事を書いた」と言われたものです。後に衆議院議長となる社会党の土井たか子氏などは「北朝鮮が拉致なんかするはずないじゃないの!」と記者の前で言い放ったことさえあります。朝日新聞はそれ以前から「北朝鮮はパラダイスである。みなさん北へ帰りましょう」とのキャンペーン報道を続け、真実を知らない非常に多くの在日朝鮮人の方々が「凍土」といわれる北朝鮮に帰っていったわけです。この罪悪は本当に大きいと思います。そして未だに拉致問題は解決していません。このように非常に不条理な仕打ちを産経新聞は受けてまいりました。

第二章 歴史戦を仕掛けられる日本
第1節 日本は共産・独裁国家に囲まれている
  2019年はベルリンの壁の崩壊(1989年11月)に象徴される「冷戦の終結」から30年、ソ連崩壊から28年になります。また2018年はマルクス生誕200年、2017年はロシア革命100年という節目の年でした。「共産主義は遠くになりにけり」という感じですが、日本は今も共産主義国に囲まれ、様々な苛み(さいなみ)を受けています。ロシアは、いまは自分では民主国家だと名乗っていますが、本質は共産主義国と変わりありません。ロシアはマルクス・レーニン主義の看板 下ろした「ミニ・ソ連」だと私は思っています。石油成金とガス成金でモスクワの街は金ぴかに輝いてはいますが、内情は統一ロシアという昔の共産党に代わるプーチン翼賛の事実上の一党独裁体制が続いています。新聞はありますが、言論の自由はありません。KGBと軍の情報機関「GRU」(ロシア軍参謀本部情報総局)が完全に復活し、世界で様々な悪事をしています。
  韓国の文在寅政権ですが、この大統領が登場した時、私はロシア革命100年に韓国で共産革命が起きたと思いました。文氏は北朝鮮べったりで、頭の中は北の主体思想(チュチェ思想)の信奉者です。周りを全部そういう人達で固めています。プーチンが周りを全部KGBや軍出身者で固めているのと同じようなものです。日本が周りを全部、共産・独裁国に囲まれていると言うのはそういう意味です。
第2節 日本は国家犯罪を仕掛けられている
  いま日本は周りの共産・独裁国すべてから国家犯罪を仕掛けられています。その最たるものが領土問題です。中国は南シナ海で乱暴狼藉をして、全部自分の海だと軍事化に狂奔しています。尖閣諸島を日本から奪うため、勝手に国内法まで作り「尖閣は中国の領土だ」と大嘘をついています。北朝鮮は拉致した被害者を返すどころか、「拉致問題は解決済み」と嘯いています。さらにミサイルと核の問題では、金正恩党委員長は6月にトランプ大統領を引っ張り出して史上初の米朝首脳会談で米国と瀬戸際外交と化かし合いを始めた。ロシアとの北方領土問題は解決の兆しも見えません。私は安倍総理を外交的に支持してまいりましたが、北方領土だけは問題があります。共同経済活動はそれ自体が逆に4島返還交渉の障害になっているような気がしてなりません。いつまで続くぬかるみぞ、にならなければいいですが。ソ連の独裁者スターリンが終戦直前、日ソ中立条約を一方的に破り、日本がポツダム宣言を受諾して武装解除したあとに、ソ連軍が文字通り火事場泥棒的に、不法に4島を次々と奪取したという歴史的正義がすっかり棚上げされて表面に出なくなってしまった。こうした状態が続けば、結局は日本は経済だけを“食い逃げ”されるのではないかと危惧しています。韓国の国家犯罪はもちろん竹島問題です。朝鮮戦争のどさくさの真只中の1952年、李承晩大統領が漁獲量が豊富な竹島を奪うため、これも勝手に日本海に突然国境線を引いてしまったわけです。日本を取り巻く4ヶ国全部が日本に国家犯罪を仕掛けており、未だに埒が明かないわけです。しかも相手の言い分は全部大嘘です。
第3節 日本は歴史戦に負けている
  中、露、朝、韓各国の国家犯罪を「歴史戦」だと見れば、日本はすべての歴史戦に負けているわけです。もう一度、北方領土について言えば、プーチンの前のエリツィン大統領は「北方4島の帰属の問題を解決して平和条約を結ぶ」という東京宣言(1993年)に署名しました。当初プーチンはそれを認めていた。ところが2008年になって「南クリル(北方4島)はロシアの固有の領土で、これは国際法で確定している」と大嘘を言い出した。日本は猛反対しましたが、軍事侵攻もできないし、制裁もしなかった。ソ連時代にクレムリンが「日ソ間に領土問題は存在しない」と強弁していたのと同じようなものです。中国は「尖閣は、明の時代からわれわれのものだ」、韓国も「竹島は歴史的に自分たちのものだ」と言い張っている。北朝鮮は核、ミサイルでも拉致でも嘘をついて憚らない。日本はあらゆる歴史戦に負けていると言わざるをえない。しかも悪いことに、中、朝、露の3ヶ国の独裁者は、長期政権になる可能性があります。習近平は「終身国家主席」と前回の党大会で世界に宣言しました。プーチンは任期を6年間延ばし、2024年までは確実に大統領を続けますが、その後も権力保持に腐心するでしょう。いま30代前半の金正恩は米国に何とかすがりついて生き延びようとしています。韓国の文在寅は判りませんが、あの国は辞めると必ず殺されるか、自殺するか、牢屋に入る国です。いずれにしても中国、北朝鮮、ロシアの3国はこれからも長く共産・強権国家が続くでしょう。独裁者が長期政権にこだわるのは、一つには自分の暗殺が怖いからです。彼らは「人権を守らない、国際法を守らない、経済でも悪いことをする」と国内外で様々な悪事を働いているから、権力の座をひとたび降りれば御身の命が狙われる危険性が高いのです。今後も日本はこうした腹黒い国々の隣で末永く生きていかなければならない宿命にあるわけです。
第4節 アメリカの対中戦略の大転換
  10月4日、ペンス米副大統領がハドソン研究所で中国だけに的を絞った激烈な批判演説を行いました。トランプ大統領の中国に対する強い憤懣を受けての演説だと思いますが、著名な戦略思想家のエドワード・ルトワック氏は「これはアメリカが中国崩壊まで続ける国家宣言である」と断言しています。つまり、大統領が誰になろうと、共和、民主両党、議会、メディア、経済界を横断した挙国一致の国家対中戦略だというのです。ペンス演説のエキスは「アメリカはソ連崩壊後、中国を多面的に支援していけば、われわれと同じような民主的で自由、法治といった価値観を持つ普通の国になるだろうと思ったが、そうはならなかった。中国による世界秩序破壊への道を許してきた日々は終わりにする」ということです。平たくいえば、「世界はこんな中国を放置しておいていいのか。その支配下に入っていいのか」という米国の強烈な問題提起なのです。米国はそんな甘いことを考えていたのか、と逆に考えさせられもしました。中国に苛まれ続けている産経新聞はそんな甘いことを考えたことは一度もありません。共産主義は年を追ってどんどん邪悪になるだけで、改心は絶対にしません。世界中で謀略と悪事の限りを尽くし、国内では特権階級だけが裕福な暮らしを謳歌して人民は虐げるだけ虐げる弾圧体制です。中国は、南シナ海を軍事的に制圧したあげく「太平洋の西半分を取る」と豪語し、巨大経済圏構想の『一帯一路』では、アジア、中央アジア、ヨーロッパ、アフリカと世界の隅々まで人とインフラを送り込み、各国を借金地獄に追い込んで軍事的拠点となりうる港湾などを奪い取ろうとしている。世界制覇への野望です。「人類の運命共同体」というたいそうなキャッチフレーズまで使って、中国流価値観を押し付けてもいる。そうしたことへの不信、批判がいま、世界のあちこちで湧き起ってきた。また1950年代にウイグルやチベットを一方的に奪い取ったことは、まさにいまの南シナ海奪取、ロシアのクリミア軍事併合と同じです。現在、新疆ウイグル自治区には一千万人のウイグル人がいると言われていますが、そのうち百万人もが収容所に入れられ拷問とともに思想改造を迫られています。そして共産主義思想、とりわけ「習近平思想」に抵抗した人は情け容赦なく殺されているわけです。ペンス氏はこの中国を一言で象徴的に「比類なき監視国家(surveillance state)」と厳しい言葉で批判しました。これはレーガン大統領がソ連のことを「悪の帝国(evil empire)」と言って、ソ連を潰しにかかったことと似ております。レーガンは1981年に登場しますが、その2年前にソ連はアフガニスタン軍事侵攻で国際的な猛非難を浴び、日米を含む西側諸国の大半が80年のモスクワ五輪をボイコットしました。いま、2022年の北京冬季五輪ボイコットの動きが米議会から出ているのも頷けます。ソ連はアフガン侵攻後、物凄い戦費を使い、厭戦機運も高まって国家は疲弊していきます。そこでレーガンはSDI(戦略防衛構想)、いわゆるスターウォーズ(宇宙戦争)を仕掛けて軍事競争のレベルをどんどん釣りあげていき、ソ連は技術力、人的能力でとてもついていけなくなりました。ゴルバチョフ時代になって国内では連日のように民主化要求や「モノをよこせ」デモが起き、15の共和国からの民族独立運動も先鋭化していきました。国内外の不満や失政が複合的に相俟って、ついにソ連という帝国は潰れてしまうわけです。ペンス演説に対して、中国も相当な覚悟で対抗措置を打ってくるでしょうが、いまの中国はソ連の末期に似通ってきたような気がしてなりません。

第三章 これからの日本の課題
第1節 中国の脅威
  アメリカのトランプ政権が中国に対する国家声明を出してくれても、日本自身の足腰が弱いままでは大変です。憲法9条を改正し、自衛隊をきちんと認めることは当たり前のことですし、僅か1パーセントの軍事費を2%にするくらいのことはやらなければ中国に対抗できないと思います。また日米同盟強化のためアメリカが出来ないことを日本が取り組んでいくことも重要です。日本の中古の艦船や航空機をASEAN(東南アジア諸国連合)の国々などに提供する。自衛隊の水上艦船や潜水艦をあちこちの港に寄港させ、中国に対する包囲網を強化することです。そもそも中国が世界に覇を唱えようと思ったのは、1840年のアヘン戦争で、西欧列強から経済的にも政治的にもズタズタにされた怨念からです。ケ小平が改革開放に着手して経済強化に乗り出し、習近平に至って世界に露骨に覇を唱えるようになりました。ウイグルとチベットを徹底弾圧し、ロシアとの国境線を最終的に決めて内陸を平定したうえで、海洋戦略の実行に移行し、南シナ海や東シナ海を領海侵犯して米国との対決姿勢を強めているわけです。米国が中国を最大の脅威とみているのは確実です。産経新聞では、「北海道が危ない」「対馬が危ない」「沖縄が危ない」と「危ないシリーズ」の現地ルポを断続的に掲載しています。北海道の自衛隊基地や重要施設の周辺の土地が中国系の企業に買われ、九州の屋久島にまで中国資本が入り込んでいます。南シナ海から北海道まで東アジア、極東は非常に危険な中国の野望の標的になっている実情を認識しなければならないと思います。
第2節 ロシアの脅威
  ロシアのプーチン大統領は柔道が好きで、安倍さんと二十回以上も会談したので、北方領土も上手くいくだろうと言う人がいますが、全く違います。プーチンは小さい頃に虐められ、強くなりたくて柔道を始めたのが真相です。彼はソ連崩壊に物凄い憤りを感じている指導者です。「ソ連崩壊は地政学的なカタストロフィー(大惨事)だった」と折に触れ言っています。彼はKGB東ドイツ駐在のスパイとしてベルリンの壁の崩壊、そして祖国に帰ってからのソ連の崩壊という2度の帝国崩壊劇の経験で凄いショックを受けたわけです。それで、隙あらばかつてのソ連の領土を少しでも取り戻そうと、まず2008年8月8日、北京オリンピックの開幕日に世界の注目が集まる裏をかいてグルジア(いまはジョージア)に軍事侵攻し、2014年3月にはウクライナ東部の軍事的混乱に乗じてクリミアを一方的に奪取しました。プーチンは最初に登場した頃から「ロシアは大陸国家から海洋国家になるのだ」と言っていました。クリミアを何故、併合したのか。そこにはセバストーポリという海軍基地があるからです。ここはウラジオストク、カリーニングラードと並ぶ旧ソ連の3つの不凍港の一つです。黒海からボスフォラス海峡を抜け、地中海に出る。そして大西洋を北上し、地球温暖化で氷が溶けはじめた北極海を通ってアジアに至る航路を確保するという大海洋戦略です。そこを軍事的に利用出来ればアメリカに対して非常に有利になるわけです。この航路は中国も虎視眈々と狙っている。またGRUがいま、ロシアの世界に対するサイバー攻撃を仕切っています。トランプが当選した米大統領選で民主党のクリントン陣営にサイバー攻撃を仕掛けたのはGRUの「ファンシー・ベアー」(気まぐれの熊)という部隊です。これとは別にKGBには「コージー・ベアー」(心地よい熊)と呼ばれるサイバー部隊がいる。世界中の民主主義国を覆し、ロシア寄りの政権を作ろうとして画策しているわけです。当然ながら日本も狙われています。中露をここまでのさばらせている背景には、 2013年9月10日、オバマ大統領の「アメリカはもう世界の警察官ではない」との極めて内向きな発言が非常に大きな影響を与えております。この発言でロシアはしめしめとクリミアを侵略、中国は南シナ海で軍事化を進め、尖閣、沖縄を取ろうとしているわけです。
第3節 中国への接近は危険
  安倍総理は10月26日に訪中し、習近平と会談の予定ですが、非常に危険であると思います。まず『一帯一路』の協力に「NO」と言えるかどうかです。日本企業がヨーロッパ、中央アジアで“やけど”をする可能性があります。また政治的には「評判の悪い中国と日本は一緒にやるのか」と国際的な信用を失墜する可能性があります。更に中国のウイグル支配を支援することにもなります。安倍さんが「ウイグルの抑圧、弾圧を止めろ」と言えるでしょうか。中国がトランプを批判して「自由貿易を堅持しよう」と殊勝なことを言っていますが、言葉の響きが良いものですから、安倍さんの反応が心配です。アメリカのマスコミは「一帯一路」は新しい植民地主義だと言っております。日本が新植民地主義に加担することになるわけで非常に心配です。中国は国際的に困ると日本に擦り寄って来ます。特にアメリカとの対立が激しくなると、同盟国である日本に擦り寄り日米分断を図ろうとします。1989年6月4日の天安門事件では若者中心に数千人が殺されたといわれています。しかし中国当局は「死亡者は数十人」と述べただけで、事件そのものを中国の歴史から消し去ろうとしました。しかし国際的な制裁を受け困り果てて「何とかこの局面を打破しないといけない」ということで、日本の皇室を抱き込むことを画策したわけです。首尾よく1992年秋、天皇、皇后両陛下の中国ご訪問が成ると、欧米諸国は一気に裃(かみしも)を緩め、制裁を解いていったという経緯があります。中国は今度のペンス演説で本当に窮地に陥ったと感じているはずです。そういう時に安倍さんが訪問するわけです。いま重要なことは中国を締め上げ、世界での悪事を止めさせることです。北朝鮮問題も親分の中国が鍵を握っているわけです。日本は今後、一段と腹を据えた中国への対応が必要になってくるでしょう。
第4節 北方領土問題の行方
  産経新聞はこれまでずっと「4島返還」を主張してまいりましたが、残念ながら落ち着くところは「2島返還」となってしまうのではないかと、非常に懸念しております。ロシアは、北方領土で10月に5回も連続で軍事演習をすると脅しています。中国との合同演習の時には「北方領土は外した」と恩を売っていましたが、とんでもありません。要するに、北方領土に特化して集中的に演習を強行するという腹黒い意図で、腹立たしい限りです。北方領土問題はスターリンによる国家犯罪である限り、4島返還で元に戻すのが筋というものです。拉致問題と同じで5人の被害者が帰ってきたら解決ではありません。拉致被害者全員が帰るまで拉致問題は解決しないのです。同じように4島が全部返ってこなければ、千載に禍根を残すことになります。歯舞、色丹の2島は北方領土全体の僅か7%です。プーチンは軍事演習で日本を恐喝して領土の価値を吊り上げているのです。そして日本人が2島でも有難く受け取るという状況を作ろうとしているのです。安倍さんもプーチンも、領土問題を解決しようとしていることでは一致しています。平和条約を結ぼうということでも一致しています。プーチンが「領土問題解決なしで、平和条約を結ぼう」というふざけた提案も領土の価値を吊り上げているのです。北方領土に中国や韓国の労働者を入れて、完全にロシアの領土だと見せつけているのも同じです。1956年の共同宣言で「2島は平和条約を結んだら引き渡す」と書いてあるわけで、そこは最低してくるだろうと思います。そのため領土の価値を吊り上げ、共同経済活動で獲る物を獲った上でやっと2島だけを返しましょうということになってしまうのではないか。日本の新聞やテレビで「2島が返って来て良かった。根室の漁民たちは万々歳で大喜びしている」という状況を作り出し、返還してくるような気がします。鈴木宗男さんは「2島プラスα」と言いますが、ひとたび平和条約を結んでしまったら93パーセントの国後、択捉は絶対に返ってはきません。こんなことしてはいけません。日本の国家主権と国益が根底から崩れてしまい千載に禍根を残すことになります。国家主権まで譲って歴史的な譲歩をする必要は全くありません。中国の毛沢東は「4島返還」に賛成していたんですよ。習近平主席に対して「毛沢東さんは北方領土返還に賛成しておられたのですが、プーチンさんにこのことをきちんと伝えてもらえませんか」と、これくらいのことがはっきり言える政治家、外交官が日本にも現れて欲しいものです。

おわりに
  米ソ冷戦とは、米側からすれば実相は同盟国や友好国をたくさん味方につけて「悪の帝国・ソ連」の包囲網を構築することでした。同様に、ペンス演説の要諦は、私流に言えば、「米中新冷戦」という名の中国包囲網の構築でしょう。もちろん日本単独で中国に対抗することは非現実的です。ここは米中新冷戦下で起きうるあらゆる国家的危機を想定して日米同盟を一層強固にしたうえで、中国包囲網の一環として自衛隊明記など憲法9条を一刻も早く改正し、友好国との連携も強化して、堂々とまともな国家の形を整えることだと信じます。

質疑応答
「質問1」

  ヤルタ会談で、トルーマンはロシアに「北海道はダメだけれど、4島は良いよ」とお墨付きを与えたのではないでしょうか。

「回答1」

  結果的にはその通りです。ただし、ヤルタ協定は秘密協定で日本は絡んでいません。協定が発効するのは、当事者両方が絡んでいないと協定ではありません。


「質問2」

  アメリカはトルーマンの言ったことを守らないといけないと思っているのではないでしょうか。

「回答2」

  アメリカはその後の2005年、当時のブッシュ大統領がラトビアで「ヤルタ協定は大変な誤りであった」と訂正しております。それが今のアメリカの立場です。


「質問3」

  アメリカのスターウォーズ計画で、ソ連は経済がガタガタになり、国民も非常に困っていた。ちょうど日本はバブル期(80〜90年)で経済に勢いがあった。その時ソ連が「4島を売る」という考えはなかったのでしょうか。

「回答3」

  ソ連が崩壊する前後に、ゴルバチョフの使いや、その後のエリツィンの使いが何回か日本に来ました。その中でまさにお金の話が出ております。海部総理の時、エリツィン政権のコズイレフ外務大臣が「4島を売ってもよい」という提案をし、日本政府が一時は乗ったという話もあります。しかし、これを妨害したのがGRUだといわれています。彼らの「領土は血だ。一滴の血も死活的に大事だ」という哲学を持っています。またソ連崩壊前に「2島は返す。他の2島については継続交渉にしましょう」と言ってきたこともあります。しかし当時の日本の世論は「四島一括返還」で固まっていましたし、「4島でなければ駄目だ。2島では国民に申し訳がたたない」とあっさり蹴ってしまったわけです。今は「4島返還ですが、日本の領土における主権が確認されれば、返還の時期はいつでもよい」というのが日本政府の公式な立場です。


「質問4」

  産経新聞記者が中国で取材拒否とか嫌がらせを受けているのは忸怩たる思いです。日本政府が記者や新聞社が拒否された場合は、中国報道機関の取材拒否をすることができないものでしょうか。

「回答4」

  日本政府にそんな勇気はありません。ただし昔と違い、日本政府は相手に抗議するようになりました。朝日、読売の各新聞社も合同で抗議してくれるようになりました。これは時代の変化です。


「質問5」

  日本が近隣諸国から攻められる問題に、どのように対応していけば良いのでしょうか。ロシアや中国は、国内の経済や政治の問題があると必ず日本を頼って来ますが、そういう時がチャンスです。我々が一致団結して、お互いに協力することはできませんか。

「回答5」

  共産主義国は必ず崩壊します。ソ連はロシア革命から5年後の1922年に出来ましたが、69年後に滅びました。中国は今年で69年です。無理がたたってガタが来ています。共産党は全部暴力で政権を奪っています。ロシア革命という暴力、中華人民共和国は内戦で国民党を台湾に追い出した。東欧の共産主義政権成立はソ連の圧力があってのことです。共産国はなぜ、軍も情報機関も強大なのか。それは非合法で奪った政権で、正当性がなく、いつ反乱されるかわからない、という恐怖からです。そしていま、中朝とも明らかにガタがきている。北朝鮮がトランプに抱き着いてきたのも、このままではとても生き切れないという危機感からです。次に北方領土問題はもっと国際化しないといけません。福田内閣が北方領土と目と鼻の先の洞爺湖でサミットを行った時は、ロシアのメドべージェフも来たのです。その時、サミット首脳の全体会議で福田首相は「G8で国交がないのはロシアと日本だけではないですか。その原因はスターリンの北方領土占領ですよ」と四島返還の歴史的正当性を訴えるべきでした。しかし日本側は「領土問題は二国間問題でやる」と言っただけでした。絶好のチャンスを逃したと言わざるをえません。日本はあらゆる場を利用して、もっと国際的にアピールする戦略を考えないと道は開けないと思います。


以上は、 齋藤勉の講演を、國民會館が要約、編集したものです。文章の全責任は國民會館が負うものです。



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