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武藤記念講座(講演会事業)

第1064回武藤記念講座要旨

    2019年10月5日(土)
    於大阪「國民會館 武藤記念ホール」
    元警察庁長官
    米田 壯氏
 『日本は本当に安全か−21世紀型脅威への対処−』


セミナー





はじめに
  日本は世界最高レベルの良好な治安を誇っていると言われておりますが、21世紀になり新しい現代型の脅威が生まれて来ました。現在は、未だそれを抜本的に解決する道筋がたっておりません。その現状と今後の対策についてお話をしたいと思います。

第一章 日本の治安
第1節 犯罪情勢
  日本の治安状況の指標として刑法犯認知件数というものがあります。昭和の時代は大体150万から160万件というところで安定しておりました。これが平成になりますと急に増加し、平成14年には285万件とピークとなります。その後、様々な対策をとり急激に減少し、昨年度は戦後最少となる81万件まで減ってまいりました。また国際比較では、窃盗犯の場合、アメリカ・イギリス・フランス・ドイツが日本の4倍から6倍の水準です。殺人は、アメリカが日本の約14倍、イギリス・ドイツ・フランスが日本の3〜4倍です。一般的に産業社会が急速に発展しますと、農村部から都市部へ大量の人口流入が起こり、農村部は荒廃し、都市部はスラム化するため犯罪が激増します。高度成長期前後(1960〜1980年)の経年変化の比較では、この20年間でアメリカが約4倍、イギリス・ドイツが3倍になっております。ところが日本は1.1倍でほとんど増加しておりません。またその間、日本の人口は25%ぐらい増えておりますので、人口当たりの犯罪発生率は減少しています。これは世界でも極めて特殊な状況です。
第2節 日本の治安維持システム
  安全保障の分野では、抑止力には、守りを固めて敵を侵入させない「拒否的抑止力」と、攻撃してくれば反撃する構えを示し、攻撃を控えさせるという心理的な抑止すなわち「懲罰的抑止力」の二種類があるとされていますが、犯罪への抑止力にも同じことがいえます。昭和の時代に犯罪が増加しなかったのは、都市部においては、企業等が終身雇用制をとり、職場が疑似的な地域社会になったことがあります。さらに大規模店舗法等の規制により商店街等の崩壊が比較的緩やかでした。一方地方交付税や補助金により、地方の衰退も相当緩和されました。共同体的性格が色濃く残る当時の社会の中では安易に犯罪に手を染める人は少なかったといえます。つまり、当時の治安には社会に内在する秩序維持機能の寄与する度合いが高く、犯罪抑止策は今から見れば牧歌的でした。人口当たりの警察官の数も欧米の6割から7割程度でした。ところが平成10年代に入りますと、急激に犯罪の発生が多くなります。企業や地域社会の共同体的な雰囲気が薄まり、社会の秩序維持機能が弱体化してまいりました。そうしますと、防犯に関わる法制度などの仕組みが未整備で、警察力も不足していることが露呈してまいりました。そこで、平成14年以降、政府は警察官の定員を約10年かけて全国で3万人ほど増やすとともに、犯罪対策閣僚会議を設置し、官民連携の強力な対策を取りました。拒否的抑止力の面では、住宅の防犯性能を強化する、自動販売機を堅牢化する、あるいは防犯ボランティアを充実する等の対策を講じてまいりました。懲罰的抑止力の面では、罰則や量刑の厳格化(これにより暴力団の対立抗争などは激減しました)と検挙確率の向上を図りました。後者は、具体的には防犯カメラの増設とDNA型鑑定の精度向上です。

第二章 新たな脅威と対応策その1 −「強い犯罪者」
第1節 懲罰的抑止力の効かない犯人たち
  「強い犯罪者」とは、私のネーミングであり、懲罰的抑止力(刑罰の威嚇力)の効かない犯人たちのことです。その第一は、通り魔等です。専門家は「アベンジャー型犯罪」あるいは「拡大自殺」と言います。まさに社会への復讐あるいは特定のカテゴリーの人々への恨みを背景とする凶悪事件です。典型的な例として平成20年の「秋葉原事件」があります。犯人は秋葉原の歩行者天国に2トントラックで突っ込んで人をはね、車を降りてナイフで周りの人を刺し、合計7人を殺害しました。ネットに犯行予告を投稿し、その通り実行した事件です。平成27年に最高裁で死刑判決が確定しました。この類型は大量殺人が多く、3年前の「相模原障害者施設事件」では19名の方が亡くなりました。さらに今年7月には「京都アニメーション放火殺人事件」で35名の方が亡くなり、戦後最多の死者数となりました。この種の事件の犯人は、「新幹線内の焼身自殺事件」や「宇都宮連続爆破事件」のように、死をも恐れません。また「土浦連続殺人事件」や「相模原障害者施設事件」では、犯人が早い段階で自ら警察に出頭しております。つまり、このような人達には、刑罰による威嚇力が効きません。
  第二に、テロも懲罰的抑止力が効きません。テロは時代により変遷しますが、1980年代末まではマルクス・レーニン主義(共産主義)過激派による組織的テロが主流であったのに対し、今はイスラム過激派によるテロが主流です。
  イスラム過激思想では、最初は「近い敵」すなわち自分の国の政府を倒すという考え方(ローカルジハード)でした。その後、諸悪の根源はイスラムを抑圧しているアメリカとその同盟国であり、その「遠い敵」を攻撃するという考え方(グローバルジハード)に変ってまいります。このグローバルジハードの担い手が「アルカイダ」(AQ)と「イスラム国」(ISIL)であります。AQの創始者であるウサマ・ビン・ラディンはサウジアラビア人で、中東最大のゼネコンの御曹司です。1988年にAQを組織し、1996年以降はアフガンを拠点に世界中でテロを行いました。その最大のテロが2001年9月11日の米国同時多発テロです。死者約3千人を出しました。アメリカは翌月からアフガニスタンに侵攻し、その結果AQは根拠地を失い、中東アフリカの各武装勢力のフランチャイズチェーンのような形に変っております。なおビンラディンは2011年5月にアメリカ海軍特殊部隊の攻撃で死亡しました。次にISILです。2003年のイラク戦争後イラク国内が大変混乱し、そこにヨルダン人のザルカウィが率いる武装勢力が入って急速に勢力を拡大します。そしてAQのフランチャイジー第一号としてAQI(イラクのアルカイダ)と名乗るわけです。しかしその後、シリアへの進出をめぐりAQと対立し、AQから脱退して「イスラム国」を名乗り、指導者 バグダディはカリフ(マホメットの後継者)を称します。今はイラク、シリア等の支配地域は非常に小さくなっていますが、いまだに一定の勢力を保ち、先進国内のテロリスト予備軍に対する影響力を持って活動している状況です。
第2節 「通り魔等」と「ホームグローンテロ」の共通点
  現在のテロの最大の問題が「ホームグローンテロリスト」です。彼らはAQやISILの影響を受け、生まれ育った国でテロを行います。大半は一匹狼でもあります。AQやISILは宣伝が巧みでネットを通じて多くの若者をテロに扇動します。彼等の多くは自ら進んで身体に付けた爆弾を爆発させ、あるいは治安機関との銃撃戦で死亡します。つまり、彼等には懲罰的抑止力が効かないわけです。昔は、テロの実行には下見、武器の調達などのために強力な組織が必要でしたが、今はネットでテロの実行ノウハウを得ることができ、グーグルストリートビューやドローンなど便利なツールもあります。2013年の「ボストンマラソン爆弾テロ」犯は、AQAP(アラビア半島のアルカイダ)のオンライン雑誌を見て圧力鍋爆弾を作りました。一昨年の「マンチェスター自爆テロ」では、ISILの動画を見て作った爆薬を爆発させました。現代のテロは、単独犯でもあなどれない力を持つようになっております。しかも、組織によらずに個人個人がバラバラにテロを行うので、治安機関がテロリストを事前に把握することが非常に難しくなっております。
  「通り魔等」と「ホームグローンテロリスト」はよく似ております。例えば「秋葉原事件」と2016年の「ニースのトラック突入テロ事件」は、思想的背景は異なりますが、治安対策的観点からはすごく似ております。単独犯または少人数であること、目立つ場所を効果的に狙う計画性、死を恐れず、あるいは自ら警察に出頭すること、正当性を主張すること、そして、ネットで書き込みをする。関連のホームページを見に行くといった兆候が色々あることです。
第3節 「強い犯罪者」に対する抑止力
  懲罰的抑止力の効かない犯人たちに対しては、防御を固めるしかありません。まず考えられる方法としては、マンパワーによる抑止があります。警察官や民間警備員を増やし、警戒することは、かなり有効な方法です。国際会議やオリンピック、パラリンピックなど日時と場所が限定される場合は非常に効果的です。しかし1年365日、あらゆる場所を常に警戒することは、人的、財政的な負担が重過ぎ、また日常生活が大変に阻害されることもあり、非常に難しい。そこで最も効果的な方法が、情報を得て、予兆を把握し、実行を阻止することです。しかしこれを行うには、日本では大きな課題があります。冷戦時代の組織テロの場合は、テロ組織の中や近くに一人でも有力な情報源がいれば、テロ組織全体をある程度把握できました。ところがホームグローンテロの場合は、普通の市民が、ある日突然、テロリストとなるわけです。ヒューミント(人を媒介とした諜報)で把握しようとすれば、怪しそうな人を全部監視下に置かなければならず、これは非常に難しいわけです。しかし、一方で「通り魔等」や「テロリスト」はインターネットやSNSで書き込みを行い、テロ関連のホームページを見るなど色々な兆候を発信しています。現在では、ネットを流れる情報を把握分析することが、テロの予兆を掴む非常に有効な手法となってきております。ところが日本は、犯罪が実行される前に通信を傍受する「行政傍受」ができない、おそらく世界で唯一の国です。犯罪が起こった後での司法傍受は厳格な要件の下で認められていますが、テロを未然に防ぐのに役に立ちません。そして近年、世界はさらに進んでおります。アメリカ、イギリスを始め各国は、ネット空間を流れる情報を大量に個別判断をせずに傍受する、「バルクデータ」の収集」、蓄積、分析をしております。「スノーデン事件」では、アメリカ当局のこのような情報活動が暴露され、世界中が大騒ぎになりました。その結果、2015年に「米国自由法」が成立し、通信傍受の対象は何らかの特定をすることが原則となりましたが、バルクデータの収集も禁止されたわけではなく、実態はさほど変わっていないという指摘もあります。なお、アメリカは国際的なインターネット回線のハブになっており、アジアとヨーロッパの間の通信などアメリカに関係のない通信の多くもアメリカ国内の通信設備を通過しています。また、スノーデンの暴露によれば、米英は約200本の海底ケーブルから情報を取っていると言われております。
  日本も、米英を参考にしながら、現代に通用する情報収集・分析の方策について、そろそろ議論すべき時期に来ていると思います。ただし、現在の制度のままでも、米英に比べ制約が多いとはいえ、テロや通り魔等の事前情報収集の工夫はしています。一つは平成28年に「インターネット・オシント・センター」が作られたことです。オシント(OSINT)とは、公開情報を分析するということです。インターネット上を流れる公開された大量の情報を体系的に把握し、テロの予兆を掴む方法です。テロ対策の一つの鍵になると思います。もう一つは防犯カメラの高度化です。近年画像の認識能力が高まり、不審な挙動を検出してアラートを鳴らすことが実用段階になってきています。つまり、防犯カメラがテロや通り魔等の実行を阻止する有力なツールになるということです。

第三章 新たな脅威と対応策その2 −「サイバー攻撃」−
第1節 国家によるサイバー攻撃の活発化
  最近、国家によるサイバー攻撃の活発化が非常に問題となっております。一部の国は、他国の機密情報を盗み出す、嫌がらせをする、あるいは社会経済の混乱を狙うため頻繁にサイバー攻撃をしかけております。アメリカは昨年「国家サイバー戦略」を策定し、中国・ロシア・北朝鮮・イランを名指しで批判し、「悪意あるサイバー攻撃に対して先制攻撃をする」と宣言しました。ここでは、最近アメリカや国連が国家からの攻撃と認めたものを中心に、実例を紹介します。
  まず中国です。2008年から12年にかけて、人民解放軍のサイバー攻撃部隊がアメリカ企業から機密情報を盗み出しておりました。2014年5月、米司法省は人民解放軍の将校5名を起訴したと発表し、中国に身柄の引渡しを要求しました。米中関係の転換点となった出来事の一つです。次にロシアです。2016年のアメリカ大統領選挙に際して激しいサイバー攻撃があり、クリントン陣営のメールがネット上に流出し、さらに州選挙管理委員会の有権者約50万人分の個人情報も盗まれました。米司法省は昨年7月、ロシアの軍・情報総局(GRU)の情報部員12名の起訴を発表しました。3番目に北朝鮮です。2014年11月にソニー・ピクチャーズ・エンターテーメント(米国)に対し、マルウェアによる攻撃がなされ、従業員や役員等に関する情報が大量に流出し、システムが使用不能になりました。昨年9月、米司法省は北朝鮮のハッカー1名を起訴したと発表しました。その発表では、北朝鮮によるサイバー攻撃で米国ニューヨーク連銀のバングラデシュ中央銀行の口座から攻撃者側の口座に8,100万ドルが送金された2016年の事件にも言及されています。また、今年3月、国連の北朝鮮制裁委員会の専門家パネルは、2017年、2018年、北朝鮮が仮想通貨交換業者にサイバー攻撃をしかけ、合計5憶7,100万ドル分を強奪したと公表しました。最後にイランですが、2013年にアメリカニューヨーク州のダム水門制御システムがイランのサイバー攻撃で乗っ取られました。この時は点検作業のために水門が制御システムから切り離されており、攻撃は空振りに終わりましたが、2016年3月、米司法省はイランの革命防衛隊等と関係のあるイラン人7名を起訴したと発表しました。その他の国家による攻撃の疑いがある重要事案としては、2007年のエストニアに対する大規模なサイバー攻撃、日本の三菱重工への標的型メール攻撃、イランのウラン濃縮施設での遠心分離機の破壊などがあります。
第2節 情報通信技術をめぐる米中対立
  現在、米中関係が非常に緊迫しております。アメリカはファーウェイに代表される中国製電子機器の使用を大幅に制限しておりますし、部品やソフトを供給することにも規制をかけ始めました。最初に、2012年10月下院情報特別委員会の「中国通信機器企業華為技術及び中興通信が米国国家安全保障に及ぼす問題」という調査報告書で、中国製の電子機器にはバックドア(秘密に意図的に設けられた通信接続機能)が設けられており、中国は他国の安全保障上のシステムの停止・機能低下を狙っていると指摘されました。これを受けて中国製電子機器の排除の動きが始まり、年を経るごとに厳しくなっております。これはオバマ政権の時から始まりました。また中国の人民解放軍の将校5名が起訴されたのもオバマ政権の時代です。現在のトランプ大統領は、オバマ政権の路線を更に強化する方向に動いております。したがって、民主党政権であれ共和党政権であれ、アメリカの厳しい対中姿勢に変化はないので、この傾向は今後も続くと思います。
第3節 サイバー攻撃抑止は非常に困難
  サイバー攻撃の技術は益々進歩しており、特に国家が絡む攻撃は非常に手の込んだものになってきております。一方で、現代の生活はITやインターネットに大きく依存しております。加えて、IOT(モノのインターネット)の時代を迎え、ライフライン、工場、ビルなどの監視制御機器、防犯カメラなど多くの機器がネットに繋がっています。IOT機器は様々な制約からセキュリティ上の弱点を抱えています。こういう状況ですから、完璧に守ることは不可能に近く、サイバー攻撃に対する「拒否的抑止」は極めて難しいです。一方、「懲罰的抑止」も簡単ではありません。先ず根本的な問題として「アトリビューションの壁」があります。アトリビューションとは、真の攻撃者の特定を意味しますが、高度なサイバー攻撃は、何年も前から仕込みをした上で、世界中の多くのパソコンを踏み台にして、攻撃経路を判らなくして、攻撃を行います。つまり真の攻撃者の特定が非常に難しいわけです。アメリカが中国やロシアなどの攻撃者を特定し起訴できたのは、平常時からサイバー空間を流れる膨大な通信を把握し、物凄い分量のデータを収集蓄積する「バルクデータ」の収集・蓄積を行っているからです。先程も触れましたが、日本には真似の出来ないことです。懲罰的抑止力の発揮が難しいもう一つの問題は、有効な制裁手段がないことです。西側の先進国では「武力攻撃に匹敵する重大なサイバー攻撃に対しては、国連憲章はじめ国際法が適用され、自衛権を行使して反撃することができる」という共通理解があり、日本政府も「憲法9条の下で自衛権を行使して反撃出来る」という見解です。ところが武力攻撃に匹敵するサイバー攻撃は滅多にありません。機密を盗む、大統領選を掻き回す、中央銀行からお金を盗む等のサイバー攻撃は、深刻な被害をもたらすのに武力反撃の対象ではなく刑事事件として扱うしかありません。しかし起訴し、身柄引渡し要求をしても相手が応ずることがないため、抑止する効果はさほどありません。私は、サイバー攻撃については、既存の国際法の武力攻撃への対処のルールとは異なる、もう少し柔軟な反撃を許容するような特別なルールを作ることも検討すべきではないかと、個人的には思っています。
第4節 日本が取り得る対策
  以上のように、サイバー攻撃は「防ぐのも困難、有効な制裁報復も出来ない。とは言え、「お手上げです」と簡単に諦めるわけにはまいりません。日本が、与えられた条件の下で取り得る対策は、第一に、防御だけではなく、復元力・回復力(Resilience)を重視することです。攻撃を受け、被害を受けることは覚悟せざるを得ない。しかしながら、素早く検知し、迅速に対処する(Detection and Response)、侵入が有り得る前提でシステム内と外部の通信を警戒する、データを暗号化する、あるいはバックアップを取っておく。要するに被害を最小化し致命傷は負わない様にするという考えが大事です。第二に、人的要因が非常に重要だということです。デジタル時代になり、情報の漏えいが簡単になり、大規模になりました。「ベネッセの顧客データ漏えい事件」では、犯人はスマホを使って2億1,639万件の顧客データを持ち出し名簿屋に売りました。スノーデンもベネッセの犯人も組織の内部の者です。外部のサイバー攻撃よりも、悪意の内部者による有害な工作、情報の持ち出しの方が怖いということです。またネットに接続していないシステムでも、人間が介在することにより攻撃を受ける危険があります。さらには、企業や官庁の多くは、システム構築や管理を外部のIT専門の事業者に任せておりますが、信頼出来る事業者の選定が重要です。資本構成、システムエンジニアの信頼性、データセンターは日本国内にあるのか等、下請けも含めてチェックすること必要です。そして第三に、組織トップの役割が重要です。サイバーセキュリティは利益を生まない分野ですが、ある程度の資源を投入しなければなりませんので、トップの関与が不可欠です。また被害が生じても致命傷を負わないためには機動的な対処が必要ですが、それにはトップの決断が必要です。更に企業が攻撃を受けた場合は、社会で情報共有することも大切です。日本のようなサイバーインテリジェンス能力が不十分な国では、サイバー攻撃に対処するのに自分の企業のことを考えているだけで良いのですかということです。これは組織トップの見識の問題です。

結びに
  来年東京オリンピック、パラリンピックがあります。こういうイベントの時には狙われるリスクが高くなります。テロもサイバー攻撃も政治的意図で行われますが、国外から賓客を迎えて行われる大規模な行事は、攻撃する側にとっても政治的な価値が高いからです。我が国が、来年のオリンピック・パラリンピックの時期を無事乗り越えるとともに、今後、情報収集の在り方がタブー視されることなく議論がなされ、21世紀に通用する国家の情報力が整備されることを期待しております。

質疑応答
「質問1」

  日本に国家警察がないことについて、見解をお伺いします。

「回答1」

  戦後、GHQにより、地方分権色の強い自治体警察を中心とする仕組みとなりました。そして独立回復後の昭和29年に、国の機関としての警察庁と都道府県警察との二本立てになり、予算も都道府県の予算と国の予算の二本立てで、形の上では自治体警察である都道府県警察に対し国が広範囲に関与できるようになりました。今日まで、この仕組みで広域事案にも国際的な案件にも対応してきました。しかしサイバーの世界では、都道府県警察の枠組みだけで対応するのはかなり無理があります。国家警察があった方が良いという議論が今後活発になっていくのではないかと思います。


「質問2」

  日本では情報組織が何故できないのでしょうか。

「回答2」

  外国のような情報機関を作ったらどうかという話は常にありますし、あったほうが良いと思います。ただし、日本では、情報漏洩、暴露事故等が起きた場合、それ以降の情報活動に大きな支障が起きる可能性が大きいと思われます。「日本は対外的に、普通の国として戦略的な動きが必要であり、それには情報活動も含め一定のリスクもある」ということをメディアや世論が理解しなければ、情報機関を作ったり動かしたりすることは難しいと思います。


「質問3」

  日本は海外にスパイを送り込んでいるのですか。

「回答3」

  日本は他国と同じような意味のスパイ活動は行っておりません。


「質問4」

  外国人の犯罪件数は増えていますか。又今後の外国人対策はどうお考えですか。

「回答4」

  外国人犯罪件数は2000年代初め頃と比べて大幅に減少しております。今後外国人の受入が増加してまいりますが、現時点では、外国人犯罪に対してはこれまでの経験やノウハウで対応できると思っております。


「質問5」

  国防は海上保安庁と海上自衛隊を一体化する。そして手薄となった海外保安庁のエリアは各県警の水上警察が拡大して守るという考えは如何でしょうか。

「回答5」

  平成13年の省庁再編では、その検討過程で、海上保安庁を警察に付けてはどうかという議論もありました。メリットもあると思いますが、都道府県警察の仕組みを前提とする限り、海上保安庁は国全体を視野に領海を守っており、海を都道府県毎に切り離すことは難しいと思います。しかし将来、他国からの様々な攻撃等に対抗するためには、警察活動から軍の活動までの連続的な対処の仕方を検討することが必要になるかもしれません


「質問6」

  警察庁を目指された理由は何ですか

「回答6」

  当時、国の根幹を担う治安関連の諸制度が未整理であると聞いて、やり甲斐ある仕事だと思ったからです。


「質問7」

  全国の警察機能をご覧になって、地域による違いはあるのでしょうか。

「回答7」

  全国の都道府県警察は、国家警察的要素、自治体警察的要素が混じり合っておりまして、警備や要人警護に慣れている警察、刑事事件に強い警察などそれぞれ特色があるように思われます。


「質問8」

  外国人労働者が各企業に雇用され行方不明になるケースがあります。悪質なケースに対する対処、また住民に対する影響力について教えてください。

「回答8」

  外国人労働者は増加傾向にありますが、今のところ幸い犯罪が増える状況にはなっていません。しかし、外国人の増加には社会的な費用がかかりますが、今はまだ問題が可視化されていないように思えます。考えられる問題点を表に出しながら今後議論していくことが良いと思います。


以上は、元警察庁長官 米田壯氏の講演を、國民會館が要約、編集したものです。文章の全責任は國民會館が負うものです。



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