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武藤記念講座(講演会事業)

第1072回武藤記念講座要旨

    2020年8月22日(土)
    於大阪「國民會館 武藤記念ホール」
    富士通フューチャースタディーズ・センター理事長
    谷内正太郎氏
 『コロナ・ショック下の国際情勢と日本外交』


セミナー





はじめに
  10年前にこちらで話をしましたが、当時、私が外交や安全保障について思っていたこと、あるいは考える基準や座標軸は、今も変わっておりません。ずっと信念を持ち、筋を通してきました。この新型コロナという新しい状況下、皆様方の生活様式は大分変ってきたと思いますが、そういうことも踏まえながらお話したいと思います。

第一章 第二次安倍政権発足時の課題
第1節 経済再生と長期安定政権
  第二次安倍政権は2012年に発足しましたが、当時私は安倍さんに新政権には三つ課題があると申し上げました。一つは「経済再生」です。その時、安倍さんは『アベノミクス』という金融、財政、成長の3本の矢で経済再生を図ると明確に言われました。二つ目は、長期安定政権を作ることが国民の期待であると申し上げました。基本的にこの二つは順調に進んだと思います。コロナ以前までは、アベノミクスでそれなりの安定成長を遂げてきたという評価になると思いますし、今年の12月で安倍政権は8年になりますから、超長期政権となっております。そして三つ目が、近隣諸国との関係改善です。
第2節 近隣諸国との関係改善
  日本外交の最大の課題は「中国とどのように付き合っていくか」です。中国は隣にあって、急速に経済成長を遂げ、軍事力も非常に大きくなりました。GDPが2010年に日本を追い抜き、今や日本の3倍です。軍事力もまた3倍になっています。中国は自由、民主主義、法の支配、市場経済といった普遍的な価値を共有する国ではありませんし、また日中間で過去に不幸な歴史があったことも事実です。歴史を遡れば、経済、文化、社会その他の面で非常に深い繋がりがあったこともありましたが、安倍政権が誕生した時の日中関係は非常に悪い状態でした。2012年9月11日、民主党の野田政権の時、尖閣諸島の「国有化」で日中関係に非常に緊張関係が出来たからです。次に韓国との関係ですが、今は「徴用工」の問題で非常に厳しい状況にあります。その前には慰安婦合意が覆されるという問題もありました。過去を振り返っても、2012年8月10日、保守の李明博大統領が初めて竹島に上陸し、8月14日には天皇陛下の訪韓に関し「訪問したいのであれば、(日本の植民地支配からの)独立運動で亡くなった方々を訪ねて心から謝罪するのならよい」と述べ、日本からの強烈な反発がありました。そして2013年2月25日、朴槿恵政権が成立しますと、大統領は「加害者と被害者の立場は1000年の歴史が流れても変わらない」と発言し、歴史問題や慰安婦問題を蒸し返しました。慰安婦や徴用工の問題に対する日本政府の立場は、日韓国交正常化の時点で解決済みであるということですから、日韓関係は非常に悪い状態となりました。また北朝鮮関係では「拉致問題」と「核ミサイル問題」を抱え、ロシアとは「北方領土問題」で、平和条約締結に進展がなく非常に厳しい状況でした。安倍政権が登場した時点で、近隣諸国と基本的な大きな問題を抱え、これらに取り組まなければなりませんでした。

第二章 安倍外交
第1節 積極的な首脳外交
  安倍政権が成立し「積極的平和主義」、「地球儀を俯瞰する外交」やがては「自由で開かれたインド・太平洋」という考え方を打ち出し、非常に積極的な首脳外交を展開しました。歴代総理の中で、安倍総理ほど海外を訪問し、また国際電話で各国の首脳と話をし、国際会議の場で積極的な首脳外交を行った総理はおりません。安倍外交はこれまで大きな成果を上げ、国民の評価を得たものと思います。特にトランプ大統領からは大きな信頼を得て、日米関係は非常に良好です。アメリカは中国と今非常に厳しい関係で、ロシアとも戦後最悪の関係です。またヨーロッパともギクシャクし、他のアジア諸国とも良い関係とは思えません。そのような中で日本だけがアメリカと、戦後かつてないほど良い関係になっています。これは安倍総理の首脳外交の成果であると思います。
  次に中国との関係ですが、日本側から首脳会談を頻繁に持ち掛け、徐々ではありますが習近平国家主席と非常に良好な関係になっていったと思います。令和になって最初の国賓は、去年の春のトランプ大統領でした。国賓は原則1年に一人となっております。習主席には、2020年の春、桜の咲く頃に、国賓として来日していただくことを目指し準備するという段階まで日中関係が改善しました。尖閣の活動は相変わらず活発ですが、歴史問題に対する中国の発言は控え目になってきました。ところがコロナで習主席の訪日ができなくなり、その上、香港情勢や台湾に対する中国の態度、更には南シナ海や東シナ海における中国の態度から、今日中関係はかなり下降路線に入ってきております。また米中関係が非常に悪くなっている影響もあります。
  またロシアとの平和条約締結交渉も今は展望が開けておりません。韓国との関係では徴用工問題が当面の最大の問題です。日本製鉄の資産が差し押さえられ、現金化されるかどうかの問題です。政府は現金化を黙って見過ごすわけにはいきませんので、緊張感をもって見ているところです。安倍総理は一生懸命やられ、全体として安倍外交は成功してきたと思いますが、残念ながら今は手詰まり感があるという状況です。
第2節 コロナで外交は休業状態
  今、コロナで外交は休業状態に入っています。これは日本だけでなく、各国とも海外に出られません。安倍総理がアメリカに行っても14日間隔離されますし、日本に帰ってきても14日間は自粛しないといけない状況です。一番評価を受けていた外交の分野で、今年に入り安倍総理は外交を積極的に展開できない状況になっています。ところで安倍政権のコロナ対応については、必ずしも国民の評価を得ているとは思えません。日本のコロナ感染者、死者数は諸外国と比べ相対的には低く、日本の国内対策は成功していると思いますが、国民からは厳しい評価を受けています。政府の自粛要請に対し、国民は全体状況を理解した上で協力しています。生活が苦しくとも渋々従っているわけです。国民は公衆衛生、公共道徳の感覚があり、また風邪やインフルエンザになれば皆マスクを掛けて自分を保護し、人にうつさないという理解が深いからです。要は日本の結果が良いのは、国民性によるところが大きいということです。
第3節 国家安全保障局の設置
  安倍政権は内閣官房の中に国家安全保障局を設置しました。外交・安保の司令塔として総理、官房長官、外務大臣、防衛大臣の4大臣会合があり、事務局として国家安全保障局がそれを支えるという関係です。今は麻生副総理が加わり5大臣会合となっています。そして「平和安全法制」を成立させ、集団的自衛権を一部行使しうるように変更することができました。集団的自衛権は国連憲章における国家の本来的な権利でありますが、従来の日本国憲法の政府解釈では「日本は個別的自衛権を保有しかつ行使できる。しかし集団的自衛権は国際法上持っているけれどもそれは使えない」ということでした。憲法学会の約9割の学者が「集団的自衛権は保有すれども行使しえず」という考え方に立っていました。しかし安倍政権が問題提起を行い、最終的に「存立危機事態という日本の存立が脅かされるような非常に深刻な平和の脅威があった場合には集団的自衛権を行使しうる」と解釈を変えました。次に「日米防衛協力のための指針」という新しいガイドラインを作りました。また5年毎に作られる「防衛大綱、中期防」も国家安全保障局が中心になり関係各省と共に相談し作り上げました。国家安全保障局の最大の成果は、外交政策を初期の段階から関係各省と一緒になって議論して案を作るため、総理、官房長官までの決定過程が非常に効率化できたことです。もう一つは、防衛省、自衛隊の人達が議論の中に積極的に参加しうるようになったことだと認識しています。国家安全保障局を作り、安倍外交の体制づくりをしたことは、安倍総理の見識と個性に基づいて出来たものですが、ポスト安倍になっても、この国家安全保障局を活用され続けることが望ましいと思っております。

第三章 コロナ・ショックと国際情勢
第1節 「分断と対立」の加速化と長期化
  コロナ危機で様々な「分断と対立」が加速化し、その影響は長期に及びます。まずアメリカではトランプ大統領とニューヨーク市長が対立しました。州や都市ではロックダウンでコロナを封じ込めるところが非常にあったわけですが、トランプ大統領は「コロナは風邪の一種である」という対応をしました。この対応が今大統領選挙で最大の争点になっており、民主党のバイデン候補は激しくトランプ大統領を批判しています。マスクを掛けていないという問題を巡って暴力沙汰になっています。それから多くのコロナ患者が出たのは貧困層や黒人層です。スラムで感染が広がっています。そのためアメリカの民主党と共和党の党派的対立が、国民間の対立となり、人種問題や経済格差の問題がコロナに反映しているわけです。一方ヨーロッパでは、これまでは財政問題を巡って北のドイツ、デンマークなど経済パフォーマンスの良い国と、南のイタリア、ギリシャ、スペインとの南北間の対立がありましたが、コロナを巡っては中央ヨーロッパ、東ヨーロッパが権威主義的な非常に厳しい対応をとり、西欧側は人権や自由を尊重するため迅速な対応ができなかったことから、東西間の対応の差による東西問題が起きてきました。初期の頃には、EU加盟国は自国対応を優先させ、人の移動を止めるため国境を閉鎖することが起こりました。EUは統一政策を取ることができなくなり、EU統合理念に対する疑問も出てきました。ナショナリズムによる分断と対立が顕著に表れました。さらに宗教では、イスラム教の一部では「神を信じればコロナは克服できる」とモスクでの集会をそのまま放置したため、コロナが広がった国があります。宗教的な信念と科学的な感染対策がぶつかり、宗教に対する不信感も出てきました。インドではイスラム教の施設でクラスターが発生し、ヒンズー教徒がムスリムへの嫌悪感を強めて、その分断が深刻な問題となっています。さらに世界全体の秩序を安定して維持するための国際機関への不信感もあります。特にWHOの事務局長は中国と非常に深い関係にあると言われ、世界全体の緊急事態宣言を渋り、また中国は非常によくやっていると言って世界の反発を買い、アメリカはWHOを脱退することになりました。さらに国際秩序という観点からいうと、トランプ大統領がG7にロシア、韓国、オーストラリア、インドの4か国を加える案を出し対中包囲網を作ろうとして反発を招き、これまでの自由民主主義大国が主導してきた国際協調が崩れつつあります。要するに国、地域、国際社会レベルで様々な分断と対立が激化して、この対立を統合する、または協調させるという理念やメカニズムが存在していないわけです。世界の中で「極」になるところがなくなり、コロナで多極化、Gゼロという状況が鮮明になってきています。一種の戦国時代のような状況は、現状変更勢力である中国のチャンスです。中国主導あるいは中国の基準、標準を使った国際秩序を中国は目指しています。
第2節 米中の影響力競争の激化
  今最大の対立軸である米中の影響力競争がコロナで激化しています。既存の超大国に新興の大国が挑戦していくことは当然覇権争いとなります。中国には中華思想があります。少なくとも清の時代まで2000年近く中国は世界の中心であった。そしてアヘン戦争以降の100年は屈辱の時代であったという考えが強く、1949年に中華人民共和国が成立し、今日の国を築き上げた。今やGDPでも軍事力でも世界第2位で、技術分野のデジタルやIT関係はアメリカを追い抜いているものもあります。中国は「やっと俺たちの時代が戻ってきた。2050年頃までにはアメリカを完全に追い抜く」と思っています。逆にアメリカは「やがて自分たちは追い抜かれるのではないか」と思うようになったわけです。中国が南シナ海に人工島を作り軍事化を進め、ベトナム、フィリピン、インドネシア等々の沿岸国が非常に脅威を感じています。平時でも、そこを通る船は航行の不安を感じるわけです。ところがアメリカは「心配いらない。いざとなったら直ちに叩き潰せる」と対応しませんでした。そしてオバマ大統領は「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と言っていましたから、沿岸国は中国と仲良くせざるを得ないわけです。インド洋でも中国は「真珠の首飾り」と言って拠点を作ろうとしています。最近になりアメリカは本当に神経質なまでに気を遣うようになり、海洋だけの争いから、トータルな争いとなってきています。更にコロナで米中の対立あるいは不信が益々強まっています。超大国アメリカと挑戦する中国のライバル関係が、コロナを発生させた国と最大の感染国アメリカという対立になってきています。「コロナは武漢で発見されたが、発生させたわけじゃない」「中国は早期に克服宣言を出し、マスクや医療機器を各国に援助し影響力を行使し、アメリカは自分達の国を守れていない」と言い争いになっています。それに香港問題です。アメリカは「中国は国家安全保障法を作り、一国二制度の約束を明らかに侵害している」と批判します。中国は「人種差別をしているのはアメリカで、白人警官が黒人を皆が見守る中で殺したではないか。何が人権だ。何が自由だ」と批判するわけです。トランプ大統領は11月の大統領選を控え、政治的な思惑もあり中国叩きを強めています。2018年10月にペンス副大統領はハドソン研究所で強烈な中国批判の演説をやりました。今年に入り主要閣僚、特にポンぺオ国務長官は激しく中国叩きをやっています。一方中国は習近平さんが国家主席の3期目あるいは終身を目指していることもあり、両者とも引くに引けない戦いになっています。国連の人権理事会で日本は27カ国と共同で、中国の香港政策について批判声明を出しましたが、これに対し中国を支持する国が50カ国以上あります。決して多数派ではない状況です。さらにサプライチェーンを中国に依存していて良いのかという問題があります。またアメリカは「中国に半導体を出さない、ファーウェイ関連の企業を取引停止にする」と制裁をかけ、米中の経済が離れていくという「デカップリング傾向」も加速化しています。台湾、香港、デカップリングの問題の背景には、既存の超大国と挑戦する大国の争いがあるわけです。

第四章 米中新冷戦の構造と論理
第1節 米中の覇権争い
  既存の超大国に対して挑戦国が現れた場合は、対立か戦争になるという『トウキディデスの罠』という言葉があります。ハーバード大学のグレアム・アリソン教授は「過去500年の歴史を振り返って、超大国と挑戦国のいわゆる覇権争いは16回あった。そのうち12回は本当の戦争になった」と米中間の対立を深刻に懸念しています。権威主義的な政治体制と伝統的な自由民主主義体制のどちらが良いかということです。中国は「権威主義的体制の方がコロナを封じ込め克服できる。自由と言っていたらコロナはどんどん蔓延していく」と言います。香港の人権を巡る争いでも自由民主主義を支持している国が多数ではありません。冷戦が終わった後、日系アメリカ人のフランシス・フクヤマ氏は『歴史の終わり』で「自由民主主義体制が最終的に勝利を収めた。歴史はある意味終わった」と書きましたが、そんな単純なものではありません。中国型の監視社会が開発途上国にとっては都合が良いわけです。アフリカや中南米の権力者は、中国の監視社会モデルを導入し、中国の機器を導入すると、長期的に統治がしやすくなる面があります。
第2節 新冷戦(大陸国家中国と海洋国家米国)
  アメリカのインテリには、中国の2000年、3000年の長い歴史に対する一種の憧れの気持ちがあります。特にアヘン戦争以降の100年は、中国がヨーロッパ列強に領土や権益を侵食され、小さな日本が中国大陸に進出し暴れ廻ったことで、中国に同情心を持っています。パール・バックの『大地』やエドガー・スノーの『中国の赤い星』など、有名な作家が戦前の中国について良いイメージの本を書いており、アメリカの政府やインテリは、日中戦争あるいは太平洋戦争で中国共産党を密かに応援していたと言われています。戦後中国は共産体制となりますが、1972年のニクソンの訪中以降、アメリカは中国を応援する姿勢を強めて行きます。特に1978年末から始まったケ小平の改革開放政策を応援します。その背景にある考え方は「中国が経済発展を続けていけば、やがて民主化する」という期待です。そして冷戦時代の後半になると米中蜜月を演出し、それ以降も基本的に中国に対し好意的な政策をとってきました。
  ところが中国が経済的に自信をつけ「やがては俺たちの時代」という風潮を強めるにしたがい、アメリカは警戒心を持つようになります。2018年10月のペンス演説で、中国に対する警戒心を明確にするようになります。そして今米中対立は、貿易、技術、軍事に加えイデオロギー対立も含んだ覇権に関わる全面対決に移行し「新冷戦」と言われています。大陸国家中国と海洋国家米国との対決です。地政学上、東西を海に面している国が海洋国家で、アメリカやインドなどです。そしてロシアや中国は大陸国家です。大陸国家は本能的に自分の安全保障を確保するために領域を少しでも広げていくという発想を持っています。かつてのローマ帝国がそうでした。一方海洋国家はイギリスのように世界の7つの海を支配し、航行の自由を守るという生き方です。戦前、海洋国家日本が中国大陸に進出しましたが、海洋国家が陸に入り込むとろくなことはありません。逆に大陸国家が海に出て来ようとしているのが中国です。第1列島線、第2列島線、最近は第3列島線と大陸国家的発想で海に進出していく。例えば南シナ海全体を中国の内海のように使おうとするわけです。地政学的に見ても、中国とアメリカの対立が運命づけられているように思います。
第3節 アメリカ大統領選挙
  中国の習近平国家主席は非常に権力志向が強い人で、香港に対する態度あるいは新疆ウィグルに対する態度は非常に強圧的です。一方これまでのアメリカの指導者、ケネディやオバマなどは理念や理想を掲げて国民を引っ張っていくところがありました。ところがトランプ大統領は、普遍的価値、自由・人権、民主主義、法の支配ということをほとんど口にしません。あるのは利益あるいは利害です。しかも多数国間の会議は好みません。二国間でディールをするという考えです。従って中国との経済関係もディールであり、理想理念を追いかけません。そこでアメリカ大統領選挙で「トランプさんが再選された場合と、バイデンさんが選ばれた場合で米中関係はどうなるのか。日米関係はどうなるか」とよく聞かれます。トランプさんがもし再選された場合、本格的に中国とディールを図ると思います。そしてどこかで妥協する可能性があります。今までの強行路線をそのまま貫いていくことはないと思います。他方バイデンさんは、アメリカ国民の感情、特に議会は反中の意識が物凄く強い状況にあり、それを軽視して中国との建設的な関係を作るという柔軟路線を示すことは簡単ではないと思います。バイデンさんの民主党が政権を取っても、基本的には米中関係は緊張関係が続くだろと思います。日米関係はトランプさんが再選された場合、安倍総理であれば安心ですが、他の方々では相当大変だと懸念しております。安倍総理はとにかくトランプ大統領との関係が良く、トランプさんとの話し合いの作法を非常に良く心得ておられます。他方バイデンさんは「同盟関係を大事にする」と言って一見良いように思いますが、民主党の場合は、必ず責任と義務を負担するように言います。「日本はもっと防衛費を分担せよ」と要求は強まる可能性があります。また経済では、民主党は保護主義の立場で、労働組合の利害を反映したことを言いますので、必ずしも日米関係が更に良くなるとは言えないと思います。
第4節 日本の立ち位置
  これからの日本の国際社会での立ち位置は、日本人が誇りをもって国際社会の中で生きていく。必要なことについて発言力、影響力を持つために、主要大国(メジャーパワー)の一つとして生き抜いていく。できれば5本指の中に入るような国として生き抜いていく。それがミニマム日本の目指す道であると思います。日本は、経済力、防衛力、技術力、特にデジタルやIT、更にポストデジタル分野で1〜2周世界のトップレベルから遅れています。これを挽回して主要大国の一つとして生きていかなければなりません。権力政治の主体の一つになり、大国の取引の対象として扱われるような小さな国として、惨めな地位に立ってはいけないということです。米中関係はこれからも緊張関係が続きますが、その際、日本はアメリカに付いていけば良いという考え方ではなく、非常に難しい道でありますが日米同盟の強化と同時に、中国との隣国関係も健全に保てるよう生き抜いていく必要があります。また日本は世界の中で相当評判の良い国であるという自信を持つことも大事です。イギリスはEUから離れ、日本と親密な関係を結びたいと言っています。世界最大の民主主義国インドの世論調査では、世界で一番好きな国は日本です。これから「自由で開かれたインド太平洋」というコンセプトで協力の余地が大いにあります。オーストラリアも非常に日本との関係は良好です。更に東南アジア諸国、台湾は非常に親日的です。日本には求心力がありますので、この日本の魅力を様々な分野で深めていくことが、主要大国日本として生き残れる道になるだろうと思います。またロシアとの関係では、安倍総理はお父さんの安倍晋太郎外務大臣時代の日露に懸ける思いを大事にしてこられました。当初から北方領土問題を解決し、平和条約を締結しようしてきました。しかしプーチン大統領の権力基盤が決して安定したものではないこと、また米露関係が最悪の状態であったこと、そして一度武力で取った領土を返すことは国家として非常に難しいということがありました。しかし、日本としてはこれからも北方4島は日本の領土であると言い続けないといけません。国際情勢が変化し、ロシアが妥協をしなければならない状況を作っていかなければなりません。最近のロシアの主張は、先ず北方領土は第二次大戦の結果正式にロシアの領土になったので日本の主張は不当である。二つ目は、日本にいる外国軍隊は撤退させよ。三つ目は、まず平和条約を結び、その後で領土問題を議論しようということです。ロシアは交渉にならない前提を置いている状況です。それから北朝鮮の拉致問題、核問題についてですが、日本はアメリカに対し、「すべてオプションはテーブルの上にある。もちろん武力行使も含むすべての選択肢がある。だから核の問題解決をしなければならない。」このような態度で北朝鮮に迫らないと絶対に乗ってこないと言いました。ボルトンさんは回顧録では日本と非常に意見が合ったと書いています。トランプ大統領は、「金正恩はなかなか良い男だ」と対話に期待をかけましたが、事態は進展していません。北朝鮮は経済的に苦しいでしょうが、今も核ミサイルの開発を進めていると思います。日本との関係で積極的に拉致問題を解決しようという態度を示しておりません。しかしこれも粘り強く言っていくことが必要です。これまで安倍総理は一生懸命やってきておられます。客観的に見てロシア、韓国、中国、いずれも相手が悪いわけで、なかなか前へ進んでいないのが実情です。

                                                   質疑応答
「質問1」

  中国の覇権主義的行動に日本は毅然とした態度をとるべきではないでしょうか。善隣友好関係と言いますが、中国は本当に信頼できるのでしょうか。

「回答1」

  中国の覇権主義の脅威を私も非常に感じており、日本はそれに対して毅然と対応しないといけないということはその通りだと思います。一方日本が中国の利益に合致する態度をとれば中国はしっかりと対応します。約束したことは守り、秘密が漏れることもありません。中国とは、利害や国の目指すべきもので違う部分は沢山ありますが、そういう相手とも向き合い、付き合い方を考えていくことだと思います。世界中で日本と完全に利害関係や価値観が一致している国はありません。今中国との間で、付き合いのルールができていません。例えば尖閣を巡って中国はエスカレーションしてきていますが、これは毅然と対応しなければなりません。そのため防衛力の整備が必要です。しかし巨大な中国に日本単独で対応するのは難しく、日米同盟をしっかり確保したうえで毅然と対応していく。また志を同じくする国々、価値観を共有する国々と同盟関係を築く。海洋国家の主要国インド、オーストラリア、さらにはイギリス、ヨーロッパとも協力していく。そのためには外交努力が非常に大事だと思います。


「質問2」

  孔子学院について教えてください。

「回答2」

  中国が国家戦略として、アカデミックな分野や文化的な分野で、日本の学者や学生を取り込むという意図は明らかです。純粋に学問の水準を向上させるためにやっていると思うのはナイーブ過ぎると思います。今アメリカは明らかにこれを排除しようとしています。日本では幾つかの大学の中に孔子学院が作られています。これからも警戒心をもっていくべきだろうと思います。


「質問3」

  習近平を国賓で迎えることをどう思われますか。

「回答3」

  国賓としてお招きする以上は国民皆が歓迎する、日本的おもてなしを最大限できる状況でないと相手にも失礼です。しかし今国民は両手を上げて歓迎するという雰囲気ではありません。大いに歓迎できる日が来ることを望みますが、今は適当なタイミングではないでしょう。


「質問4」

  先日の靖国神社参拝に何人かの閣僚が参りましたが、秋の大祭で、安倍総理他、閣僚が大挙 して訪れると中国はどういう反応を示すでしょうか。

「回答4」

  安倍総理が参拝される、あるいは閣僚が大挙して参拝することになると中国は猛烈に反発するでしょう。しかし今米中関係が非常に悪いので、中国は戦略的に考えて、何とか日米を引き離す、あるいは日本を自分達の方に引き寄せようと考え、日本を叩くことを控えるかもわかりません


「質問5」

  外交に関する人材育成についての考えを聞かせてください。

「回答5」

  今役人を目指す人が少なくなってきていますが、外交の人材育成には、先ず若い人が外交の分野で働きたいと思ってくれることが大事です。そのためには国が目指す目標を明確にして、気概をもってもらう。それに適切な経済的、精神的環境をつくってあげることが大事です。また外交官の仕事は、よほど信念を持っていないと最後までやれません。今若くして外資系に転身したり、政治家を目指す人たちが増えてきています。役人の処遇は、基本的には国民が判断することでありますが、単に外交官頑張れというだけではなく、国民全体で良い環境をつくっていただくことが大事だろうと思います。 


以上は、富士通フューチャースタディーズ・センター理事長 谷内正太郎氏の講演を、國民會館が要約、編集したものです。文章の全責任は國民會館が負うものです。



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