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武藤会長「金言」

2019年1月30日 金言(第78号)
『護衛艦「いずも」は空母か?』

■第一章「新たな防衛大綱と中期防衛整備計画」

第1節「新たな段階に入った装備計画」
  政府は、昨年12月18日に国家安全保障会議を開き、今後10年間の国防の指針である新たな「防衛計画」の大綱(防衛大綱)並びに2019年〜23年度の装備品調達に関する中期防衛整備計画(中期防)を決定した。
  この計画は、これまでの陸、海、空に加えて宇宙やサイバー、電磁波などの新しい領域で自衛隊の対処能力の強化を盛り込んだ「多次元統合防衛力」を掲げた方向性については、現状に即したものである。ただ、この中で一際目を引くのは、中国の東シナ海、南シナ海、さらに太平洋への露骨な進出を念頭に、短距離垂直着陸(STOVL)機(具体的にはF35B)を導入して海上自衛隊が保有する、最大の艦船である「いずも」型護衛艦を事実上の航空母艦として運用する事を明記したのであった。
  新たに高額の装備品を調達する事に伴い、5年間の予算総額は過去最大となる27兆4,700億円に達することになる。
  政府は前々から、「攻撃型空母」の保有は憲法上の専守防衛という立場を逸脱するものとして認めていなかったのであるが、今回の決定で自衛艦に戦闘機を搭載することに踏み出した事は、集団的自衛権の行使を可能とした「安全保障関連法」に加え、日本の防衛政策が装備の面に於いても新たな段階に入った事を表している。
第2節「「いずも」型護衛艦の改修」
  防衛大綱は、今後10年間を見据えた安全保障政策の基本方針であり、中期防はこれから5年間の防衛予算の総額や、どのような装備を購入していくかを決めるものである。前回の大綱決定は2013年に決められたものであるが、その後我が国を取り巻く情勢の変化は目まぐるしいものがあった。すなわち、北朝鮮の核・ミサイル技術の飛躍的な向上や、中国の軍事力急拡大と積極的な海洋への進出、また2014年にロシアがウクライナに軍事介入した際展開した、サイバー攻撃を組み合わせたいわゆる「ハイブリッド戦」による脅威など、安全保障環境は急激に変化した。
  今回のいずも型護衛艦の「空母化」については、太平洋側の防空体制の強化を目的とするもので、大綱には「現有の艦艇からSTOVL機の運用を可能とするよう必要な措置を講ずる」としている。具体的には先にも触れたように現在の主力戦闘機F15の代替として、米最新鋭ステルス戦闘機F35を45機導入し、内18機をSTOVL機のB型として、この運用のため現在ヘリコプター搭載を目的とする「いずも」型護衛艦に改修をほどこす事を盛り込んだのである。
第3節「空母化に対する低次元の認識と政府の詭弁」
  ところが、この新たな自衛艦の空母化について、例によって極めて次元の低い認識しか持ち合わせていないマスコミは、「専守防衛」の我が国において空母は全く必要がない。何故なら憲法9条は戦争放棄と戦力不保持に基づいて、相手方から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使して、自衛のために必要最小限にとどめる「専守防衛」を掲げてきたというのである。そして歴代内閣は「自衛隊の空母保有は必要最小限の実力を凌駕するもので、憲法上では許されない」との見解を踏襲してきた。しかし、政府与党は搭載するF35Bについては有事発生時や、警戒、監視、災害発生時の対処など「必要な場合に限る」としている事を理由に、これは「空母化ではない。多用途運用護衛艦である」と主張している。そして防衛相は「空母は戦闘機や支援戦闘機、早期警戒機といった相手国を壊滅させる破壊力を持った攻撃力を持った部隊を塔載する戦闘艦である」と云っている。これは詭弁にすぎないと私は思う。すなわち戦闘機を常載しないから、いずも型は空母に当たらないという論法である。
第4節「安全保障の矛盾の根源は憲法9条にある」
  大体このようなまやかしの論法を政府は何時迄続けるつもりなのか。このような事に論及するのには反対もあるであろうが、もともとの矛盾の根源は、憲法第9条にある事は明白である。憲法9条は、「戦争の放棄」「戦力不保持」を規定した世界にもまれな条文である。戦後アメリカとソ連両陣営が激突した冷戦の中で、本来であれば占領終了時に即刻改正すべきものであったが、護憲運動が障害となり、未だに存続しているという世にも不思議な状況が継続しているのである。現在の憲法9条に照らせば法律学者が如何に理屈をこねまわそうと自衛隊は違憲である。本来であれば即刻改正すべきところを、左翼勢力やえせ平和主義、民主主義者の反対により未だにまともな型になっていないのである。
  この第9条が出来たいきさつは長くなるので少しにとどめておきたいのであるが、元々これは、まさに米国ルーズベルト大統領の世界政策の大失敗の産物である。
  戦後米国は、日本に2度と戦争を引き起こさせないよう武力は9条で我が国を金縛りにし、その他日本の持っている家族主義的な良い点を破壊して、日本から工業力を奪い明治時代の農業国に迄貶めようと画策したのが9条を含む現憲法である。
  ところが、昭和25年(1950年)6月に朝鮮戦争が勃発し、あわてたアメリカは、今更憲法をどうする事も出来ず日本に戦力を復活させることを目論み、できたのが警察予備隊、後の自衛隊なのである。すなわち上に触れたように日本を弱体化するため考えられたアメリカの対日政策の大失策なのである。
  そしてこの憲法を逆手にとって、日本の経済復興をはたしたのが吉田茂から現在に迄つながる保守勢力である。しかし、歴代の内閣は憲法の改正がはたせないため、憲法9条と現実との間を如何に調整してきたかは真に涙ぐましいといえる。自衛隊は戦力ではないというのは詭弁にすぎない。

■第二章「「空母化」は我が国の防空体制強化に寄与」

第1節「「いずも」型護衛艦は明らかに「空母」」
  ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」が2015年に登場した時、これは艦の全長が248m、全幅38m、排水量は規準19,500トン、満載で26,000トンと発表されているので、これはもう正式な空母ではないかと考え、元空将で防衛省高官であった友人に「あれは空母なのではないか、戦闘機の搭載が可能なのではないか」と質問した事があった。答えは、当然彼の立場から答えられる範囲は限られていたのであるが「甲板の厚さを補強すれば戦闘機搭載可能、又エレベーターも変える必要があるのではないか」であった。この答えから自衛隊は、空母への転換を考えているのである事を確信したのであった。
  事実「いずも」はかって真珠湾攻撃に参加し、ミッドウェー海戦で沈没した旧帝国海軍の主力空母「赤城」「加賀」と比較して、ほとんどその規模に於いて兵装を除き大差はない。更に同じく当時のアメリカの主力空母サラトガとも大差はない。「いずも」について二番艦の「かが」が2016年に就役している。これによりおそらくF35Bを両艦に約10機ずつ搭載するとして、アメリカの第七艦隊を十分補完して我が国の防衛に寄与出来るのではないかと信じている。
  しかし、政府は連立を組む公明党からの疑問提示により、この空母化については与党の了承手続に大変時間を要してしまった。私は防衛相が云う、戦闘機は常時搭載しないからいずも型は空母に当たらないという解釈には疑問を持っているのである。
第2節「「安全保障法」は空母保有を可能にした」
  現実には、自衛隊が戦後初めて戦闘機の離着能力を有する艦艇を保有し、「いずも」が真に攻撃型の空母かどうかは別にして、このような能力を持つ事は画期的な事であり、一線を踏み越えた事は確かである。そうならば空母か否かが問題になるのではなく、あくまでその能力を如何に時の政府が使うかにかかってくると思われる。
  2015年の「安全保障法」では自国と密接な関係にある他国の武力行使を、自国が直接攻撃されていなくても実力をもって阻止する集団的自衛権の行使が限定的に可能となった。この時から「専守防衛」は事実上変更されたと元内閣法制局長官の阪田雅裕氏は説く。
  すなわち「集団的自衛権の行使はたとえ限定的と云えども国外での武力行使を意味する。そうであるならば、それに必要な装備の保有が許されなければおかしい。従っていずも型の空母化も安保関連法との関係からは整合性がとれている」と主張する。
第3節「「空母保有せず」という政府見解を改めるべし」
  ところが、政府は今尚国会における安保関連法の審議において「相手からの武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を行使する。いわゆる受動的な防衛戦略の姿勢である専守防衛についてはいささかの変更もない」と主張している。これに対して阪田氏は「『変えない』といって『変える』のは一番不適切な行為である。国民に充分な考慮の時間を与えず実態は『実は変えられていた』という状況は、法治国家のあり方としては実に不適当である」と指摘している。実際専守防衛や空母は保有せずといった長年にわたる政府の見解は、既成事実の積み上げによってどんどん変わってよいのかは疑問である。
  確かに日米同盟が我が国の外交、安保の基本である事は間違いない。従って国際情勢の変化に臨機応変に対応していく必要はある。従ってアメリカの要望に応じて戦闘機を含む軍備を増やしていく事はやむを得ない事である。また先にも触れたようにアメリカの太平洋軍に協力するため、空母の保有も是非進めざるを得ないのが我が国の実状である。しかし集団的自衛権の限定的行使が可能となった現在、自衛隊の装備も又変わらざるを得ない事を、率直に認めるべきではなかろうか。

■第三章「我が国を取り巻く厳しい情勢の変化」

第1節「中国の脅威と空母強化の実情」
  我が国を取り巻く情勢は極めて厳しいものがある。最も我々に関係してくるのは中国である。中国は尖閣諸島の存在する東シナ海、また南シナ海においては勝手に島々の周辺を埋め立て自らの領海化を図っている。最近では我が国の最南端の南鳥島付近にまで出没している。そして、中国の国防費はこの30年間に51倍にまで膨張している事を、もっと真剣に我々日本国民は受け取るべきではないか。
  このように厳しい情勢の中、中国は空母の強化に力を入れている。中国の空母はアメリカ海軍の空母に比して著しく劣っている。太平洋に進出してアメリカ海軍とわたり合って行くためにはどうしても空母が必要である。しかし、中国には勿論空母の建造能力がなかったから、彼等は先ず、崩壊直前のソ連がウクライナで建造に取りかかっていた空母「ヴァリャーグ」がその後の資金難で完成の見込みがなくなり、ロシアが処置に困り、ウクライナ管轄のまま放置されていた当該艦艇を、スクラップにするという名目で買い付けたのである。その後2002年大連にまで回航され、そのまま係留されていたが、その後2005年から空母として再生がはかられ、2011年にようやく中国初の空母として出航にこぎつけた。2012年には「遼寧」と命名され、全長305m、幅75mでアジア最大の空母である。
  カタパルトによる艦載機発進は不能で、いわゆるスキージャンプ式の発進であり、効率は悪い。又現状では艦載機乗組員の技能も低い。当艦は2016年12月初めて遠洋訓練の為ミサイル駆逐艦3隻、ミサイルフリゲート2隻を随伴し宮古島、北東水道を抜け、東シナ海から太平洋に向けて航行した。本艦はあくまで練習艦の色彩が強く、現在建造中の新しい空母を含めてアメリカに肩を並べる空母打撃群にまで成長するにはかなりの時間を要するか、場合によっては不可能ではないかと思う。
第2節「世界の空母の運用実態」
  現在世界では20隻の空母は運用されている。その大半はアメリカであるが、他に英国1隻、インド1隻、中国1隻、イタリア2隻、フランス1隻(アメリカ以外で唯一の原子力空母)、ブラジル1隻(フランスより購入)、タイ1隻、ロシア1隻、アメリカは11隻である。
  空母打撃群は1隻の航空母艦を中心に空母を護衛する5〜10隻の護衛艦(イージス巡洋艦、駆逐艦、潜水艦)さらに1〜2隻の補給艦から構成されている。さらに空母には数十機の航空団(戦闘機、攻撃機、早期警戒機、電子戦機、輸送機)が配置されており、護衛艦は合計300発以上の各種類のミサイル(艦隊防空、個艦防空、艦対地、艦対艦、巡航、対潜、弾道弾迎撃)を備えている。
  空母打撃群を世界の海に展開する能力は、アメリカだけで現在11の打撃群が存在する。アメリカの空母打撃群は現代の世界においてはほとんど無敵である。中国は何とかしてこの米国優位を覆そうとしているが、この打撃群を維持していくためには膨大なコストを要し、アメリカですら最近の原子力空母の新規建造は1隻にとどまっているのであるが、中国は昨年4月に2隻目となる空母を進水した。中国はより大型の新型空母を2013年に起工し、就役は2020年となる模様であるが、アメリカに追いつく事は当面不可能なのではないか。
  空母の運用は極めて難しく、第2次世界大戦、戦後を通じて空母を中心とする機動部隊(現在の空母打撃群)を運用する事が出来た国はアメリカ、英国、日本の三国にすぎない。ドイツは最初ヒットラーが興味を示したが挫折し、ソ連海軍も現在唯1隻大型空母クズネツォフを保有し、最近ではシリア内戦に投入されるが目立った活動はしていないし、米空母打撃群には遠く及ばない。
第3節「離島防衛に適している「いずも」型軽空母」
  さて、今回の我が国「いずも空母」が仮に改修により転用された場合、その運用はどうなるのであろうか。日本は第1次世界大戦で世界に先駆けて空母を中心とする作戦を展開し、太平洋戦争ではアメリカ機動部隊と互角にわたりあった。むしろ戦艦対戦艦のいわゆる大艦巨砲主義から航空機を主体とする戦術への転換を図った先駆者である。しかし、言うまでもなく戦後の平和憲法なるものは「攻撃的兵器」を認めていないため、「いずも型」をめぐる空母保有論は常に「攻撃的兵器」なのか「防衛的兵器」なのかという議論になる。しかし米国の識者は「空母の能力は攻撃的役割に限定されるものではない」と指摘する。さらに空母の能力は「攻撃だけではなく防衛任務や偵察にも活用出来る」と指摘している。具体的には、味方の水上基地を敵の攻撃から守るため戦闘機を発進できるし、敵の艦艇や潜水艦の位置を把握出来たりする。そこで現実的に現在日本が特に注力する尖閣諸島などの離島の防衛に空母は適している。当然「日本の空母への回帰は太平洋戦争時代のイメージがついて回るから中国や韓国は反発するであろうが、日本のような島国では離島を守り、領海をパトロールするには数隻の「いずも型」のような軽空母の運用は適している」と指摘している。
第4節「空母保有を日米同盟維持の現実的な対応として評価すべき」
  今回のいずも型の空母化はトランプ大統領の同盟国と云えども、防衛に関して応分の負担を求めるのに対応したものではなかろうか。日米同盟を維持するためにも、これの負担の一部を空母化で答えたことは、現実的な対応として評価するところである。重ねて云うが、確かに日米同盟が我が国の死命を制する基本である以上、その変化に臨機応変に対応していく事は必要であるが、矢張り長年にわたって守られてきた専守防衛や空母は保有せずなどという時代遅れの考え方は、この際国民の前で清算して、自衛隊の準備についても集団的自衛権の行使が限定的ながら可能になった今変わらざるを得ない事を、はっきりと国民に理解させなければならないのではなかろうか。
  今回の「いずも型空母」問題については、朝日を始めきわめてこれに対して懐疑的な論調が多かった中で、最近左倒傾向の強い毎日新聞の1月16日付「記者の目」木下記者の記事は、大変納得出来るものがあったのでその考え方を参考にさせて頂いた。

                                                                                                                      以上
  皆様の忌憚のない御感想、御意見をお待ちしております。

                                               ( 本稿は武藤治太会長の書下ろしです。)

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