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    上山 信一氏 『大阪のスマートシティ戦略』

武藤記念講座(講演会事業)

第1078回武藤記念講座要旨

    2021年6月26日(土)
    於大阪「國民會館 武藤記念ホール」
    慶應義塾大学総合政策学部教授・大阪府市特別顧問
    上山 信一氏
 『大阪のスマートシティ戦略』


セミナー





はじめに
   私は20年前から「行政に経営という考えを入れるべき」と提唱し、大阪では關市長の頃から、市の水道、下水、地下鉄、バス事業に民間の経営分析手法を取り入れることに関わりました。その後橋下市長・知事時代にはブレーンとして「地下鉄の民営化」「中之島図書館の改革」、そして大阪都構想の最初の設計などに関わりました。最近は松井市長、吉村知事のもと「大阪のスマートシティ戦略」の推進に関わっています。今日は、前半は「IT革命で都市がどのように変わっていくのか」、後半では「大阪の都市戦略とIT」についてお話をしたいと思います。

第一章 「スマートモビリティ」について
第1節 今、各地で起きていること
   「スマート」とは、頭が良い、かっこよい、ということですが、最近はITを使って、効率的に物事を進めるという意味で使われます。一番分かり易い事例が「スマートモビリティ」です。これはモビリティ(移動)をスマートにするということです。AからBへ人や荷物を移動することを、ITを使い、効率的に、かっこよく進める。新幹線、飛行機、電車、バス、自転車、歩くこと、宅配便、全部入ります。世界中の都市がスマートシティ化を進めており、その約半分はモビリティ関係です。最近街角でレンタル自転車のステーションを見かけますが
、これもスマートモビリティの始まりです。ピタパやイコカもスマートモビリティの最初の段階です。
第2節 モビリティ革命
   シンガポールでは、屋根やいろいろな箇所にヘッドランプのようなセンサーを付けた自動運転バスが走っています。360度、上下左右全部カメラも使っています。この実証実験は、セントーサ島でシンガポールテクノロジーという現地IT会社と大阪のウィラーエクスプレスという高速バス会社が行っています。6人乗り小型バスはオンディマンド・シェアカーです。スマートフォン(スマホ)で連絡しますと、自動でルートを考え、タクシーのように拾ってくれ、目的地まで運んでくれます。タクシーは行きたいところへ自由に行けますが料金が高い
。バスは相乗りで決まったルートしか走りませんが料金は安い。オンディマンド・シェアの車はその中間系です
。昔は村で車を持っている人が皆に声をかけ、乗合いで使っていました。それに近いことがこの実験で始まっています。日本ではタクシー・バス会社との調整に時間がかかり、世界のスピードに追い付けません。完全な自動運転の車は技術的には2025年〜26年頃に完成すると言われていますが、都市部で走る道路は限られます。4車線道路や高速道路は実用化されますが、市街地は法律や安全性の壁があり2030年になっても自動運転は難しいと言われています。一方過疎地では、役場がコミュニティバスをタクシーのように走らせています。また最近はオンディマンド・タクシーも始まっており、青ナンバーのタクシーに役場が補助金を出し、朝3人くらい相乗で病院などに行けるようになっています。これが進むとAIオンディマンド化です。スマホの連絡をAIが解析して車を差し向ける。更にそれが自動運転になるということです。一方自家用白ナンバーの車による相乗りは、今は料金を徴収すると違反ですが、安い料金で認める動きもあります。要するに全体に、先にAIオンディマンドが始まり、その後自動運転に進む順番です。なおスマートモビリティの要素技術としては「自動運転」、「AIオンディマンド技術」、「アプリ等」の3つがありますが、これらが整って自動運転が実現すると言われています。
第3節 国情により自動運転ニーズは違う
   国により自動運転のニーズは違っています。日本は、高齢化や人口減少に伴い、運転手が不足しており、過疎地や団地の足の確保、また夜中の高速トラックの運転手確保のため、「働き方改革」の一環での自動運転のニーズが大きい。ところがアメリカは車中心の社会で、マイカーで気楽に通勤したいという「便利で豊かな生活追求
」から自動運転のニーズが強くあります。一方ヨーロッパは、環境意識が高く「都会から車を締め出す」という傾向が強く、環境負荷の小さな電気自動車によるオンディマンド・シェアカーの自動運転を追求しています。日本の狭い道で自動運転が出来るのは相当先の話です。
第4節 スマートモビリティのビジネスモデル
   スマートモビリティはヨーロッパの都市が先行しています。ヘルシンキではスマホにアプリを入れて月額約6,300円払っていると、タクシー5キロまで約1,500円、レンタカー1日約5,000円で乗り放題、公共交通バス・電車は無料というサービスを開始しています。またタクシー乗り放題、レンタカー乗り放題、レンタル自転車乗り放題と、ほぼ全ての乗り物が無料というサービスは月額60,000円です。駐車場料金や保険料を考えるとマイカーよりも得だというところまで来ています。環境負荷を少なくする都市政策で、いくつかのヨーロッパの都市ではマイカーが減少し、月額定額制のモビリティサービスの流れが出来ています。日本でも京阪神の範囲内でJR、阪急、近鉄、南海が全部乗り放題で月額3万円となれば意外と使う人がいるかもしれません。イコカやピタパがあり各会社間の調整は技術的には簡単です。しかし各社のエゴが障害となる可能性があります。海外で人気のあるウーバーは、通常のタクシーより2〜3割安く利用できます。しかし日本では「タクシー事業者が反対する」「素人が万が一事故を起こしたらどうする」という反対があり、また車の方も青ナンバーでないとお客は乗せてはいけないという規制があります。技術が進歩しても規制改革が進まなければスマートモビリティは進まないのです。しかし世界では、インフラIoT、自動運転技術をベースに、運行管理システム
、マッチング技術があり、その後に手元のスマホで必要な情報を見るアプリ、地図や買物情報や予約情報などがつながりつつある。今はグーグルマップやヤフーの時刻表は独立していますが、オンディマンドで全部つながるとスマホで買物し、お金が払える。様々な予約も、時刻表も全部チェックできるし、タクシーの最適なルートも分かり、乗換え予約や支払ができる。そういう世界がすぐそこまで来ています。

第二章 「スマートシティ」とは何か
第1節 リモートによる世の中の変化
   モビリティと同じような技術は医療、教育、福祉、子育てなどでも出てきています。例えば遠隔医療です。過疎地で緊急手術をやる若い研修医を、都心の大病院の先生が、遠隔カメラでバックアップして手術をする。あるいはダビンチなどのシステムでロボットが遠隔操作で手術をする。こういうことが海外で始まっています。コロナによりオンライン診療も再診の人には可能となりました。しかし医師会は「ZOOMを使えないお医者さんは損をする」「名医に患者が集中してしまう」「過疎地の医者が廃業する」と反対します。確かに全部がオンライン診察になっていいかはわからない。一般論で規制改革や医師会のエゴを批判してもよくない。教育も同様です
。オンラインで勉強すれば学校へ行く必要がなくなる。小学校や中学校の建物も不用となり、先生も余剰になります。勉強のできる子はどんどん先へ進む。しかし現実には学校で友達と触れ合うことが教育であり、子供達だけが家に居ると親は心配で仕事に出かけられない。しかし高校では完全なオンラインの学校が50校くらいもうできています。また大学も年間に数日出席すればよい学校ができています。10年ぐらい経ちますと、英語の授業をグーグルの翻訳機能で完璧な日本語で聞くことができるといわれています。日本の大学の授業を受けるより
、アメリカの高名な教授の授業をオンラインで聞いた方がよくなり、日本の大学の先生は失業するかもしれない
。今は大学生の7割がオンライン授業の方がよいという感想です。友達を作るには教室で顔を合わせたほうがよいと言われますが、今年の1年生の5割はオンライン上で友達は作れると言います。300人の教室で授業を受けても、お互い知り合いになることはありません。ところがオンライン授業では、全員がチャットで、リアルタイムでコメントを入れます。そのコメントのセンスで相性が分かり、友達が見つかり易いと言います。直接会わないと信用できないという世代と、デジタルネイティブ世代の価値観は全然違っており、世の中は大きく変わっていく。またコロナで、オンラインが加速しています。オンラインで買物し、家まで届けてもらう。クレジットカードやペイペイで支払う。会社に行かず自宅や近所のシェアハウスで仕事をする。都心のオフィスに人がいなくなり、大企業はフロアを外部に貸し出すところも出てきており、高層ビルを都市型農業ビルに使うという議論まである。通勤という概念がなくなり、仕事の仕方が大きく変わる。オンライン飲み会やネット上での知らない人とのゲームを楽しむ。今アメリカ人の結婚の8割がオンラインです。マッチング会社で自分の趣味、住んでいる場所、学歴等を入れると、登録者の中から彼女が現れ、オンラインでデートした後、リアルにデートする。こういう出会いがごく当たり前になっています。日本も多分そうなってくると思います。
第2節 スマートシティの行政サービス
   スマートシティのサービス提供は民間事業者が中心です。まだ市役所のサービスは少ないのですが、一部スマホによるゴミ収集日・分別の確認、粗大ゴミの申請などが始まっています。若いお母さんは、予防注射や子供の検診、育児イベントなどをスマホで、プッシュ型で知らせてほしいと望んでいます。
   行政サービスのオンラインで一番進んでいるのはバルト海の小さな国エストニアです。スマホの中に自分のIDカード、保険証、免許証の機能が付き、税金の支払いや処方箋の手続きが全部スマホでできます。スマホで医者の予約を行い、薬もオンラインで手配、すぐに薬が手に入る。税金をオンラインで支払い、免許証の更新や選挙の投票も全部オンラインでできます。役所に行くのは人生で3回、出生届、死亡届、結婚・離婚届を出す時だけと言われます。エストニアはソ連から離脱した時、官僚主義の権化のような難しい手続を全部作り直し、IT化社会を想定したシンプルな制度にしました。最初から「電子政府システム」という商品をEUに輸出をするつもりで作ったということです。韓国やシンガポールも熱心に電子政府に取り組んでいます。なお日本の政府の電子化は遅れていると言われますが、普通レベルです。しかし政府はNECや富士通のシステムを導入した後、設備更新していないため反応スピードが遅く、公務員の負担は下がらない状況です。日本のスマートシティの問題点は、話し合いに時間がかかることです。技術的には日本は全然遅れていません。顔認証も、アプリも、自動運転も、技術を持っている国は、世界で日本、中国、アメリカぐらいです。ところが意思決定が世界で一番遅い。あとは規制です。それで日本企業がシンガポールで実証実験する。意思決定の遅さが、日本を空洞化させていくことが、スマートシティで浮き彫りになっています。
第3節 スマートシティの進展
   スマートシティが具体的に進んでいる国は、シンガポールとエストニアです。また都市ではヨーロッパのバルセロナ、アムステルダム、コペンハーゲン。アメリカのシカゴ、サンディエゴ。中国は北京近郊の雄安地区や杭州市が政府の肝いりでやっています。大都市は仕組みが大きすぎて簡単にはできないため、地方都市で進められています。一方、トロントでは、グーグルが丸ごとスマートシティを実現しようとしたが、住民から「プライバシーをグーグルに持って行かれたくない」と反対された。日本では、千葉の柏の葉キャンパス駅周辺で、三井不動産が開発したニュータウンが丸ごとスマートシティです。また会津若松市では会津大学にIT学科があり人材が豊富で、進んでいる。スマートシティにはAIのデータ分析する人材が必要となりますので、大学や研究機関のない町では難しい。また一般市民がスマホを使えないといけません。裾野市のWoven Cityはトヨタの工場の跡地を、自動運転の車が安全に走れる道路設計で、ITで全てを制御する町を作るということで工事が行われています。同じようなグリーンフィールド(未開発な土地)のプロジェクトが大阪の夢洲、森ノ宮、うめきた2期の開発です。政府も注目しています。

第三章 大阪のスマートシティ戦略
第1節 スマートシティ実現に総動員で取り組む
   都市に必要なインフラは、防災、交通インフラ、特区・税制、都市基盤(上下水道などの公共施設)、産業支援、学校などです。さらにブランド戦略、スマートシティ化が必要です。今、大阪では府・市合同のスマートシティ戦略本部が、大阪の企業や外資系企業、ベンチャー企業などを総動員し、更にボランティアのエンジニアや大企業の社員も参加して、アプリ開発やソフト開発のスタートアップ(革新企業)を育て、各分野のスマート化の実現に取り組んでいます。都市の姿も変わります。例えば泉北ニュータウンは、千里ニュータウンに比べ空港も新幹線も遠く、土地の値段や利便性で遅れていました。しかしリモートワークで通勤が週2〜3日でよくなると、子育て世代は、緑が豊かで牧場まである泉北ニュータウンで、スマートライフを楽しもうとなる。団地内の商店街にリモートワークの拠点を作り大阪市内まで通勤しなくても仕事ができる。沿道を一人乗りのモビリティで免許なしで自由に動けるようにすれば、買物の足に不自由な人でも、気楽に買い物できる。もちろんオンディマンド・シェアの車も走らせ、バスでカバーできないところを補う。オンラインの子育て相談や、オンライン医療では、泉北ニュータウンに限り規制緩和すればニュータウン全体の価値が上がります。名前もスマートタウンに変えたりすると更に価値が上がります。
第2節 スマートシティ化の基本方針
   大阪のスマートシティ化には5つの基本方針があります。第1に都市問題の解決ツールにするということです
。高齢者のラストワンマイルの足を確保し、見守りセンサーにより介護の人手不足、医者不足を補うなど。第2に新たな都市インフラであるということです。第3に人間起点で、住民の使い勝手の良いものにする。例えば自動運転オンディマンドでは、スマホを使えない人に代行して入力する。オンディマンドの車を呼ぶサービスを市役所がするなどです。第4にデータを自分で取って、自分で考え、自分で努力するという考え方です。「健康モード」という言葉がありますが、リストウォッチを着け、自分の睡眠などのデータを全部取り、自分で食べ物や運動をコントロールする。若い頃から生活習慣を変え摂生し、老後、寝たきりにならない。インフラや便利な道具だけではなく、人間の意識を変えていく人間起点の考え方です。第5に都市全体のOS(オペレーティング・システム)を構築していく。これらが大阪のスマートシティの特徴です。
第3節 スマートシティの具体的な取り組み
   スマートシティの具体的なサービスとして、移動モビリティの領域ではオンディマンドバスなどのサービスがあります。防災の領域では、災害が起こった時、避難所がリアルタイムに出る防災アプリや地震通報などのアラームシステムのサービスです。ヘルスケア領域では遠隔医療やオンライン医療などです。子育ての領域では、プッシュ型で子育てのお知らせが役所から来る。あるいは保育所の予約状況をスマホで見ることができる。教育の領域では遠隔教育です。産業の領域では、企業がドローンで物流を行う。機械の異変をIoTで早めに情報を入手し、修理を行うというサービスです。農業の領域でもITを使って、適正な水と温度の管理でレタスの水耕栽培ができ、サンドイッチの間に挟んでも細菌が増殖せず3日間食べられるといったイノベーションが起きています。環境の領域では、ITでエネルギー効率が非常に良くなります。ダイキンの事業用エアコンは、調子が悪くなると自動的に無線で申告し、部品交換の人が来てくれる。このようなスマート化で生産性が上がり、またそれ自体が産業になる。大阪のスマートシティ戦略は、スマート化を大阪で逸早く実験し、海外に輸出し外貨を稼ごうということです。大阪はグリーンフィールドの夢洲や森ノ宮で実験し、その技術を輸出するという新しいタイプのインフラ産業を起こそうとしています。
第4節 「スーパーシティ」構想
   「スーパーシティ」構想とは、場所を特定し、政府が規制緩和を行い、同時にデータ連携基盤を構築してデータを集める。そしてそのデータを相互利用し、データの蓄積を都市経営のインフラに使うという考え方です。大阪でスーパーシティの申請をしているのは、夢洲/万博、うめきた2期の2か所です。実際のサービスは、ヘルスケア、モビリティ、物流などで、そこで取れるデータを大阪府のデータ連携基盤でまとめ、それを他地域でも使えるようにする。連携基盤ではプライバシーを損ねないように、データを共有化するためのルールや法律、技術の規格を官民一体で作る。規制改革の内容としては、例えば夢洲ではゼネコンの車が各社別々に従業員を運ぶと混雑します。そこでスマホでリクエストし、他社の白ナンバーの車で相乗りして工事現場まで行く。そして料金を払う。今の規制では白ナンバーの車はお金を受け取れませんし、運転手は営業免許が必要ですが、これを規制緩和してもらう。また大阪万博の目玉は空飛ぶ車、いわゆる二人乗り三人乗りの垂直電動飛行機です。それを関西空港や梅田から川の上を飛んで夢洲まで行く。さらに万博会場や万博後のIRで、外国人の医師が、日本の医師免許持っていなくても治療行為をして良い、処方箋を日本の薬局から出すという規制改革を政府と協議中です。大阪がスマートシティになる過程では、突破口として規制改革が必要になります。スーパーシティを手始めに全体に広げていこうという作戦です。

  以上は、慶應義塾大学総合政策学部教授、大阪府市特別顧問 上山信一氏の講演を、國民會館が要約、編集したものです。文章の全責任は國民會館が負うものです.。

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