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    細谷 雄一氏 『ポストコロナの世界秩序』

武藤記念講座(講演会事業)

第1079回武藤記念講座要旨

    2021年7月10日(土)
    於大阪「國民會館 武藤記念ホール」
    慶應義塾大学法学部教授
    細谷 雄一氏
 『ポストコロナの世界秩序』


セミナー





はじめに
   この1年間でコロナに関し多くの科学的知見が明らかになり、ワクチン接種で95%から100%重症化を防げることが分かりました。今イギリスではワクチン接種の割合が60%を超えほぼ集団免疫に到達、1日2万人以上の感染者は出ていますが死者は数名です。しかもワクチンがデルタ株にも一定以上の効果があることが分かり、ジョンソン政権は規制解除を決定しました。多分これが新しい潮流になると思います。「ウイズコロナ」つまりコロナと一緒に生活していくという流れです。
   今後我々は積極的に情報収集し「自分の身は自分で守る」ことが大切となります。例えば、今中国製ワクチンを接種した国々で感染爆発が起きて問題となっております。なお中国製ワクチンの効果は大体50%であり、デルタ株には殆ど効果がないというデータも出ています。コロナが発生した当初、中国政府は、武漢の地方行政機関の対応に問題があり拡散したという立場でしたが、訴訟などの難しい問題に波及する可能性があるため、今は
、武漢は発生源でないと主張しワクチン外交により圧力をかけています。さらには、モデルナやファイザーのワクチンを接種すると妊娠出来なくなる、あるいはネズミが全部死んでいる、というようなフェイクニュースが大量に流されており、これは一部では、ファイザーやアストロゼネカのような欧米のワクチンの信頼性を低下させるための意図的なサイバー攻撃とも報じられています。
   今、我々は日々の生活をサイバー空間に依存し、サイバー攻撃に脅かされています。アメリカの大統領選挙やイギリスのブレグジットで、ロシアがフェイクニュースやサイバー攻撃で世論を操作しようとしていたことは間違いありません。我々が日頃インターネットニュースを見る時、リテラシー(情報の理解力)を高めていくことが大切です。世界が大きく変化しておりますので、今日はそのことを中心にお話させていただきます。

第一章 均衡が崩れた世界
第1節 米中間のバランスの崩壊
   今世界は、国際秩序が不安定化し、それにコロナの感染拡大が結びついています。私は10年前に、国際秩序の平和や安定の最も基本的なものとして、国際秩序において一定の均衡が保たれることの重要性を指摘して、その均衡が崩れた時に戦争になると論じました。そして均衡が崩れるのは急速にある国が台頭するあるいは急速にある国が衰退する時であると、著書の『国際秩序』のなかで書いております。
   例えば、第一次世界大戦の直前、東欧から中東まで支配していたオスマン帝国が崩壊し、バルカン半島に力の真空が生まれ、そこにオーストリアとロシアが支配を広げようとして戦争が始まりました。大戦後、オスマン帝国、ドイツ帝国、オーストリア帝国、ロシア帝国という四つの帝国が崩壊し、再び不安定な力の真空が生まれました。そこに力を広げようとしたのがナチスのヒットラーです。一方イギリスやフランスは世界恐慌で大きな影響を受け、東南アジアから撤退を始め、その手薄になった地域で影響力を拡張しようとしたのが日本でした。さらに中国では清帝国が辛亥革命で崩壊し内戦が勃発します。そこに日本とロシアが影響力を膨張させようとしてノモンハン戦争が勃発しました。
   今、中国の急速な台頭と、アメリカの世界からの撤退ということが同時に重なり、国際秩序が不安定となっています。1991年の湾岸戦争以降、アメリカはサウジアラビアを中心に中東に影響力を広げていきましたが、オバマ政権やトランプ政権は中東からの影響力を後退させ、つい先月バイデン政権はアフガニスタンからの完全撤退を宣言しました。これにより中東に力の真空ができ、ロシア、中国、トルコの三カ国が影響力を強めています。
   またインド太平洋地域では中国が急速に影響力を拡大しています。20年前、中国の国防費は日本の10分の1でした。ところが今は日本の5倍です。台湾や尖閣諸島を占拠するのは簡単なことで、中国のある世論調査では78%ほどの人が、武力を用いてでも台湾を統一せよ、と言っています。ところが習近平政権は、台湾武力統一に現時点ではまだブレーキを踏んでいます。今台湾に進攻すればアメリカが参戦します。もし敗れますと共産党体制は崩壊してしまいます。リスクが大き過ぎます。
   今中国にとって重要なことは、アメリカが台湾や尖閣諸島に関与しないことです。中国は「アジアが危険である」と吹聴し、「台湾や尖閣諸島を助けるために、何故アメリカが中国と戦争しなければならないのか」とアメリカ世論が高まることを狙っています。恐らく中国は5年から10年は挑発を続けるでしょう。中国は戦争するつもりはありませんが、偶発的な事故が起きて、戦争に発展する可能性もありますので、暴走が起きないように警戒しなければなりません。
第2節 自然界と人類界のバランスの崩壊
   もう一つの不安定が感染症で、これは人類界と自然界のバランスが崩れているからです。
   人類界と自然界が均衡して秩序が作られますが、人類界の活動が広がると、それを押し戻そうとするのが自然界の摂理です。それが感染症です。人間が経済活動でアフリカや中国の未開の地に入り、そこから新しいウィルスが動物や人間に感染し、広がる。まさに中国で起きたことです。また温暖化で北極、南極の雪や氷が解け、地中に埋もれていた新しい感染症ウィルスが表面に出てくる。この20年、SARS、MERS、新型インフルエンザ、豚インフルエンザ、鳥インフルエンザと数年毎に新しい感染症が世界中で広がっています。
   今まで日本は、保健衛生のレベルが高く、島国で、人の移動が少なかったため感染症が入ってきませんでした
。もし致死性が高く、感染力が強い感染症が広がると、はるかに壊滅的になっています。
   また今回の感染症は、日本のデジタル化の遅れを明らかにしました。シンガポール、香港、台湾、韓国はSARSで大変な被害者が出た時、デジタル化が進みました。1年前の世論調査では、初等・中等教育のデジタル化は、日本17%に対し、台湾、シンガポール90%。アメリカ60、70%という実情です。ところで10年前のアメリカ映画『コンテイジョン』や宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』は、今回の新型コロナや菌が大地を浄化することを暗示した作品です。つまり人間の活動範囲が広がると、必ず新しい感染症が出てくる。そこで人間の活動が止まり、人類界と自然界が均衡する。
   自然界から見れば、自然を守るための防波堤として感染症が存在するわけです。感染症の研究は19世紀、帝国医学として発展しました。パスツール研究所や北里柴三郎が、病原菌の原因を究明、ワクチンなどを開発して
、ワクチンを得た国がアジア、アフリカに進出したのです。帝国主義と帝国医療の発達が相互に関係していました。日本はその当時、感染症などの研究でトップランナーでした。
第3節 富裕層と貧困層のバランスの崩壊
   これまでは富裕層の富を貧困層に再配分して、社会の安定を保っていました。しかし今これが機能しません。具体的に言いますと、富裕層の富は国が所得税や法人税で徴収しますが、税率を増やしますと逆に税収が減少するのです。つまり個人も企業も所得税、法人税を引き上げますと、海外に移住してしまいます。世界で活躍する日本の俳優やアーティストは、日本より所得税、法人税の安いニューヨークに移り住みます。世界中の富裕層が税金の安いところに移住するのです。アマゾンは本社をアメリカからアイルランドに移しました。アイルランドは先進国の中で最も法人税が安いからです。皆さんが毎日アマゾンで買い物しても日本政府に税金が入りません
。伊勢丹や高島屋など百貨店で買い物をすれば国に税金が入り、当然その税金が貧しい人に再配分されます。オンライン・ショッピングでは日本政府にお金が入りませんので、富裕層から貧困層へ富の再配分ができず格差がますます広がります。資本主義や民主主義が機能しなくなり、中国のような権威主義体制のほうが良いとなります。強力な権力をもった政府が国民を監視、管理する方が機能するということです。今15年連続で民主主義の国の数が減少し、民主主義が世界的に衰退しています。民主主義で自由があった香港は、選挙が形骸化され、アップルデイリーという香港最大の民主派の新聞は廃刊に追い込まれました。世界的に資本主義、民主主義、自由主義、報道の自由は深刻な危機にあります。

第二章 感染症が動かす世界史
第1節 疫病史観
   疫病史観と、後に言われるようになる視点を世界で最初に用いたのは、国際政治学者の故高坂正堯京都大学教授だと考えています。高坂先生は「タスマニア土人を滅亡させる上で最も効果があったのは、イギリス人の鉄砲でも大砲でもなかった。皮肉なことに、そうした文明の利器よりも、イギリス人が彼らの体の中に携えて来た微生物がはるかに有効だったのである。(中略)そしてタスマニア土人はこうした微生物に出会ったことがなく、したがって抵抗力を持ち合わせていなかったために病気は急速に広がりしかも致命的であった」(『世界の地図の中で考える』)と、タスマニアの原住民を滅亡させたのが病原菌であることを突き止めました。
   その10年後アメリカの歴史家アルフレッド・クロスビーは「スペイン人がアメリカ大陸を支配したのは実は感染症が原因だった。つまりコロンブスは病原菌をもってアメリカに行った。一方でアメリカから大量の黄金を持って帰ってきた。これをコロンビア・エクスチェンジと呼んで、つまり世界史は動いた。ヨーロッパが支配した原因は病原菌だった」(『コロンビア・エクスチェンジ』邦訳未刊行)と、画期的な研究を発表をしました。また最近ジャレド・ダイヤモンドは「本書は煎じ詰めれば人類の歴史について書かれたものである。このテーマは学術的に興味深いだけではなくて、その解明は現実的にも政治的にも非常に有意義なものである。というのも様々な民族の関わり合いの成果である。人類社会を形成したのは征服と疫病と殺戮の歴史だったからである」(『銃・病原菌・鉄』)と書き世界的なベストセラーとなりました。これを更に広げたがウィリアム・マクニールで「実は歴史家がこれまで見落としていた人類の歴史のある一面が次第に現れてくる。つまりそれは人類と感染症の遭遇の歴史であり、また感染症の知らない地域を超えて接触が生じた場合に、常に新しい流行がそれまでその猛威に対する免疫を獲得していなかった住民の間に広がり、それが重大なさまざまな結果を生んできたという事実である」(『疫病と世界史』)と書いています。
   日本では、青山学院大学の飯島渉先生が「アジアでも実は同じことが起きた。日本がアジアを支配したのは実は帝国医学でこの感染症に対する対策が早くできたからそれによってアジアに進出ができた。
   そして日本が公衆衛生制度をアジアに広げることによってアジアの歴史が変わった。(中略)日本の場合、公衆衛生行政の特徴は、警察が大きな役割をはたしたことでした。衛生の制度化は警察による民間社会や、個人の生活への介入を特徴としていました。そして20世紀後半の中国の医療、衛生事業の制度化のモデルとなったのがこの日本だったことは強調された方が良いでしょう。(中略)20世紀前半、日本の植民地となり、植民地医学が蓄積され、帝国医学が蓄積され、帝国医療が実践された台湾などでは、それまで流行していたペスト、コレラ、天然痘などの感染症が抑制されました。こうした状況は本書ではあまり触れませんでしたが朝鮮でもほぼ同様でした」(『感染症の中国史』)と書いています。
   今回、中国はコロナが広がった時、警察が主導して強制的に武漢をロックダウンし、外出禁止にしました。このモデルが実は戦前の日本です。ところが日本は戦後、警察と保健衛生行政が分断し、コロナを上手くコントロールできない状況です。
第2節 感染症の歴史
   14世紀のイタリアから広がったペスト(黒死病)、20世紀の第一次世界大戦のスペイン風邪、これがパンデミックとして世界的に有名な事例です。どちらも人の移動とグローバル化が進んだ時に起こりました。
   モンゴル帝国がヨーロッパまで支配し、シルクロードで中国から中央アジアを経由してヨーロッパまで貿易が広がりました。実は、ペストは中国内陸部乃至インドで発生し、交易の移動とともにイスタンブールへ伝わりました。そしてヨーロッパの商人を経由してベニスに入り、ベネチアからフィレンツェまで一気に感染が広がりました。そして遂にフランス、ドイツとヨーロッパ中に広がりました。つまり中世の人の移動が活発になりアジアとヨーロッパが繋がり、感染症がアジアからヨーロッパに広がっていったのです。その結果、教会の権威が失墜しました。
   人々は神に助けを求め教会に集まります。しかし牧師の前で三密状態になり感染が一気に広がります。教会に対する依存が深まる一方で、教会に対する不満が強まり、それが宗教改革、宗教戦争となり、近世になっていくわけです。
   20世紀のスペイン風邪は元々アメリカで発症したもので大変な死者を出しました。1917年、第一次世界大戦にアメリカが参戦し、多くのアメリカ軍兵士が大西洋を渡ってヨーロッパの戦場に行きました。その時多くの兵士がスペイン風邪に感染しており、戦場でイギリスやフランスの兵士と一緒に戦い、塹壕の中は三密で劣悪な環境でした。しかも感染症はストレスが高く栄養が足りない時、免疫力が低下し感染します。また塹壕で撃たれた死者は放置していますから、水を伝って一気に感染が広がりました。第一次世界大戦の戦死者は1千5百万から2千万人、スペイン風邪の死者は3千万から4千5百万人と言われています。戦死者の3倍の人々がスペイン風邪で死んでいます。
   当時最も感染が広がったドイツ帝国軍の参謀長ルーデンドルフは「我々は連合国軍に負けたのではない。インフルエンザに負けたのだ」と言っております。感染症が来なければ、世界史は変わったかもしれません。それぐらい感染症というものは歴史を動かします。逆に歴史が動いた時、人と人の交流が広がった時、感染症が広がるということです。

第三章 新型コロナで世界はどう変わるのか
第1節 中国に対する不信感が強まる
   武漢のウィルス研究所は様々なウィルスの開発とその防護服を開発しています。感染症から身を守ることもありますが、兵器として使うこともあるわけです。去年5月、アメリカはヒューストンの中国総領事館を閉鎖しました。総領事館がアメリカのワクチン開発に対するサイバー攻撃の拠点だったからです。中国の人民解放軍は身分を隠し、ハーバード大学やMITなどに留学し、最先端のワクチン開発技術を本国に持ち帰る一方で、サイバー攻撃を仕掛けていました。アメリカより先にワクチンを開発すれば圧倒的に優位になるからです。そして去年11月、武漢で新型コロナが発生しました。武漢政府は北京に報告しましたが、習近平は共産党100周年式典の準備で忙しく、充分な対応をしませんでした。そして1カ月後の12月、武漢で感染が急速に拡大、パニックで大変な事態となりました。直ちに習近平は武漢をロックダウンして感染拡大を止めます。
   しかし台湾ではSNSでこの事態がわかりますので、WHOに調査を依頼しました。WHOは12月末頃、中国に何度も問い合わせますが「これは人から人に感染するものではない」「完全にコントロールして問題はない
」と明らかに虚偽の報告をしました。このことで1月下旬まで対応が遅れてしまいます。1カ月前にWHOが調査し、感染を防いでいれば、新型コロナが世界に広がることはなかったわけです。一方習近平は「人への感染はない」と言いながら、マスクの輸出禁止措置を取り、在外公館には外国製マスクの買い占めを指示しました。中国は大量のマスクを備蓄し、2月以降、姑息なマスク外交を行いました。このような一連の出来事が、米中対立の大きな原因です。
   このまま中国と経済的な関係を続けていけば、中国に科学技術やワクチン技術を盗まれてしまうかもしれない
。そこでアメリカはサプライチェーンの再編を図り、安全に関わるものは中国との取引を停止させることにしました。デカップリングです。これは軍事と関係ないものまで、中国と関係を断つことになりました。世界最高水準の半導体メーカー、台湾のTSMCは、中国への半導体輸出を禁止する措置をとりました。元を正せば、中国の感染症に対する対応が国際的に信頼を失ったからです。今EUでも中国に対する不信感が強まっています。
第2節 危機的な状況にある日本
   米中の地政学的な対立と、人間界と自然界の間の均衡の崩れが、世界を不安定にし、不安を感じさせる大きな原因となっています。しかし米中対立が今後数十年続くことは間違いありません。サプライチェーン、半導体、ワクチンなど構造的な問題が続いていくことは間違いありません。人間が開発を続ける限り、新たなウィルスが出てきます。マスクを着けての行動は新しい日常となります。ワクチンは効果的な対策ですが、歴史上、人類が撲滅した感染症はありません。70年代末、WHOは天然痘を完全に克服したと、天然痘撲滅宣言を出しました
。しかしアメリカとロシアはサンプルを実験用、化学分析用に残しており、これが漏洩すれば、再び天然痘が広がる可能性があります。ウィルスは動物を介して人間に感染するわけですから、人間がワクチンで免疫をつけても動物には広がます。5年、10年、20年後、動物の中で感染が広がり、変異するとワクチンが効かなくなります。
   日本では、80年代「人類は感染症を克服した。科学の進歩により感染症は怖くない」と勘違いし、感染症の研究やワクチン開発が疎かになりました。ところがロシアや中国は生物化学兵器を開発していますから研究を続けていますし、もちろんアメリカも研究を続けています。また日本が感染症の研究を止めた理由に、戦後の民主主義や人権思想との関係もあります。日本の薬害裁判では、市民の利益を擁護し過ぎるため、薬剤メーカーがほとんど敗訴しています。ワクチンは健康な体にウィルスを入れて免疫を作らせるため、一定の割合で薬害の問題が出てきます。医療メーカーにとってワクチン開発は余りにもリスクが大きく、ほとんどが開発から手を引きました。ところがイギリスやアメリカはワクチン開発を国が支えています。ワクチンによる薬害問題が発生した時は、国が補償の肩代わりをします。
   もう一つの問題は、役人の責任放棄です。自分が許可したワクチンで薬害事件が起きた場合、自分の責任になりますので担当の時には承認しません。今回、日本のワクチンメーカーはアメリカや中国と同時期にワクチン開発に成功しましたが、厚労省の許可が下りませんでした。アメリカでは、人々の命を奪い、経済活動を止める感染症は有事という認識です。一刻も早くワクチン接種を行うよう、通常の治験プロセスを大幅に短縮しました。日本もようやく最近法改正で短縮することになりましたが、アメリカやイギリスに比べ治験期間は3倍ぐらい長くかかります。アメリカやヨーロッパのワクチンは流通しているのに、今も国産ワクチンは出せません。日本は常に市民の側に寄り添い、また薬剤メーカーや厚労省は危険なことは一切しません。そのことが結局は国民の生命を大きく傷つける結果になっています。しかもワクチン接種は基本的に都道府県が権限を持ち、地域の医師会が対応を判断します。医師会は医院を閉めてワクチン接種となれは大赤字です。補償が限られると誰もワクチン接種をしたくないわけです。野党やメディアは「政府はだらしない」と言う一方で、「政府に独裁の道を歩ませない」と、法的に医療機関や都道府県に対して指示をする権限を認めません。世界は歴史的な岐路に立っていますが、本当に日本は今危機的な状況にあります。先進国としての地位を失うかもしれません。90年代、日本は技術大国で、世界でも進んだ先進国であったと思いますが「何故こんなに遅れてしまったのか」ということが大きな問題です。
第3節 グローバル化と歴史の加速化
   LCCの格安航空券を用いて、飛行機で安く海外に行けるようになりますと、世界の人々の交流は止められなくなります。国際的な移動と経済活動の開発が続けば、新しい感染症は必ず出てくるはずですから、今後は感染症と共存することを考えなければなりません。
   ところでグローバル化には進む部分と止まる部分があると思います。進む部分はデジタル化です。デジタル化を進めた国がこれからの経済で勝利します。一方で人の移動などは止まります。今東京から軽井沢や金沢へと人が流出していますが、これまでと逆の流れです。オンライン会議が増え、東京ではビルの空きが増えています。人々は軽井沢に家を持ち、インターネットで会議を行い週1〜2回東京で仕事という新しいライフスタイルが生まれています。優秀な人材や経済が徐々に周辺地域へ拡散し、これが地方の活性化にも繋がります。グローバル化の前進と後退が同時に起こっていくでしょう。
   そして歴史が加速化します。今まで10年から20年かけて起こっていた変化が、今は1ヶ月で起こります。この変化のスピードに思考を追いつかせないといけないわけです。世界がどう変わっているのか、経済がどう変わっているのか、今まで強かった企業が弱くなり、今まで弱かった企業が強くなる。環境に適応できる企業や人と、適応できない企業や人がいる。これは、歴史を遡れば今まで何度もあったことです。
   19世紀末から20世紀にかけての社会は、大きく急激な変化がありました。それまで馬車だったものが自動車になる。それまで蝋燭だったものが電気になる。ヨーロッパでは百年前まで蝋燭屋が膨大な数の蝋燭を売っていました。大きな館では毎日数十本、数百本の蝋燭を付け替える人がいました。しかしこれが全部電気に代わり
、蝋燭屋という職業はなくなりました。これからデジタル化により、なくなる職業と新しく生まれてくる職業があると思います。その変化に我々が付いていけるかということです。
第4節 デジタル空間で我々の認知が形成
   デジタル空間によって我々の認知が形成されていくとすれば、デジタル空間における我々のリテラシーが重要です。今までは特定の新聞に不信感があっても、新聞は編集の過程で相当程度質が担保されていました。ところがインターネットはそうでありません。本当に危険な情報が山ほどあり「ならず者の空間」です。自分の身は自分で守らなければなりません。自分でウィルス対策ソフトを入れ、常に情報を自分の頭で精査しないといけなくなります。そうしないとフェイクニュースに踊らされてしまいます。
   誤った情報に基づいて投票すると民主主義は崩壊します。海外の影響力工作に、日本やアメリカの民主主義は脆弱です。ロシアや中国の政治を外部から動かすことは出来ませんが、日本やアメリカの政治を外部から動かすのは簡単です。ブレグジッドもトランプ大統領の誕生も、ロシアが外部からの影響力を行使していました。今中国が台湾に対する大量の影響力工作を行っています。中国は、武力での台湾統一は余りにもコストがかかりますので、内側から崩壊させようとしています。
   日本も対象になってきます。皆さんの情報はサイバー攻撃に晒されています。例えば、共同通信の記者のメールアカウント経由で「今度日米同盟について原稿を書いて欲しいので、添付ファイルの企画書をご覧ください」とメールがくる。それを開くとウィルスに感染してしまうということです。確認しないと本当に危ない。私のコンピューターは中国から丸見えで、私の技術レベルではコンピューターを守れません。私はスマホもパソコンも全部中国から見られていることを前提にメールを書いています。そうしたことに我々も、企業も慣れていかなればなりません。これから歴史は加速化し、ますます変化が起きるということです。

おわりに
   これからの数十年は秩序が崩れ、世界は混沌化していきます。今までは国際法や国際的なルールあるいは国際機関に基づいて外交判断、政治的判断をしましたが、フェイクニュースで、正しいことが分からなくなっています。自分自身でリテラシーを高め、武装しないといけないわけです。福澤先生が言った「独立自尊」です。自分の頭で考え、自分で判断しないといけません。そのために学ぶ、勉強するという事が大切です。また編集が重要となります。質の高い編集には一定の信頼を置くことができます。フェイクニュースが多い世界の中で「何を指針にして物事を考えたら良いのか」という重要な判断基準を学ぶことができます。

質疑応答
「質問1」

  台湾の自立と世界での認知は今後どうなるのでしょうか。

「回答1」

   中国が台湾を武力統一する可能性は高くありませんが、十分それに備えなければなりません。そのレッドラインを決めるのは台湾で、本気で中国から独立する意思表明をすれば、中国は軍事攻撃するはずです。この1年台湾では、香港の民主主義や自由の喪失の状況を見て中国に対する感情が著しく悪化し、独立志向が急速に強まっております。次の総統選で独立派、つまり反中国のポピュリスト指導者が出てきますと、戦争の可能性が一気に高まります。台湾を孤立させず、また暴走させないことが、日本および国際社会に求められています。


「質問2」

  中国による尖閣占領、台湾進攻の可能性はあるのでしょうか。

「回答2」

   中国による尖閣諸島の占領は既定路線だと思います。中国は今年2月に海警法を改正し、海警は事実上海軍となりました。日本の海保では対応し難くなりつつあります。もし海上自衛隊が出ますと、中国は海軍が出てきます。中国海軍は海上自衛隊の5倍で、さらに数千の中距離弾道ミサイルを福建省等に配備し、数時間以内で台湾、沖縄、尖閣諸島は全部廃墟にできます。これに対しアメリカはソ連との中距離弾道ミサイル禁止条約(INF条約)を締結していたため、全く対応できていません。トランプ大統領の時、条約延長は行わないと決断しましたのでアメリカは今後中距離弾道ミサイルの配備を行うことになると思いますが、沖縄などに配備すれば間違いなく反対運動が起きます。もし中距離弾道ミサイルが配備できなければ、いつでも中国は尖閣諸島の占領が可能です。今日本は、アメリカとの同盟を強化し、尖閣諸島の周辺で合同軍事演習を行っています。そこにオーストラリア、フランス、インドなどが参加しています。安全保障の協力国を増やすことは賢明です。10年前EUは、尖閣諸島問題について中立もしくは中国寄りでした。ところが今EUは完全に日本寄りです。尖閣諸島で日中が対立した時国際社会は日本を支持してくれると思います。中国はそのことを意識して、簡単には手を出せない状態がまだ数年は続くと思います。


「質問3」

  コロナ後の日本はどの分野に力を入れていくべきでしょうか。

「回答3」

   デジタル化です。世界は益々デジタル空間に依存するようになります。日本は相当遅れています。電話、テレビ、プレーヤなどのアナログが進み過ぎてデジタルへの転換が遅れました。アフリカやアジアではアナログ電話が遅れ、衛星通信によるスマホが一気に普及しました。しかし10万円のアイホンは買えませんので、たとえば5千円の中国製スマホを買います。世界中の途上国が安い中国製を使うため中国製のシステムが広がっていくわけです。5Gの高速通信網でも、ファーウェイは質が高く安いということで、皆中国製を入れるわけです。ところがファーウェイの5G通信網から中国は情報を抜き取っていることが分かり、世界中でこれを控える動きが出ています。アメリカはイギリスに、情報が漏洩するファーウェイ製を使うのであれば米英間の軍事情報の協力はできないと言うと、イギリス政府は2027年までに5G通信ネットワークからファーウェイ製をなくすことにしました。日本でも数多くのファーウェイ製機器が入っており、中国に情報が漏洩しています。今デカップリングで中国製の機器の導入は非常に手控えられています。中国にある多くの日本の工場は世界への販売が難しくなります。ユニクロはアメリカやフランスで販売ができなくなりました。国際的なネットワーク衛星通信が、新疆ウィグルの強制収容所のキャンプからバスに乗って工場まで移動している様子を全部チェックしており、国際的な制裁対象になってしまいます。10年前、アメリカは中国を絶賛していましたが、今度は突然制裁をするという、その変化に我々も追いつかないといけません。


「質問4」

   イギリスはEU離脱で混乱が予想されていましたが、今の状況は如何ですか。

「回答4」

   想像していたほど混乱していないことと、想像以上に混乱していること、両方あります。イギリスは40年以上に亘って続けてきたヨーロッパ最大の金融都市の地位を一か月で失い、ロンドンの金融取引額は半減し資金が流出しています。これは想像よりはるかに酷い状態です。ところがコロナで人の動きや物量が止まり当初ほど物流の混乱はありません。物流が再開した時多分混乱するだろうと言われています。経済的には相当大きなダメージを受けていますが、コロナの影響だと政府は説明しています。しかし経済指標は過去3百年で最悪という数字もあり、ブレグジットの影響がないとはいえないでしょう。


   以上は、慶應義塾大学法学部教授 細谷雄一氏の講演を、國民會館が要約、編集したものです。文章の全責任は國民會館が負うものです.。

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