ホーム > 武藤記念講座(講演会事業)国際金融経済学者  愛知淑徳大学教授
    真田幸光 氏 『世界情勢の変化と日韓関係』

武藤記念講座(講演会事業)

第1091回武藤記念講座要旨

    2022年7月9日(土)
    於大阪「國民會館 武藤記念ホール」
    国際金融経済学者  愛知淑徳大学教授
    真田 幸光 氏
 『世界情勢の変化と日韓関係』


セミナー





はじめに
   今の国際情勢は混沌(Chaos)としております。この混沌を分かり易く言いますと「よく分からない」ということで、実は非常に怖いことです。殆どの人達が動かなくなる、または動けなくなるからです。例えば、前面に虎、後方に狼、向こう側が崖、ここは真っ暗闇の場合、皆さんは動けますか。少し様子見をする人が殆どではないでしょうか。今世界は、よく分からないということで、非常に不安定な状況になっています。そして混乱という言葉を英語で表現すると、Order(秩序)が、Dis(崩れる)と書きますが、今後、世界は混沌から混乱(Dis−order)に向かっていくのではないかと思います。今日は日韓関係も勿論重要ですが、まずは国際情勢全体について話をさせていただきたいと思っております。

第一章 国際情勢の現状認識
第1節 現行の世界秩序
   現行の世界秩序は、良いか悪いか、好きか嫌いかは別にして、英米の秩序で動いています。例えば、世界の人達が意思疎通を図るためには言葉が非常に重要です。今のグローバル・ランゲージは英語です。また私達は貨幣経済社会の中で生きていますが、グローバル・ビジネスの基軸通貨は米ドルです。世界のモノやサービスの経済的な価値判断基準は米ドルで測りますし、米ドルは世界中どこでもモノやサービスと交換出来ます。そして私達は法治社会の中で生きています。グローバルに見て法治国家の中心は英米法が中心です。特にビジネス社会の根拠法(Governing Law)は英米法が軸になっています。根拠法が英米法になると、裁判権(jurisdiction)はアメリカやイギリスの裁判所です。アメリカやイギリスの裁判所がジャッジメントするのです。さらにモノづくり基準は、英米が世界に拡げていったISO(International Organization for Standardization)のルールに基づいています。最後に企業の成績を評価する会計基準は、英米の会計基準が基になっています。またイギリスは世界の物凄く重要なスタンダード標準を抑えています。世界の標準時はグリニッジ天文台です。イギリスが時空のスタンダードを抑えているのです。つまり世界秩序は今、英米の秩序で動いており、英米が世界をコントロールしているのです。
   第二次世界大戦後、東西冷戦でロシアは共産主義、社会主義を標榜する人達が集まり連合体を作りました、ロシア語、ルーブル、法律やモノづくり技術、会計基準はソビエト秩序で動くコメコン(COMECON)体制です。ところが1990年代初め、ソビエト連邦が崩壊してロシアになり、世界のバランスが大きく崩れアメリカが世界唯一の超大国にのし上ってきました。そして英米の標準をグローバル標準として徹底的に押し付けました。グローバル化という名のアメリカナイゼーションを上手に仕掛けたわけです。1997年には、タイ、インドネシア、韓国の3か国がアジア通貨危機で破綻しますと、IMF(国際通貨基金)が管財人の役割を果たして、この3か国の経済秩序を上手にアメリカナイズしていきます。企業経営者の中に外国人の社外取締役を入れる、標準語は英語を使うなど上手に浸透させていきました。翌年、ロシアは金融危機で経済が大破綻します。その低迷したロシア経済を建て直したのが今のプーチンで、2000年に大統領になりました。一時的にメドベージェフが大統領職に就きますが、実権はプーチンが握っていました。プーチンは20年以上に亘りロシアを運営し、経済を押し上げてきましたので、国民からある程度の尊敬と信頼を得ていると思います。なおプーチンはグローバルの世界の対応では、英語を使用し、米ドルで決済する。英米法を使い、モノ作りはISOで行う。ロシアの民間企業は英米会計基準を使い、それに従いました。その意味では、ロシアはアメリカの価値観を共有してきたと言えます。
第2節 世界秩序に挑戦する中国
   中国の人口は14億人を超えています。世界の人口が70億人余りですから、世界の5人に1人弱が中国語を使うことになります。中国語が世界の事実上の標準(デファクト・スタンダード)として浸透しています。さらに中国は人民元を世界の決済通貨として使い始めてきています。例えばソビエト連邦から独立したカザフスタンという石油、天然ガスが採れる資源国があります。中国はそこから石油、天然ガスを輸入しています。通常はドル決済ですが、カザフスタンへの支払いは人民元です。その理由は、1つ目に中国企業がカザフスタンのインフラ開発を行っていて、その支払いが人民元になっているからです。2つ目はカザフスタン内で不足する消費財を中国の企業から輸入し、支払いは人民元でよいからです。このようにして人民元の経済圏が廻り始め、契約は中国語で行うようになります。根拠法は中国法で、裁判権は北京の裁判所になります。完全にカザフスタンは中国に取り込まれていくわけです。習近平国家主席の肝いりである「一帯一路」戦略の中で、中国法が根拠法となる契約が浸透し、しかも決済はデジタル人民元が使われるようになってきています。このデジタル人民元は、ビットコインのような民間が発行している仮想通貨ではなく、中国政府の発行している法定通貨です。なお国際金融筋はデジタル通貨に関して基本的に反対です。理由は、デジタル通貨が拡大していきますと、各企業間同士で決済ができるようになりますので、銀行の仕事が半分なくなるからです。また銀行決済では、企業が何時、何を、いくらで売買したということがモニタリング出来て、アメリカ政府は必要に応じて金融機関を通してモニタリングしていました。デジタル通貨決済ではそれが出来なくなるからです。しかし昨年から中国はデジタル人民元を世界に広げる動きを始めました。先ず中国国内でデジタル通貨が始まりました。中国の主要企業は給料の半分をデジタル通貨で支払い、これを一気に広めようとしています。世界の主要銀行は英米の銀行であり、ドル決済をモニタリングする方です。中国の銀行はモニタリングされる方ですから、銀行を通さず、通貨そのものを発行する中国政府がモニタリングするという考え方で、デジタル人民元を世界に広げようとしています。中国法を根拠法として世界に広げていくことも始まっています。さらに中国は世界の工場としてモノを輸出していますので、中国のスタンダード商品が世界に広がっています。中国が現行の英米の世界秩序に挑戦を始めていることは間違いないという見方ができるわけです。英米は中国を「価値観の共有ができない国」「英米の標準に逆らうのか」と言っており、これから米中の覇権争いは拡大する状況になっています。
第3節 米中の情報の覇権争い
   今世界は「情報」を制するものが世界を制するという見方をしています。第一次産業革命の時は、「生産手段」を持つものがブルジョアで、それを持たざるものがプロレタリアだと言われました。現在は「金融」を支配するものがブルジョアで、そうでないものはプロレタリアだと言われています。そしてこれからは「情報」を制するものがブルジョアで、そうでないものがプロレタリアです。軍事、ビジネス、経済、すべて情報が命です。情報の覇権争いが大きなポイントで、その一つ目は半導体が絡むソフトの情報覇権争いです。どのような通信手段で世界と繋がって行くのか、5G開発が非常に注目されています。その5G開発の中心が中国のファーウェイであり、韓国のサムスンです。英米は中国のファーウェイと韓国のサムスンが結託してソフトの情報覇権を取りに来るのではないかと非常に危機感を募らせました。トランプ大統領は特にファーウェイを叩きにいきました。そして万が一の時に備え、日本と台湾のTSMC(台湾積体電路製造股?有限公司)を結びつけたのがアメリカの国際戦略です。二つ目に重要なのがハードの情報覇権争いです。今我々の情報のほとんどが人工衛星から来ており、宇宙の覇権が非常に重要なポイントです。アメリカは東西冷戦後、ロシアと一緒に宇宙開発を行っていました。ロシアのロケットで宇宙ステーションに行き、国際宇宙ステーションで一緒に研究していました。しかし今回のウクライナ紛争で頓挫する可能性があります。一方中国は昨年6月から9月までの間に3人の宇宙飛行士が宇宙ステーションの建設に入っています。今年6月にも3人の宇宙飛行士が再び飛んで行って、年内に中国単独の宇宙ステーションが完成します。中国は宇宙開発に非常に力を注いでいて、月面の裏側にも基地を作ろうとしていますし、また火星探査も始めています。非常に宇宙開発の進歩が速い中国です。現行の英米の国際秩序を崩す一番の国は中国だということです。

第二章 ウクライナ紛争の影響
第1節 世界は無政府状態に向かっている
   勢いのある中国と軍事力のあるロシアが連携することを英米は凄く気にしています。だからアメリカは先ずロシアの軍事力を弱めなくてはならないと考えたのではないかと思われます。実はウクライナ紛争が起こってから、世界は混沌、混乱から一気に無政府状態(Anarchy)に向かっているのではないでしょうか。実際、ウクライナは局地的な無政府状態の渦の中に巻き込まれています。昨年末、国際金融筋は、2022年が2021年より少し経済がよくなると期待していました。2021年秋以降、原油価格の上昇を背景に世界的なインフレの懸念が出始めてはいました。またロシア軍がウクライナを攻める素振りを見せ、黒海(Black sea)には米軍の艦隊が入りましたので、少々きな臭いとは思っていました。しかし年末の国際金融筋は、ロシアとウクライナは戦争にならないと言っていました。理由は簡単で、ロシアには戦争できるほどのお金がないという認識でした。ロシアは挑発されても攻めないだろうと思っていました。二つ目に、原油価格の上昇によるインフレは、春になれば石油の需要も落ちて、その頃までに産油国と消費国の需給調整も行われ、原油価格は戻るだろう。6月頃までには世界的なインフレも収まり、年の後半には世界経済はよくなるだろうというシナリオを考えていました。しかし見事に外れました。その最大の理由がウクライナ問題です。ロシアがウクライナに攻め入ったということです。しかしロシアにお金がないことは事実ですから、国際金融筋は「多分東部2州で留まるだろう」と言いました。つまりロシアが東部2州を独立させたという伏線があったからです。カザフスタンで、今年1月の厳しい寒さの中で、燃料税を燃料価格に転嫁したため、住民の大暴動が起こりました。トカレフ大統領はロシアのプーチンに助けを求め、その要請を受けたロシア軍がカザフスタンの暴動を鎮火させたことがありました。それと同じ行動をプーチンがウクライナのドネツク州とルガンスク州で行ったと考えました。ロシアが2州を形式上独立させ、その要請にもとづいてロシア軍が入ることにすれば、これは侵略ではなくなりますし、またお金がないのでロシア軍の進軍は2州で留まると思いました。ところが軍を先に進めたわけです。ロシア軍は1カ月程度でキエフを占領できると思ったのでしょうが、キエフを占領できず押し戻され、すでに4カ月が超えました。そろそろ戦費が続かないと思います。
第2節 世界的なインフレ問題が顕在化している
   ウクライナ問題が発生し、世界的なインフレ問題が顕在化してしまいました。ウクライナ地域は世界にとって非常に重要な地域です。人々が生きていくためには水、食糧、原材料、エネルギー、そしてその物流が必要です。この地域はヨーロッパの「パン工場」と言われており、小麦がとれなくなるとヨーロッパだけでなく、トルコやエジプトも小麦が主食であり、干乾しになってしまいます。そして今やアフリカ全体が食糧不足で大騒ぎになっており、アフリカ連合は「戦争を止めてほしい」と言っています。またこの地域はトウモロコシがとれ、これは牛や羊の重要な食糧です。その他ひまわり油や菜種油などの食用油も沢山とれます。さらに半導体の原材料であるニッケル、白金、金や、工業用ガスなどをロシアが意図的に止めれば大変なことになりますし、エネルギーはロシアが石油、天然ガスの世界第2位の産出国です。さらに今グローバル物流で注目されているのが北極海航路です。温暖化で北極海の氷が解けて、船がベーリング海峡を抜けて日本、韓国、中国に行けますし、アラスカ、カナダ、アメリカへは最短距離になります。つまりこの地域は世界に非常に大きな影響を与える地域だということです。食糧、原材料、エネルギーの需給関係が崩れ、価格が上昇しています。世界的なインフレは国際価格が上昇するからです。さらに基軸通貨である米ドル建て価格の上昇が起こっています。これがコストプッシュインフレの原因です。そしてこの国際価格の上昇は、日本国民だけではなく、世界中が困っています。
   そこでインフレ退治を急いで進めているのがアメリカのバイデン大統領です。すでにアメリカの消費者物価は8.6%に上昇しています。この間、国民の給料は上がらず、物価の上昇で、可処分所得が減って文句を言い始めています。今年11月の中間選挙に大きな影響があるので、バイデンは動かざるを得なくなっています。アメリカは大統領選挙が4年毎にあり、その間の2年目に中間選挙があります。今上院、下院とも共和党が有利と言われており、両院ともに共和党になるとバイデン大統領は就任2年目でレームダック化してしまいます。そこでバイデン大統領はインフレ退治を急いでいるわけです。しかも金融当局の2トップ、イエレン財務長官とパウエルFRB議長は2人とも金融引締派ですから、大統領と金融2トップの考え方が一致していますので、この半年の間に3回、0.25%、0.5%、0.75%と合計1.5%もの政策金利の引き上げを実行しました。そのため日本のように金利を上げない国とアメリカのように金利を上げた国の間で金利差が発生し、金利の高いドルが買われています。その結果、ドル高円安が起きて、為替にも影響を及ぼしています。昨年1月〜3月は1ドル103円前後でしたが、昨日、今日のレートは135円前後で、ドルが30円も高くなっています。同じ商品が103円から135円となり、コストプッシュインフレに、輸入インフレが加わっています。日本の消費者物価はまだ2.1%しか上がっていませんが、コストが上がる中で、価格に転嫁できない中堅、中小企業に歪みが生じており、今後価格を上げざるを得ない企業が多く出てくると思います。参議院選挙までは我慢していたところが価格を上げてくると思いますので、更に国民生活に影響が出てくると思います。
第3節 日本は何故金利を上げられないのか
   アメリカの消費者物価が8.6%上がっているのに対し、日本は2.1%とそれほど上がっていないため利上げはしない、とよく言われますが、それだけではありません。日銀は3つの理由を挙げています。一つ目は困る国民が増えるということです。今コロナで借金している日本人が沢山いて、その多くが変動金利で借りています。金利を上げれば、変動金利の支払いが増えるということです。二つ目は日本の財政状況が悪いということです。国と地方の借金合計は1,200兆円であり、日本のGDPの約2倍、2年分以上あります。その借金は国債です。国債の金利は政策金利が反映しますので、国の利払いが増え、国の財政はさらに悪化します。三つ目は一般的に金利を上げると株価が下がるからです。今実体経済がすごく傷んでいる中で、なんとか株価を維持し、そのため日本経済も維持できているので、今株価を下落させるわけにはいかないということです。安倍さんや麻生さんは「長期政権を続けられたのは株価が高かったから」と言っていましたが、そういう意味からも金利が上げづらいということがあったのだと思います。しかしもう一つ背景があると思います。「ウクライナ問題が収束すれば、世界的なインフレも消え、インフレ退治もなくなる。金利引き上げ競争もなくなり、金利差が消え、為替も戻すだろう」という見立てをする人が国際金融筋に3割ぐらおります。
   ウクライナ問題が収束する条件は、ロシア側の事情としては、一つ目に金がない。二つ目にプーチン大統領の内外での評判、特に国内での評判が落ちています。最近、都市部の若い人達の生活は、西側の制裁が効いて商品価格が上がり始め、生活必需品が買えないという状況が起きています。戦争を止めて欲しいという声が出始め、プーチンの足場が傷んでくる危険があります。三つ目は軍事力が落ちてきているということです。ロシアは予備兵を招集せざるを得なくなってきました。イギリスの軍事専門家の推測によると、ウクライナ兵が約1万5千人亡くなった。ロシア側も1万人ぐらいは亡くなり、その6〜7割が予備兵であると言われています。そのため随分プーチンの評判が落ちて、プーチンは国内の声を聞かざるを得なくなっている、という見立てです。一方アメリカ側も、そろそろ収束を図ってもよいという状況になっています。自衛隊OBの話では、ロシアの1日に撃つミサイルの数が最初の頃と比べ、ずいぶん減っている。これは在庫がなくなってきているからだ、ということです。ロシアの軍事力が落ちてきたわけです。さらに重要な事情がアメリカ側にあります。食料、原材料、エネルギー、物流、様々なところでロシアの影響力が強いということです。英米がドル資金を渡さずロシアの首を絞めるため、プーチンが「ロシアから買うものはルーブルで買ってくれ」と言って、小麦、トウモロコシ、石油などを買う時に、ルーブルで支払わなければならず、ドル建て決済が減少し、ルーブル建ての決済が増加しています。その結果ルーブルの価値が上昇し、基軸通貨のドルに対し、ルーブルが堅調に推移し始めているのです。これが顕在化すればさらにルーブルは強くなる可能性があります。ロシアの発行している通貨が強くなれば、決済通貨の比率が影響して、さらにルーブルは上昇すると思います。そうなると中国も黙っていません。人民元での決済を言うようになります。しかもデジタル人民元で決済することになれば、基軸通貨である米ドル体制が崩れることになります。世界秩序の根本の一つであるドル体制が崩れることをアメリカは許せません。そこでウクライナ問題の収束を考えるようになっているはずです。国際金融筋も戦争を止めて欲しいと言っているはずです。
   5月の半ば、円ドル相場が127円ぐらいまで戻し、株価も上昇しました。バイデンとプーチンの両方が、上げた拳を降ろすだろうと見立てをした時期です。マーケットが少し落ち着いたのは、マリウポリのアゾフ連隊が投降した時期です。これは明らかにウクライナ軍が負け、ロシア軍が勝ったタイミングです。国際金融筋の見立ては、バイデンがゼレンスキー大統領に、アゾフ連隊を投降させ、プーチンの顔を立てれば、戦争が収まる可能性が高いと、投降させた可能性がある。しかし残念ながらプーチンは怒ったままだった。そこでゼレンスキーは、バイデンの言った通りにしたが、全然ロシアの攻撃が収まらないと怒り、アメリカをはじめ西側諸国に対し、戦争を継続せざるを得なから、もっと武器が欲しいと言って、今に続いている、と見ています。しかしマーケットは、そろそろ戦争を止めないと、ロシアもアメリカもまずい状況にきていると見ています。日銀の黒田総裁はそのような情報を持っていて、ウクライナ紛争が収まれば日銀は金利を上げる必要はないので、もう少し様子をみているということです。

第三章 日本の目指すべき姿
第1 節 為替、金利、原油の見通し
   為替についは、このまま140円を超えて円安傾向が顕在化すれば、日銀の黒田総裁も動くと見ています。ウクライナ問題が解決しない限り、世界的なインフレ状況は変わらないと思います。ウクライナ情勢で、アメリカやロシアが上げた拳を降ろす動きが顕在化しなければ、円安はもう一段150円まで進むだろうというのがマーケットの見立てです。ちなみに円ドル相場の適正水準は110円前後と言われています。今の135円水準は、25円分日本の輸入サイドの被害が大きいということです。輸出サイドのメリットを差し引いても、日本全体ではマイナスの被害が大きいわけです。ちなみに円の価値が下落し始めたのは8人のロシア外交官を国外退去させた以降です。日本がロシアに対し宣戦布告をしたわけですから、ロシア側から見ると日本は敵対国です。サハリン2の株主から日本を締め出すのは、ロシアの大事な資源を敵対国の日本に持たせるわけにいかないというロジックです。国際金融学者は、「それは自分が蒔いた種だ」という見方をしています。その結果、比較的安心安全の通貨は円である、という神話が消えてしまいました。有事のドル買いという動きが顕在化しています。そうした中で日米の金利差が起こっていますから、ドルがさらに買われる状況が続いています。ウクライナ情勢が激化し、ロシアが日本に対し厳しく出てくると、為替は150円に進むかもしれないという見方が当然出てきますので、為替の抵抗線は140円、これを超えると150円まで一気に進むかもしれません。
   金利については、140円のラインを越えて円安に進めば、日銀が動く可能性があると思います。三菱UFJ、三井住友、みずほ銀行などのメガバンクは、それでも日銀は金利を上げないと言っていますが、私は上げる可能性があると見ています。黒田総裁は最後に上手に逃げようとしていると思います。住宅ローンなども含めて変動金利で借入がある方は少し気をつけることが必要です。
   原油価格については、世界的なインフレを助長している投機マネーの動きを見る必要があります。原油価格が間違いなく上昇すると見ると、今のうちに買っておく。そして上がった時に売り抜けば儲かります。例えば小麦で説明しますと、パン屋は小麦価格が上がると困りますので、価格が上がる前に小麦を買います。3か月先のパンのために買いますので、今の実需ではなく3か月先の需要です。これが投機です。しかしパン屋は3か月後の実需のために小麦を買うのでまだよいのですが、小麦が将来上昇するという思惑で、小麦を使わない連中が安いうちに買っておくという投機マネーが出てくるわけです。今世界的にお金が余っている状態ですから、間違いなく小麦価格が上昇するのであれば、小麦を買っておこうという金持ちが買いに来るため、さらに小麦価格が上昇するわけです。しかも金持ちは借金して投機します。倍にすれば倍儲かるからです。こんなことが今起こっていて、インフレが加速化しているのです。実需ではなく、投機が悪さをしているわけです。
   私は2008年の洞爺湖サミットの頃から、世界の人々が生きていくために必要なモノやサービスは投機対象にしてはいけないと言っています。日本は「実需原則」というルールを作り、投機すれば罰金をとるような強烈なルールを世界に発信しなければならないと言っています。こういうことをしないと投機マネーがどんどん入り、さらに上昇するのです。ちなみに投機のお金は入るのも早いのですが、逃げ足も速い。ウクライナ紛争が収まり、価格が下がると思い始めると、売りが出て一気に下落します。そういうことを前提に原油価格を考えると、今1バーレル(1.6?)100ドル前後で動いていますが、国際金融筋の試算では、石油の需要と生産状況を勘案すると、大体75ドルが適正と言っています。25ドルは投機のお金が入っているということです。従って今の状況が収まらないと原油価格は100ドルを割らないだろうと思います。場合によっては120ドルの方へ値上がりしてしまう可能性もあります。今原油価格が戻してきているのは、ウクライナが収まるのではないかという期待感から、国際金融筋が利固めをしていると見てください。しかしウクライナ紛争がまだ続くと思い始めたら、また上昇すると思います。
第2節 対中包囲網の確立
   ロシアのウクライナ侵攻が始まった頃より、アメリカが中国に対して動き始めたのが、クアッド(QUAD)とインド太平洋経済枠組み(アイぺフ・IPEF)です。クアッドが軍事関係で、アイペフが経済関係です。まずクアッドはアメリカ、日本、オーストラリア、インドの4か国で防衛連携を図っていくということです。インド太平洋で中国を取り囲むような形で防衛体制をつくり、アジア太平洋とインド太平洋を守っていくことです。クアッドはNATO(北大西洋条約機構)をお手本にしていると言われていますが、NATO最大の特徴は常備軍を持っていることです。そして防衛費の負担は国力に応分に負担するということです。したがって日本はクアッドの常備軍に参加する方向に動かざるを得ないはずですし、防衛費負担を今の倍にしなければならないのです。すでに防衛費予算を引き上げる動きは出ていますが、これは国内事情ではなくクアッドに入ることを前提とした動きと考えた方が良いのです。良いか悪いか、正しいか正しくないかは別にして、国際協調の流れの中で防衛予算を倍にせざるを得ないのです。それと共に常備軍を作るとなると、今の憲法では自衛隊を出せませんので、憲法改正が必要なわけです。憲法改正は一気に動いてくる可能性があると思います。またその流れの中で、クアッツドとNATOが連携してロシアと中国を挟み撃ちにする態勢をつくることが今回の一連の流れです。岸田総理がNATO会議のオブザーバーで呼ばれたことも、このことに関係しています。
   一方経済関係ではTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に代わって、アメリカが主導するアイペフ(インド太平洋経済枠組み)によりアメリカ企業が損をしないような形で対中経済包囲網をつくろうということです。日・米・韓・オーストラリア・ニュージーランド・インドとASEANの10か国のうちラオス、カンボジア、ミャンマーを除く7か国、それに南太平洋の国フィジーが入って、14か国が加わっています。そして4つの柱を立てています。1つ目はサプライチェーンです。中国のゼロコロナ政策で生産が止まり、各国が困りました。そこでサプライチェーンは信頼のおけるアイペフの加盟国に置くということです。今中国に置いているサプライチェーンを動かすため、無言の圧力がかかると考えてください。二つ目は中国に残ったサプライチェーンのモノや技術が中国で軍事転用されれば、その企業は厳しく非難され、「ココム事件」と同じことが起こると思います。三つ目は世界の革新技術をアメリカに集めることです。サプライチェーンを動かす中で、台湾のTSMCや韓国のサムスンがアメリカに工場を作り始めていますし、韓国の現代自動車も動き始めました。アメリカはそのような「踏み絵」を始めたということです。そして最後の一つが情報です。アメリカは情報の一括管理化を図ろうとしています。各国の政府間同士では脱税がないように税務情報を交換しています。これをさらに強化して、お互いの国の情報をやり取りするということです。そのホストコンピューターはアメリカに置きます。アイペフ加盟国の企業情報が全てアメリカでモニタリングできるようになります。このようなことをしながら、対中経済包囲網を確立しようとしています。ロシアが外堀だとすると、いよいよ内堀を攻めて本丸(中国)を陥落させるのがアメリカの国際戦略です。
第3節 「鎖国出来る国作り」を目指せ
   日本はもう一度、国のアイデンティティを守らなくてはいけないと思います。日本人のアイデンティティに「義」というものがありますが、これに反する時には、取り敢えず自分達で生きていく。いざとなれば「鎖国出来る国作り」を進めるべきと思います。世界とは協調し、折り合いを図っていきますが、どうしても力業で押さえ込もうとする国がある場合は、それに屈せず、一人で生きていける「自立できる国」にしなければならないということです。日本にいる1億2,600万人が生きていくために必要な「水・食料・原材料・エネルギー」と、その「物流」を国内で最低限は回せるようにする。先ず食糧自給率を高めることを真剣に考えていくべきです。それが足りなければ人、モノ、金、情報を投入し国内で生産できるようにするのが政府の役割です。国内に原材料がなければ、日本にある素材をもとにした新素材の研究開発をすべきです。日本には捨てられる鉱物資源が沢山あります。それを回収し再利用する動きを、ソフトからハードの一連の仕組みを作り、それに人、モノ、金、情報をつけて産官学金でサポートする。そうすれば「鎖国出来る国」が作れると思います。エネルギーはSDGsに合わせて自然再生エネルギーに向けた研究開発を進めれば良い。今から総力で開発すればよいわけです。そういう必要なものに関して、SDGsの17項目で、日本が必要なものを政府が考えることが重要です。産官学金で研究開発し、商品化して、メイドインジャパンを作り、日本から世界に役立つ情報、技術を売っていく体制を作る。日本しか提供できないモノやサービスがあれば、世界は日本を必要とします。世界が必要とするモノやサービスを、量と価格を安定させて、日本から提供することができれば、これが大きな「抑止力」にもなります。そういったところに人、モノ、金、情報を付け産官学金が力を合わせてサポートする。企業はそれを社会に還元する。日本全体の富に還元する体制を作る。若い人たちのアイディアを組み上げる夢のある社会です。そして日本は決して戦争をしないということを基本に、「義」のある強い国にしていくことだと思います。

おわりに
   最後になりますが、私の先祖である真田昌幸は「戦争は絶対にするな」と言いました。戦争をすれば、たとえ勝っても味方も死にます。味方の中で悲しむ人が出てきます。悲しむだけであればまだよいのですが、恨みに変わる危険性があるからです。しかし現実との折り合いの中で戦争せざるを得ないという状況は起こり得ますので、昌幸は「負けないようにしろ」と言いました。つまりDNAを残せということです。真田家のモットーは「死ぬまで生きろ」です。生に固執し、生き延びるということです。極力戦争をしないで世界の役に立つ。安全保障を源にしながら、世界となるべく協調して生きていく体制を作っていく。そのためには自分自身のアイデンティティが強くないといけないということです。それをしっかりと見直し、日本を再生させていく。そんな国作りができるとよいと思います。

   以上は、国際金融経済学者、愛知淑徳大学教授 真田幸光氏の講演を、國民會館が要約、編集したものです。文章の全責任は國民會館が負うものです.。

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